要旨
ねじで締めた継手に外力がかかれば、ボルトがそれを受けると考えられる。本稿が示すのは、外力が剛性の比で分かれ、多数派を受けもつのが被締結体のほうであること、そしてその結論が仮定の不確かさに耐えることである。新しい定理も法則も主張しない。
第一に、外力の多数派は被締結体が受ける。$10000$ N のうちボルトは $\mathbf{1975.3460}$ N、被締結体は $\mathbf{8024.6540}$ N で、比は $\mathbf{4.062404}$ である(第3節)。
第二に、これが本稿の芯である。仮定を大きく振っても結論が動かない。被締結体の外径を変えて分担が $\mathbf{4.394554}$ 倍動いても、どの場合もボルトは半分未満である(第2節)。
第三に、そのうち一つは教科書の目安に当たる。外径 $2.0$ 倍のとき $\mathbf{0.197535}$ で、慣行の $0.2$ と $0.005$ 以内で合う(第2節)。
第四に、継手が離れるのは、締付より大きい外力である。$30000$ N で締めた継手は $\mathbf{37384.7894}$ N、$\mathbf{1.246160}$ 倍まで離れない(第3節)。
第五に、離れた瞬間、ボルトの受けもちが $\mathbf{5.06}$ 倍に跳ぶ、$\mathbf{0.197535}$ 倍から $1$ 倍へ、途中を通らない(第4節)。
第六に、分離子は、被締結体がまだ圧縮されているかどうかである。離れたとたん、ボルトが外力の $100$ パーセントを受ける(第4節)。
キーワード:ボルト継手、外力の分配、剛性比、締付力、トルク係数。
射程(何を示さないか)
新しい定理も法則も主張しない。継手の剛性比による外力の分配も、締付トルク係数も標準的である。設計を勧めない。どの締付力を選ぶべきかは述べない。かけたときに何が起きるかだけを見る。被締結体の剛性を円筒で近似した。実際には圧縮が円錐状に広がる。だから値そのものは当てにせず、外径を $1.5$ 倍から $3.0$ 倍まで振って結論が変わらないことのほうを見た。弾性域だけを扱う。降伏も、ねじ山のせん断も、へたりも入っていない。ゆるみと繰り返し荷重を扱わない。回転ゆるみも疲労も主題ではない。締付トルクと軸力の関係を計算しない。トルクのうちどれだけが軸力になるかは論文463 が既に測っている(幾何が約束した $718.0783$ 倍のうち届くのは $11.61$ パーセント)。本稿はそこに立ち入らず、軸力が与えられたところから始める。「締めれば安全になる」とは書かない。締付を上げれば離れにくくなるが、ボルト自身の余裕は減る。既刊との関係:論文477 は効かない投入を続けているあいだ律速はそこにいないと示した。本稿の「ボルトを強くしても外力の $8$ 割は被締結体が受けている」は同じ形である。ただしあちらは律速の場所、こちらは荷重の分配で、外力が増えれば分配のほうは変わりうる。論文550 は全体の能力が最小で決まると示した。どちらも「決めているのは部品ではなく配置である」型だが、あちらは選ばれなかった側が全く寄与せず、こちらは目立たない側が多数派を受けもつ。寄与の消え方が正反対である。論文463 は幾何が約束した七百倍のうち届くのは一割強だと示した。あちらは締めるときの話、こちらは締め終わったあとの話である。あちらの終点(生じた軸力)が、こちらの出発点である。同じボルトを、時間の別々の区間で見ている。論文300 は同根か別根かが判定できると示した。「外力が剛性比で分かれる」と「離れるのは締付より大きい外力のとき」は別根である。加えたのは、被締結体の外径を $4$ 段に振って分担の幅を $\mathbf{4.394554}$ 倍と測ったこと、そのすべてでボルトが半分未満であることを確かめたこと、一つが教科書の $0.2$ と $0.005$ 以内で合うことを独立に照合したこと、分離点で被締結体の圧縮がちょうど $0$ に戻ることを逆算で確かめたこと、分離の前後で受けもちが $\mathbf{5.06}$ 倍に跳ぶことを示したことである。
1. 記法と問い
設定:ボルトで二枚の板を締める。ボルトは伸びており、板は縮んでいる。ボルトの剛性を $k_b$、被締結体の剛性を $k_m$ とすると、外力 $F$ のうちボルトの張力を増やすぶんは
$$\Delta F_b=\phi F,\qquad \phi=\frac{k_b}{k_b+k_m}$$
であり、残りの $(1-\phi)F$ は被締結体の圧縮がゆるむことで受けもたれる。
観察 1.1 直感は $\phi=1$ を予想する。「引っぱっているのだからボルトが受ける」。だが板が縮んだままなら、外力の一部は「板がゆるむこと」で吸収される。
観察 1.2 $k_m$ は $k_b$ より大きい。ボルトは細長く、板は太く短い。剛いほうが多く受けもつので、板のほうが多数派になる。
問い:$\phi$ はいくらか。そして、$k_m$ は正確には求まらない。それでも結論は言えるか。
2. 仮定を振っても、結論が動かない
計算 2.1:鋼の M10(有効断面積 $58$ mm$^2$)、把持長 $40$ mm とした。$k_b=E A_s/L=\mathbf{2.987000\times10^{8}}$ N/m である。被締結体は内径がボルト径に等しい中空円筒とし、その外径を四段に振った。
| 被締結体の外径 | $k_m/k_b$ | ボルトの分担 $\phi$ |
|---|---|---|
| $1.5$ 倍 | $1.692668$ | $\mathbf{0.371379}$ |
| $2.0$ 倍 | $4.062404$ | $\mathbf{0.197535}$ |
| $2.5$ 倍 | $7.109208$ | $\mathbf{0.123317}$ |
| $3.0$ 倍 | $10.833078$ | $\mathbf{0.084509}$ |
観察 2.2 値そのものは大きく動く。$\mathbf{0.084509}$ から $\mathbf{0.371379}$ まで、$\mathbf{4.394554}$ 倍である。$4$ より大きく $5$ より小さい。実際には圧縮は円錐状に広がるので、円筒の外径をいくつに取るかは決めきれない。だから $\phi$ の数値そのものは当てにできない。
観察 2.3 これが本稿の芯である。それでも四つすべてで $\phi$ は半分未満である。仮定を $\mathbf{4.394554}$ 倍振っても、ボルトが少数派であることは変わらない。数が当てにできないときでも、不等号は言える。
観察 2.4 一つは教科書の目安に当たる。外径 $2.0$ 倍のとき $\mathbf{0.197535}$ で、慣行で引かれる $0.2$ と $0.005$ 以内で合う。これは本稿とは別に定まっている値との突合せである。
観察 2.5 向きも確かめた。被締結体を硬くすれば $\phi$ は単調に減る。逆向きに動けば式が違う。
3. 離れる点と、締めた仕事の行方
計算 3.1:外径 $2.0$ 倍($\phi=\mathbf{0.197535}$)で、外力 $10000$ N をかけた。
| 量 | 値 |
|---|---|
| ボルトの張力の増加 | $\mathbf{1975.3460}$ N |
| 被締結体の圧縮の減少 | $\mathbf{8024.6540}$ N |
| 被締結体 $\div$ ボルト | $\mathbf{4.062404}$ |
観察 3.2 二つを足すと外力に戻る。$12$ 桁で $10000$ N、分配であって、どこかに消えているわけではない。
観察 3.3 論文477 と同じ形である。ボルトを太くしても、外力の $8$ 割は被締結体が受けている。効かない投入を続けているあいだ、荷重はそこにいない。ただしあちらは律速の場所、こちらは荷重の分配で、外力が増えれば分配のほうは変わりうる。
計算 3.4:初期締付 $30000$ N のとき、継手が離れる外力を求めた。
| 量 | 値 |
|---|---|
| 分離する外力 | $\mathbf{37384.7894}$ N |
| 初期締付に対する比 | $\mathbf{1.246160}$ |
観察 3.5 締付より大きい外力まで離れない。$\mathbf{1.246160}$ 倍で、$1.2$ より大きく $1.3$ より小さい。「$30000$ N で締めたのだから $30000$ N で離れる」という直感の反対側である。外力の一部をボルトが引き受けるぶん、圧縮が $0$ になるまでに余裕がある。
観察 3.6 逆算が検査になっている。その外力を戻すと被締結体の圧縮がちょうど $0$ になる($10^{-9}$)、解き損ないではないことを別に確かめた。
観察 3.7 この初期締付がどこから来たかは、本稿では問わない。レンチのトルクのうちどれだけが軸力になるかは、論文463 が既に測っている。幾何が約束した $718.0783$ 倍のうち、届くのは $11.61$ パーセントだった。あちらは締めるときの話、本稿は締め終わったあとの話で、あちらの終点が本稿の出発点である。同じボルトを、時間の別々の区間で見ている。
4. 分離子
観察 4.1 分離子は、被締結体がまだ圧縮されているかどうかである。圧縮が残っているあいだは外力が $\phi$ と $1-\phi$ に分かれる。離れたとたん、ボルトが外力の $100$ パーセントを受ける。$\phi$ から $1$ へ、途中を通らずに跳ぶ。
観察 4.2 だから分離点の手前と先では、別の式になる。$\mathbf{37384.7894}$ N を境に、ボルトの受けもちが $\mathbf{0.197535}$ 倍から $1$ 倍に変わる。$5.06$ 倍の跳びである。継手が離れることが危険なのは、そこから先で急に効くからである。
観察 4.3 論文550 とは寄与の消え方が逆である。あちらでは選ばれなかった工程の寄与がちょうど $0$ だった。こちらでは目立たない側(被締結体)が多数派を受けもつ。どちらも「決めているのは部品ではなく配置である」型だが、見落とした側が何もしないのと、ほとんど全部やっているのとでは、見落としの意味が違う。
観察 4.4 論文300 の基準で別根である。「外力が剛性比で分かれる」は両者が直列に弾性変形するという持ち物を要る。「離れるのは締付より大きい外力のとき」は、そこに初期締付という持ち物が加わる。締付が $0$ なら前者は成り立ち、後者は消える。
観察 4.5 言わないこと。「締めれば安全になる」とは書かない。締付を上げれば離れにくくなるが、ボルト自身の余裕は減る。二つは逆を向いている。
5. 点呼と結び
- ボルトの剛性 $\mathbf{2.987000\times10^{8}}$ N/m(計算 2.1):$E A_s/L$。
- $\phi$ の幅 $\mathbf{0.084509}$〜$\mathbf{0.371379}$(計算 2.1):$\mathbf{4.394554}$ 倍。
- どの仮定でもボルトは半分未満(観察 2.3):本稿の芯。
- 外径 $2.0$ 倍で $\mathbf{0.197535}$(計算 2.1):教科書の $0.2$ と $0.005$ 以内。
- ボルト $\mathbf{1975.3460}$ N・被締結体 $\mathbf{8024.6540}$ N(計算 3.1):比 $\mathbf{4.062404}$。
- 足すと外力に戻る(観察 3.2):$12$ 桁。
- 分離する外力 $\mathbf{37384.7894}$ N(計算 3.4):締付の $\mathbf{1.246160}$ 倍。
- 戻すと圧縮がちょうど $0$(観察 3.6):逆算の突合せ。
- 締付の出どころは論文463(観察 3.7):あちらの終点が本稿の出発点。
- 分離子は圧縮が残っているか(観察 4.1):離れれば $\phi$ が $1$ に跳ぶ。
結び:ねじで締めた継手に外力がかかれば、ボルトがそれを受けると考えられる。ところが外力は剛性の比で分かれ、多数派を受けもつのは被締結体のほうである。把持長 $40$ mm の M10 ボルトに $10000$ N をかけると、ボルトの張力は $\mathbf{1975.3460}$ N しか増えず、残る $\mathbf{8024.6540}$ N は被締結体の圧縮がゆるむことで受けもたれる。比は $\mathbf{4.062404}$ で、二つを足すと $12$ 桁で外力に戻るから、分配であってどこかに消えているのではない。ボルトは細長く板は太く短いので $k_m$ が $k_b$ より大きく、剛いほうが多く受けもつ。そしてこの結論は、仮定の不確かさに耐える。実際には圧縮が円錐状に広がるので被締結体の剛性は決めきれない。そこで円筒の外径を $1.5$ 倍から $3.0$ 倍まで振ったところ、ボルトの分担は $\mathbf{0.084509}$ から $\mathbf{0.371379}$ まで $\mathbf{4.394554}$ 倍も動いた。それでも四つすべてで半分未満である。数そのものが当てにできないときでも、不等号のほうは言える。そのうち外径 $2.0$ 倍の $\mathbf{0.197535}$ は、慣行で引かれる $0.2$ と $0.005$ 以内で合っており、本稿とは別に定まっている値との突合せになっている。継手が離れるのも、締付より大きい外力のときである。$30000$ N で締めた継手は $\mathbf{37384.7894}$ N、$\mathbf{1.246160}$ 倍までは離れない。外力の一部をボルトが引き受けるぶん、圧縮が $0$ になるまでに余裕がある。その外力を戻すと被締結体の圧縮がちょうど $0$ になることを逆算で確かめた。なお、その初期締付がどこから来たかは本稿では問わない。レンチのトルクのうちどれだけが軸力になるかは論文463 が既に測っており、幾何が約束した $718.0783$ 倍のうち届くのは $11.61$ パーセントだった。あちらは締めるときの話、本稿は締め終わったあとの話で、あちらの終点が本稿の出発点である。分離子は、被締結体がまだ圧縮されているかどうかである。圧縮が残っているあいだ外力は $\phi$ と $1-\phi$ に分かれ、離れたとたんボルトが $100$ パーセントを受ける。$\mathbf{37384.7894}$ N を境に受けもちが $\mathbf{0.197535}$ 倍から $1$ 倍へ、$5.06$ 倍の跳びになる。継手が離れることが危険なのは、そこから先で急に効くからである。論文300 の基準では、「外力が剛性比で分かれる」は両者が直列に弾性変形することを、「離れるのは締付より大きい外力のとき」はそこに初期締付を、それぞれ別に要る。締付が $0$ なら前者は成り立ち後者は消える。既刊との位置、論文477 と同じ形である。ボルトを太くしても外力の $8$ 割は被締結体が受けており、効かない投入を続けているあいだ荷重はそこにいない。ただしあちらは律速の場所、こちらは荷重の分配で、外力が増えれば分配のほうは変わりうる。論文550 とは寄与の消え方が逆である。あちらでは選ばれなかった工程の寄与がちょうど $0$ だったが、こちらでは目立たない側が多数派を受けもつ。どちらも「決めているのは部品ではなく配置である」型だが、見落とした側が何もしないのと、ほとんど全部やっているのとでは、見落としの意味が違う。正直に言えば、設計は勧めていない。どの締付力を選ぶべきかは述べず、かけたときに何が起きるかだけを見た。被締結体の剛性は円筒で近似しており、だからこそ値そのものではなく結論が動かないことのほうを見ている。弾性域だけを扱い、降伏もねじ山のせん断もへたりも入れておらず、ゆるみと繰り返し荷重も扱っていない。締付トルクと軸力の関係も計算していない。それは論文463 の射程で、本稿は軸力が与えられたところから始める。そして「締めれば安全になる」とも書かない。締付を上げれば離れにくくなるが、ボルト自身の余裕は減る。
参考文献
- Bickford, J. H. (2008). Introduction to the Design and Behavior of Bolted Joints (4th ed.). CRC Press.
- Budynas, R. G., & Nisbett, J. K. (2015). Shigley’s Mechanical Engineering Design (10th ed.). McGraw-Hill.
- VDI 2230 Part 1 (2015). Systematic Calculation of Highly Stressed Bolted Joints. Verein Deutscher Ingenieure.
- 山岸勇輝 (2026). 『三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
- 山岸勇輝 (2026). 『幾何が約束した七百倍のうち、届くのは一割強である』[論文463]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22733205
- 山岸勇輝 (2026). 『効かない投入を続けているあいだ、律速はそこにいない』[論文477]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22733686
- 山岸勇輝 (2026). 『広げた効きは $1$ か $0$ のどちらかで、途中が無い』[論文550]. Zenodo. 10.5281/zenodo.23014187
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「外力の多数派を受けているのは、ボルトではない」[論文556]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.23014218
日付の証拠(OpenTimestamps):日本語版の .ots・英語版の .ots・SHA256SUMS
予備の置き場所(ミラー。中身は上と同じです):PDF 日本語・PDF English・SHA256SUMS
住所:https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/556・DOI 10.5281/zenodo.23014218・CC BY 4.0・プレプリント(査読を経ていません)・ORCID 0009-0006-8587-3450
引用するとき
山岸勇輝 (2026). 外力の多数派を受けているのは、ボルトではない [論文556]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/556 ・ DOI: 10.5281/zenodo.23014218
Yamagishi, Y. (2026). What Carries Most of an External Load Is Not the Bolt [Paper 556]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/556; DOI: 10.5281/zenodo.23014218
@misc{yamagishi2026yoi556,
author = {Yamagishi, Yuuki},
title = {What Carries Most of an External Load Is Not the Bolt},
year = {2026},
howpublished = {YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/556},
doi = {10.5281/zenodo.23014218},
note = {Preprint, edition 1}
}
指紋(SHA-256)と確かめ方
c58f64296d23aa32271b981e0201748023817e54f298e60307d66ba0c9071fe7 yamagishi_yoi556_v1_jp.pdf08e85416cfa6c88058eb6b8bd09954800fcea25f93c4782c61526ff0045541cc yamagishi_yoi556_v1_en.pdfPDF と .ots を同じ場所に保存し、opentimestamps.org に .ots、続けて PDF を落とすと、記録された日時が表示されます。PDF が 1 バイトでも変わっていれば通りません。