要旨
最適な発注量には閉じた式があり、実務ではその値を守ることが求められる。本稿が示すのは、最適の周りが平らで、二倍外しても費用が四分の一しか増えないこと、そしてその平らさが最適の条件そのものから出ることである。新しい定理も法則も主張しない。
第一に、最適点では二つの費用がちょうど等しい。発注費も保管費も $\mathbf{15811.3883}$ 円で、差は $\mathbf{1.82\times10^{-12}}$ である(第2節)。
第二に、それは相加相乗平均の等号条件そのものである。二つの費用の積が発注量に依らないので、和が最小になるのは二つが等しいときに限る(第2節)。
第三に、これが本稿の芯である。最適の周りが平らである。発注量を $\mathbf{2}$ 倍にしても総費用は $\mathbf{1.2500}$ 倍にしかならず、半分にしても同じ $\mathbf{1.2500}$ 倍である(第3節)。
第四に、許容範囲は広い。費用が $5$ パーセント増に収まるのは $\mathbf{2307.9687}$ 個から $\mathbf{4332.8144}$ 個、最適の $\mathbf{0.7298}$ 倍から $\mathbf{1.3702}$ 倍までである(第3節)。
第五に、それでも際限なく平らではない。$4$ 倍にすると $\mathbf{2.1250}$ 倍になる。境目の反対側である(第3節)。
第六に、分離子は、費用の和が対数で対称かどうかである。$2$ 倍と $2$ 分の $1$ が同じ値を返すことが、平らさの正体である(第4節)。
キーワード:経済的発注量、在庫管理、相加相乗平均の不等式、最適の平坦さ、ハリスの式。
射程(何を示さないか)
新しい定理も法則も主張しない。経済的発注量の式も、相加相乗平均の不等式も標準的である。在庫の運用を勧めない。どの発注量を使うべきかは述べない。最適から外れたときに何が起きるかだけを見る。需要の変動を扱わない。需要は一定として計算した。ばらつきがある場合の安全在庫は別の主題である。欠品や数量割引を入れない。品切れの費用も、まとめ買いの値引きも入っていない。費用の推定を論じない。発注費と保管費をどう見積もるかは主題ではない。ここでは与えられたものとして扱う。「平らだから最適でなくてよい」とは書かない。平らなのは費用の側であって、他の制約(保管場所・資金)は別に効く。既刊との関係:論文486 は三つの分野に出る「ちょうど半分」が二次関数の頂点だと示した。本稿の「二つの費用が等しい」も同じ型で、最適の条件が二つの量の一致として現れる。ただしあちらは頂点、こちらは相加相乗平均の等号である。論文194 は四つの平均が一つの族であり、等号の柵が一つしかないと示した。本稿の最適点は、まさにその柵の上にある。論文300 は同根か別根かが判定できると示した。「最適の周りが平ら」と「最適が二量の一致」は「量の持ち物」の基準で別根である。加えたのは、最適点で二つの費用が $10^{-12}$ の桁で等しいことを確かめたこと、$2$ 倍と $2$ 分の $1$ がどちらも $\mathbf{1.2500}$ 倍を返すことを $12$ 桁で示したこと、$5$ パーセント増に収まる範囲を逆算で $\mathbf{0.7298}$ 倍から $\mathbf{1.3702}$ 倍と出したこと、$4$ 倍では平らでなくなることを対照に置いたこと、分離子を「対数で対称か」に置いたことである。
1. 記法と問い
設定:年間需要 $D$、一回あたりの発注費 $S$、一個を一年置く保管費 $H$ とする。一回に $Q$ 個ずつ発注するとき、年間の費用は
$$C(Q)=\frac{DS}{Q}+\frac{HQ}{2}$$
である。第一項が発注費、第二項が保管費である。
観察 1.1 二つの項は逆向きに動く。$Q$ を大きくすると発注は減り、在庫は増える。だから最小がどこかにある。
観察 1.2 二つの項の積は $Q$ に依らない。$\dfrac{DS}{Q}\cdot\dfrac{HQ}{2}=\dfrac{DSH}{2}$、積が一定で和を最小にする問題である。答は相加相乗平均の等号条件で決まる。
問い:最適を外すと、費用はどれだけ増えるか。
2. 最適点では、二つが等しい
計算 2.1:$D=10000$、$S=5000$、$H=10$ として最適発注量を出した。
| 量 | 値 |
|---|---|
| 最適発注量 $Q^{*}=\sqrt{2DS/H}$ | $\mathbf{3162.2777}$ 個 |
| そこでの発注費 | $\mathbf{15811.3883}$ 円 |
| そこでの保管費 | $\mathbf{15811.3883}$ 円 |
| 二つの差 | $\mathbf{1.82\times10^{-12}}$ |
| 総費用 | $\mathbf{31622.7766}$ 円 |
観察 2.2 二つの費用がちょうど等しい。差は丸めの桁、偶然ではなく、積が一定だからである。
観察 2.3 その値は独立に組み立てられる。$\sqrt{DSH/2}$ が同じ $\mathbf{15811.3883}$ を返す。$Q^{*}$ を経由せずに出るので、これは検査である。合わなければどちらかの式が違う。
観察 2.4 論文194 の柵の上にいる。相加平均が相乗平均に等しくなるのは、二つが等しいときだけである。最適の条件が「二つの量の一致」として現れるのは、そのためである。
観察 2.5 論文486 と同じ型で、根は違う。あちらは「ちょうど半分」が二次関数の頂点から出ると示した。こちらの一致は頂点ではなく、積が一定という条件から出る。同じ「一致が最適を告げる」でも、告げ方が違う。
3. 最適の周りは平らである
計算 3.1:発注量を最適から外して、総費用を測った。
| $Q/Q^{*}$ | 総費用(円) | 最小に対する比 |
|---|---|---|
| $0.50$ | $\mathbf{39528.4708}$ | $\mathbf{1.2500}$ |
| $0.80$ | $32413.3460$ | $1.0250$ |
| $1.00$ | $\mathbf{31622.7766}$ | $1.0000$ |
| $1.25$ | $32413.3460$ | $1.0250$ |
| $2.00$ | $\mathbf{39528.4708}$ | $\mathbf{1.2500}$ |
| $4.00$ | $\mathbf{67198.4003}$ | $\mathbf{2.1250}$ |
観察 3.2 これが本稿の芯である。$2$ 倍に外しても $\mathbf{1.2500}$ 倍、二倍まちがえて、費用は四分の一しか増えない。
観察 3.3 $2$ 倍と $2$ 分の $1$ が同じ値を返す。どちらも $\mathbf{1.2500}$ 倍で、$12$ 桁一致する。$C(Q)/C(Q^{*})=\frac12(x+1/x)$($x=Q/Q^{*}$)だからで、$x$ と $1/x$ が同じ値を返す。平らさは対数の対称性である。
観察 3.4 $0.80$ 倍と $1.25$ 倍も同じ。どちらも $1.0250$ 倍、二割まちがえて、費用は $2.5$ パーセントしか増えない。
計算 3.5:費用が $5$ パーセント増に収まる範囲を、二分法で求めた。
| 量 | 値 |
|---|---|
| 下限 | $\mathbf{2307.9687}$ 個(最適の $\mathbf{0.7298}$ 倍) |
| 上限 | $\mathbf{4332.8144}$ 個(最適の $\mathbf{1.3702}$ 倍) |
観察 3.6 逆算が検査になっている。両端で費用がちょうど $1.05$ 倍に戻る($10^{-6}$ 以内)、解き損ないではないことを別に確かめた。
観察 3.7 それでも際限なく平らではない。$4$ 倍にすると $\mathbf{2.1250}$ 倍、境目の反対側。平らなのは最適の近傍であって、どこまでもではない。
4. 分離子
観察 4.1 分離子は、費用の和が対数で対称かどうかである。$x$ と $1/x$ が同じ値を返す形なら平らになる。対称でない費用の形(たとえば欠品の罰が片側だけ重い場合)では、平らさは消える。
計算 4.2:需要が変わったとき、最適はどう動くか。
| 需要 | 最適発注量 | 比 |
|---|---|---|
| $1$ 倍 | $\mathbf{3162.2777}$ | $1.0000$ |
| $4$ 倍 | $\mathbf{6324.5553}$ | $\mathbf{2.0000}$ |
| $9$ 倍 | $\mathbf{9486.8330}$ | $\mathbf{3.0000}$ |
観察 4.3 需要が $4$ 倍でも最適は $2$ 倍にしかならない。平方根で効く($12$ 桁)、だから需要の見積もりを二倍まちがえても、最適発注量は $1.41$ 倍しかずれない。平らさが二重に効いている。
観察 4.4 論文300 の「量の持ち物」で別根である。「最適が二量の一致」は積が一定という持ち物を要る。「周りが平ら」は二階微分の大きさという別の持ち物を要る。同じ最適点についての二つの事実で、一方から他方は出ない。
観察 4.5 言わないこと。「平らだから最適でなくてよい」とは書かない。平らなのは費用の側であって、保管場所や資金といった他の制約は別に効く。
5. 点呼と結び
- 最適発注量 $\mathbf{3162.2777}$ 個(計算 2.1):$\sqrt{2DS/H}$。
- 二つの費用がどちらも $\mathbf{15811.3883}$ 円(計算 2.1):差は $\mathbf{1.82\times10^{-12}}$。
- $\sqrt{DSH/2}$ が同じ値を返す(観察 2.3):独立な組み立て。
- $2$ 倍で $\mathbf{1.2500}$ 倍(計算 3.1):本稿の芯。
- $2$ 分の $1$ でも同じ $\mathbf{1.2500}$ 倍(観察 3.3):対数で対称。
- $0.80$ 倍と $1.25$ 倍がどちらも $1.0250$ 倍(観察 3.4):二割で $2.5$ パーセント。
- $5$ パーセント増の範囲は $\mathbf{0.7298}$〜$\mathbf{1.3702}$ 倍(計算 3.5):広い。
- 両端で $1.05$ 倍に戻る(観察 3.6):逆算の突合せ。
- $4$ 倍では $\mathbf{2.1250}$ 倍(観察 3.7):境目の反対側。
- 需要 $4$ 倍で最適は $\mathbf{2.0000}$ 倍(計算 4.2):平方根。
- 分離子は対数の対称性(観察 4.1):片側が重ければ消える。
結び:最適な発注量には閉じた式があり、実務ではその値を守ることが求められる。最適点では二つの費用がちょうど等しい。$D=10000$、$S=5000$、$H=10$ なら最適発注量は $\mathbf{3162.2777}$ 個で、発注費も保管費も $\mathbf{15811.3883}$ 円、差は $\mathbf{1.82\times10^{-12}}$ である。偶然ではなく、二つの費用の積が $Q$ に依らないからで、積が一定のとき和を最小にするのは二つが等しいときに限る。$\sqrt{DSH/2}$ が $Q^{*}$ を経由せずに同じ値を返すので、これは検査になっている。論文194 の言う等号の柵の上にいるわけで、論文486 の「ちょうど半分」と同じ型ではあるが、あちらは二次関数の頂点、こちらは積が一定という条件から出る。そして最適の周りは平らである。発注量を $\mathbf{2}$ 倍にしても総費用は $\mathbf{1.2500}$ 倍にしかならず、二倍まちがえて四分の一しか増えない。$2$ 分の $1$ でも同じ $\mathbf{1.2500}$ 倍で $12$ 桁一致する。比が $\frac12(x+1/x)$ という形だからで、平らさの正体は対数の対称性である。$0.80$ 倍と $1.25$ 倍もどちらも $1.0250$ 倍で、二割の誤りが $2.5$ パーセントにしかならない。費用が $5$ パーセント増に収まる範囲は $\mathbf{2307.9687}$ 個から $\mathbf{4332.8144}$ 個、最適の $\mathbf{0.7298}$ 倍から $\mathbf{1.3702}$ 倍までで、両端で費用がちょうど $1.05$ 倍に戻ることを逆算で確かめた。ただし際限なく平らではなく、$4$ 倍にすると $\mathbf{2.1250}$ 倍になる。平らさは二重に効いている。需要が $4$ 倍になっても最適発注量は $\mathbf{2.0000}$ 倍にしかならないので、需要の見積もりを二倍まちがえても最適は $1.41$ 倍しかずれない。その上で、$1.41$ 倍ずれても費用は $5$ パーセント増に収まる。分離子は、費用の和が対数で対称かどうかである。$x$ と $1/x$ が同じ値を返す形なら平らになり、片側だけ罰が重い形(欠品の費用など)では平らさが消える。論文300 の「量の持ち物」でいえば、「最適が二量の一致」は積が一定という持ち物を要り、「周りが平ら」は二階微分の大きさという別の持ち物を要る。同じ最適点についての二つの事実で、一方から他方は出ない。正直に言えば、在庫の運用は勧めていない。どの発注量を使うべきかは述べず、最適から外れたときに何が起きるかだけを見た。需要は一定として計算しており、ばらつきがある場合の安全在庫は別の主題である。欠品の費用も数量割引も入れておらず、発注費と保管費をどう見積もるかにも立ち入っていない。「平らだから最適でなくてよい」とも書かない。平らなのは費用の側であって、保管場所や資金は別に効く。言えるのは、最適の条件が二量の一致として現れ、その周りが対数で対称に平らである、そこまでである。
参考文献
- Hardy, G. H., Littlewood, J. E., & Polya, G. (1934). Inequalities. Cambridge University Press.
- Harris, F. W. (1913). How Many Parts to Make at Once. Factory, The Magazine of Management.
- Silver, E. A., Pyke, D. F., & Thomas, D. J. (2016). Inventory and Production Management in Supply Chains (4th ed.). CRC Press.
- Wilson, R. H. (1934). A Scientific Routine for Stock Control. Harvard Business Review.
- 山岸勇輝 (2026). 『四つの平均は一つの族であり、等号の柵は一つしかない』[論文194]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22106809
- 山岸勇輝 (2026). 『三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
- 山岸勇輝 (2026). 『三つの分野に出る「ちょうど半分」は、物理ではなく二次関数の頂点である』[論文486]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22759952
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「最適の周りが平らなので、最適を厳密に守る必要がない」[論文547]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.23014175
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引用するとき
山岸勇輝 (2026). 最適の周りが平らなので、最適を厳密に守る必要がない [論文547]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/547 ・ DOI: 10.5281/zenodo.23014175
Yamagishi, Y. (2026). The Optimum Is Flat Around Itself, So It Need Not Be Held Exactly [Paper 547]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/547; DOI: 10.5281/zenodo.23014175
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