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【論文529】引用の向きが時間と逆になる辺は、改訂の痕跡である

要旨

引用網は、書かれた順にしか矢が引けないので、構成上は閉路を持たないはずである。本稿が示すのは、この体系がそうなっておらず、時間と逆向きの辺が $\mathbf{304}$ 本あり、それが改訂の痕跡として説明できることである。新しい定理も法則も主張しない。

第一に、有向辺 $\mathbf{3219}$ 本のうち $\mathbf{304}$ 本が後方参照である。$\mathbf{9.44}$ パーセントで、相互引用は $\mathbf{39}$ 組ある(第2節)。

第二に、最大の強連結成分は $\mathbf{131}$ 編である。番号 $3$ から $151$ までにまたがり、大きさ $2$ 以上の成分は $\mathbf{4}$ 個、合わせて $\mathbf{138}$ 編である(第3節)。

第三に、それでも大半は順序づけできる。どの閉路にも入らない編は $\mathbf{389}$ 編、$\mathbf{73.81}$ パーセントである(第3節)。

第四に、これが本稿の芯である。後方参照を持つ編は、改訂記録を持ちやすい。後方参照を持つ $\mathbf{52}$ 編では $\mathbf{67.31}$ パーセント、持たない $\mathbf{475}$ 編では $\mathbf{1.26}$ パーセントで、比は $\mathbf{53.29}$ 倍である(第4節)。

第五に、後方参照の距離は近くない。中央は $\mathbf{62}$、最大は $\mathbf{146}$ で、すぐ隣を引くもの(距離 $1$)は $\mathbf{11}$ 本、$\mathbf{3.62}$ パーセントにすぎない(第4節)。

第六に、分離子は、辺の向きが執筆順か参照順かである。同じ一本の辺が、二つの時計で逆向きに読める(第5節)。

キーワード:引用ネットワーク、強連結成分、改訂の痕跡、累積優位、論文体系。

射程(何を示さないか)

新しい定理も法則も主張しない。引用網の解析も、強連結成分の計算も、プライスの累積優位も標準的である。体系の良し悪しを測らない。後方参照が多いことも少ないことも、質の指標としては扱わない。構造を測るだけである。他の体系と比べない。学術文献一般で後方参照がどれくらいの割合かは測っていないので、$\mathbf{9.44}$ パーセントが多いか少ないかは言えない。改訂の内容に立ち入らない。改訂記録があるかどうかだけを見て、何をどう直したかは見ていない。因果を断定しない。改訂記録と後方参照が一緒に現れることは示すが、どちらが先かは本稿の道具では決まらない。冪則を主張しない。被引用の分布の当てはめは行うが、機構を主張しない。既刊との関係:論文118 は座標時間・固有時・エントロピーが三つの異なる論理型だと示した。本稿の「二つの時計」はその第四である。執筆順と参照順が別の順序を作る。論文81 はポアンカレ回帰定理と時間の矢を扱った。あちらの矢は物理の矢で、本稿の矢は文献の矢である。閉路が在ることが両方で問題になる。論文200 は体系を体系自身のデータとして測った。本稿もその系列にあり、測る対象を引用の向きに取る。論文400 は数えた道具のほうが先に壊れたと示した。本稿でも走査器の上限が古いままなら $168$ 件が捨てられていた。道具の自己検査を先に通した。論文526 は射程注記が途中から採られた作法だと示した。本稿の改訂の痕跡も、作法が変わった時期を編の番号として残している。論文300 は同根か別根かが判定できると示した。二つの順序は「量の持ち物」の基準で別根である。加えたのは、後方参照を $\mathbf{304}$ 本、相互引用を $\mathbf{39}$ 組と数えたこと、強連結成分を計算して最大 $\mathbf{131}$ 編を出したこと、閉路に入らない編が $\mathbf{389}$ 編だと出したこと、改訂記録との同時出現の比を $\mathbf{53.29}$ 倍と測ったこと、分離子を二つの時計に置いたことである。

1. 記法と問い

設定:論文の引用網では、後から書かれた論文が先に書かれた論文を引く。だから辺はいつも時間をさかのぼる向きに引かれ、閉路は作れない。プライスが $1965$ 年に引用網を扱ったときも、この非輪状性が前提だった。

観察 1.1 ただしそれは、論文が公表後に変わらない場合の話である。改訂すれば、後から出た編への引用を足せる。その瞬間に、辺は時間をさかのぼらなくなる。

観察 1.2 順序が二つある。初めて書かれた順と、いま参照が向いている順、論文118 が座標時間・固有時・エントロピーを三つの論理型に分けたのと同じ形で、ここにも二つの時計がある。

問い:この体系の引用網は、どれだけ非輪状から外れているか。

2. 測る

計算 2.1:$2026$ 年 $9$ 月 $10$ 日の時点で、全編の参考文献から内部引用の辺を取り出した。道具は体系の正典である走査器を使い、その自己検査(既知の一件との一致、番号を解決できない内部文献 $0$ 件)を先に通してから測った。

量 値
節点 $\mathbf{527}$ 編
有向辺 $\mathbf{3219}$ 本
前方参照(自分より前を引く) $\mathbf{2913}$ 本
後方参照(自分より後を引く) $\mathbf{304}$ 本($\mathbf{9.44}$ パーセント)
自己引用 $\mathbf{2}$ 本
相互引用 $\mathbf{39}$ 組

観察 2.2 三つの数の和が総数に一致する。$2913+304+2=3219$、数え落としが無いことの検査であって、主張ではない。

観察 2.3 自己引用が $\mathbf{2}$ 本ある。論文1 と論文2 が、自分自身を参考文献に挙げている。体系で唯一の自己ループで、この二編は他編を一本も引かない土台でもある。「一本も引いていない」と言うときは「自分以外を」と付けなければ正確でない。

観察 2.4 道具の上限を先に疑った。走査器が持つ番号の上限が古いままだと、上限を超える引用が黙って捨てられる。実際にそれが起きて $168$ 件が消えたことがあり、いまはフォルダから上限を決めるようになっている。論文400 の型そのものである。

3. 閉路の形

計算 3.1:強連結成分を計算した。

量 値
強連結成分 $\mathbf{393}$ 個
最大の成分 $\mathbf{131}$ 編(番号 $3$ から $151$)
大きさ $2$ 以上の成分 $\mathbf{4}$ 個(合計 $\mathbf{138}$ 編)
どの閉路にも入らない編 $\mathbf{389}$ 編($\mathbf{73.81}$ パーセント)

観察 3.2 閉路は一か所に固まっている。最大の成分が $\mathbf{131}$ 編で、残る三つを足しても $\mathbf{7}$ 編、体系の全体が絡まっているのではなく、初期から中期の一帯だけが絡まっている。

観察 3.3 それは改訂が集中した時期と重なる。番号 $3$ から $151$、この帯は第二版・第三版が出た編が多い。後から引用を足せば、その編は後の編と互いに指し合う。

観察 3.4 大半は順序づけできる。$\mathbf{389}$ 編、$\mathbf{73.81}$ パーセントはどの閉路にも入らない。「非輪状ではない」ことと「順序が無い」ことは違う。四分の三には順序が付く。

観察 3.5 連結性は別の話である。向きを外せば成分は $\mathbf{1}$ 個で $\mathbf{100}$ パーセント、直径 $\mathbf{5}$、平均最短距離 $\mathbf{2.7059}$、孤立した編は一つも無い。閉路の有無と、繋がっているかどうかは独立である。

4. 後方参照は、改訂と一緒に現れる

計算 4.1:後方参照を持つ編と持たない編で、改訂記録を持つ割合を比べた。

群 編数 改訂記録を持つ割合
後方参照を持つ $\mathbf{52}$ 編 $\mathbf{0.6731}$
後方参照を持たない $\mathbf{475}$ 編 $\mathbf{0.0126}$
比 、 $\mathbf{53.29}$ 倍

観察 4.2 これが本稿の芯である。$\mathbf{53.29}$ 倍、後方参照は無作為に散らばっているのではなく、改訂記録のある編に集まっている。

観察 4.3 ただし因果は言えない。改訂したから後方参照が付いたのか、後方参照を足すために改訂記録を書いたのか、同時に現れることは測れるが、順序は本稿の道具では決まらない。これは分離子の不足であって、結論の弱さではない。

計算 4.4:後方参照の距離(引用先の番号から自分の番号を引いたもの)を測った。

量 値
最小 $\mathbf{1}$
中央 $\mathbf{62}$
最大 $\mathbf{146}$
距離 $1$(すぐ隣) $\mathbf{11}$ 本($\mathbf{3.62}$ パーセント)

観察 4.5 隣を引いているのではない。距離 $1$ は $\mathbf{3.62}$ パーセントにすぎず、中央は $\mathbf{62}$、「番号を振り直したときのずれ」では説明が付かない大きさである。$\mathbf{62}$ 編も先の編を引くには、実際にその編が書かれたあとで手を入れるしかない。

観察 4.6 最大 $\mathbf{146}$ は、体系の四分の一を跨ぐ。$527$ 編のうち $146$、初期の編が中期の編を引いている。改訂でしか作れない辺である。

5. 分離子

観察 5.1 分離子は、辺の向きを執筆順で読むか参照順で読むかである。同じ一本の辺が、片方の時計では未来を指し、もう片方の時計では過去を指す。どちらが正しいのではなく、二つある。

観察 5.2 論文118 の第四の論理型になっている。あちらは座標時間・固有時・エントロピーを三つに分けた。本稿はそこに「文献の順序」を足す。番号は執筆順の目盛りであって、参照順の目盛りではない。

観察 5.3 論文81 の矢とは別根である。あちらの閉路はポアンカレ回帰で、必ず戻るが宇宙が終わるまで戻らない。こちらの閉路は $\mathbf{39}$ 組が実際に閉じている。同じ「閉路」でも、可能性の話と実測の話である。

観察 5.4 論文300 の「量の持ち物」で分かれる。執筆順は日付という持ち物を要る。参照順は本文だけで決まる。だから番号から後方参照を数えられるが、執筆順を復元するには別の記録が要る。

観察 5.5 言わないこと。後方参照が多いことを良いとも悪いとも書かない。他の体系とも比べていないので、$\mathbf{9.44}$ パーセントが多いのか少ないのかも言えない。

6. 点呼と結び

  1. 有向辺 $\mathbf{3219}$ 本(計算 2.1):節点は $\mathbf{527}$ 編。
  2. 後方参照 $\mathbf{304}$ 本(計算 2.1):$\mathbf{9.44}$ パーセント。
  3. 相互引用 $\mathbf{39}$ 組(計算 2.1):閉路が実在する。
  4. 自己引用は $\mathbf{2}$ 本(観察 2.3):論文1 と論文2 が自分を挙げている。
  5. 最大の強連結成分は $\mathbf{131}$ 編(計算 3.1):番号 $3$ から $151$。
  6. 閉路に入らない編は $\mathbf{389}$ 編(計算 3.1):$\mathbf{73.81}$ パーセント。
  7. 向きを外せば成分 $\mathbf{1}$ 個(観察 3.5):孤立した編は無い。
  8. 改訂記録の比は $\mathbf{53.29}$ 倍(計算 4.1):本稿の芯。
  9. 後方参照の中央は $\mathbf{62}$(計算 4.4):隣ではない。
  10. 最大 $\mathbf{146}$(計算 4.4):改訂でしか作れない。
  11. 分離子は二つの時計(観察 5.1):執筆順か参照順か。

結び:引用網は、後から書かれた論文が先に書かれた論文を引くので、構成上は閉路を持たないはずである。この体系はそうなっていない。$\mathbf{527}$ 編、有向辺 $\mathbf{3219}$ 本のうち $\mathbf{304}$ 本、$\mathbf{9.44}$ パーセントが自分より後の編を引いており、相互引用は $\mathbf{39}$ 組ある。前方 $\mathbf{2913}$、後方 $\mathbf{304}$、自己 $\mathbf{2}$ を足すと $\mathbf{3219}$ になり、数え落としは無い。自己引用の $\mathbf{2}$ 本は論文1 と論文2 が自分自身を参考文献に挙げているもので、体系で唯一の自己ループである。この二編を「一本も引いていない」と言うときは「自分以外を」と付けなければ正確でない。測る前に道具の自己検査を通した。走査器の番号の上限が古いままだと上限を超える引用が黙って捨てられ、実際に $168$ 件が消えたことがある。論文400 の型そのものである。閉路は一か所に固まっている。強連結成分は $\mathbf{393}$ 個で、最大が $\mathbf{131}$ 編、番号 $3$ から $151$ にまたがる。大きさ $2$ 以上の成分は $\mathbf{4}$ 個しかなく、残る三つを足しても $\mathbf{7}$ 編である。その帯は第二版・第三版が出た編の多い時期と重なる。どの閉路にも入らない編は $\mathbf{389}$ 編、$\mathbf{73.81}$ パーセントで、「非輪状ではない」ことと「順序が無い」ことは違う。向きを外せば成分は $\mathbf{1}$ 個、直径 $\mathbf{5}$、平均最短距離 $\mathbf{2.7059}$ で、孤立した編は一つも無い。後方参照は改訂と一緒に現れる。後方参照を持つ $\mathbf{52}$ 編では $\mathbf{67.31}$ パーセントが改訂記録を持ち、持たない $\mathbf{475}$ 編では $\mathbf{1.26}$ パーセントで、比は $\mathbf{53.29}$ 倍である。距離を見ると、すぐ隣を引くもの(距離 $1$)は $\mathbf{11}$ 本、$\mathbf{3.62}$ パーセントにすぎず、中央は $\mathbf{62}$、最大は $\mathbf{146}$ である。$\mathbf{62}$ 編も先を引くには、その編が書かれたあとで手を入れるしかない。番号の振り直しでは説明が付かない大きさである。ただし因果は言えない。改訂したから後方参照が付いたのか、後方参照を足すために改訂記録を書いたのかは、本稿の道具では決まらない。分離子は二つの時計である。同じ一本の辺が、執筆順で読めば未来を指し、参照順で読めば過去を指す。どちらかが正しいのではなく、二つある。論文118 は座標時間・固有時・エントロピーを三つの論理型に分けた。本稿はそこに文献の順序を足す。番号は執筆順の目盛りであって、参照順の目盛りではない。論文81 の閉路はポアンカレ回帰で、必ず戻るが宇宙が終わるまで戻らない。こちらの閉路は $\mathbf{39}$ 組が実際に閉じており、可能性の話と実測の話という別根である。論文300 の「量の持ち物」でいえば、執筆順は日付を要り、参照順は本文だけで決まる。だから番号から後方参照は数えられるが、執筆順の復元には別の記録が要る。正直に言えば、体系の良し悪しは測っていない。後方参照が多いことを良いとも悪いとも書かず、他の体系とも比べていないので $\mathbf{9.44}$ パーセントが多いか少ないかも言えない。改訂記録があるかどうかだけを見て、何をどう直したかは見ていない。被引用の分布に冪則を当てはめても、機構は主張しない。言えるのは、時間と逆向きの辺が $\mathbf{304}$ 本あり、閉路が $\mathbf{131}$ 編の一帯に固まっており、後方参照と改訂記録が $\mathbf{53.29}$ 倍の偏りで一緒に現れる、そこまでである。

参考文献

  1. de Solla Price, D. J. (1965). Networks of Scientific Papers. Science.
  2. de Solla Price, D. J. (1976). A General Theory of Bibliometric and Other Cumulative Advantage Processes. Journal of the American Society for Information Science.
  3. Newman, M. E. J. (2010). Networks: An Introduction. Oxford University Press.
  4. Tarjan, R. (1972). Depth-First Search and Linear Graph Algorithms. SIAM Journal on Computing.
  5. 山岸勇輝 (2026). 『ポアンカレ回帰定理と時間の矢』[論文81]. Zenodo. 10.5281/zenodo.21733062
  6. 山岸勇輝 (2026). 『二つの時計と、一枚の目盛り』[論文118]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22036237
  7. 山岸勇輝 (2026). 『二百本目の点呼、体系を、体系自身のデータとして測る』[論文200]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22108829
  8. 山岸勇輝 (2026). 『三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
  9. 山岸勇輝 (2026). 『四百本目の点呼、数えられたものより、数えた道具のほうが先に壊れた』[論文400]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22699343
  10. 山岸勇輝 (2026). 『「本稿は扱わない」と書くことは、反証を逃がしているのか、的を絞っているのか』[論文526]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22867648

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「引用の向きが時間と逆になる辺は、改訂の痕跡である」[論文529]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.23014099

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引用するとき

山岸勇輝 (2026). 引用の向きが時間と逆になる辺は、改訂の痕跡である [論文529]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/529 ・ DOI: 10.5281/zenodo.23014099

Yamagishi, Y. (2026). The Citations That Run Backwards in Time Are the Trace of Revision [Paper 529]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/529; DOI: 10.5281/zenodo.23014099

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