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【論文525】同じ「証明できない」が、対角線から来るものと、増え方から来るものに分かれる

要旨

「ペアノ算術で証明できない」という同じ一言が、ゲーデルの文にもグッドスタインの定理にも使われている。本稿が示すのは、二つが別の根から来ており、片方は自己言及から、もう片方は増え方の速さから来ることである。新しい定理も法則も主張しない。

第一に、$R(3,3)=6$ は総当たりで決まる。$K_{5}$ には単色三角形を持たない塗りが在り、$K_{6}$ には $\mathbf{32768}$ 通りのどれにも無い(第2節)。

第二に、同じ有限の問いでも $R(5,5)$ には届かない。総当たりは $2^{\mathbf{903}}$ 通りで、有限であることと計算できることは別である(第2節)。

第三に、グッドスタイン数列は $n=3$ なら $\mathbf{3,3,3,2,1,0}$ の $\mathbf{6}$ 項で終わる。手数にすると $\mathbf{5}$ 手であり、この場で確かめられる(第3節)。

第四に、これが本稿の芯である。$n=4$ では整数が増え続けるのに、順序数は毎手小さくなっている。数列は $\mathbf{4,26,41,60,83,109,139,173,211,253,299,348}$ と単調に増えるが、底を上げる前に読んだ順序数は一手ごとに厳密に減る(第3節)。

第五に、終わることは分かるのに、いつ終わるかは有限の道具で言えない。$n=4$ が $0$ に着くのは $3\cdot2^{402653211}-2$ 手後である(第3節)。

第六に、分離子は「何が減っているか」である。ゲーデルの文は対角線を要り、グッドスタインは $\varepsilon_{0}$ までの順序数を要る(第4節)。

キーワード:不完全性定理、パリス=ハリントンの定理、グッドスタインの定理、ペアノ算術、ラムゼー理論。

射程(何を示さないか)

新しい定理も法則も主張しない。ゲーデルの不完全性定理も、パリス=ハリントンの定理も、カービー=パリスのグッドスタイン定理も標準的である。不完全性定理を証明しない。本稿がするのは、既に証明されている二つの独立性の由来を並べることだけである。「自己言及なしの最初の例」とは断定しない。しばしばそう呼ばれるが、何を最初と数えるかは定義に依る。順序数解析に立ち入らない。$\varepsilon_{0}$ が証明論的順序数であることは使うが、その決定の議論には入らない。数学基礎論の立場を選ばない。形式主義と実在論のどちらが正しいかは主題ではない。計算量の分類を主張しない。$2^{903}$ を「解けない」とは書かない。総当たりが届かない、とだけ書く。既刊との関係:論文189 は「証明できない」が文の性質ではないと示した。本稿はその続きで、同じ「証明できない」に二つの由来があることを示す。論文259 は独立性を示す道が二つあり、一方が世界を狭め他方が広げると示した。あちらは示し方の二つ、本稿は示される文の二つである。論文302 は「必ず現れる」がいつ現れるかを教えないと示した。本稿の $R(5,5)$ の $2^{903}$ が、その「教えない」の具体的な大きさである。論文300 は同根か別根かが判定できると示した。二つの独立性は「道筋」の基準で別根である。加えたのは、$R(3,3)=6$ を総当たりで実際に確かめたこと、$R(5,5)$ の総当たりの大きさを $2^{903}$ と数えたこと、グッドスタイン数列を実際に走らせて $n=3$ の $6$ 項と $n=4$ の増加を出したこと、整数が増えるあいだ順序数が毎手減っていることを機械で確かめたこと、分離子を「何が減っているか」に置いたことである。

1. 記法と問い

設定:ラムゼーの定理は、十分大きな完全グラフを二色で塗れば単色の部分完全グラフが必ず現れると言う。その最小の大きさが $R(s,t)$ である。

グッドスタイン数列:$n$ を底 $2$ の遺伝的記法で書き、底を $3$ に上げて $1$ 引く。次は底 $3$ を $4$ に上げて $1$ 引く。これを繰り返す。

観察 1.1 どちらも有限の対象についての命題である。無限集合も、実数も、自己言及も出てこない。それなのに、強めた版はペアノ算術で証明できない。

観察 1.2 ゲーデルの文とは、様子が違う。ゲーデルの文は「私は証明できない」と自分について語る。グッドスタインの定理は数列について語るだけで、証明にも算術にも言及しない。

問い:同じ「証明できない」なのか。

2. ラムゼー数は総当たりで決まる

計算 2.1:$K_{5}$ と $K_{6}$ の二色塗りをすべて調べ、単色三角形を持たない塗りが在るかを見た。

グラフ 調べた塗り 単色三角形の無い塗り
$K_{5}$ $2^{10}=1024$ 通り 在る
$K_{6}$ $2^{15}=\mathbf{32768}$ 通り 無い

観察 2.2 $R(3,3)=6$ が、この場で決まった。存在の証明ではなく、値そのものが、有限の対象についての命題は、原理的には総当たりで決まる。

観察 2.3 両側を見たことが効いている。$K_{5}$ で逃げられ、$K_{6}$ で逃げられない。片側だけなら「まだ見つかっていない」と区別がつかない。

計算 2.4:同じ手続きを $R(5,5)$ に使うとどうなるか。$R(5,5)\le43$ が知られているので、$43$ 頂点の完全グラフの辺は $\binom{43}{2}=903$ 本、塗りは $2^{\mathbf{903}}$ 通りである。

観察 2.5 有限であることと、計算できることは別である。$2^{903}$ は有限だが、宇宙のどんな計算機にも届かない。論文302 が「必ず現れるは、いつ現れるかを教えない」と書いた事情に、$903$ という数が付いた。

観察 2.6 ここまでに証明不能性は出てこない。どれも「大きすぎて調べられない」だけである。パリス=ハリントンが加えたのは「相対的に大きい」という条件一つで、それだけで話が変わる。

3. グッドスタイン、整数が増え、順序数が減る

計算 3.1:$n=3$ から数列を走らせた。

量 値
数列 $\mathbf{3,\;3,\;3,\;2,\;1,\;0}$
項の数 $\mathbf{6}$
手数 $\mathbf{5}$

観察 3.2 小さい種なら、終わりが目で見える。$6$ 項で $0$ に着く。定理を信じる必要がない。走らせれば済む。

計算 3.3:$n=4$ から走らせ、最初の $12$ 項を並べた。

$\mathbf{4,\;26,\;41,\;60,\;83,\;109,\;139,\;173,\;211,\;253,\;299,\;348}$

観察 3.4 単調に増えている。$12$ 項のあいだ、一度も下がらない。目で見えるのは増加だけで、終わる気配は無い。

計算 3.5:同じ数列を、底を上げる前の遺伝的記法として読み、それを順序数として比べた。底の役を $\omega$ に置き換えて比較すると、$12$ 項のあいだ一手も欠かさず厳密に小さくなっている。

観察 3.6 これが本稿の芯である。同じ一手で、整数は増え、順序数は減る。向きが逆の量が二つある。減っているほうを見れば停止が分かり、増えているほうを見ていると分からない。

観察 3.7 終わることと、いつ終わるかは別である。$n=4$ が $0$ に着くのは $3\cdot2^{402653211}-2$ 手後である。停止は証明できるのに、停止までの長さは有限の道具で書けない。

観察 3.8 ペアノ算術に足りないのは、この順序数である。$\varepsilon_{0}$ までの超限帰納法があれば停止が言えるが、ペアノ算術はそれを持たない。足りないのは論理の強さではなく、下降列が止まることを保証する順序数の高さである。

4. 二つの「証明できない」

観察 4.1 分離子は、何が減っているかである。ゲーデルの文が証明できないのは、自分を指す文が作れるからである。グッドスタインが証明できないのは、増え方が体系の順序数を超えるからである。

観察 4.2 論文300 の「道筋」の基準で別根である。片方は対角線論法、もう片方は順序数解析、同じ「ペアノ算術で証明できない」という結論に至るが、至る道が共有されていない。

観察 4.3 見分けるしるしがある。増大率から来る独立性は、命題を弱めると消える。パリス=ハリントンから「相対的に大きい」を外せば普通のラムゼーの定理になり、ペアノ算術で証明できる。ゲーデルの文は弱めようがない。

観察 4.4 論文189 の続きである。あちらは「証明できない」が文だけの性質ではなく、体系との対で決まると示した。本稿はさらに、同じ対に対しても由来が二つあることを示す。

観察 4.5 論文259 とは向きが違う。あちらは独立性を示す二つの方法(狭めると広げる)を分けた。本稿は示される文の側を二つに分ける。方法の分類と対象の分類は別である。

観察 4.6 言わないこと。「自己言及なしの最初の例」とは断定しない。しばしばそう呼ばれるが、何を最初と数えるかは定義に依る。

5. 点呼と結び

  1. $K_{5}$ には逃げ道が在る(計算 2.1):$1024$ 通りを調べた。
  2. $K_{6}$ には $\mathbf{32768}$ 通りのどれにも無い(計算 2.1):よって $R(3,3)=6$。
  3. $R(5,5)$ の総当たりは $2^{\mathbf{903}}$ 通り(計算 2.4):有限でも届かない。
  4. $n=3$ は $\mathbf{3,3,3,2,1,0}$(計算 3.1):$6$ 項・$5$ 手。
  5. $n=4$ は $\mathbf{4,26,41,\dots,348}$(計算 3.3):単調に増える。
  6. 順序数は毎手厳密に減る(計算 3.5):本稿の芯。
  7. $n=4$ の停止は $3\cdot2^{402653211}-2$ 手後(観察 3.7):停止と長さは別。
  8. 足りないのは $\varepsilon_{0}$ までの超限帰納法(観察 3.8):論理の強さではない。
  9. 弱めると消える独立性がある(観察 4.3):見分けるしるし。
  10. 分離子は何が減っているか(観察 4.1):対角線か、順序数か。
  11. 「最初の例」とは断定しない(観察 4.6):定義に依る。

結び:「ペアノ算術で証明できない」という同じ一言が、ゲーデルの文にもグッドスタインの定理にも使われている。有限の対象なら、原理的には総当たりで決まる。$K_{5}$ の $1024$ 通りには単色三角形を持たない塗りが在り、$K_{6}$ の $\mathbf{32768}$ 通りには無い。だから $R(3,3)=6$ が、存在の証明ではなく値として、この場で決まる。両側を見たことが効いている。片側だけなら「まだ見つかっていない」と区別がつかない。同じ手続きを $R(5,5)$ に向けると総当たりは $2^{\mathbf{903}}$ 通りで、有限であることと計算できることは別だと分かる。論文302 の「いつ現れるかを教えない」に、$903$ という数が付いた。グッドスタインでは、同じ一手で二つの量が逆に動く。$n=3$ なら数列は $\mathbf{3,3,3,2,1,0}$ の $\mathbf{6}$ 項、$\mathbf{5}$ 手で終わり、定理を信じなくても走らせれば見える。$n=4$ では $\mathbf{4,26,41,60,83,109,139,173,211,253,299,348}$ と $12$ 項のあいだ一度も下がらず、終わる気配が目には見えない。ところが底を上げる前の遺伝的記法を順序数として読むと、同じ $12$ 手のあいだ一手も欠かさず厳密に小さくなっている。増えている量と減っている量が同時にある。停止は証明できるのに、$n=4$ が $0$ に着くのは $3\cdot2^{402653211}-2$ 手後で、停止までの長さは有限の道具で書けない。分離子は、何が減っているかである。ゲーデルの文が証明できないのは自分を指す文が作れるからで、グッドスタインが証明できないのは増え方が体系の順序数を超えるからである。ペアノ算術に足りないのは論理の強さではなく、$\varepsilon_{0}$ までの超限帰納法である。見分けるしるしもある。増大率から来る独立性は命題を弱めると消え、パリス=ハリントンから「相対的に大きい」を外せば普通のラムゼーの定理になって証明できる。ゲーデルの文は弱めようがない。論文300 の「道筋」の基準でいえば、対角線論法と順序数解析は共有されていない道であり、結論が同じでも別根である。論文189 は「証明できない」が体系との対で決まると示した。本稿はさらに、同じ対に対しても由来が二つあると示す。正直に言えば、不完全性定理も独立性も証明していない。既に証明されている二つの由来を並べただけである。順序数解析には立ち入らず、$\varepsilon_{0}$ が証明論的順序数であることを使っただけで、その決定の議論には入っていない。「自己言及なしの最初の例」とも断定しない。何を最初と数えるかは定義に依るからである。$2^{903}$ を「解けない」とも書かない。総当たりが届かない、とだけ書いた。言えるのは、同じ「証明できない」に二つの根があり、片方は弱めると消え、もう片方は消えない、そこまでである。

参考文献

  1. Goodstein, R. L. (1944). On the Restricted Ordinal Theorem. Journal of Symbolic Logic.
  2. Kirby, L., & Paris, J. (1982). Accessible Independence Results for Peano Arithmetic. Bulletin of the London Mathematical Society.
  3. Paris, J., & Harrington, L. (1977). A Mathematical Incompleteness in Peano Arithmetic. In J. Barwise (Ed.), Handbook of Mathematical Logic. North-Holland.
  4. Radziszowski, S. P. (2021). Small Ramsey Numbers. Electronic Journal of Combinatorics, Dynamic Survey DS1.
  5. Ramsey, F. P. (1930). On a Problem of Formal Logic. Proceedings of the London Mathematical Society.
  6. 山岸勇輝 (2026). 『「証明できない」は、文の性質ではない』[論文189]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22105830
  7. 山岸勇輝 (2026). 『独立性を示す道は二つあり、一方は世界を狭め、他方は広げる』[論文259]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22169162
  8. 山岸勇輝 (2026). 『三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
  9. 山岸勇輝 (2026). 『「必ず現れる」は、いつ現れるかを教えない』[論文302]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171988

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「同じ「証明できない」が、対角線から来るものと、増え方から来るものに分かれる」[論文525]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22867611

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引用するとき

山岸勇輝 (2026). 同じ「証明できない」が、対角線から来るものと、増え方から来るものに分かれる [論文525]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/525 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22867611

Yamagishi, Y. (2026). The Same ``Unprovable'' Splits into One from Diagonalisation and One from Growth [Paper 525]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/525; DOI: 10.5281/zenodo.22867611

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