【論文417】食物連鎖の段数に上限があるのは、生き物の都合ではない

要旨

食物連鎖の段数は、たいてい四段か五段で止まる。本稿が示すのは、止まる理由が生態ではなく算術であることである。段ごとに一桁落ちるので、必要量に届かなくなる段が必ず来る。新しい定理も法則も主張しない。

第一に、一次生産は太陽光の $\mathbf{1}$ パーセントで、段ごとにちょうど $10$ 分の一になる(第2節)。

第二に、これが本稿の芯である。五段目で太陽光の $\mathbf{10^{-6}}$ になる。$100$ 万分の一である(第2節)。

第三に、段が一つ増えるごとに一桁落ちることは、逆算で $\mathbf{5.000000}$ 桁として確かめられる(第2節)。

第四に、必要量 $1$ なら上限は $\mathbf{6}$ 段目で、七段目は $0.1$ となり届かない(第3節)。

第五に、必要量を $10$ に上げるだけで、上限が $\mathbf{5}$ 段目へ落ちる。生き物は何も変えていない(第3節)。

第六に、分離子は「効率か、必要量か」である。転送効率を $20$ パーセントにすれば五段目が $\mathbf{32}$ 倍になる(第4節)。

射程(何を示さないか)

新しい定理も法則も主張しない。リンデマンの $10$ パーセント則、生態ピラミッド、栄養段階の制限はすべて既知である($1942$ 年以来)。生態学の議論に加わらない。段数の上限がエネルギーで決まるのか、動態の安定性で決まるのかという論争には立ち入らない。本稿はエネルギー側の算術だけを見る。$10$ パーセントを実測値として主張しない。転送効率は生態系ごとに大きく違い、$10$ パーセントは教科書的な代表値である。現実の食物網を扱わない。雑食、腐食連鎖、寄生は主題ではなく、本稿は一本の直線的な連鎖だけを扱う。単位を持たない。「必要量 $1$」は任意単位であり、実在の生物量ではない。保全を論じない。高次捕食者の脆弱性という応用は触れるだけである。既刊との関係:論文416 は積が同じでも結果が同じにならないことを示した。そこでは掛け算が破れた。ここでは掛け算が最後まで効く。論文300 は同根か別根かが判定できることを示した。「効率が低いから段が短い」と「必要量が高いから段が短い」は、その基準で別根である。論文415 は同じガラスが $5000$ 倍透明になったことを示した。そこでは減衰率が距離を決めた。ここでは転送効率が段数を決める。論文413 は柱を一本足すと閉じた式が消えることを示した。ここでは段を一つ足すと、量が一桁消える。加えたのは、七段まで数を並べたこと、一桁落ちることを逆算で確かめたこと、上限を境目の両側(六段目と七段目)で示したこと、必要量を動かすと上限が動くことを示したこと、効率を動かした場合の $32$ 倍を出したこと、分離子を「効率か必要量か」に置いたことである。

1. 記法と問い

設定:到達する太陽エネルギーを $E_0$ とし、一次生産の効率を $\varepsilon_p$、段ごとの転送効率を $\varepsilon_t$ とする。

$$E_k=E_0\,\varepsilon_p\,\varepsilon_t^{\,k-1}$$

以下 $E_0=10^{7}$(任意単位)、$\varepsilon_p=0.01$、$\varepsilon_t=0.10$ とする。

観察 1.1 食物連鎖の段数は、たいてい四段か五段で止まる。草・草食獣・肉食獣・大型肉食獣、その先が続かない。

観察 1.2 理由として「大きな捕食者は珍しいから」と言われることがある。だがそれは結果であって理由ではない。珍しいのは、支えるエネルギーが無いからである。

問い:どこで止まるかは、何が決めているのか。

2. 段ごとに一桁落ちる

計算 2.1:七段目までのエネルギーを出す。

段 エネルギー 太陽光に対する割合
$1$ $100{,}000.0000$ $1.0000\times10^{-2}$
$2$ $10{,}000.0000$ $1.0000\times10^{-3}$
$3$ $1{,}000.0000$ $1.0000\times10^{-4}$
$4$ $100.0000$ $1.0000\times10^{-5}$
$5$ $10.0000$ $1.0000\times10^{-6}$
$6$ $1.0000$ $1.0000\times10^{-7}$
$7$ $0.1000$ $1.0000\times10^{-8}$

観察 2.2 一次生産は太陽光のちょうど $1$ パーセントである。$0.010000$、光合成が取り出せるのはこれだけである。

観察 2.3 五段目で $\mathbf{10^{-6}}$ になる。太陽光の $100$ 万分の一、五回掛け算しただけで、こうなる。

計算 2.4:一段目と六段目の比の常用対数をとる。

$\mathbf{5.000000}$ 桁である。段が五つ増えたので、ちょうど五桁落ちている。逆算しても同じ数が出ることが、計算の自己検査になっている。

観察 2.5 比は段のあいだで完全に一定である。どの隣り合う二段をとっても $0.1$ である。等比数列だからで、ここに例外は無い。

3. 上限は、必要量が決める

計算 3.1:一個体を養うのに必要な量を $1$ として、どの段まで届くか。

最上段は $\mathbf{6}$ 段目である(値 $1.0000$)。七段目は $0.1000$ で、必要量 $1.0$ に届かない。

観察 3.2 境目の両側を見ている。六段目は届き、七段目は届かない。片側だけを見ると、そこが境目かどうか分からない。

計算 3.3:必要量を $10$ に上げる。

最上段は $\mathbf{5}$ 段目へ落ちる。

観察 3.4 生き物は何も変えていない。効率も、太陽光も、段の構造も同じである。変えたのは「一個体に何が要るか」だけで、それで段が一つ消えた。

観察 3.5 だから「段数の上限」は連鎖の性質ではない。連鎖と必要量の組で決まる。論文412 で「一番近い」が距離を要求したのと同じ形である。

4. 分離子

分離子:効率が決めるか、必要量が決めるか。

計算 4.1:転送効率を $10$ から $20$ パーセントに上げる。

五段目のエネルギーが $1.0000$ から $\mathbf{32.0000}$ へ、$32$ 倍になる。

観察 4.2 $32=2^{5}$ である。効率を二倍にすると、$k$ 段目は $2^{k}$ 倍になる。効率は冪で効くので、段が深いほど差が開く。

観察 4.3 これは論文300 の基準で別根である。効率は掛け算の底を変える。必要量は切る位置を変える。どちらも段数を減らすが、動かす場所が違う。

観察 4.4 そして海では段が長いことが知られている。植物プランクトンの転送効率が陸上より高いためと説明される。底が変われば段数が変わる、という本稿の形と整合する。

観察 4.5 高次捕食者が脆いのも同じ算術から出る。一次生産が半分になると、六段目は $2^{5}=32$ 分の一になる。下の変化が上で増幅される。

観察 4.6 正直に言えば、$10$ パーセントは教科書的な代表値であり、実際の生態系では大きく違う。本稿はそれを実測値として主張していない。動かないのは、比が $1$ 未満である限り必ず打ち切られるという点である。

観察 4.7 最後に一つ、段数の上限がエネルギーだけで決まるとは、本稿は言っていない。生態学では動態の安定性による説明もある。本稿が示したのは、エネルギー側だけでも上限が出るということである。

5. 点呼と結び

  1. 一次生産は太陽光の $1$ %(観察 2.2):$0.010000$。
  2. 段ごとにちょうど $0.1$ 倍(観察 2.5):等比数列。
  3. 五段目で $10^{-6}$(観察 2.3):$100$ 万分の一。
  4. 一段目から六段目で $5.000000$ 桁(計算 2.4):逆算が一致。
  5. 必要量 $1$ なら上限は $6$ 段目(計算 3.1):境目の内側。
  6. 七段目は $0.1000$ で届かない(計算 3.1):境目の外側。
  7. 必要量 $10$ なら上限は $5$ 段目(計算 3.3):生き物は不変。
  8. 効率 $20$ % なら五段目が $32.0000$(計算 4.1):$32=2^{5}$。
  9. 効率は冪で効く(観察 4.2):深いほど差が開く。
  10. 分離子は効率か必要量か(観察 4.3):底か、切る位置か。

結び:食物連鎖の段数はたいてい四段か五段で止まり、「大きな捕食者は珍しいから」と説明されることがある。だがそれは結果であって理由ではない。珍しいのは、支えるエネルギーが無いからである。止めているのは算術である。一次生産は太陽光のちょうど $\mathbf{1}$ パーセント、そこから段ごとにちょうど $0.1$ 倍になり、五段目で太陽光の $\mathbf{10^{-6}}$、$100$ 万分の一になる。一段目と六段目の比の常用対数はちょうど $\mathbf{5.000000}$ 桁で、段が五つ増えたぶんきっかり五桁落ちている。逆算しても同じ数が出ることが計算の自己検査になっている。隣り合うどの二段をとっても比は $0.1$ で、等比数列に例外は無い。そして上限は、連鎖だけでは決まらない。一個体を養うのに必要な量を $1$ とすれば最上段は $\mathbf{6}$ 段目(値 $1.0000$)で、七段目は $0.1000$ となって届かない。ところが必要量を $10$ に上げるだけで最上段は $\mathbf{5}$ 段目へ落ちる。効率も太陽光も段の構造も同じままで、変えたのは「一個体に何が要るか」だけである。だから「段数の上限」は連鎖の性質ではなく、連鎖と必要量の組で決まる。論文412 で「一番近い」が距離を要求したのと同じ形である。分けているものは一つ、効率が決めるか、必要量が決めるか。転送効率を $10$ から $20$ パーセントに上げると五段目は $1.0000$ から $\mathbf{32.0000}$ へ $32$ 倍になり、$32=2^{5}$ である。効率は冪で効くので、段が深いほど差が開く。論文300 の基準で別根であり、効率は掛け算の底を変え、必要量は切る位置を変える。海で段が長いのは植物プランクトンの転送効率が高いためと説明され、底が変われば段数が変わるという本稿の形と整合する。高次捕食者が脆いのも同じ算術から出る。一次生産が半分になれば六段目は $2^{5}=32$ 分の一になり、下の変化が上で増幅される。正直に言えば、$10$ パーセントは教科書的な代表値であり、実際の生態系では大きく違う。本稿はそれを実測値として主張していない。動かないのは、比が $1$ 未満である限り必ず打ち切られるという点である。最後に一つ、段数の上限がエネルギーだけで決まるとは言っていない。生態学では動態の安定性による説明もある。本稿が示したのは、エネルギー側だけでも上限が出るということである。

参考文献

  1. Lindeman, R. L. (1942). The Trophic-Dynamic Aspect of Ecology. Ecology.
  2. Elton, C. (1927). Animal Ecology. London: Sidgwick & Jackson.
  3. Pimm, S. L. (1982). Food Webs. London: Chapman & Hall.
  4. Post, D. M. (2002). The Long and Short of Food-Chain Length. Trends in Ecology & Evolution.
  5. 山岸勇輝 (2026). 『三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
  6. 山岸勇輝 (2026). 『「一番近い」は、距離を決めるまで決まらない』[論文412]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22699661
  7. 山岸勇輝 (2026). 『柱を一本足すと、閉じた式が消える』[論文413]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22699750
  8. 山岸勇輝 (2026). 『同じガラスが、$5000$ 倍透明になった』[論文415]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22699790
  9. 山岸勇輝 (2026). 『積が同じでも、結果が同じにならない』[論文416]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22699831

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「食物連鎖の段数に上限があるのは、生き物の都合ではない」[論文417]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22699882

YOI 417第1版・2026年9月ビットコインに記録済み

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引用するとき

山岸勇輝 (2026). 食物連鎖の段数に上限があるのは、生き物の都合ではない [論文417]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/417 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22699882

Yamagishi, Y. (2026). The Ceiling on Food-Chain Length Is Not a Fact About Animals [Paper 417]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/417; DOI: 10.5281/zenodo.22699882

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