要旨
電波の見通しを計算するとき、地球の半径を $4/3$ 倍にしてから直線を引く。本稿が示すのは、この $4/3$ が測った値ではなく規約であり、しかも光学と電波で規約が二つあって、同じ大気に対して $\mathbf{1.077033}$ 倍違う距離を返すことである。新しい定理も法則も主張しない。
第一に、標準大気の勾配から出る係数は $4/3$ ではない。毎キロメートル $39$ $N$ 単位から出るのは $\mathbf{1.330617}$ で、$4/3=\mathbf{1.333333}$ とは $\mathbf{0.2041}$ パーセント違う(第2節)。
第二に、厳密に $4/3$ にするには、勾配のほうを決め打つしかない。逆算すると $\mathbf{3.924031\times10^{-8}}$ 毎メートル、すなわち毎キロメートル $\mathbf{39.2403}$ $N$ 単位である(第2節)。
第三に、これが本稿の芯である。同じ大気に対して規約が二つある。光学は屈折係数 $0.13$ から $k=\mathbf{1.1494253}$、電波は $k=4/3$ を使い、見通し距離の伸びは $\mathbf{1.072113}$ 倍と $\mathbf{1.154701}$ 倍になる(第3節)。
第四に、二つの規約は $\mathbf{1.077033}$ 倍ずれる。高さ $10$ メートルなら、屈折なしで $\mathbf{11288.0}$ メートル、光学で $\mathbf{12102.1}$ メートル、電波で $\mathbf{13034.3}$ メートルである(第3節)。
第五に、この操作は角を保つ、対数の写像で交角の変化は $\mathbf{3.00\times10^{-7}}$ ラジアンにとどまるのに、長さの比は $\mathbf{0.447214}$ になる。等角だが等長ではない(第4節)。
第六に、分離子は「どの規約を採ったか」である。屈折が違うのではなく、屈折を半径に畳む約束が違う(第5節)。
キーワード:等価地球半径、4/3 地球半径、電波の屈折、地上屈折係数、見通し距離。
射程(何を示さないか)
新しい定理も法則も主張しない。等価地球半径も、地上屈折係数も、平面地球変換も標準的である。大気の模型を新しく作らない。標準大気の勾配を一つ置いて計算するだけで、実際の大気の変動は扱わない。どちらの規約が正しいかを判定しない。光学と電波で値が違うのは波長が違うからで、どちらかが誤りなのではない。ダクトを扱わない。勾配が強くて $k$ が負になる場合(電波が地表に捕まる場合)は本稿の枠の外である。回折を扱わない。見通しの先へ電波が回り込む分は主題ではない。幾何の見通しだけを見る。測量の実務を述べない。屈折係数をどう現場で決めるかには立ち入らない。既刊との関係:論文349 は蜃気楼に要るのが気温の上がる勾配だと示した。あちらは勾配そのものを見た。本稿はその勾配を半径に畳む操作を見る。論文404 は水平線が見える距離の限界ではないと示した。本稿はその限界がどの規約でいくらになるかを数で出す。論文395 は音が遠くまで届くのは直進しないからだと示した。音線と電波の線は同じ屈折の幾何で、畳み方も同じである。論文95 は規約と事実を分けた。$4/3$ はその意味で規約であり、標準大気から出る $1.330617$ が事実の側である。論文409 は歪まない地図が存在しないと示した。本稿の変換も等角であって等長ではなく、同じ選択が現れる。加えたのは、標準大気から係数を組み立てて $1.330617$ を出したこと、$4/3$ を厳密にする勾配を逆算したこと、光学と電波の規約を並べて距離の比 $1.077033$ を出したこと、高さ $10$ メートルの見通しを三通りで出したこと、変換が等角で等長でないことを数値で確かめたことである。
1. 記法と問い
設定:大気の屈折率は高さとともに下がるので、光も電波も下向きに曲がる。曲がる線を扱うかわりに、地球の半径を $k$ 倍して線を直線にするのが等価地球半径の方法である。
$$k=\frac{1}{1+a\,\dfrac{dn}{dh}}$$
ここで $a$ は地球の半径、$dn/dh$ は屈折率の高さ勾配である。
観察 1.1 $k$ は測る量ではなく、勾配から作る量である。勾配が動けば $k$ も動く。「$k=4/3$」は、ある勾配を選んだという宣言である。
観察 1.2 光学と電波で勾配が違う。電波は水蒸気の寄与を強く受け、可視光はほとんど受けない。同じ大気でも屈折の量が違う。だから規約も二つになる。
問い:$4/3$ はどちらなのか。事実か、規約か。
2. $4/3$ は標準大気から出ない
計算 2.1:標準大気でよく使われる勾配、毎キロメートル $39$ $N$ 単位($3.9\times10^{-8}$ 毎メートル)から $k$ を出す。
| 量 | 値 |
|---|---|
| 標準大気の勾配 | $3.9000\times10^{-8}$ 毎メートル |
| そこから出る $k$ | $\mathbf{1.330617}$ |
| 規約の $k=4/3$ | $\mathbf{1.333333}$ |
| ずれ | $\mathbf{0.2041}$ パーセント |
| $k$ を厳密に $4/3$ にする勾配 | $\mathbf{3.924031\times10^{-8}}$ 毎メートル |
観察 2.2 $4/3$ は丸めた数である。標準大気から出るのは $\mathbf{1.330617}$、$4/3$ を使うということは、勾配のほうを毎キロメートル $\mathbf{39.2403}$ $N$ 単位に決め打つことに等しい。
観察 2.3 逆算が検査になっている。出した勾配を式に戻すと $k$ が $4/3$ に戻る($10^{-9}$ 以内)、解き損ないではないことを別に確かめた。
観察 2.4 ずれは小さいが零ではない。$\mathbf{0.2041}$ パーセント、実務では無視できる大きさである。だからこそ規約として定着した。しかし「大気がそうなっている」のではない。
観察 2.5 論文95 の言い方でいえば、これは規約の側である。事実の側にあるのは勾配で、$4/3$ は勾配を丸めて作った約束である。規約は便利であってよいが、事実として引用してはならない。
3. 規約が二つある
計算 3.1:光学の地上屈折係数 $0.13$ と、電波の $k=4/3$ を並べる。見通し距離は $\sqrt{k}$ に比例する。
| 規約 | $k$ | $\sqrt{k}$(見通し距離の伸び) |
|---|---|---|
| 屈折なし(幾何) | $1.000000$ | $1.000000$ |
| 光学 | $\mathbf{1.1494253}$ | $\mathbf{1.072113}$ |
| 電波 | $\mathbf{1.3333333}$ | $\mathbf{1.154701}$ |
観察 3.2 これが本稿の芯である。二つの規約の距離の比は $\mathbf{1.077033}$、同じ地点、同じ大気について、光学の教科書と電波の教科書が $\mathbf{7.7}$ パーセント違う見通し距離を返す。
観察 3.3 $\mathbf{1.154701}$ は厳密な数である。$\sqrt{4/3}$ そのもの、規約を採った瞬間に、伸びの値も規約になる。
計算 3.4:高さ $10$ メートルの目からの見通し距離を三通りで出す。
| 規約 | 距離(メートル) |
|---|---|
| 屈折なし | $\mathbf{11288.0}$ |
| 光学 | $\mathbf{12102.1}$ |
| 電波 | $\mathbf{13034.3}$ |
観察 3.5 差は $1.7$ キロメートルある。光学と電波で $\mathbf{932.2}$ メートル、屈折なしと電波の差は $\mathbf{1746.3}$ メートルで、目に見える大きさである。
観察 3.6 論文404 の続きである。あちらは水平線が見える距離の限界ではないと示した。本稿はその限界がどの規約でいくらになるかを出した。限界そのものが規約に依っている。
4. 畳む操作は角を保つ
計算 4.1:屈折率の勾配を曲率に押し込む操作は、半径方向に対数を取る写像に対応する。この写像で交角がどれだけ変わるかを数値で測った。
| 量 | 値 |
|---|---|
| 写像の前の交角 | $1.570796327$ ラジアン |
| 写像の後の交角 | $1.570796027$ ラジアン |
| 差 | $\mathbf{3.00\times10^{-7}}$ ラジアン |
| 長さの比 | $\mathbf{0.447214}$ |
観察 4.2 角は保たれ、長さは保たれない。差 $\mathbf{3.00\times10^{-7}}$ ラジアンに対し、長さは $\mathbf{0.447214}$ 倍、等角写像であって、等長写像ではない。
観察 4.3 だからこの方法は角の問題に使えて、長さの問題には注意が要る。仰角や入射角はそのまま読める。距離は $\sqrt{k}$ の分だけ読み替えなければならない。
観察 4.4 論文409 と同じ選択である。あちらは歪まない地図が存在しないと示した。等角を取るか等長を取るかという同じ二択が、ここでも現れる。等価地球半径は等角のほうを取った。
5. 分離子
観察 5.1 分離子は、どの規約を採ったかである。屈折そのものが違うのではない。屈折を半径に畳む約束が違い、その違いが距離の $\mathbf{1.077033}$ 倍として出る。
観察 5.2 見分ける方法がある。規約なら、変えても物理の予測が変わらないように別の量が付いてくる。$k$ を変えれば見通し距離が変わるが、それは同じ大気の記述を別の座標で書いているのではなく、別の勾配を仮定していることになる。ここでは規約と仮定が結び付いている。
観察 5.3 そこが $4/3$ の厄介なところである。規約として便利なので、勾配についての仮定であることが見えにくい。$\mathbf{0.2041}$ パーセントの丸めが、そのまま「大気はこうである」と読まれてしまう。
観察 5.4 論文349 とは向きが逆である。あちらは勾配の符号が逆になる場合(気温が上がる場合)を見た。本稿は勾配が標準のときに、それをどう畳むかを見た。同じ勾配についての二つの扱い方である。
観察 5.5 言わないこと。ダクトも回折も扱わない。勾配が強くて $k$ が負になる場合は枠の外であり、見通しの先へ回り込む分も見ていない。
6. 点呼と結び
- 標準大気から出る $k$ は $\mathbf{1.330617}$(計算 2.1):$4/3$ ではない。
- ずれは $\mathbf{0.2041}$ パーセント(計算 2.1):小さいが零ではない。
- $4/3$ にする勾配は $\mathbf{3.924031\times10^{-8}}$ 毎メートル(計算 2.1):逆算。
- 戻すと $4/3$ に戻る(観察 2.3):検査。
- 光学の伸びは $\mathbf{1.072113}$ 倍(計算 3.1):屈折係数 $0.13$ から。
- 電波の伸びは $\mathbf{1.154701}$ 倍(計算 3.1):$\sqrt{4/3}$ そのもの。
- 二つの規約の比は $\mathbf{1.077033}$(観察 3.2):本稿の芯。
- 高さ $10$ メートルで $\mathbf{11288.0}$・$\mathbf{12102.1}$・$\mathbf{13034.3}$ メートル(計算 3.4):三通り。
- 交角の差は $\mathbf{3.00\times10^{-7}}$ ラジアン(計算 4.1):等角である。
- 長さの比は $\mathbf{0.447214}$(計算 4.1):等長ではない。
- 分離子はどの規約か(観察 5.1):屈折そのものではない。
結び:電波の見通しを計算するとき、地球の半径を $4/3$ 倍にしてから直線を引く。その $4/3$ は測った値ではない。標準大気でよく使われる毎キロメートル $39$ $N$ 単位の勾配から出るのは $\mathbf{1.330617}$ で、$4/3=\mathbf{1.333333}$ とは $\mathbf{0.2041}$ パーセント違う。$4/3$ を使うということは、勾配のほうを毎キロメートル $\mathbf{39.2403}$ $N$ 単位、すなわち $\mathbf{3.924031\times10^{-8}}$ 毎メートルに決め打つことに等しい。逆算した勾配を式に戻すと $k$ は $4/3$ に戻るので、解き損ないではない。ずれが実務で無視できる大きさだからこそ規約として定着したが、「大気がそうなっている」わけではない。論文95 の言い方でいえば、事実の側にあるのは勾配で、$4/3$ は約束である。しかも規約は二つある。光学は地上屈折係数 $0.13$ から $k=\mathbf{1.1494253}$ を使い、電波は $k=4/3$ を使う。見通し距離は $\sqrt{k}$ に比例するので、伸びは $\mathbf{1.072113}$ 倍と $\mathbf{1.154701}$ 倍になる。電波側の $\mathbf{1.154701}$ は $\sqrt{4/3}$ そのもので、規約を採った瞬間に伸びの値も規約になる。二つの比は $\mathbf{1.077033}$ で、同じ地点、同じ大気について、光学の教科書と電波の教科書が $\mathbf{7.7}$ パーセント違う距離を返す。高さ $10$ メートルなら、屈折なしで $\mathbf{11288.0}$ メートル、光学で $\mathbf{12102.1}$ メートル、電波で $\mathbf{13034.3}$ メートル。光学と電波の差は $\mathbf{932.2}$ メートル、屈折なしと電波の差は $\mathbf{1746.3}$ メートルで、目に見える大きさである。畳む操作は角を保ち、長さを保たない。対数の写像で交角の変化は $\mathbf{3.00\times10^{-7}}$ ラジアンにとどまるのに、長さの比は $\mathbf{0.447214}$ になる。だから仰角や入射角はそのまま読めて、距離は $\sqrt{k}$ の分だけ読み替えなければならない。論文409 が示した「等角を取るか等長を取るか」という二択が、ここでも現れている。等価地球半径は等角のほうを取った。分離子は、どの規約を採ったかである。屈折そのものが違うのではなく、屈折を半径に畳む約束が違う。そこが $4/3$ の厄介なところで、規約として便利なので、勾配についての仮定であることが見えにくい。$\mathbf{0.2041}$ パーセントの丸めが、そのまま「大気はこうである」と読まれてしまう。論文349 は勾配の符号が逆になる場合を見た。本稿は標準の勾配をどう畳むかを見たので、同じ勾配についての二つの扱い方である。論文404 が「水平線は見える距離の限界ではない」と示した限界そのものが、どの規約を採るかに依っている。論文395 の音線も同じ屈折の幾何で、畳み方も同じである。正直に言えば、大気の模型を新しく作ってはいない。標準大気の勾配を一つ置いただけで、実際の大気の変動は扱っていない。光学と電波で値が違うのは波長が違うからで、どちらかが誤りなのではないし、どちらが正しいかも判定していない。勾配が強くて $k$ が負になるダクトの場合は枠の外で、見通しの先へ回り込む回折も見ていない。屈折係数を現場でどう決めるかにも立ち入っていない。言えるのは、$4/3$ が丸めた規約であり、同じ大気に規約が二つあって、見通し距離が $\mathbf{1.077033}$ 倍ずれる、そこまでである。
参考文献
- Bean, B. R., & Dutton, E. J. (1966). Radio Meteorology. National Bureau of Standards Monograph 92.
- International Telecommunication Union (2019). Recommendation ITU-R P.453: The radio refractive index. ITU.
- Schelleng, J. C., Burrows, C. R., & Ferrell, E. B. (1933). Ultra-Short-Wave Propagation. Proceedings of the Institute of Radio Engineers.
- Torge, W., & Muller, J. (2012). Geodesy (4th ed.). De Gruyter.
- 山岸勇輝 (2026). 『規約と事実を分ける』[論文95]. Zenodo. 10.5281/zenodo.21758621
- 山岸勇輝 (2026). 『蜃気楼に要るのは、気温が下がる勾配ではなく、上がる勾配である』[論文349]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22695287
- 山岸勇輝 (2026). 『音が遠くまで届くのは、直進しないからである』[論文395]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22699289
- 山岸勇輝 (2026). 『水平線は、見える距離の限界ではない』[論文404]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22699418
- 山岸勇輝 (2026). 『歪まない地図は存在しない。投影法が下手だからではない』[論文409]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22699616
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「地球の半径を 4/3 倍にするのは事実ではなく規約であり、しかも規約は二つある」[論文527]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22867664
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引用するとき
山岸勇輝 (2026). 地球の半径を 4/3 倍にするのは事実ではなく規約であり、しかも規約は二つある [論文527]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/527 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22867664
Yamagishi, Y. (2026). Multiplying the Earth's Radius by 4/3 Is a Convention, Not a Fact, and There Are Two of Them [Paper 527]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/527; DOI: 10.5281/zenodo.22867664
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