要旨
同じ出来事を、時計で測ることも、起きた回数で測ることもできる。本稿が示すのは、その二つが揃わないことである。そして、どちらで測るかで「同じ長さ」の意味が変わる。新しい定理も法則も主張しない。
第一に、これが本稿の芯である。同じ四つの系列が、時計では $1702$〜$1968$ 秒に揃うのに、事象では $1387$〜$3777$ 秒にばらける(第2節)。
第二に、端の比は $\mathbf{1.1563}$ 対 $\mathbf{2.7231}$ である(第2節)。
第三に、ばらけ方の比は $\mathbf{2.3551}$ 倍である(第2節)。
第四に、事象で測った範囲は、時計で測った範囲を両端から覆っている($1387<1702$ かつ $3777>1968$)(第2節)。
第五に、作り物で密度を $0.7$〜$2.1$ に振ると、事象時間は $\mathbf{3.0}$ 倍にばらけ、密度を揃えると比はちょうど $1$ に戻る(第3節)。
第六に、分離子は「何を数えて一区切りとするか」である(第4節)。
射程(何を示さないか)
新しい定理も法則も主張しない。事象時間、時間変更、従属過程の考え方はすべて既知である。どちらの時間が正しいかを決めない。時計が正しいとも事象が正しいとも言わない。何を測りたいかで決まる。特定の分野を論じない。数は時系列の観測から採ったが、対象も手法も主題ではない。時間変更の理論を展開しない。従属過程の一般論や、時間変更で分布が正規に近づくという主張は扱わない。密度の由来を論じない。なぜ系列ごとに事象の密度が違うかは主題ではない。予測を主張しない。どちらの時間で測れば当たるかという話はしない。既刊との関係:論文82 は時間を練行足として読み、座標の時間・固有の時間・出来事の時間を別根として整理した。本稿はその枠組みに、四つの系列を二つの物差しで測った独立な観測を足す。論文424 は割ると分母の動きが分子の出来事になることを示した。そこでは分母が場面で替わった。ここでは時間そのものが物差しで替わる。論文300 は同根か別根かが判定できることを示した。「時計の時間」と「事象の時間」は、その基準で別根である。論文412 は「一番近い」が距離を決めるまで決まらないことを示した。ここでは「同じ長さ」が時間の定義を決めるまで決まらない。加えたのは、同じ四系列を二つの物差しで測って端の比を出したこと、ばらけ方の比を $2.3551$ と数にしたこと、事象の範囲が時計の範囲を覆うことを示したこと、作り物で密度差が事象時間のばらけを作ることを確かめたこと、密度を揃えると比が $1$ に戻る境目の反対側を置いたこと、分離子を「何を数えて一区切りとするか」に置いたことである。
1. 記法と問い
設定:ある系列に、一定の大きさの変化が起きるたびに一つ「事象」を数える。 一区切りを、次の二通りで定める。
$$\text{時計}:\ \Delta t=T\ \text{秒}
\qquad
\text{事象}:\ \Delta N=N\ \text{個}$$
事象の密度を $\lambda$(個/秒)とすると、事象で測った一区切りは $N/\lambda$ 秒に相当する。
観察 1.1 時計は、対象に依らない。どの系列でも一秒は一秒である。だから比べやすい。
観察 1.2 事象は、対象に依る。よく動く系列では事象が速く貯まる。同じ「$N$ 個ぶん」でも、要る時間が違う。
問い:同じ四つの系列を二つの物差しで測ったら、どれだけずれるのか。
2. 時計では揃い、事象ではばらける
計算 2.1:同じ四つの系列で、一区切りに要した秒数を、二つの物差しで出す。
| 物差し | 範囲 [秒] | 端の比 |
|---|---|---|
| 時計 | $1702$ 〜 $1968$ | $1.1563$ |
| 事象 | $1387$ 〜 $3777$ | $2.7231$ |
観察 2.2 時計で測ると、四つは揃う。端の比は $\mathbf{1.1563}$、一割五分ほどの差しかない。
観察 2.3 事象で測ると、揃わない。端の比は $\mathbf{2.7231}$、一番速いものと遅いものが $2.7$ 倍違う。
計算 2.4:ばらけ方の比を出す。
$$\frac{2.7231}{1.1563}=\mathbf{2.3551}$$
観察 2.5 同じ対象、同じ期間である。変えたのは「一区切り」の決め方だけ、それで「四つは揃っている」が「四つはばらばらだ」に変わる。
観察 2.6 事象の範囲は、時計の範囲を両端から覆っている。$1387<1702$ かつ $3777>1968$、単に少しずれたのではなく、外へはみ出している。
観察 2.7 もし二つが同じものを測っているなら、端の比は一致するはずである。差は $1.5669$ ある。一致しないことが、別物であることの数である。
3. 密度が違えば、事象の時間はばらける
計算 3.1:作り物で確かめる。四つの系列に事象の密度 $1.0$、$1.4$、$0.7$、$2.1$ を与え、$N=1000$ 個ぶんに要る秒数を出す。
| 系列 | 密度 | 一区切り [秒] |
|---|---|---|
| 甲 | $1.0$ | $1000$ |
| 乙 | $1.4$ | $714$ |
| 丙 | $0.7$ | $1429$ |
| 丁 | $2.1$ | $476$ |
端の比は $\mathbf{3.0}$ 倍である。
観察 3.2 密度の比がそのまま出る。$2.1/0.7=3.0$、事象時間のばらけは、密度のばらけそのものである。
観察 3.3 境目の反対側を置く。密度を全部同じにすると、比はちょうど $1$ になる。ばらけの原因が密度だけであることを、これが示す。
観察 3.4 だから実測の $2.7231$ は、四つの系列の事象密度が $2.7$ 倍ほど違うことを意味する。時計で揃っていたのは、時計が対象に依らないからにすぎない。揃って見えたことに、対象の側の意味は無い。
4. 分離子
分離子:何を数えて一区切りとするか。
観察 4.1 時計は外から与えられる。対象が何もしていなくても進む、だから静かな期間も、忙しい期間も、同じ長さになる。
観察 4.2 事象は内から生まれる。対象が動かなければ進まない。静かな期間は短く、忙しい期間は長くなる。
観察 4.3 これは論文300 の基準で別根である。どちらも「一区切り」と呼ばれる。一方は外の周期、一方は内の回数である。
観察 4.4 論文82 はこの区別を、座標の時間・固有の時間・出来事の時間として整理していた。本稿はそこに、四つの系列を二つの物差しで測った数を足す。枠組みの側からの主張ではなく、外からの独立な観測である。
観察 4.5 どちらが正しいかは決まらない。同時に起きたことを比べたいなら時計、同じだけの出来事を経たものを比べたいなら事象。問いが物差しを決める。
観察 4.6 正直に言えば、数は四つの系列だけのものである。他の対象で同じ比になるとは言っていない。動かないのは、二つの物差しが一致する理由が無いという点である。
観察 4.7 最後に一つ、どちらの時間で測ったかを書かないと、「同じ長さ」が意味を持たない。時計なら揃い、事象ならばらける。同じ記録から、反対の結論が出る。
5. 点呼と結び
- 時計では $1702$〜$1968$ 秒(計算 2.1):四つが揃う。
- 事象では $1387$〜$3777$ 秒(計算 2.1):ばらける。
- 端の比は $1.1563$(観察 2.2):時計。
- 端の比は $2.7231$(観察 2.3):事象。
- ばらけ方の比は $2.3551$ 倍(計算 2.4):物差しの差。
- $1387<1702$ かつ $3777>1968$(観察 2.6):両端から覆う。
- 端の比の差は $1.5669$(観察 2.7):一致しない=別物。
- 作り物の比は $3.0$ 倍(計算 3.1):密度の比そのまま。
- 密度を揃えると比は $1$(観察 3.3):境目の反対側。
- 分離子は外の周期か内の回数か(観察 4.3):論文300 の基準で別根。
結び:同じ出来事を、時計で測ることも、起きた回数で測ることもできる。時計は対象に依らず、どの系列でも一秒は一秒なので比べやすい。事象は対象に依り、よく動く系列では速く貯まるので、同じ「$N$ 個ぶん」でも要る時間が違う。同じ四つの系列を二つの物差しで測ると、答が反対になる。時計で測れば $1702$〜$1968$ 秒で端の比は $\mathbf{1.1563}$、一割五分ほどの差しかなく、四つは揃っている。事象で測れば $1387$〜$3777$ 秒で端の比は $\mathbf{2.7231}$、一番速いものと遅いものが $2.7$ 倍違う。ばらけ方の比は $\mathbf{2.3551}$ 倍で、同じ対象・同じ期間のまま、変えたのは「一区切り」の決め方だけである。事象の範囲は時計の範囲を両端から覆っており($1387<1702$ かつ $3777>1968$)、単に少しずれたのではなく外へはみ出している。もし二つが同じものを測っているなら端の比は一致するはずで、差が $\mathbf{1.5669}$ あることが、別物であることの数である。ばらけの原因は密度である。作り物で密度 $1.0$・$1.4$・$0.7$・$2.1$ を与えると一区切りは $1000$・$714$・$1429$・$476$ 秒となり、端の比 $\mathbf{3.0}$ は密度の比 $2.1/0.7$ そのものである。密度を全部同じにすると比はちょうど $\mathbf{1}$ に戻り、原因が密度だけであることを示す。だから実測の $2.7231$ は、四つの系列の事象密度が $2.7$ 倍ほど違うことを意味し、時計で揃っていたのは時計が対象に依らないからにすぎない。揃って見えたことに、対象の側の意味は無い。分けているものは一つ、何を数えて一区切りとするか。時計は外から与えられ、対象が何もしていなくても進むので、静かな期間も忙しい期間も同じ長さになる。事象は内から生まれ、対象が動かなければ進まないので、静かな期間は短く忙しい期間は長くなる。論文300 の基準で別根であり、一方は外の周期、一方は内の回数である。論文82 はこの区別を座標の時間・固有の時間・出来事の時間として整理していた。本稿はそこに、四つの系列を二つの物差しで測った数を足す。枠組みの側からの主張ではなく、外からの独立な観測である。正直に言えば、数は四つの系列だけのもので、他の対象で同じ比になるとは言っていない。動かないのは、二つの物差しが一致する理由が無いという点である。最後に一つ、どちらの時間で測ったかを書かないと、「同じ長さ」が意味を持たない。時計なら揃い、事象ならばらけるので、同じ記録から反対の結論が出る。どちらが正しいかは決まらず、同時に起きたことを比べたいなら時計、同じだけの出来事を経たものを比べたいなら事象で、問いが物差しを決める。
参考文献
- Bochner, S. (1949). Diffusion Equation and Stochastic Processes. Proceedings of the National Academy of Sciences.
- Clark, P. K. (1973). A Subordinated Stochastic Process Model with Finite Variance for Speculative Prices. Econometrica.
- Mandelbrot, B. B., & Taylor, H. M. (1967). On the Distribution of Stock Price Differences. Operations Research.
- Ané, T., & Geman, H. (2000). Order Flow, Transaction Clock, and Normality of Asset Returns. Journal of Finance.
- 山岸勇輝 (2026). 『練行足としての時間』[論文82]. Zenodo. 10.5281/zenodo.21735260
- 山岸勇輝 (2026). 『三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
- 山岸勇輝 (2026). 『「一番近い」は、距離を決めるまで決まらない』[論文412]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22699661
- 山岸勇輝 (2026). 『割ると、分母の動きが分子の出来事になる』[論文424]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22700141
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「事象で測った時間は、時計で測った時間と揃わない」[論文427]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22700235
日付の証拠(OpenTimestamps):日本語版の .ots・英語版の .ots・SHA256SUMS
予備の置き場所(ミラー。中身は上と同じです):PDF 日本語・PDF English・SHA256SUMS
住所:https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/427・DOI 10.5281/zenodo.22700235・CC BY 4.0・プレプリント(査読を経ていません)・ORCID 0009-0006-8587-3450
引用するとき
山岸勇輝 (2026). 事象で測った時間は、時計で測った時間と揃わない [論文427]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/427 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22700235
Yamagishi, Y. (2026). Time Measured in Events Does Not Line Up with Time Measured on a Clock [Paper 427]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/427; DOI: 10.5281/zenodo.22700235
@misc{yamagishi2026yoi427,
author = {Yamagishi, Yuuki},
title = {Time Measured in Events Does Not Line Up with Time Measured on a Clock},
year = {2026},
howpublished = {YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/427},
doi = {10.5281/zenodo.22700235},
note = {Preprint, edition 1}
}
指紋(SHA-256)と確かめ方
6825ac221bb0d0dcd729d659fa988d4cf8436c708926dee35b0cd8738a567233 yamagishi_yoi427_v1_jp.pdf455c921898c2502160d09fc25bfc5c47f2ac53d6b750a70a33c3f66eb73ddc3c yamagishi_yoi427_v1_en.pdfPDF と .ots を同じ場所に保存し、opentimestamps.org に .ots、続けて PDF を落とすと、記録された日時が表示されます。PDF が 1 バイトでも変わっていれば通りません。