要旨
「$A$ は $B$ に比例する」と書くとき、前に立つ定数の身分は問われないことが多い。本稿が示すのは、その定数に四つの身分があり、動かせるものと動かせないものが混じっていることである。新しい定理も法則も主張しない。
第一に、定数が幾何で決まる場合がある。球の $S/V^{2/3}$ は $\mathbf{4.835976}$ で、独立に組んだ $(36\pi)^{1/3}$ と $12$ 桁一致し、立方体では $\mathbf{6.000000}$ になる(第2節)。
第二に、次元解析は定数を決めない。振り子の $T\sqrt{g/L}$ は小角で $\mathbf{6.283186}$($2\pi=6.283185$)だが、振幅 $90$ 度では $\mathbf{7.416299}$ で、$\mathbf{1.1803}$ 倍になる(第3節)。
第三に、これが本稿の芯である。当てはめた定数は、当てはめる窓で動く。素数計数に冪則を当てはめると、窓 $[100,1000]$ で $\mathbf{0.827369}$、$[10^{5},10^{6}]$ で $\mathbf{0.912949}$ になる(第4節)。
第四に、それは真の姿が冪則でないからである。局所の傾きは $1-1/\ln x$ で、$x=10^{3}$ で $\mathbf{0.855235}$、$x=10^{6}$ で $\mathbf{0.927618}$ と動き続ける(第4節)。
第五に、極限値は、有限では届かない。カタラン数の係数は $n=10$ で $1/\sqrt{\pi}$ の $\mathbf{0.89780266}$ 倍、$n=10000$ でも $\mathbf{0.99988751}$ 倍で、厳密には一致しない(第5節)。
第六に、分離子は「何を動かすと定数が動くか」である。大きさか、範囲か、窓か、$n$ か。四つで動く相手が違う(第6節)。
キーワード:比例定数、次元解析、冪則、カタラン数、スケーリング。
射程(何を示さないか)
新しい定理も法則も主張しない。次元解析も、冪則の当てはめも、カタラン数の漸近も標準的である。論文117 と軸が違う。あちらは指数がどう選ばれるかを恒等式・次元行列・経験・不動点の四通りに分けた。本稿は指数ではなく比例定数の身分を分ける。同じ四分割ではない。冪則の普遍性を論じない。自然界に冪則が多いことの理由には立ち入らない。当てはめの手法を評価しない。最小二乗と最尤のどちらがよいかは主題ではない。素数分布を主張しない。素数計数は「冪則でないものに冪則を当てはめるとどうなるか」の見本として使う。数論の主張はしない。漸近展開を出さない。カタラン数の次の項は扱わず、比が $1$ に寄ることだけを見る。四つで尽きるとは書かない。本稿が数えたのは四つで、他に無いとは主張しない。既刊との関係:論文117 はスケール不変性が四通りに指数を選ぶと示した。本稿は指数ではなく係数を見るので、四つの中身が違う。冒頭でその差を宣言する。論文326 は二乗三乗の法則が恒等式だと示した。本稿の第一の身分がそれで、定数が幾何で決まる。論文372 は面積と種数の冪を扱った。あちらの指数は当てはめ値である。本稿の第三の身分が、その身分の性質を測る。論文144 は指数が何が保存しているかの署名だと示した。署名として読めるのは、定数の身分が「幾何」か「極限」のときである。論文300 は同根か別根かが判定できると示した。四つの身分は「量の持ち物」の基準で別根である。加えたのは、四つの身分を並べて、それぞれ動かすと動く相手を測ったこと、振り子の $\Pi$ 群が振幅で $\mathbf{1.1803}$ 倍動くと出したこと、当てはめた指数が窓で $\mathbf{0.827369}$ から $\mathbf{0.912949}$ まで動くと測ったこと、極限値が有限の $n$ では届かないことを $\mathbf{0.99988751}$ という数で示したこと、分離子を「何を動かすと定数が動くか」に置いたことである。
1. 記法と問い
設定:「$A\propto B$」は「$A=cB$ となる $c$ が在る」と読める。本稿はその $c$ の側だけを見る。
観察 1.1 論文117 と軸が違う。あちらは指数がどう選ばれるかを四通りに分けた。本稿は指数を固定したまま、前に立つ定数の身分を分ける。同じ「四つ」でも中身は別である。
観察 1.2 身分の違いは、何を動かすと定数が動くかで見える。形を変えると動くのか、範囲を変えると動くのか、窓を変えると動くのか、動かないものを定数と呼ぶのは安全だが、動くものをそう呼ぶと予測が壊れる。
問い:同じ記号の前に、何種類の定数が立っているか。
2. 身分その一、幾何で決まる
計算 2.1:立体の表面積と体積の比 $S/V^{2/3}$ を出す。
| 立体 | $S/V^{2/3}$ |
|---|---|
| 球 | $\mathbf{4.835976}$ |
| 独立に組んだ $(36\pi)^{1/3}$ | $4.835976$ |
| 立方体($a=1$) | $\mathbf{6.000000}$ |
| 立方体($a=2$) | $\mathbf{6.000000}$ |
| 立方体($a=7.3$) | $\mathbf{6.000000}$ |
観察 2.2 大きさを変えても動かない。$a$ を $1$ から $7.3$ まで動かしても $\mathbf{6.000000}$、これは測った一致ではなく、恒等式である。論文326 が「二乗三乗の法則は法則ではない」と書いたとおりである。
観察 2.3 形を変えると動く。球で $\mathbf{4.835976}$、立方体で $\mathbf{6.000000}$、定数が幾何で決まるとは、幾何を変えれば決まり直すという意味である。普遍定数ではない。
観察 2.4 $12$ 桁の一致は検査である。$(36\pi)^{1/3}$ は面積と体積の式を通さずに組める。一致しなければ、どちらかの式が違っている。落ちうる形の検査である。
3. 身分その二、次元解析は決めない
計算 3.1:単振り子の周期を、小角近似を使わずに数値積分で出し、無次元群 $T\sqrt{g/L}$ を測った。
| 振幅(ラジアン) | $T\sqrt{g/L}$ |
|---|---|
| $0.001$ | $\mathbf{6.283186}$ |
| $0.100$ | $6.287115$ |
| $0.500$ | $6.382790$ |
| $1.000$ | $6.699976$ |
| $1.571$($90$ 度) | $\mathbf{7.416299}$ |
観察 3.2 次元解析が言えるのはここまでである。$T\propto\sqrt{L/g}$ という形は次元だけで出るが、前の数は出ない。$2\pi$ は運動方程式を解いて初めて現れる。
観察 3.3 しかもその $2\pi$ は、条件付きの値である。小角で $\mathbf{6.283186}$、$90$ 度で $\mathbf{7.416299}$、$\mathbf{1.1803}$ 倍動く。「定数」と呼べるのは振幅が小さいあいだだけである。
観察 3.4 定数が動くのは、無次元群が一つではないからである。振幅そのものが無次元だから、$\Pi$ 群が二つある。論文117 が「$\Pi$ 群がちょうど一つ」という条件を立てたのは、この場合を除くためである。
4. 身分その三、当てはめ値は窓で動く
計算 4.1:素数計数関数 $\pi(x)$ に冪則 $\pi(x)\propto x^{z}$ を当てはめる。$\pi(10^{6})=78498$ で、独立に知られた値と一致した。
| 窓 | 当てはめた指数 |
|---|---|
| $[10^{2},10^{3}]$ | $\mathbf{0.827369}$ |
| $[10^{3},10^{4}]$ | $\mathbf{0.864243}$ |
| $[10^{4},10^{5}]$ | $\mathbf{0.892357}$ |
| $[10^{5},10^{6}]$ | $\mathbf{0.912949}$ |
観察 4.2 これが本稿の芯である。窓を動かすだけで $\mathbf{0.827369}$ から $\mathbf{0.912949}$ まで動く。どの窓でも $1$ より小さいので、当てはめは成功しているように見える。それでも値は一つに定まらない。
観察 4.3 真の姿は冪則ではない。$\pi(x)\sim x/\ln x$ なので局所の傾きは $1-1/\ln x$、$x=10^{3}$ で $\mathbf{0.855235}$、$x=10^{6}$ で $\mathbf{0.927618}$。当てはめた値はこの動く量を、窓の中で平均していただけである。
観察 4.4 だから当てはめ値には、窓を書く義務がある。「指数は $0.86$」とだけ書けば、読む側は定数だと思う。論文372 の $z$ も当てはめ値であり、どの面積の範囲で測ったかが値の一部である。
観察 4.5 見分ける手続きがある。窓を二つに割って、両方で当てはめてみればよい。値がずれれば当てはめ値、ずれなければ他の身分の候補になる。これは実際にできる検査である。
5. 身分その四、極限値は届かない
計算 5.1:カタラン数の漸近 $C_{n}\sim 4^{n}/(n^{3/2}\sqrt{\pi})$ の係数を、各 $n$ で測った。
| $n$ | $C_{n}n^{3/2}/4^{n}$ | 極限との比 |
|---|---|---|
| $10$ | $\mathbf{0.5065309103}$ | $\mathbf{0.89780266}$ |
| $100$ | $0.5579057328$ | $0.98886216$ |
| $1000$ | $0.5635555088$ | $0.99887613$ |
| $10000$ | $\mathbf{0.5641261186}$ | $\mathbf{0.99988751}$ |
| 極限 $1/\sqrt{\pi}$ | $0.5641895835$ | $1$ |
観察 5.2 近づくが、着かない。$n=10000$ でも比は $\mathbf{0.99988751}$、これは誤差ではない。有限の $n$ では厳密に一致しないことが、この身分の定義である。
観察 5.3 当てはめ値との違いが、ここで見える。当てはめ値は窓を変えると動き、どこにも収束しない。極限値は $n$ を大きくすると一つの値へ寄る。両方とも「有限では一致しない」が、寄る先が在るかどうかが違う。
観察 5.4 $n=10$ を境目の反対側に置いた。比が $\mathbf{0.89780266}$ で $1$ パーセントどころか $10$ パーセント外れている。漸近式を小さい $n$ に使うと、この大きさで外れる。
6. 分離子
観察 6.1 分離子は、何を動かすと定数が動くかである。
| 身分 | 動かすと動く相手 | 例 |
|---|---|---|
| 幾何で決まる | 形(大きさでは動かない) | $\mathbf{4.835976}$ 対 $\mathbf{6.000000}$ |
| 次元解析が決めない | 無次元群の値 | $\mathbf{6.283186}$ 対 $\mathbf{7.416299}$ |
| 当てはめ値 | 当てはめる窓 | $\mathbf{0.827369}$ 対 $\mathbf{0.912949}$ |
| 極限値 | $n$(寄る先は動かない) | $\mathbf{0.89780266}$ 対 $\mathbf{0.99988751}$ |
観察 6.2 論文300 の「量の持ち物」で分かれる。幾何の定数は形を持ち物にし、当てはめ値は窓を持ち物にする。持ち物を書かずに数だけを引用すると、身分が消える。
観察 6.3 論文144 と繋がる。あちらは指数が何が保存しているかの署名だと示した。署名として読めるのは、定数の身分が幾何か極限のときである。当てはめ値の指数は、保存則ではなく窓を語っている。
観察 6.4 四つで尽きるとは書かない。数えたのは四つで、他に無いとは主張しない。尽くしたと言うには、尽くし方を先に決めなければならない。
観察 6.5 言わないこと。冪則の普遍性も、当てはめ手法の優劣も論じない。素数計数も、冪則でないものに冪則を当てはめる見本として使っただけである。
7. 点呼と結び
- 球の $S/V^{2/3}$ は $\mathbf{4.835976}$(計算 2.1):$(36\pi)^{1/3}$ と $12$ 桁一致。
- 立方体は大きさを変えても $\mathbf{6.000000}$(観察 2.2):恒等式。
- 形を変えると動く(観察 2.3):普遍定数ではない。
- 振り子の小角は $\mathbf{6.283186}$(計算 3.1):$2\pi$ は解いて出る。
- $90$ 度では $\mathbf{7.416299}$(観察 3.3):$\mathbf{1.1803}$ 倍動く。
- 窓ごとに $\mathbf{0.827369}$ から $\mathbf{0.912949}$(計算 4.1):本稿の芯。
- 局所の傾きは $1-1/\ln x$(観察 4.3):真の姿は冪則でない。
- $\pi(10^{6})=78498$(計算 4.1):独立に知られた値と一致。
- $n=10000$ でも比は $\mathbf{0.99988751}$(計算 5.1):極限であって値ではない。
- $n=10$ では $\mathbf{0.89780266}$(観察 5.4):境目の反対側。
- 分離子は何を動かすと動くか(観察 6.1):形・群・窓・$n$。
結び:「$A$ は $B$ に比例する」と書くとき、前に立つ定数の身分は問われないことが多い。幾何で決まる定数は、大きさでは動かず形で動く。球の $S/V^{2/3}$ は $\mathbf{4.835976}$ で、面積と体積の式を通さずに組んだ $(36\pi)^{1/3}$ と $12$ 桁一致する。立方体では $a$ を $1$ から $7.3$ まで動かしても $\mathbf{6.000000}$ のままで、これは測った一致ではなく恒等式である。それでも球と立方体で値が違うので、幾何を変えれば決まり直す。普遍定数ではない。次元解析は定数を決めない。振り子の $T\propto\sqrt{L/g}$ という形は次元だけで出るが、前の数は出ず、$2\pi$ は運動方程式を解いて初めて現れる。しかもその $2\pi$ は条件付きで、小角の $\mathbf{6.283186}$ が振幅 $90$ 度では $\mathbf{7.416299}$、$\mathbf{1.1803}$ 倍になる。動く理由は、振幅そのものが無次元で $\Pi$ 群が二つあるからである。論文117 が「$\Pi$ 群がちょうど一つ」という条件を立てたのは、この場合を除くためである。当てはめ値は、当てはめる窓で動く。素数計数に冪則を当てはめると、窓 $[10^{2},10^{3}]$ で $\mathbf{0.827369}$、$[10^{5},10^{6}]$ で $\mathbf{0.912949}$ になる。どの窓でも $1$ より小さいので当てはめは成功して見えるが、値は一つに定まらない。真の姿は冪則ではなく $x/\ln x$ で、局所の傾きは $1-1/\ln x$、$x=10^{3}$ で $\mathbf{0.855235}$、$x=10^{6}$ で $\mathbf{0.927618}$ と動き続ける。当てはめた値はこれを窓の中で平均していただけである。だから当てはめ値には窓を書く義務がある。見分ける手続きも簡単で、窓を二つに割って両方で当てはめ、値がずれれば当てはめ値である。極限値は、有限では届かない。カタラン数の係数は $n=10$ で $1/\sqrt{\pi}$ の $\mathbf{0.89780266}$ 倍、$n=10000$ でも $\mathbf{0.99988751}$ 倍で、厳密には一致しない。これは誤差ではなく、この身分の定義である。当てはめ値との違いはここで見える。当てはめ値は窓を変えると動いてどこにも収束しないが、極限値は $n$ とともに一つの値へ寄る。寄る先が在るかどうかが分かれ目である。分離子は、何を動かすと定数が動くかである。幾何なら形、次元解析なら無次元群の値、当てはめなら窓、極限なら $n$。四つで動く相手が違う。論文300 の「量の持ち物」でいえば、幾何の定数は形を持ち物にし、当てはめ値は窓を持ち物にする。持ち物を書かずに数だけを引用すると、身分が消える。論文144 は指数が保存則の署名だと示したが、署名として読めるのは身分が幾何か極限のときで、当てはめ値の指数は保存則ではなく窓を語っている。正直に言えば、論文117 は指数がどう選ばれるかを四通りに分けた。本稿は指数ではなく係数の身分を分けたので、同じ「四つ」でも中身は別である。四つで尽きるとも書かない。数えたのは四つで、尽くしたと言うには尽くし方を先に決めなければならない。冪則の普遍性も、当てはめ手法の優劣も論じておらず、素数計数は冪則でないものに冪則を当てはめる見本として使っただけで、数論の主張はしていない。カタラン数の次の項にも触れていない。言えるのは、同じ記号の前に身分の違う定数が四つ立っており、それぞれ別のものを動かすと動く、そこまでである。
参考文献
- Barenblatt, G. I. (1996). Scaling, Self-Similarity, and Intermediate Asymptotics. Cambridge University Press.
- Buckingham, E. (1914). On Physically Similar Systems: Illustrations of the Use of Dimensional Equations. Physical Review.
- Clauset, A., Shalizi, C. R., & Newman, M. E. J. (2009). Power-Law Distributions in Empirical Data. SIAM Review.
- Flajolet, P., & Sedgewick, R. (2009). Analytic Combinatorics. Cambridge University Press.
- 山岸勇輝 (2026). 『スケール不変性は、四通りに指数を選ぶ』[論文117]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22005515
- 山岸勇輝 (2026). 『指数は、何が保存しているかの署名である』[論文144]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22082585
- 山岸勇輝 (2026). 『三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
- 山岸勇輝 (2026). 『二乗三乗の「法則」は、法則ではなく恒等式である』[論文326]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22209992
- 山岸勇輝 (2026). 『面積を半分にしても、種は半分にならない。そして種を半分にするには面積を $\mathbf{6.25}$ パーセントにする』[論文372]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22698241
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「同じ「比例する」でも、比例定数の身分は四つある」[論文530]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.23014101
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引用するとき
山岸勇輝 (2026). 同じ「比例する」でも、比例定数の身分は四つある [論文530]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/530 ・ DOI: 10.5281/zenodo.23014101
Yamagishi, Y. (2026). One and the Same ``Proportional To'' Carries Four Different Kinds of Constant [Paper 530]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/530; DOI: 10.5281/zenodo.23014101
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