【論文461】向きを逆にするだけで、出口が相手を追い越す

要旨

熱交換器は、伝熱面積を増やせばよくなると思われている。本稿が示すのは、並流では面積を無限にしても有効度が $\mathbf{0.5000}$ で止まることである。向きを逆にするだけで、$\mathrm{NTU}=\mathbf{0.9996}$ でそこに達する。新しい定理も法則も主張しない。

第一に、$\mathrm{NTU}=2$ で並流の有効度は $\mathbf{0.4908}$、対向流は $\mathbf{0.6667}$ である(第2節)。

第二に、並流の出口は $54.3590$ 度と $55.6410$ 度で、決して交わらない(第2節)。

第三に、これが本稿の芯である。対向流の出口は $\mathbf{66.6667}$ 度と $\mathbf{43.3333}$ 度で、冷側が温側を $\mathbf{23.3334}$ 度追い越す(第2節)。

第四に、並流の有効度は $\mathrm{NTU}$ を無限にしても $\mathbf{0.500000000}$ で頭打ちになる(第3節)。

第五に、対向流は $\mathrm{NTU}=\mathbf{0.9996}$ でその上限に達する(第3節)。

第六に、分離子は「面積が足りないのか、向きが違うのか」である(第4節)。

キーワード:熱交換器、対向流、並流、有効度NTU法。

射程(何を示さないか)

新しい定理も法則も主張しない。有効度・$\mathrm{NTU}$ 法、並流と対向流の違いはすべて既知である。熱交換器を設計しない。管径、配置、圧力損失、汚れ、材料は主題ではない。熱容量流量を等しくする。両側の熱容量流量比を $1$ に固定した。比が $1$ でなければ数は変わる。相変化を扱わない。凝縮や蒸発を伴う場合は別の扱いが要る。直交流と多流路を含めない。実際の熱交換器は純粋な並流でも対向流でもないことが多い。既刊との関係:論文460 は暑さの限界が気温と湿度の組で決まることを示した。そこでも、一つの量だけを見ると順序を誤った。論文300 は同根か別根かが判定できることを示した。「並流の限界」と「対向流の限界」は、その基準で別根である。論文459 は往復すれば損失が $1.9$ 倍になることを示した。そこでも、配置が量を決めていた。加えたのは、$\mathrm{NTU}=2$ で両方式の有効度を出したこと、四つの出口温度を並べて追い越しを示したこと、並流の上限を $0.500000000$ と出したこと、対向流がその上限に達する $\mathrm{NTU}$ を二分法で $0.9996$ と出したこと、分離子を「面積か向きか」に置いたことである。

1. 記法と問い

設定:熱交換器の有効度 $\varepsilon$ を、実際に移った熱と、理論上移りうる最大の熱の比とする。伝熱単位数 $\mathrm{NTU}=UA/C_{\min}$、熱容量流量比 $C_{r}=C_{\min}/C_{\max}$ とすると、並流では

$$\varepsilon_{\parallel}=\frac{1-e^{-\mathrm{NTU}(1+C_{r})}}{1+C_{r}}$$

対向流で $C_{r}=1$ のときは

$$\varepsilon_{\times}=\frac{\mathrm{NTU}}{1+\mathrm{NTU}}$$

である。以下 $C_{r}=1$、温側入口 $90$ 度、冷側入口 $20$ 度とする。

観察 1.1 熱交換器は伝熱面積を増やせばよくなると思われている。$\mathrm{NTU}$ は面積に比例する。大きくすれば近づく、という像である。

観察 1.2 だが並流では、温度差が途中で消える。両側が同じ向きに流れるので、出口で温度が揃ってしまう。そこから先は、面積があっても熱が動かない。

問い:どこで止まり、向きを変えるとどうなるのか。

2. 対向流では出口が相手を追い越す

計算 2.1:$\mathrm{NTU}=2$ で、両方式の有効度と出口温度を出す。

方式 有効度 冷側出口 [$^\circ$C] 温側出口 [$^\circ$C]
並流 $\mathbf{0.4908}$ $54.3590$ $55.6410$
対向流 $\mathbf{0.6667}$ $\mathbf{66.6667}$ $\mathbf{43.3333}$

観察 2.2 並流では冷側出口が温側出口を超えない。$54.3590<55.6410$、同じ場所で接しているのだから、追い越せば熱が逆流することになる。

観察 2.3 対向流では追い越す。$66.6667$ 対 $43.3333$、差は $\mathbf{23.3334}$ 度、冷やされた水が出ていく先は、温めた側が入ってきた場所だからである。

観察 2.4 これは熱力学第二法則に反していない。どの断面でも、温側は冷側より高い。比べているのは、同じ断面ではなく反対の端どうしである。

観察 2.5 同じ $\mathrm{NTU}$ で有効度が $1.36$ 倍違う。$0.6667$ 対 $0.4908$、面積も流量も同じで、配管の向きだけが違う。

3. 並流の上限は 0.500000000 である

計算 3.1:$\mathrm{NTU}$ を無限に近づけたときの、並流の有効度を出す。

$\mathbf{0.500000000}$ である($\mathrm{NTU}=10^{6}$ で計算)。

観察 3.2 面積をいくら増やしても、半分より先へ行けない。熱容量流量が等しいとき、両側の温度は中央で出会って止まる。$\mathrm{NTU}$ が $10^{6}$ でも $0.5$ である。

計算 3.3:対向流がその上限に達する $\mathrm{NTU}$ を、二分法で求める。

$\mathrm{NTU}=\mathbf{0.9996}$ である(逆算して有効度 $0.499900000$)。

観察 3.4 並流が無限を要する値に、対向流は $\mathrm{NTU}=1$ で届く。面積で言えば有限のところで、そこから先も、対向流はまだ伸びる。

観察 3.5 対向流には上限が無い。$\mathrm{NTU}=50$ で $0.9804$、$1$ に漸近する。並流とは、行き先そのものが違う。

観察 3.6 だから「面積が足りない」という診断は、並流では的を外す。足りないのは面積ではなく、温度差である。向きを変えないかぎり、投資が返ってこない。

4. 分離子

分離子:面積が足りないのか、向きが違うのか。

観察 4.1 面積が足りないなら、増やせば近づく。$\mathrm{NTU}$ を上げれば有効度が上がる。単調で、行き先は $1$ である。

観察 4.2 向きが違うなら、増やしても $0.5$ で止まる。同じく単調だが、行き先が違う。どちらも「増やせば上がる」ので、傾きだけを見ていると区別できない。

観察 4.3 これは論文300 の基準で別根である。どちらも「熱交換器の限界」と呼ばれる。一方は装置の大きさの限界、一方は配置が課す限界である。

観察 4.4 論文460 と同じ形である。そこでは気温だけを見ると順序を誤った。ここでは面積だけを見ると行き先を誤る。どちらも、もう一つの成分が答えを決めている。

観察 4.5 論文459 とも重なる。そこでは同じ装置が境界の取り方で $0.90$ にも $0.81$ にもなった。ここでは同じ装置が向きで $0.4908$ にも $0.6667$ にもなる。

観察 4.6 そして向きを変えるのは、たいてい面積を増やすより安い。配管のつなぎ替えで済むことがある。診断を間違えると、高いほうの手を打つことになる。

観察 4.7 正直に言えば、熱容量流量比を $1$ に固定した。比が $1$ から離れると、並流の上限は $1/(1+C_{r})$ となって上がる。$0.5$ という数はこの条件のもとでの値であり、上限が存在するという結論だけが条件に依らない。

5. 点呼と結び

  1. $\mathrm{NTU}=2$ で並流 $0.4908$(計算 2.1):対向流は $0.6667$。
  2. 並流の出口は $54.3590$ と $55.6410$(計算 2.1):交わらない。
  3. 対向流は $66.6667$ と $43.3333$(計算 2.1):本稿の芯。
  4. 追い越しは $23.3334$ 度(観察 2.3):反対の端どうし。
  5. 第二法則に反しない(観察 2.4):どの断面でも温側が高い。
  6. 同じ $\mathrm{NTU}$ で $1.36$ 倍(観察 2.5):向きだけが違う。
  7. 並流の上限は $0.500000000$(計算 3.1):面積では越えられない。
  8. 対向流は $\mathrm{NTU}=0.9996$ で届く(計算 3.3):有限のところで。
  9. 分離子は面積か向きか(観察 4.3):論文300 の基準で別根。
  10. 比が $1$ でなければ数は変わる(観察 4.7):上限の存在だけが残る。

結び:熱交換器は伝熱面積を増やせばよくなると思われている。$\mathrm{NTU}$ は面積に比例するので、大きくすれば近づくという像がある。だが並流では温度差が途中で消える。両側が同じ向きに流れるので出口で温度が揃ってしまい、そこから先は面積があっても熱が動かない。向きを逆にすると、出口が相手を追い越す。$\mathrm{NTU}=2$ で並流の有効度は $\mathbf{0.4908}$、出口は $54.3590$ 度と $55.6410$ 度で交わらない。同じ場所で接しているのだから、追い越せば熱が逆流することになる。対向流の有効度は $\mathbf{0.6667}$、出口は $\mathbf{66.6667}$ 度と $\mathbf{43.3333}$ 度で、冷側が温側を $\mathbf{23.3334}$ 度追い越す。冷やされた水が出ていく先は、温めた側が入ってきた場所だからである。これは熱力学第二法則に反していない。どの断面でも温側は冷側より高く、比べているのは同じ断面ではなく反対の端どうしである。同じ $\mathrm{NTU}$ で有効度が $1.36$ 倍違い、面積も流量も同じで、配管の向きだけが違う。そして並流には、面積では越えられない上限がある。$\mathrm{NTU}$ を $10^{6}$ にしても有効度は $\mathbf{0.500000000}$ で止まる。熱容量流量が等しいとき、両側の温度は中央で出会って動かなくなる。対向流はその値に $\mathrm{NTU}=\mathbf{0.9996}$ で届く。並流が無限を要する場所に、有限の面積で達する。しかも対向流には上限が無く、$\mathrm{NTU}=50$ で $0.9804$、$1$ に漸近する。並流とは行き先そのものが違う。だから「面積が足りない」という診断は並流では的を外す。足りないのは面積ではなく温度差であり、向きを変えないかぎり投資が返ってこない。分けているものは一つ、面積が足りないのか、向きが違うのか。面積が足りないなら増やせば近づき、単調で、行き先は $1$ である。向きが違うなら増やしても $0.5$ で止まる。同じく単調だから、傾きだけを見ていると区別できない。論文300 の基準で別根であり、一方は装置の大きさの限界、一方は配置が課す限界である。論文460 と同じ形で、そこでは気温だけを見ると順序を誤った。どちらも、もう一つの成分が答えを決めている。論文459 とも重なり、そこでは同じ装置が境界の取り方で $0.90$ にも $0.81$ にもなった。ここでは同じ装置が向きで $0.4908$ にも $0.6667$ にもなる。そして向きを変えるのは、たいてい面積を増やすより安い。配管のつなぎ替えで済むことがあり、診断を間違えると高いほうの手を打つことになる。正直に言えば、熱容量流量比を $1$ に固定した。比が $1$ から離れると並流の上限は $1/(1+C_{r})$ となって上がるので、$0.5$ という数はこの条件のもとでの値である。上限が存在するという結論だけが、条件に依らない。

参考文献

  1. Nusselt, W. (1930). Eine neue Formel für den Wärmedurchgang im Kreuzstrom. Technische Mechanik und Thermodynamik.
  2. Kays, W. M., & London, A. L. (1984). Compact Heat Exchangers (3rd ed.). McGraw-Hill.
  3. Incropera, F. P., & DeWitt, D. P. (2007). Fundamentals of Heat and Mass Transfer (6th ed.). Wiley.
  4. 山岸勇輝 (2026). 『三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
  5. 山岸勇輝 (2026). 『九割の効率が二度あれば、残るのは八割一分である』[論文459]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22733103
  6. 山岸勇輝 (2026). 『暑さの限界は気温ではなく、湿度と組んで決まる』[論文460]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22733136

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「向きを逆にするだけで、出口が相手を追い越す」[論文461]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22733154

YOI 461第1版・2026年9月ビットコインに記録済み

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引用するとき

山岸勇輝 (2026). 向きを逆にするだけで、出口が相手を追い越す [論文461]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/461 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22733154

Yamagishi, Y. (2026). Reverse the Direction and the Outlet Overtakes Its Partner [Paper 461]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/461; DOI: 10.5281/zenodo.22733154

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