【論文401】全員に免疫は要らない。ただし有効率が足りないと、全員に打っても届かない

要旨

「集団免疫には全員の免疫が要る」と言われることがある。本稿が示すのは要らないことと、それでも全員では足りない場合があることである。二つの「足りない」は別物である。新しい定理も法則も主張しない。

第一に、閾値は $1-1/R_{0}$ である。$R_{0}=3$ なら $\mathbf{66.6667}$ パーセントで止まる(第2節)。

第二に、閾値ちょうどの免疫率で、実効再生産数がちょうど $\mathbf{1}$ になる(第2節)。

第三に、$R_{0}$ をいくら大きくしても、閾値は $1$ に達しない(第2節)。

第四に、これが本稿の芯である。$R_{0}=12$ で有効率 $90$ パーセントだと、必要接種率が $\mathbf{101.85}$ パーセント、全員に打っても届かない(第3節)。

第五に、境目は、有効率が閾値そのものに一致するところである($R_{0}=12$ なら $91.6667$ パーセント)(第3節)。

第六に、分離子は「足りないのは接種率か、有効率か」である(第5節)。

射程(何を示さないか)

新しい定理も法則も主張しない。基本再生産数、集団免疫の閾値 $1-1/R_{0}$、有効率で割る補正はすべて疫学で既知である。政策を論じない。どの病気にどう対処すべきかは主題ではない。一つの式の中の数だけを見る。均一混合を仮定している。接触が一様であるとする。年齢構造・空間構造・接触の偏りは主題ではなく、それらは閾値を下げることも上げることもある。一つの $R_{0}$ を仮定している。$R_{0}$ は病原体だけの性質ではなく、社会の接触率にも依る。値は場所と時期で動く。免疫の持続を扱わない。時間とともに免疫が減衰する場合は主題ではない。感染阻止と発症阻止を区別しない。ここでの「有効率」は伝播を止める割合とする。発症を防ぐ有効率とは別の量である。既刊との関係:論文400 は四百本目の点呼である。本稿はその次の回にあたる。論文388 は候補が増えても確率が落ちないことを示した。ここでは $R_{0}$ を増やしても閾値が $1$ に届かない。論文386 は「溶けにくい」が二つを指すことを示した。ここでは「足りない」が二つを指す。論文300 は同根か別根かが判定できることを示した。接種率と有効率は、その基準で別根である。加えたのは、五つの $R_{0}$ で閾値と必要接種率を数に出したこと、実効再生産数がちょうど $1$ になることを逆算で確かめたこと、有効率 $90$ パーセントで $101.85$ パーセントという不可能な数が出ることを示したこと、境目が「有効率=閾値」であることを示したこと、分離子を「接種率か有効率か」に置いたことである。

1. 記法と問い

設定:一人の感染者が生む二次感染者数を $R_{0}$ とする。免疫率 $p$ のとき、

$$R_{\text{eff}}=R_{0}(1-p),\qquad
R_{\text{eff}}\le1\ \Longleftrightarrow\ p\ge1-\frac{1}{R_{0}}$$

有効率 $e$ のワクチンで免疫率 $p$ を作るには、接種率 $c=p/e$ が要る。

観察 1.1 閾値は $1$ ではない。$1-1/R_{0}$、$R_{0}$ が有限なら、必ず $1$ より小さい。

観察 1.2 接種率と免疫率は違う量である。$c=p/e$、有効率が $1$ でなければ、二つは一致しない。

観察 1.3 接種率には上限がある。$c\le1$、$p/e$ が $1$ を超えたら、その手では届かない。

問い:流行を止めるには、どれだけの人に免疫が要るのか。

2. $R_{0}=3$ なら、三分の二で止まる

計算 2.1:$R_{0}$ に対する閾値と必要接種率(本稿で計算)。

$R_{0}$ 閾値 $1-1/R_{0}$ [%] 有効率 $95$ % での接種率 [%] 有効率 $90$ % での接種率 [%]
$2$ $50.0000$ $52.6316$ $55.5556$
$\mathbf{3}$ $\mathbf{66.6667}$ $70.1754$ $74.0741$
$5$ $80.0000$ $84.2105$ $88.8889$
$\mathbf{12}$ $\mathbf{91.6667}$ $96.4912$ $\mathbf{101.8519}$
$18$ $94.4444$ $99.4152$ $104.9383$

観察 2.2 $R_{0}=3$ の閾値は $66.6667$ パーセントである。三分の二、三人に一人は免疫が無くてよい。

観察 2.3 閾値ちょうどで、実効再生産数がちょうど $1$ になる。$3\times(1-2/3)=1.000000000$、定義から逆算しても $1$ に戻る。

観察 2.4 $R_{0}$ をいくら大きくしても、閾値は $1$ に達しない。$R_{0}=10^{6}$ でも $0.999999$、「全員に免疫が要る」は、どの $R_{0}$ でも成り立たない。

観察 2.5 ただし $R_{0}=18$ では $94.4444$ パーセントで、実質的にほぼ全員である。$18$ 人に $1$ 人、「要らない」の余地が狭い。

観察 2.6 閾値は $R_{0}$ について単調増加である。$50.0000\to94.4444$、増えるが、上に有界である。

3. $101.85$ パーセントという、不可能な数

計算 3.1:$R_{0}=12$(麻疹の代表値)での必要接種率(本稿で計算)。

有効率 $e$ [%] 必要接種率 $c=p/e$ [%] 全員に打って足りるか
$95$ $96.4912$ 足りる
$\mathbf{91.6667}$ $\mathbf{100.0000}$ ちょうど(境目)
$\mathbf{90}$ $\mathbf{101.8519}$ 足りない
$80$ $114.5833$ 足りない

観察 3.2 これが本稿の芯である。有効率 $90$ パーセントだと、必要接種率が $101.85$ パーセントになる。$100$ を超える数は、達成できない。全員に打っても届かない。

観察 3.3 境目は、有効率が閾値そのものに一致するところである。$R_{0}=12$ なら $91.6667$ パーセント、閾値の式と有効率の下限が、同じ数になる。

観察 3.4 逆算しても戻る。有効率を $1-1/R_{0}$ に置くと、必要接種率がちょうど $1.000000$、偶然ではなく、$c=(1-1/R_{0})/e$ の構造である。

観察 3.5 $95$ パーセントと $90$ パーセントのあいだで、答が「可能」から「不可能」に変わる。$96.4912$ と $101.8519$、$5$ ポイントの差が、境目をまたいでいる。

観察 3.6 接種率を上げても解けない。上限が $100$ パーセント、このときは有効率のほうを上げるしかない。

4. 二つの「足りない」は、直せる場所が違う

観察 4.1 接種率が足りないのは、運用の問題である。届いていない人がいる。解は接種を広げることである。

観察 4.2 有効率が足りないのは、製品の問題である。打っても免疫がつかない。解は別のワクチンか、追加接種である。

観察 4.3 どちらも「接種率が不足している」ように見える。現場では同じ数字が出る。$c<$ 必要値。

観察 4.4 区別は、必要値が $100$ を超えるかどうかで付く。超えていれば有効率の問題、接種を広げても解けない。

観察 4.5 論文300 の基準で別根である。接種率は運用が、有効率は免疫応答が決める。同じ「足りない」という語が、根の違う二つを指している。

観察 4.6 論文386 と同じ形である。論文386 では「溶けにくい」が溶解度と溶出速度の二つを指していた。ここでは「足りない」が接種率と有効率の二つを指している。

5. 分離子:足りないのは接種率か、有効率か

観察 5.1 分離子、必要接種率 $(1-1/R_{0})/e$ が $100$ パーセントを超えるか、超えないか。

足りないもの 必要接種率 接種を広げると 打つ手
接種率 $100$ % 未満 解ける 接種を広げる
有効率 $100$ % 以上 解けない 別のワクチン・追加接種

観察 5.2 三列目が判定になる。接種を広げて解けるか、解けなければ、問題は製品の側にある。

観察 5.3 境目は一本の不等式で書ける。$e\ge1-1/R_{0}$、有効率が閾値以上でなければ、どんな接種率でも届かない。

観察 5.4 分離子は動かせる。接触を減らして実効的な $R_{0}$ を下げれば、閾値が下がり、同じ有効率でも届くようになる。第三の手が、二つのどちらでもないところにある。

観察 5.5 正直に言えば、$91.6667$ パーセントも $101.85$ パーセントも、均一混合と単一の $R_{0}$ を置いた模型の値である。接触の偏りがあれば閾値は下がることも上がることもある。動かないのは、閾値が $1$ に達しないことと、有効率が閾値を下回ると全員でも届かないことである。

観察 5.6 最後に一つ、「全員に免疫が要る」と「全員では足りない」は、同時に間違いで、同時に起こりうる。前者はどの $R_{0}$ でも成り立たない。後者は有効率が低ければ起こる。二つを区別しないと、対策の向きを間違える。

6. 点呼と結び

  1. 閾値は $1-1/R_{0}$(第1節):$1$ ではない。
  2. $R_{0}=3$ で $66.6667$ パーセント(計算 2.1):三分の二。
  3. 閾値ちょうどで $R_{\text{eff}}=1.000000000$(観察 2.3):逆算で戻る。
  4. $R_{0}=10^{6}$ でも $0.999999$(観察 2.4):$1$ に達しない。
  5. $R_{0}=18$ で $94.4444$ パーセント(計算 2.1):余地が狭い。
  6. 有効率 $90$ % で $101.85$ パーセント(計算 3.1):達成できない。
  7. 境目は有効率=閾値(観察 3.3):$R_{0}=12$ なら $91.6667$ %。
  8. $5$ ポイントで可能から不可能へ(観察 3.5):$96.4912$ と $101.8519$。
  9. 別根である(観察 4.5):運用と免疫応答。
  10. 接触を減らす第三の手(観察 5.4):閾値そのものを下げる。

結び:「集団免疫には全員の免疫が要る」と言われることがある。要らない。だが、それでも全員では足りない場合がある。閾値は $1-1/R_{0}$ であって $1$ ではない。$R_{0}=3$ なら $\mathbf{66.6667}$ パーセント、三人に一人は免疫が無くてよい。閾値ちょうどの免疫率で実効再生産数がちょうど $1.000000000$ になり、定義から逆算しても戻る。$R_{0}=10^{6}$ でも閾値は $0.999999$ で、「全員に免疫が要る」はどの $R_{0}$ でも成り立たない。ただし $R_{0}=18$ では $94.4444$ パーセントで、「要らない」の余地は狭い。ところが、必要接種率は $100$ パーセントを超えうる。有効率 $e$ のワクチンで免疫率 $p$ を作るには接種率 $c=p/e$ が要るので、$R_{0}=12$(麻疹の代表値)で有効率 $90$ パーセントだと、必要接種率が $\mathbf{101.8519}$ パーセントになる。$100$ を超える数は達成できない。全員に打っても届かない。有効率 $95$ パーセントなら $96.4912$ パーセントで足りるので、$5$ ポイントの差が「可能」と「不可能」の境目をまたいでいる。境目は、有効率が閾値そのものに一致するところである。$R_{0}=12$ なら $91.6667$ パーセント。有効率をその値に置くと必要接種率がちょうど $1.000000$ になり、これは偶然ではなく $c=(1-1/R_{0})/e$ の構造である。そしてこのときは接種率を上げても解けない。上限が $100$ パーセントだからで、有効率のほうを上げるしかない。二つの「足りない」は、直せる場所が違う。接種率が足りないのは運用の問題で解は接種を広げること、有効率が足りないのは製品の問題で解は別のワクチンか追加接種である。どちらも現場では同じ「接種率が不足している」という数字に見える。区別は、必要値が $100$ を超えるかどうかで付く。超えていれば接種を広げても解けない。論文300 の基準で別根であり、接種率は運用が、有効率は免疫応答が決める。論文386 で「溶けにくい」が二つを指していたのと同じ形である。分けているものは一つ、必要接種率 $(1-1/R_{0})/e$ が $100$ パーセントを超えるか、超えないか。判定は接種を広げて解けるかどうかで、解けなければ問題は製品の側にある。境目は一本の不等式 $e\ge1-1/R_{0}$ で書ける。そして分離子は動かせる。接触を減らして実効的な $R_{0}$ を下げれば閾値が下がり、同じ有効率でも届くようになる。第三の手が、二つのどちらでもないところにある。正直に言えば、$91.6667$ パーセントも $101.85$ パーセントも、均一混合と単一の $R_{0}$ を置いた模型の値であり、接触の偏りがあれば閾値は下がることも上がることもある。動かないのは、閾値が $1$ に達しないことと、有効率が閾値を下回ると全員でも届かないことである。最後に一つ、「全員に免疫が要る」と「全員では足りない」は、同時に間違いで、同時に起こりうる。前者はどの $R_{0}$ でも成り立たず、後者は有効率が低ければ起こる。二つを区別しないと、対策の向きを間違える。

参考文献

  1. Kermack, W. O., McKendrick, A. G. (1927). A Contribution to the Mathematical Theory of Epidemics. Proceedings of the Royal Society A.
  2. Anderson, R. M., May, R. M. (1991). Infectious Diseases of Humans: Dynamics and Control. Oxford: Oxford University Press.
  3. Fine, P., Eames, K., Heymann, D. L. (2011). “Herd Immunity”: A Rough Guide. Clinical Infectious Diseases.
  4. Guerra, F. M., Bolotin, S., Lim, G., et al. (2017). The basic reproduction number ($R_{0}$) of measles: a systematic review. The Lancet Infectious Diseases.
  5. 山岸勇輝 (2026). 『第三百回の点呼、同根か別根かは判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
  6. 山岸勇輝 (2026). 『溶解度は一つも動いていないのに、溶ける速さが 1000 倍になる』[論文386]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22699119
  7. 山岸勇輝 (2026). 『候補が百万人でも、最良を当てる確率は 0.3679 のまま落ちない』[論文388]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22699147
  8. 山岸勇輝 (2026). 『四百本目の点呼、数えられたものより、数えた道具のほうが先に壊れた』[論文400]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22699343

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「全員に免疫は要らない。ただし有効率が足りないと、全員に打っても届かない」[論文401]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22699375

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引用するとき

山岸勇輝 (2026). 全員に免疫は要らない。ただし有効率が足りないと、全員に打っても届かない [論文401]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/401 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22699375

Yamagishi, Y. (2026). Not Everyone Needs Immunity; and Yet Everyone May Not Be Enough [Paper 401]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/401; DOI: 10.5281/zenodo.22699375

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