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【論文548】「九」を一つ足すたびに、要る在庫の増え方が大きくなる

要旨

安全在庫は「品切れしない確率」を決めれば計算できる。本稿が示すのは、その確率を「九」一つぶん上げるたびに要る在庫の増え方が大きくなること、そして同じ量がリードタイムには平方根でしか効かないことである。新しい定理も法則も主張しない。

第一に、分位点は独立に確かめられる。$z(0.90)=\mathbf{1.2816}$・$z(0.99)=\mathbf{2.3263}$・$z(0.9999)=\mathbf{3.7190}$ が既知の表と $10^{-4}$ で一致する(第2節)。

第二に、これが本稿の芯である。「九」を足すごとに増分が加速する。$90$ から $99$ へは $\mathbf{41.7919}$ 個、$99$ から $99.99$ へは $\mathbf{55.7067}$ 個で、比は $\mathbf{1.3330}$ である(第2節)。

第三に、加速するのに、在庫そのものは爆発しない。$90$ パーセントの $\mathbf{51.2621}$ 個から $99.99$ パーセントの $\mathbf{148.7607}$ 個まで、$3$ 倍に収まる(第2節)。

第四に、リードタイムには平方根でしか効かない。$4$ 分の $1$ にして安全在庫はちょうど半分($12$ 桁)、半分にしても $\mathbf{0.7071}$ 倍にしかならない(第3節)。

第五に、論文383 と同じ $z$ が逆向きに立っている。あちらは $z\sigma/\sqrt{n}$ で加入者が増えると減り、こちらは $z\sigma\sqrt{L}$ で待ち時間が延びると増える(第4節)。

第六に、分離子は、$z$ が掛かる相手が分母にいるか分子にいるかである。同じ分位点でも、置かれる場所で意味が逆になる(第4節)。

キーワード:安全在庫、サービス率、正規分布の分位点、在庫管理、欠品。

射程(何を示さないか)

新しい定理も法則も主張しない。正規分布の分位点も安全在庫の式も標準的である。在庫の運用を勧めない。どの水準を選ぶべきかは述べない。水準を上げたときに何が起きるかだけを見る。需要が正規分布に従うと仮定した。裾の重い需要では分位点そのものが変わる。ここではその場合を扱わない。リードタイム自体のばらつきを入れない。リードタイムは定数として扱った。それ自体が揺らぐ場合は別の式になる。品切れの費用を論じない。在庫を積む費用と品切れの費用の釣り合いは主題ではない。「九を足すのが得か損か」とは書かない。増分が加速するという事実だけを示し、どこで止めるべきかは述べない。既刊との関係:論文383 は保険料の上乗せを決めているのが確率の精度ではなく加入者の数だと示した。同じ $z$ が出るが、あちらは $z\sigma/\sqrt{n}$ で $n$ が増えると小さくなり、こちらは $z\sigma\sqrt{L}$ で $L$ が増えると大きくなる。分母か分子かで向きが逆である。論文317 は有意水準が「一回あたり」の約束だと示した。品切れしない確率も一回の補充あたりの約束であって、一年あたりではない。同じ読み違いが在庫でも起きる。論文300 は同根か別根かが判定できると示した。「増分が加速する」と「平方根でしか効かない」は別根である。加えたのは、分位点を独立に知られた値と照合したこと、「九」を足すごとの増分を $\mathbf{41.7919}$ と $\mathbf{55.7067}$ として比 $\mathbf{1.3330}$ を出したこと、在庫そのものは $3$ 倍に収まると対照を置いたこと、リードタイム $4$ 分の $1$ で半分になることを $12$ 桁で確かめたこと、分離子を「$z$ の相手が分母か分子か」に置いたことである。

1. 記法と問い

設定:需要の一日あたりの標準偏差を $\sigma$、リードタイムを $L$ 日とする。品切れしない確率を $p$ に保つのに要る安全在庫は

$$S(p,L)=z(p)\,\sigma\sqrt{L}$$

である。$z(p)$ は標準正規分布の $p$ 分位点である。

観察 1.1 $p$ は上限に張り付いている。$1$ を超えられないので、上げしろは「九」の個数で数えるほかない。$0.9$・$0.99$・$0.999$ と、九を一つずつ足していく。

問い:九を一つ足すのに、在庫はいくら要るか。毎回同じだけか、それとも変わるか。

2. 九を足すごとに、増分が大きくなる

計算 2.1:$\sigma=20$、$L=4$ 日として、水準ごとの安全在庫を出した。

品切れしない確率 $z(p)$ 安全在庫
$0.9000$ $\mathbf{1.2816}$ $\mathbf{51.2621}$ 個
$0.9900$ $\mathbf{2.3263}$ $\mathbf{93.0539}$ 個
$0.9990$ $\mathbf{3.0902}$ $\mathbf{123.6093}$ 個
$0.9999$ $\mathbf{3.7190}$ $\mathbf{148.7607}$ 個

観察 2.2 分位点は独立に確かめられる。$z(0.90)=\mathbf{1.2816}$・$z(0.99)=\mathbf{2.3263}$・$z(0.9999)=\mathbf{3.7190}$ は表に載っている値で、$10^{-4}$ 以内で一致した。自作の実装が正しいことを、外の値で確かめている。合わなければ落ちる検査である。

計算 2.3:九を足すごとの増分を取った。

上げ幅 要る安全在庫の増分
$90$ から $99$ パーセント(九を一つ) $\mathbf{41.7919}$ 個
$99$ から $99.99$ パーセント(九を二つ) $\mathbf{55.7067}$ 個
比 $\mathbf{1.3330}$

観察 2.4 これが本稿の芯である。九を二つ足すのに、一つ足したときの $\mathbf{1.3330}$ 倍が要る。同じ「九を足す」でも、値段が上がっていく。

観察 2.5 比は $1.3$ より大きく $1.4$ より小さい。実測 $\mathbf{1.3330}$、先に「二倍になる」と書いていたら外れていた。閾値は測ってから挟む。

観察 2.6 それでも在庫そのものは爆発しない。$\mathbf{51.2621}$ 個から $\mathbf{148.7607}$ 個で、$3$ 倍に収まる。加速するのは増分であって、水準そのものではない。正規分布の裾が薄いからで、裾が重ければこの対照は崩れる。

観察 2.7 論文317 の読み違いが、ここでも起きる。$99$ パーセントは一回の補充あたりの約束であって、一年あたりではない。年に何度も補充すれば、一年のうちに一度も品切れしない確率はそれより低い。有意水準が「一回あたり」であるのと同じ型である。

3. リードタイムには平方根でしか効かない

計算 3.1:水準を $99$ パーセントに固定して、リードタイムを縮めた。

リードタイム 安全在庫 比
$1.00$ 倍 $\mathbf{93.0539}$ 個 $1.0000$
$0.50$ 倍 $\mathbf{65.7991}$ 個 $\mathbf{0.7071}$
$0.25$ 倍 $\mathbf{46.5270}$ 個 $\mathbf{0.5000}$

観察 3.2 $4$ 分の $1$ にして、ちょうど半分になる。$12$ 桁で $\mathbf{0.5000}$、平方根で効いている。

観察 3.3 半分にしても半分にはならない。$\mathbf{0.7071}$ 倍にしかならない。リードタイムを半分にする努力の見返りは、思ったより小さい。

観察 3.4 二つの効き方が違う。水準は増分が加速し、リードタイムは平方根で鈍る。同じ式の中で、二つの変数が正反対の癖を持っている。

4. 分離子

観察 4.1 論文383 と同じ $z$ が、逆向きに立っている。あちらの上乗せは $z\sigma/\sqrt{n}$ で、加入者 $n$ が増えれば小さくなる。こちらの安全在庫は $z\sigma\sqrt{L}$ で、リードタイム $L$ が延びれば大きくなる。分位点は同じ $\mathbf{2.3263}$ でも、掛かる相手が分母にいるか分子にいるかで意味が逆になる。

観察 4.2 分離子は、$z$ が掛かる相手の居場所である。分母なら「数が増えれば安心が安くなる」。分子なら「待たされるほど安心が高くつく」。式の見かけはほとんど同じで、動く向きだけが逆である。

観察 4.3 論文300 の基準で別根である。「増分が加速する」は $z(p)$ の凸性という持ち物を要る。「平方根でしか効かない」は分散が時間に比例するという別の持ち物を要る。片方から他方は出ない。

観察 4.4 言わないこと。九を足すのが得か損かは書かない。増分が加速するという事実だけを示し、どこで止めるべきかは述べない。それは品切れの費用を入れて初めて決まる。

5. 点呼と結び

  1. $z(0.90)=\mathbf{1.2816}$(計算 2.1):表と $10^{-4}$ 一致。
  2. $z(0.99)=\mathbf{2.3263}$(計算 2.1):同上。
  3. $z(0.9999)=\mathbf{3.7190}$(計算 2.1):同上。
  4. 九を一つで $\mathbf{41.7919}$ 個(計算 2.3):$90$ から $99$ へ。
  5. 九を二つで $\mathbf{55.7067}$ 個(計算 2.3):$99$ から $99.99$ へ。
  6. 比 $\mathbf{1.3330}$(計算 2.3):本稿の芯。
  7. 在庫そのものは $\mathbf{51.2621}$ から $\mathbf{148.7607}$(計算 2.1):$3$ 倍に収まる。
  8. $4$ 分の $1$ で $\mathbf{0.5000}$ 倍(計算 3.1):平方根・$12$ 桁。
  9. 半分では $\mathbf{0.7071}$ 倍(計算 3.1):見返りは小さい。
  10. 論文383 とは分母と分子の違い(観察 4.1):同じ $z$ が逆向き。
  11. 分離子は $z$ の相手の居場所(観察 4.2):分母か分子か。

結び:安全在庫は「品切れしない確率」を決めれば計算できる。その確率を「九」一つぶん上げるたびに、要る在庫の増え方が大きくなる。$\sigma=20$、$L=4$ 日なら、$90$ から $99$ パーセントへ上げるのに $\mathbf{41.7919}$ 個、$99$ から $99.99$ パーセントへ上げるにはさらに多い $\mathbf{55.7067}$ 個が要り、比は $\mathbf{1.3330}$ である。同じ「九を足す」という操作の値段が、足すたびに上がっていく。使った分位点 $z(0.90)=\mathbf{1.2816}$・$z(0.99)=\mathbf{2.3263}$・$z(0.9999)=\mathbf{3.7190}$ は表の値と $10^{-4}$ で一致しており、自作の実装が正しいことを外の値で確かめている。比を先に「二倍」と見積もっていたら外れていた。閾値は測ってから挟む。加速するのは増分であって、在庫そのものではない。$\mathbf{51.2621}$ 個から $\mathbf{148.7607}$ 個まで $3$ 倍に収まる。正規分布の裾が薄いからで、裾が重ければこの対照は崩れる。同じ式の中で、リードタイムは正反対の癖を持つ、$4$ 分の $1$ にすると安全在庫はちょうど半分($12$ 桁)になり、半分にしても $\mathbf{0.7071}$ 倍にしかならない。平方根でしか効かないので、リードタイムを半分にする努力の見返りは思ったより小さい。分離子は、$z$ が掛かる相手が分母にいるか分子にいるかである。論文383 の上乗せは $z\sigma/\sqrt{n}$ で加入者が増えれば小さくなり、本稿の安全在庫は $z\sigma\sqrt{L}$ でリードタイムが延びれば大きくなる。分位点は同じ $\mathbf{2.3263}$ でも、置かれる場所で「数が増えれば安心が安くなる」と「待たされるほど安心が高くつく」に分かれる。論文300 の基準では、「増分が加速する」は $z(p)$ の凸性を、「平方根でしか効かない」は分散が時間に比例することを、それぞれ別に要る。そして論文317 の読み違いが、ここでも起きる。$99$ パーセントは一回の補充あたりの約束であって、一年あたりではない。正直に言えば、在庫の運用は勧めていない。需要は正規分布に従うと仮定しており、裾の重い需要では分位点そのものが変わる。リードタイムは定数として扱ったので、それ自体が揺らぐ場合は別の式になる。品切れの費用も入れていない。「九を足すのが得か損か」も書かない。増分が加速するという事実を示すところまでである。

参考文献

  1. Abramowitz, M., & Stegun, I. A. (1964). Handbook of Mathematical Functions. National Bureau of Standards.
  2. Nahmias, S., & Olsen, T. L. (2015). Production and Operations Analysis (7th ed.). Waveland Press.
  3. Silver, E. A., Pyke, D. F., & Thomas, D. J. (2016). Inventory and Production Management in Supply Chains (4th ed.). CRC Press.
  4. 山岸勇輝 (2026). 『三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
  5. 山岸勇輝 (2026). 『有意水準は「一回あたり」の約束であって、研究あたりではない』[論文317]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22208819
  6. 山岸勇輝 (2026). 『保険料は期待損失ではない。そして上乗せを決めているのは、確率の精度ではなく加入者の数である』[論文383]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22699062
  7. Zipkin, P. H. (2000). Foundations of Inventory Management. McGraw-Hill.

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「「九」を一つ足すたびに、要る在庫の増え方が大きくなる」[論文548]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.23014181

YOI 548第1版・2026年9月ビットコインに記録済み

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住所:https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/548・DOI 10.5281/zenodo.23014181・CC BY 4.0・プレプリント(査読を経ていません)・ORCID 0009-0006-8587-3450

引用するとき

山岸勇輝 (2026). 「九」を一つ足すたびに、要る在庫の増え方が大きくなる [論文548]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/548 ・ DOI: 10.5281/zenodo.23014181

Yamagishi, Y. (2026). Each Further Nine Costs More Stock Than the Last [Paper 548]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/548; DOI: 10.5281/zenodo.23014181

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