要旨
管理図の性能は「平均して何点まで誤報が出ないか」で語られる。本稿が示すのは、その平均が典型値ではなく、半分はその $0.69$ 倍で鳴ること、そしてこの $0.69$ が $\ln 2$ であって管理図の性質ではないことである。新しい定理も法則も主張しない。
第一に、使う確率は独立に確かめられる。一点が三シグマの外に出る確率 $\mathbf{0.0026997961}$ が、慣行の $0.0027$ と $10^{-5}$ で一致する(第2節)。
第二に、これが本稿の芯である。平均は $\mathbf{370.3983}$ 点、中央は $\mathbf{256.3938}$ 点である。半分はその手前で鳴る(第2節)。
第三に、比は $\ln 2$ である。$\mathbf{0.692211}$ 対 $0.693147$ で、$0.001$ 以内。管理図の性質ではなく、幾何分布の性質である(第2節)。
第四に、平均に達するまでに鳴る確率は $1-1/e$ である。$\mathbf{0.632618}$ 対 $0.632121$。$6$ 割以上が「平均より早い」(第3節)。
第五に、一枚の管理図でも誤報は珍しくない。$25$ 点で $\mathbf{0.065353}$、$100$ 点で $\mathbf{0.236884}$ である(第3節)。
第六に、分離子は、鳴る確率が点ごとに一定かどうかである。一定でなければ連長は幾何分布ではなくなり、$\ln 2$ も $1-1/e$ も消える(第4節)。
キーワード:管理図、平均連長、三シグマ管理限界、幾何分布、中央値。
射程(何を示さないか)
新しい定理も法則も主張しない。三シグマ限界も平均連長も幾何分布も標準的である。管理図の運用を勧めない。限界を何シグマに置くべきかは述べない。工程がずれた場合の連長を扱わない。ここで測ったのは工程が安定しているときの誤報だけである。ずれを検出するまでの点数は別の主題である。分布は正規と仮定した。裾が重ければ $0.0027$ そのものが変わる。連続する点のあいだの相関を入れない。各点は独立とした。自己相関があれば連長は幾何分布ではない。「連の判定」など追加規則を入れない。一点が限界を越えたときだけを見ており、$7$ 点連続などの規則を足せば誤報はもっと増える。「三シグマは緩い」とも「厳しい」とも書かない。平均と中央がずれるという事実だけを示す。既刊との関係:論文308 はあなたが乗るバスの間隔が平均の $2$ 倍だと示した。どちらも「平均は典型ではない」型だが、根が違う。あちらは長い区間ほど観測されやすいという標本の偏り、こちらは幾何分布そのものの歪みである。あちらは平均より大きく、こちらは平均より小さい側にずれる。論文317 は有意水準が「一回あたり」の約束だと示した。$0.0027$ も一点あたりの約束であって、一枚の管理図あたりではない。$25$ 点並べれば $\mathbf{0.065353}$ になる。論文300 は同根か別根かが判定できると示した。「中央が平均の $\ln 2$ 倍」と「平均までに鳴る確率が $1-1/e$」は同じ幾何分布から出る同根である。加えたのは、三シグマの確率を独立に知られた値と照合したこと、平均と中央を $\mathbf{370.3983}$・$\mathbf{256.3938}$ と測り比を $\ln 2$ と突合せたこと、中央連長を逆算して確率がちょうど $0.5$ に戻ることを確かめたこと、平均までに鳴る確率を $1-1/e$ と照合したこと、分離子を「鳴る確率が点ごとに一定か」に置いたことである。
1. 記法と問い
設定:工程が安定しているとき、管理図の一点が三シグマ限界の外に出る確率を $\alpha$ とする。各点が独立なら、次に外れるまでの点数 $L$ は幾何分布に従い
$$\Pr(L>m)=(1-\alpha)^{m},\qquad \mathbb{E}[L]=\frac{1}{\alpha}$$
である。この $\mathbb{E}[L]$ が平均連長($\mathrm{ARL}$)と呼ばれる。
観察 1.1 性能はこの平均で語られる。「三シグマなら平均 $370$ 点までもつ」という言い方をする。平均が典型値であるという前提が入っている。
観察 1.2 幾何分布は歪んでいる。最頻値は $1$ 点目である。最も起こりやすいのは「すぐ鳴る」ことで、平均を押し上げているのは長い尾のほうである。
問い:平均と、半分の場合とは、どれだけ離れているか。
2. 平均は $370$、中央は $256$
計算 2.1:正規分布から $\alpha$ を出し、平均と中央を求めた。
| 量 | 値 |
|---|---|
| 一点が三シグマの外に出る確率 $\alpha$ | $\mathbf{0.0026997961}$ |
| 平均連長 $1/\alpha$ | $\mathbf{370.3983}$ 点 |
| 中央連長 $\ln(1/2)/\ln(1-\alpha)$ | $\mathbf{256.3938}$ 点 |
| 中央 $\div$ 平均 | $\mathbf{0.692211}$ |
| $\ln 2$ | $0.693147$ |
観察 2.2 $\alpha$ は独立に確かめられる。慣行で引かれる $0.0027$ と $10^{-5}$ 以内で一致した。自作の実装ではなく、外にある値との突合せである。
観察 2.3 $\mathrm{ARL}$ も独立に確かめられる。慣行の $370$ と $1$ 点以内で一致した。ここまでは教科書の値をなぞっている。
観察 2.4 これが本稿の芯である。中央は $\mathbf{256.3938}$ 点で、平均より $114$ 点も手前にある。「平均 $370$ 点までもつ」と聞いた人が思う数より、半分の場合は早く鳴る。
観察 2.5 比は $\ln 2$ である。$\mathbf{0.692211}$ と $0.693147$ が $0.001$ 以内で合う。$\ln 2$ は本稿の計算とまったく無関係に定まる数なので、これは検査である。合わなければ幾何分布の扱いが違う。
観察 2.6 管理図の性質ではない。$\ln 2$ が出るのは連長が幾何分布だからで、三シグマにも正規分布にも依らない。限界を何シグマに置いても、$\alpha$ が小さいかぎり中央は平均の $0.69$ 倍である。
観察 2.7 逆算でも確かめた。得た中央連長を戻すと、そこまでに鳴っている確率がちょうど $0.5$ になる($10^{-12}$)、解き損ないではないことを別に見ている。
3. 何点までに鳴るか
計算 3.1:点数を決めて、そこまでに一度でも鳴る確率を出した。
| 点数 | 一度でも鳴る確率 |
|---|---|
| $25$(一枚ぶん) | $\mathbf{0.065353}$ |
| $100$ | $\mathbf{0.236884}$ |
| $370$(平均連長) | $\mathbf{0.632222}$ |
| $\mathbf{370.3983}$(平均連長ちょうど) | $\mathbf{0.632618}$ |
| $1-1/e$ | $0.632121$ |
観察 3.2 平均に達するまでに鳴る確率は $1-1/e$ である。$\mathbf{0.632618}$ と $0.632121$ が $0.001$ 以内、これも本稿と無関係に定まる数との突合せである。
観察 3.3 $6$ 割以上が「平均より早い」。平均まで持つほうが少数派である。平均という言葉が、多数派の経験を表していない。
観察 3.4 一枚の管理図でも誤報は珍しくない。$25$ 点で $\mathbf{0.065353}$、つまり $15$ 枚に $1$ 枚ほどは工程が正常でも鳴る。$0.06$ より大きく $0.07$ より小さい。$100$ 点なら $\mathbf{0.236884}$ で、四回に一回近い。
観察 3.5 論文317 の読み違いが、ここでも起きる。$0.0027$ は一点あたりの約束であって、一枚あたりではない。有意水準が「一回あたり」であるのと同じ型である。
観察 3.6 論文308 とは根が違う。あちらは長い区間ほど観測されやすいという標本の偏りで、経験する値が平均より $2$ 倍「大きく」なった。こちらは幾何分布そのものの歪みで、典型は平均より「小さい」。同じ「平均は典型ではない」でも、ずれる向きが逆である。
4. 分離子
観察 4.1 分離子は、鳴る確率が点ごとに一定かどうかである。一定なら連長は幾何分布で、中央は平均の $\ln 2$ 倍になる。工程が徐々にずれていく場合、鳴る確率は点とともに上がるので連長は幾何分布ではなく、$\ln 2$ も $1-1/e$ も出てこない。
観察 4.2 第二の分離子は点どうしの独立である。自己相関があれば、鳴った直後にまた鳴りやすい。そのときは中央がさらに前へ寄る。
観察 4.3 論文300 の基準では、この二つは同根である。「中央が平均の $\ln 2$ 倍」と「平均までに鳴る確率が $1-1/e$」は、どちらも $(1-\alpha)^{m}$ 一つから出る。体系のふだんの結論は「別根」だが、ここは同根である。同根だと言えることも、判定の結果である。
観察 4.4 言わないこと。「三シグマは緩い」とも「厳しい」とも書かない。平均と中央がずれるという事実だけを示す。限界をどこに置くかは、見逃しの側を測らなければ決まらない。
5. 点呼と結び
- $\alpha=\mathbf{0.0026997961}$(計算 2.1):慣行の $0.0027$ と $10^{-5}$ 一致。
- 平均連長 $\mathbf{370.3983}$ 点(計算 2.1):慣行の $370$ と $1$ 点以内。
- 中央連長 $\mathbf{256.3938}$ 点(計算 2.1):本稿の芯。
- 比 $\mathbf{0.692211}$(観察 2.5):$\ln 2$ と $0.001$ 以内。
- 逆算で確率が $0.5$ に戻る(観察 2.7):$10^{-12}$。
- 平均までに鳴る確率 $\mathbf{0.632618}$(計算 3.1):$1-1/e$ と $0.001$ 以内。
- $25$ 点で $\mathbf{0.065353}$(計算 3.1):一枚でも珍しくない。
- $100$ 点で $\mathbf{0.236884}$(計算 3.1):四回に一回近い。
- 分離子は確率が点ごとに一定か(観察 4.1):ずれれば幾何分布でない。
- 二つの事実は同根(観察 4.3):どちらも $(1-\alpha)^{m}$ から。
結び:管理図の性能は「平均して何点まで誤報が出ないか」で語られる。ところがその平均は典型値ではない。三シグマの管理図で一点が外に出る確率は $\mathbf{0.0026997961}$、平均連長は $\mathbf{370.3983}$ 点だが、中央連長は $\mathbf{256.3938}$ 点で、$114$ 点も手前にある。半分は「平均 $370$ 点までもつ」と聞いた人が思う数より早く鳴る。使った $\alpha$ は慣行の $0.0027$ と $10^{-5}$ 以内、$\mathrm{ARL}$ も慣行の $370$ と $1$ 点以内で合っており、ここまでは教科書の値をなぞっている。そして中央と平均の比は $\ln 2$ である。$\mathbf{0.692211}$ と $0.693147$ が $0.001$ 以内で合う。$\ln 2$ は本稿の計算と無関係に定まる数なので、これは突合せになっている。$\ln 2$ が出るのは連長が幾何分布だからであって、三シグマにも正規分布にも依らない。限界を何シグマに置いても、$\alpha$ が小さいかぎり中央は平均の $0.69$ 倍である。管理図の性質ではなく、分布の性質である。得た中央連長を戻すと、そこまでに鳴っている確率がちょうど $0.5$ になることも別に確かめた。平均に達するまでに鳴ってしまう確率は $1-1/e$ である。$\mathbf{0.632618}$ と $0.632121$ が $0.001$ 以内で合う。$6$ 割以上が「平均より早い」のだから、平均という言葉は多数派の経験を表していない。一枚ぶんの $25$ 点でも一度でも鳴る確率は $\mathbf{0.065353}$、$15$ 枚に $1$ 枚ほどは工程が正常でも鳴り、$100$ 点なら $\mathbf{0.236884}$ で四回に一回近い。論文317 の読み違いが重なる。$0.0027$ は一点あたりの約束であって、一枚あたりではない。分離子は、鳴る確率が点ごとに一定かどうかである。一定なら連長は幾何分布で中央は平均の $\ln 2$ 倍になり、工程が徐々にずれていく場合は鳴る確率が点とともに上がるので、$\ln 2$ も $1-1/e$ も出てこない。第二の分離子は点どうしの独立で、自己相関があれば中央はさらに前へ寄る。論文300 の基準では、「中央が平均の $\ln 2$ 倍」と「平均までに鳴る確率が $1-1/e$」はどちらも $(1-\alpha)^{m}$ 一つから出るので同根である。体系のふだんの結論は別根だが、同根だと言えることもまた判定の結果である。論文308 とは根が違う。あちらは長い区間ほど観測されやすいという標本の偏りで、経験する値が平均より $2$ 倍大きくなった。こちらは幾何分布そのものの歪みで、典型は平均より小さい。同じ「平均は典型ではない」でも、ずれる向きが逆である。正直に言えば、管理図の運用は勧めていない。限界を何シグマに置くべきかは述べず、測ったのは工程が安定しているときの誤報だけで、ずれを検出するまでの点数は別の主題である。分布は正規と仮定しており、裾が重ければ $0.0027$ そのものが変わる。各点は独立とし、$7$ 点連続などの追加規則も入れていない(足せば誤報はもっと増える)。そして「三シグマは緩い」とも「厳しい」とも書かない。平均と中央がずれるという事実だけを示した。
参考文献
- Feller, W. (1968). An Introduction to Probability Theory and Its Applications, Volume 1 (3rd ed.). Wiley.
- Montgomery, D. C. (2019). Introduction to Statistical Quality Control (8th ed.). Wiley.
- Shewhart, W. A. (1931). Economic Control of Quality of Manufactured Product. Van Nostrand.
- Woodall, W. H. (2000). Controversies and Contradictions in Statistical Process Control. Journal of Quality Technology.
- 山岸勇輝 (2026). 『三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
- 山岸勇輝 (2026). 『あなたが乗るバスの間隔は、平均の $2$ 倍である』[論文308]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22172305
- 山岸勇輝 (2026). 『有意水準は「一回あたり」の約束であって、研究あたりではない』[論文317]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22208819
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「「平均 370 点までもつ」の半分は、256 点までに鳴る」[論文554]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.23014204
日付の証拠(OpenTimestamps):日本語版の .ots・英語版の .ots・SHA256SUMS
予備の置き場所(ミラー。中身は上と同じです):PDF 日本語・PDF English・SHA256SUMS
住所:https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/554・DOI 10.5281/zenodo.23014204・CC BY 4.0・プレプリント(査読を経ていません)・ORCID 0009-0006-8587-3450
引用するとき
山岸勇輝 (2026). 「平均 370 点までもつ」の半分は、256 点までに鳴る [論文554]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/554 ・ DOI: 10.5281/zenodo.23014204
Yamagishi, Y. (2026). Half the Charts That ``Last 370 Points on Average'' Alarm by 256 [Paper 554]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/554; DOI: 10.5281/zenodo.23014204
@misc{yamagishi2026yoi554,
author = {Yamagishi, Yuuki},
title = {Half the Charts That ``Last 370 Points on Average'' Alarm by 256},
year = {2026},
howpublished = {YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/554},
doi = {10.5281/zenodo.23014204},
note = {Preprint, edition 1}
}
指紋(SHA-256)と確かめ方
85bf0e37775a3e5dd340dbacd9b08852ad60086d19e1da1c6a7a1399cc12e168 yamagishi_yoi554_v1_jp.pdff0b246a103231eb93b8f0097101d6aadfbfe707e51bcf4fde4233ef339a79f6f yamagishi_yoi554_v1_en.pdfPDF と .ots を同じ場所に保存し、opentimestamps.org に .ots、続けて PDF を落とすと、記録された日時が表示されます。PDF が 1 バイトでも変わっていれば通りません。