要旨
帆走艇の見かけの風と、星の光行差は、別々の話として教えられる。本稿が示すのは、低速では同じ一つの関数であり、分かれるのは速度の合成の規則が変わるところだけであることである。新しい定理も法則も主張しない。
第一に、同じ式に艇速と風速の比 $\mathbf{0.533333}$ を入れると、見かけの風は $\mathbf{61.9275}$ 度になる。真の風 $15$ ノットが $\mathbf{17.000000}$ ノットに増える(第2節)。
第二に、同じ式に地球の $\beta=\mathbf{9.935118\times10^{-5}}$ を入れると $\mathbf{20.492653}$ 秒角が出る。独立に知られた光行差定数 $20.49552$ 秒角と比 $\mathbf{0.999860}$ で合う(第2節)。
第三に、同じ数を入れれば同じ角が出る。$\beta$ が艇速と風速の比であっても地球と光の速さの比であっても、関数は区別しない(第2節)。
第四に、これが本稿の芯である。二つの式が分かれるのは、速度の合成の規則が変わるところである。地球の $\beta$ ではガリレイと相対論の差は $\mathbf{4.905\times10^{-13}}$ ラジアン($\mathbf{0.000000}$ 秒角)で測れないが、$\beta=0.5$ では $\mathbf{3.4349}$ 度になる(第3節)。
第五に、ブラッドリーの観測は分離子に届いていない。$\beta$ が $10^{-4}$ の桁である限り、どれだけ精密に測っても合成の規則は判定できない(第3節)。
第六に、分離子は速度の合成である。同じ関数の形のまま、ガリレイならそのまま、ローレンツなら $\gamma$ が入る(第4節)。
キーワード:光行差、見かけの風、帆走、速度の合成、特殊相対論。
射程(何を示さないか)
新しい定理も法則も主張しない。光行差も、見かけの風も、相対論的な速度の合成も標準的である。帆走の性能を論じない。揚力係数も抗力も極図も扱わない。角と速さの幾何だけを見る。光行差の全項を扱わない。年周光行差だけを見る。日周光行差、永年光行差、視差との分離には立ち入らない。エーテルの歴史を裁定しない。ブラッドリーが何を信じていたかではなく、彼の測定が届く精度だけを問題にする。媒質中の光を扱わない。フィゾーの実験や引きずり係数は別の主題である。「同じ現象」とは書かない。共有しているのは関数の形であって、風と光が同じものだとは言わない。既刊との関係:論文390 は速くなるほど風が強くなるので帆走艇が風より速く走れると示した。その式が光行差と同じであることは書かれていない。本稿がその辺を足す。論文328 は同じ楕円が三ヶ月ずれていたことが原因の違いの証拠になったと示し、そこで光行差を扱った。あちらは光行差と視差を分けた。本稿は光行差と見かけの風を繋ぐ。論文83 はガリレイの相対性原理だけから相対論が二つしかないと示した。本稿の分離子はその二つのどちらを選ぶかであり、$\beta=0.5$ で $3.4349$ 度として現れる。論文300 は同根か別根かが判定できると示した。本稿は「恒等性を保つ対応」の基準で同根と判定する。論文481 は「法則が破れた」がどの仮定へも落とせると示した。光行差の測定が合わないとき、速度が違うのか合成の規則が違うのかは、$\beta$ が小さいうちは決まらない。加えたのは、二つの現象を同じ関数の別の引数として書いたこと、地球の公転速度から光行差定数を独立に組み立てて $20.492653$ 秒角を得たこと、ガリレイと相対論の差を $\beta$ ごとに測って $\beta=0.5$ で $3.4349$ 度と出したこと、その差が地球の $\beta$ では $\mathbf{4.905\times10^{-13}}$ ラジアンで測れないことを示したこと、分離子を速度の合成に置いたことである。
1. 記法と問い
設定:速さ $V$ で来るものを、速さ $v$ で動きながら受ける。真の方向を $\theta$ とすると、見かけの方向 $\theta'$ は
$$\tan\theta'=\frac{\sin\theta}{\cos\theta+\beta},\qquad \beta=\frac{v}{V}$$
である。$V$ が風速なら見かけの風、$V$ が光速なら光行差になる。
観察 1.1 式の中に「風」も「光」も入っていない。入っているのは比 $\beta$ だけ、関数は、何の速さの比かを区別しない。
観察 1.2 だが導出の前提は共有されている。どちらもガリレイの速度の合成、つまり単純なベクトルの引き算を使う。論文83 の言い方でいえば、二つある相対論のうち片方を選んでいる。
問い:同じ式なら、どこで分かれるのか。
2. 同じ関数に、別の引数
計算 2.1:真の風 $15$ ノットを正横から受けながら、艇速 $8$ ノットで走る。$\beta=8/15=\mathbf{0.533333}$ を式に入れる。
| 量 | 値 |
|---|---|
| $\beta$(艇速と風速の比) | $\mathbf{0.533333}$ |
| 見かけの風の向き | $\mathbf{1.080839}$ ラジアン $=\mathbf{61.9275}$ 度 |
| 見かけの風の速さ | $\mathbf{17.000000}$ ノット |
| ベクトルで直に組んだ角との差 | $\mathbf{0.00\times10^{0}}$ |
観察 2.2 風は速くなっている。$15$ ノットが $\mathbf{17.000000}$ ノット、論文390 が「速くなるほど風が強くなる」と書いた事情がこれである。
観察 2.3 式とベクトルの独立な組み立てが一致する。差は $\mathbf{0.00\times10^{0}}$、$\arctan$ の式を信用せず、真の風の速度から艇の速度を引いて角を直に測っても、同じ数が出る。
計算 2.4:同じ式に、地球の公転から組み立てた $\beta$ を入れる。軌道長半径 $1.495978707\times10^{11}$ メートルと恒星年 $365.256363004$ 日から速さを出した。
| 量 | 値 |
|---|---|
| 地球の公転速度 | $\mathbf{29784.7355}$ メートル毎秒 |
| $\beta$(公転速度と光速の比) | $\mathbf{9.935118\times10^{-5}}$ |
| 式が返す角 | $\mathbf{20.492653}$ 秒角 |
| 独立に知られた光行差定数 | $20.49552$ 秒角 |
| 比 | $\mathbf{0.999860}$ |
観察 2.5 これは検査である。光行差定数は本稿の計算とは無関係に観測から決まっている。$\mathbf{0.014}$ パーセントで合ったことは、式と入力の両方が正しいことの証拠になる。合わなければ落ちる形の検査である。
観察 2.6 同じ数を入れれば同じ角が出る。$\beta=\mathbf{0.533333}$ を「艇速と風速の比」として入れても「何かの速さの比」として入れても、返る角は $\mathbf{1.0808390005}$ ラジアンで $12$ 桁一致する。同じ関数である、とはこの意味である。
観察 2.7 論文300 の第二基準を満たす。片方の設定からもう片方へ移す対応が、$\beta$ の読み替え一つで書ける。数値が偶然一致しているのではない。
3. 分かれるところ
計算 3.1:$\theta=90$ 度に固定し、ガリレイの式と相対論的光行差 $\cos\theta'=(\cos\theta+\beta)/(1+\beta\cos\theta)$ を $\beta$ ごとに比べる。
| $\beta$ | ガリレイ(ラジアン) | 相対論(ラジアン) | 差(ラジアン) |
|---|---|---|---|
| $\mathbf{9.935118\times10^{-5}}$ | $1.570696976$ | $1.570696976$ | $\mathbf{4.905\times10^{-13}}$ |
| $10^{-3}$ | $1.569796327$ | $1.569796327$ | $5.000\times10^{-10}$ |
| $0.1$ | $1.471127674$ | $1.470628906$ | $4.988\times10^{-4}$ |
| $0.5$ | $1.107148718$ | $1.047197551$ | $\mathbf{5.995\times10^{-2}}$ |
| $0.9$ | $0.837981225$ | $0.451026812$ | $3.870\times10^{-1}$ |
観察 3.2 これが本稿の芯である。地球の $\beta$ では差が $\mathbf{4.905\times10^{-13}}$ ラジアン、秒角に直すと $\mathbf{0.000000}$ 秒角、測れない。$\beta=0.5$ では $\mathbf{3.4349}$ 度になる。
観察 3.3 差は $\beta^{2}$ の桁で入る。$\beta$ を $10$ 倍すると差はおよそ $10^{3}$ 倍になっている($10^{-3}$ で $5.000\times10^{-10}$、$0.1$ で $4.988\times10^{-4}$)、$\beta$ が小さい領域では、精度をいくら上げても $\beta^{2}$ の壁が先に来る。
観察 3.4 だからブラッドリーの観測は分離子に届いていない。光行差の存在は $\beta$ の一次で決まり、合成の規則は二次で決まる。一次を精密に測っても二次は見えない。同じ実験の精度を上げるのではなく、$\beta$ の大きい系に行くしかない。
観察 3.5 見かけの風の側では、この差は原理的に見えない。艇速と風速の比は大きくできるが、それは $v/V$ が大きいだけで $v/c$ は小さいままである。同じ $\beta=0.5$ でも、意味が違う。ローレンツ変換が効くのは $v/c$ のほうである。
観察 3.6 ここが柵である。関数が同じであることは、物理が同じであることを意味しない。$\beta=0.5$ の帆走艇(風速の半分で走る艇)は普通にあるが、そこに $\gamma$ は入らない。
4. 分離子
観察 4.1 分離子は速度の合成である。関数の形を変えずに合成の規則だけを取り替えると、$\beta=0.5$ で $\mathbf{3.4349}$ 度の差が出る。逆に $\beta$ を小さくすると、どちらの規則でも同じ答になる。
観察 4.2 論文83 の二択がそのまま分離子である。ガリレイの相対性原理だけからは相対論が二つ出る。光行差の測定は、その二つのどちらかを選ぶ材料には、いまのところなっていない。
観察 4.3 論文481 の言い方でいえば、行き先が二つある。光行差が予想と合わないとき、地球の速度が違うのか、合成の規則が違うのか、$\beta$ が $10^{-4}$ の桁である限り、後者は候補にならない。差が $10^{-13}$ ラジアンだからである。
観察 4.4 同根と呼べる範囲には柵がある。同根なのは $\beta$ が小さいときの式であって、$\beta$ が大きい領域では別物になる。同根か別根かは、どの範囲を見るかに依る。範囲を書かない同根判定は不完全である。
観察 4.5 言わないこと。帆走の性能も、媒質中の光も、日周光行差も扱わない。見ているのは角と速さの幾何だけである。
5. 点呼と結び
- $\beta=\mathbf{0.533333}$ で見かけの風は $\mathbf{61.9275}$ 度(計算 2.1):同じ式。
- $15$ ノットが $\mathbf{17.000000}$ ノット(観察 2.2):風は速くなる。
- ベクトルとの差 $\mathbf{0.00\times10^{0}}$(観察 2.3):独立な組み立てと一致。
- 地球の公転速度 $\mathbf{29784.7355}$ メートル毎秒(計算 2.4):軌道要素から組んだ。
- 式が返す角 $\mathbf{20.492653}$ 秒角(計算 2.4):観測値と比 $\mathbf{0.999860}$。
- 同じ数で $12$ 桁一致(観察 2.6):関数は引数の出所を見ない。
- 地球の $\beta$ で差は $\mathbf{4.905\times10^{-13}}$ ラジアン(計算 3.1):本稿の芯。
- $\beta=0.5$ で差は $\mathbf{3.4349}$ 度(観察 3.2):境目の反対側。
- 差は $\beta^{2}$ の桁(観察 3.3):精度では越えられない。
- 帆の側では $\gamma$ が効かない(観察 3.5):$v/V$ と $v/c$ は別。
- 分離子は速度の合成(観察 4.1):関数の形ではない。
結び:帆走艇の見かけの風と、星の光行差は、別々の話として教えられる。同じ一つの関数である。$\tan\theta'=\sin\theta/(\cos\theta+\beta)$ に艇速と風速の比 $\mathbf{0.533333}$ を入れると、見かけの風は $\mathbf{1.080839}$ ラジアン、$\mathbf{61.9275}$ 度で、真の風 $15$ ノットが $\mathbf{17.000000}$ ノットに増える。$\arctan$ の式を使わず、真の風の速度から艇の速度を直に引いて角を測っても差は $\mathbf{0.00\times10^{0}}$ で、独立な組み立てが一致する。同じ式に地球の公転から組み立てた $\beta=\mathbf{9.935118\times10^{-5}}$ を入れると $\mathbf{20.492653}$ 秒角が出て、独立に知られた光行差定数 $20.49552$ 秒角と比 $\mathbf{0.999860}$ で合う。同じ数を入れれば同じ角が $12$ 桁一致で返る。関数は、引数が艇速と風速の比なのか光速との比なのかを見ていない。分かれるのは速度の合成の規則である。$\theta=90$ 度でガリレイと相対論を比べると、地球の $\beta$ では差が $\mathbf{4.905\times10^{-13}}$ ラジアン、秒角にして $\mathbf{0.000000}$ 秒角で、測れない。$\beta=0.5$ では $\mathbf{5.995\times10^{-2}}$ ラジアン、$\mathbf{3.4349}$ 度になり、$\beta=0.9$ では $3.870\times10^{-1}$ ラジアンまで開く。差は $\beta$ の二次で入るので、$\beta$ を $10$ 倍すると差はおよそ $10^{3}$ 倍になる。だから光行差の測定をどれだけ精密にしても、合成の規則は判定できない。光行差の存在は一次で決まり、規則の違いは二次に隠れているからである。柵もある。帆の側では $\beta$ をいくら大きくしても $\gamma$ は入らない。$v/V$ が大きいことと $v/c$ が大きいことは別だからで、風速の半分で走る艇は普通にある。関数が同じであることは、物理が同じであることを意味しない。同根と呼べるのも $\beta$ が小さい範囲の式についてであって、範囲を書かない同根判定は不完全である。分離子は速度の合成である。論文83 の言う二つの相対論のどちらを選ぶかがそれで、選択の差は $\beta=0.5$ で $\mathbf{3.4349}$ 度として現れる。論文481 の言い方でいえば、光行差が予想と合わないときの行き先は二つあるが、$\beta$ が $10^{-4}$ の桁である限り、合成の規則は候補にならない。差が $10^{-13}$ ラジアンだからである。論文390 が「速くなるほど風が強くなる」と書いた式と、論文328 が扱った光行差は、この一本の関数を共有している。正直に言えば、扱ったのは角と速さの幾何だけである。帆走の性能も、揚力も抗力も極図も扱っていない。光行差も年周のものだけを見ており、日周光行差、永年光行差、視差との分離には立ち入っていない。媒質中の光も、引きずり係数も別の主題である。エーテルをめぐる歴史も裁定していない。言えるのは、二つの現象が同じ関数の別の引数であり、分かれるのは速度の合成の規則が変わるところであって、その差は地球では $\mathbf{4.905\times10^{-13}}$ ラジアン、$\beta=0.5$ では $\mathbf{3.4349}$ 度になる、そこまでである。
参考文献
- Bradley, J. (1728). A Letter Giving an Account of a New Discovered Motion of the Fix’d Stars. Philosophical Transactions of the Royal Society of London.
- Einstein, A. (1905). Zur Elektrodynamik bewegter Korper. Annalen der Physik.
- Marion, P. (2013). The Physics of Sailing. Physics Today.
- Rindler, W. (2006). Relativity: Special, General, and Cosmological (2nd ed.). Oxford University Press.
- 山岸勇輝 (2026). 『なぜ「最高速度」が存在するのか』[論文83]. Zenodo. 10.5281/zenodo.21741190
- 山岸勇輝 (2026). 『三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
- 山岸勇輝 (2026). 『同じ楕円が三ヶ月ずれていたことが、原因が別だという証拠になった』[論文328]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22210340
- 山岸勇輝 (2026). 『速くなるほど風が強くなる。だから帆走艇は風より速く走れる』[論文390]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22699203
- 山岸勇輝 (2026). 『「法則が破れた」は、どの仮定へも落とせる』[論文481]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22733927
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「帆に当たる風と、星の見かけの位置は、同じ一つの式である」[論文524]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22805190
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引用するとき
山岸勇輝 (2026). 帆に当たる風と、星の見かけの位置は、同じ一つの式である [論文524]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/524 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22805190
Yamagishi, Y. (2026). The Wind on a Sail and the Apparent Place of a Star Are One and the Same Formula [Paper 524]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/524; DOI: 10.5281/zenodo.22805190
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