要旨
接着が足りなければ、重ねを長くすればよいと考えられる。本稿が示すのは、せん断が両端に寄るために耐力が頭打ちになること、そしてその頭打ちを作っているのが接着剤ではなく被着材の伸びであることである。新しい定理も法則も主張しない。
第一に、せん断は一様ではない。重ね $20$ mm で最大が平均の $\mathbf{2.698236}$ 倍、$40$ mm で $\mathbf{5.345468}$ 倍になる(第2節)。
第二に、これが本稿の芯である。だから倍にしても増えない。$20$ mm を $40$ mm にして耐力は $\mathbf{1.009542}$ 倍である(第3節)。
第三に、短いうちは効く。$5$ mm を $10$ mm にすれば $\mathbf{1.491669}$ 倍になる。同じ「倍」が別物である(第3節)。
第四に、頭打ちの値は閉じた式で書ける。$2/\omega=\mathbf{7.483315}$ mm 相当で、$40$ mm の時点で既にその $99$ パーセントを超えている(第3節)。
第五に、接着層を厚くすると尖りが下がる。$0.1$ mm の $\mathbf{3.783587}$ 倍が、$0.8$ mm では $\mathbf{1.534604}$ 倍になる(第4節)。
第六に、分離子は、被着材が伸びるかどうかである。伸びなければ応力は一様で、耐力は重ねに比例して増え続ける(第4節)。
キーワード:接着継手、せん断遅れ、フォルケルセンの解析、重ね長さ、応力集中。
射程(何を示さないか)
新しい定理も法則も主張しない。フォルケルセンのせん断遅れ解析は $1938$ 年からある。接着の設計を勧めない。どの重ね長さを選ぶべきかは述べない。はく離応力を入れない。単純重ね継手では偏心による曲げとはく離が効く。本稿はせん断だけを見ており、その意味でグッドイヤーの解析より粗い。接着剤を線形弾性とした。降伏する接着剤では尖りが頭打ちになり、耐力はここで出した値より大きくなる。破壊の基準を選ばない。最大応力で壊れるとして耐力を比で出した。破壊力学の基準を採ればちがう数になる。硬化収縮・吸湿・温度を扱わない。残留応力も経時変化も入っていない。「厚い接着層がよい」とは書かない。尖りは下がるが、厚い層は欠陥も入りやすく、はく離にも弱い。本稿はそちらを測っていない。既刊との関係:論文343 は穴の大きさが応力集中の式に入っていないと示した。本稿は逆で、重ねの長さが式に入り、しかも入ることが頭打ちを作っている。あちらは「入らないこと」が結論を作り、こちらは「入ること」が結論を作る。論文344 は強度が材料の定数ではなく体積の関数だと示し、大きさが入る量と入らない量が並んでいると述べた。本稿はその並びに一つ足す。同じ「接着面の大きさ」でも、面積は効き、長さは途中から効かなくなる。論文560 は平方根で伸びる層の成長が前半に偏ると示した。どちらも「増やしても返ってこなくなる」型だが、あちらは自分の作った層が障壁になるため、こちらは被着材が伸びて荷重が端に寄るためである。論文300 は同根か別根かが判定できると示した。「せん断が一様でない」と「耐力が頭打ちになる」は同根である。加えたのは、尖りを五段の重ね長さで測ったこと、倍にしたときの増分を $\mathbf{1.009542}$ 倍と $\mathbf{1.491669}$ 倍で対比したこと、頭打ちの値を独立な閉じた式 $2/\omega$ と照合したこと、接着層の厚みを四段振って尖りが $\mathbf{2.465513}$ 倍下がることを測ったこと、分離子を「被着材が伸びるかどうか」に置いたことである。
1. 記法と問い
設定:厚さ $t$・ヤング率 $E$ の板を二枚、厚さ $t_a$・せん断弾性率 $G_a$ の接着層で長さ $L$ だけ重ねて貼る。荷重は片方の板から接着層を通ってもう片方へ渡る。フォルケルセンの解では、せん断応力の最大と平均の比が
$$\frac{\tau_{\max}}{\bar{\tau}}=u\coth u,\qquad u=\frac{\omega L}{2},\qquad \omega=\sqrt{\frac{2G_a}{E\,t\,t_a}}$$
で与えられる。
観察 1.1 一様だと思う理由はある。接着面積が $2$ 倍なら耐力も $2$ 倍、と考えるのが自然である。その前提は「どこも同じだけ働いている」ことである。
観察 1.2 しかし板は伸びる。荷重を持っている側の板は伸び、渡し終えた側は伸びない。両者のずれが接着層のせん断であり、ずれが大きいのは荷重の受け渡しが起きる両端である。
問い:重ねを長くすると、耐力はどれだけ増えるか。
2. せん断は一様でない
計算 2.1:アルミの板($E=70$ GPa・厚さ $2$ mm)を、$G_a=1$ GPa・厚さ $0.2$ mm の接着層で貼った。$\omega=\mathbf{267.261242}$ 毎メートル、特性の長さ $1/\omega=\mathbf{3.741657}$ mm である。
| 重ね長さ | 最大 $\div$ 平均 | 耐力(mm 相当) |
|---|---|---|
| $5$ mm | $\mathbf{1.144561}$ | $4.368487$ |
| $10$ mm | $\mathbf{1.534604}$ | $6.516337$ |
| $20$ mm | $\mathbf{2.698236}$ | $7.412250$ |
| $40$ mm | $\mathbf{5.345468}$ | $7.482974$ |
| $80$ mm | $\mathbf{10.690450}$ | $\mathbf{7.483315}$ |
観察 2.2 尖りは重ねとともに増す。$5$ mm でほぼ一様($\mathbf{1.144561}$)なのが、$80$ mm では $\mathbf{10.690450}$ 倍になる。長くすればするほど、真ん中は遊ぶ。
観察 2.3 境目でも確かめた。重ねを $0$ に近づけると尖りが $1$ に戻る。短ければ一様だという直感は正しい。正しくなくなるのは長くしたときである。
観察 2.4 特性の長さが $\mathbf{3.741657}$ mm しかない。荷重の受け渡しは、端からこの長さのあたりでほぼ終わっている。それより内側の接着剤は、貼ってあるだけで働いていない。
3. だから、倍にしても増えない
計算 3.1:重ねを倍にしたときの耐力の増え方を、三か所で測った。
| 重ねを倍にする | 耐力の比 |
|---|---|
| $5$ mm $\to$ $10$ mm | $\mathbf{1.491669}$ |
| $10$ mm $\to$ $20$ mm | $\mathbf{1.137487}$ |
| $20$ mm $\to$ $40$ mm | $\mathbf{1.009542}$ |
| $40$ mm $\to$ $80$ mm | $\mathbf{1.000046}$ |
観察 3.2 これが本稿の芯である。$20$ mm を $40$ mm にしても $\mathbf{1.009542}$ 倍、$1$ パーセントに満たない。$1.00$ より大きく $1.02$ より小さい。実測してから挟んだ。
観察 3.3 同じ「倍」が別物である。$5$ mm を $10$ mm にすれば $\mathbf{1.491669}$ 倍効く。同じ操作の見返りが、どこで行うかで $50$ 倍近く違う。「重ねを倍にする」は指示になっていない。
観察 3.4 それでも減りはしない。比はどれも $1$ を超えている。頭打ちであって、逆効果ではない。長くして悪くなるとは書かない。
計算 3.5:頭打ちの値を、独立に閉じた式で出した。$L\to\infty$ で耐力は $2/\omega=\mathbf{7.483315}$ mm 相当に収束する。
観察 3.6 数値と閉じた式が一致した。$L=1000$ mm での値が $2/\omega$ と $10^{-6}$ 以内で合う。閉じた式は $u\coth u\to u$ の極限から出るので、これは突合せである。
観察 3.7 $40$ mm で既に $99$ パーセントを超えている。そこから先はどれだけ足しても $1$ パーセントに届かない。接着面積を増やしているのに、耐力は増えていない。
観察 3.8 論文560 と同じ「返ってこなくなる」型である。あちらは自分の作った層が障壁になるため、伸びが前半に偏った。こちらは被着材が伸びて荷重が端に寄るため、追加した長さが働かない。どちらも「増やしても返ってこない」が、返ってこない理由が違う。
4. 分離子
観察 4.1 分離子は、被着材が伸びるかどうかである。$\omega=\sqrt{2G_a/(E t t_a)}$ の $E$ を無限大にすれば $\omega\to0$、尖りは $1$ になる。そのとき応力は一様で、耐力は重ねに比例して増え続ける。頭打ちを作っているのは接着剤ではなく、板が伸びることである。
観察 4.2 だから「接着剤が弱い」で片づけてはいけない。同じ接着剤でも、板が薄ければ $\omega$ が大きくなって尖りが増す。継手の弱さの一部は、接着剤の性質ではなく被着材の剛性から来ている。
計算 4.3:接着層の厚みを振った(重ね $20$ mm 固定)。
| 接着層 | $\omega$ | 最大 $\div$ 平均 |
|---|---|---|
| $0.1$ mm | $377.9645$ | $\mathbf{3.783587}$ |
| $0.2$ mm | $267.2612$ | $2.698236$ |
| $0.4$ mm | $188.9822$ | $1.978131$ |
| $0.8$ mm | $133.6306$ | $\mathbf{1.534604}$ |
観察 4.4 厚いほうが尖りは小さい。$8$ 倍厚くして $\mathbf{2.465513}$ 倍下がる($2$ より大きく $3$ より小さい)。「接着剤は薄いほどよい」という直感の反対側である。厚い層は変形できるので、荷重を長い区間に配れる。
観察 4.5 ただし「厚いほうがよい」とは書かない。尖りは下がるが、厚い層は欠陥も入りやすく、はく離にも弱い。本稿はそちらを測っていない。測った量についてだけ言う。
観察 4.6 論文343 とは向きが逆である。あちらは穴の大きさが応力集中の式に入っていないと示し、「入らないこと」が結論を作った。本稿では重ねの長さが式に入り、しかも入ることが頭打ちを作っている。論文344 が並べた「大きさが入る量と入らない量」に、もう一つ足すことになる。同じ接着面でも、面積は効き、長さは途中から効かなくなる。
観察 4.7 論文300 の基準では同根である。「せん断が一様でない」と「耐力が頭打ちになる」は、どちらも $u\coth u$ 一つから出る。尖りが $1$ なら頭打ちも消える。
5. 点呼と結び
- $\omega=\mathbf{267.261242}$ 毎メートル(計算 2.1):特性の長さ $\mathbf{3.741657}$ mm。
- $20$ mm で尖り $\mathbf{2.698236}$ 倍(計算 2.1):真ん中が遊ぶ。
- $80$ mm で尖り $\mathbf{10.690450}$ 倍(計算 2.1):長いほど偏る。
- 重ね $0$ で尖り $1$(観察 2.3):境目。
- $20$ mm $\to$ $40$ mm で $\mathbf{1.009542}$ 倍(計算 3.1):本稿の芯。
- $5$ mm $\to$ $10$ mm で $\mathbf{1.491669}$ 倍(計算 3.1):同じ「倍」が別物。
- 頭打ち $2/\omega=\mathbf{7.483315}$ mm 相当(計算 3.5):閉じた式と一致。
- $40$ mm で $99$ パーセント超(観察 3.7):面積を増やしても増えない。
- 接着層 $8$ 倍で尖り $\mathbf{2.465513}$ 倍減(計算 4.3):直感の反対側。
- 分離子は被着材が伸びるか(観察 4.1):伸びなければ比例のまま。
結び:接着が足りなければ、重ねを長くすればよいと考えられる。ところが重ね継手のせん断は一様ではない。アルミの板を $0.2$ mm の接着層で貼ると特性の長さは $\mathbf{3.741657}$ mm しかなく、重ね $20$ mm では最大が平均の $\mathbf{2.698236}$ 倍、$40$ mm では $\mathbf{5.345468}$ 倍、$80$ mm では $\mathbf{10.690450}$ 倍になる。荷重の受け渡しは端からその長さのあたりで終わっており、それより内側の接着剤は貼ってあるだけで働いていない。重ねを $0$ に近づけると尖りが $1$ に戻るので、「短ければ一様」という直感は正しい。正しくなくなるのは長くしたときである。だから重ねを倍にしても、耐力は $1$ パーセントも増えない。$20$ mm を $40$ mm にして $\mathbf{1.009542}$ 倍である。同じ「倍」でも $5$ mm を $10$ mm にすれば $\mathbf{1.491669}$ 倍効くのだから、見返りは行う場所で $50$ 倍近く違い、「重ねを倍にする」は指示になっていない。ただし比はどれも $1$ を超えており、頭打ちであって逆効果ではない。頭打ちの値は $2/\omega=\mathbf{7.483315}$ mm 相当で、$L=1000$ mm での数値と $10^{-6}$ 以内で合う。$40$ mm の時点で既にその $99$ パーセントを超えているので、そこから先は接着面積を増やしても耐力が増えない。分離子は、被着材が伸びるかどうかである。$\omega=\sqrt{2G_a/(E t t_a)}$ の $E$ を無限大にすれば $\omega\to0$、尖りは $1$ になり、応力は一様で耐力は重ねに比例して増え続ける。頭打ちを作っているのは接着剤ではなく、板が伸びることである。だから継手の弱さを「接着剤が弱い」で片づけてはいけない。同じ接着剤でも板が薄ければ $\omega$ が大きくなって尖りが増す。接着層のほうを厚くすると尖りは下がり、$0.1$ mm の $\mathbf{3.783587}$ 倍が $0.8$ mm では $\mathbf{1.534604}$ 倍、$\mathbf{2.465513}$ 倍の減である。「接着剤は薄いほどよい」という直感の反対側だが、厚い層は欠陥も入りやすくはく離にも弱いので、「厚いほうがよい」とは書かない。既刊との位置、論文343 は穴の大きさが応力集中の式に入っていないと示し、「入らないこと」が結論を作った。本稿は逆で、重ねの長さが式に入り、しかも入ることが頭打ちを作っている。論文344 が並べた「大きさが入る量と入らない量」に、もう一つ足すことになる。論文560 と同じ「増やしても返ってこなくなる」型でもあるが、あちらは自分の作った層が障壁になるためで、こちらは被着材が伸びて荷重が端に寄るためである。論文300 の基準では、「せん断が一様でない」と「耐力が頭打ちになる」はどちらも $u\coth u$ 一つから出る同根で、尖りが $1$ なら頭打ちも消える。正直に言えば、接着の設計は勧めていない。はく離応力を入れておらず、単純重ね継手では偏心による曲げとはく離が効くので、その意味でグッドイヤーの解析より粗い。接着剤を線形弾性としており、降伏する接着剤では尖りが頭打ちになって耐力はここで出した値より大きくなる。破壊の基準も選ばず最大応力で壊れるとして比を出しただけで、硬化収縮・吸湿・温度も入れていない。
参考文献
- Adams, R. D., Comyn, J., & Wake, W. C. (1997). Structural Adhesive Joints in Engineering (2nd ed.). Chapman & Hall.
- da Silva, L. F. M., Öchsner, A., & Adams, R. D. (Eds.) (2018). Handbook of Adhesion Technology (2nd ed.). Springer.
- Goland, M., & Reissner, E. (1944). The Stresses in Cemented Joints. Journal of Applied Mechanics.
- Volkersen, O. (1938). Die Nietkraftverteilung in zugbeanspruchten Nietverbindungen mit konstanten Laschenquerschnitten. Luftfahrtforschung.
- 山岸勇輝 (2026). 『三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
- 山岸勇輝 (2026). 『穴の大きさは、応力集中の式に入っていない』[論文343]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22682218
- 山岸勇輝 (2026). 『強度は材料の定数ではなく、体積の関数である』[論文344]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22682232
- 山岸勇輝 (2026). 『いちばん速いのは最初の一瞬で、あとはいくら待っても伸びない』[論文560]. Zenodo. 10.5281/zenodo.23014242
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「重ねを倍にしても、耐力は 1 パーセントも増えない」[論文561]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.23014246
日付の証拠(OpenTimestamps):日本語版の .ots・英語版の .ots・SHA256SUMS
予備の置き場所(ミラー。中身は上と同じです):PDF 日本語・PDF English・SHA256SUMS
住所:https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/561・DOI 10.5281/zenodo.23014246・CC BY 4.0・プレプリント(査読を経ていません)・ORCID 0009-0006-8587-3450
引用するとき
山岸勇輝 (2026). 重ねを倍にしても、耐力は 1 パーセントも増えない [論文561]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/561 ・ DOI: 10.5281/zenodo.23014246
Yamagishi, Y. (2026). Doubling the Overlap Adds Less Than One Per Cent [Paper 561]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/561; DOI: 10.5281/zenodo.23014246
@misc{yamagishi2026yoi561,
author = {Yamagishi, Yuuki},
title = {Doubling the Overlap Adds Less Than One Per Cent},
year = {2026},
howpublished = {YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/561},
doi = {10.5281/zenodo.23014246},
note = {Preprint, edition 1}
}
指紋(SHA-256)と確かめ方
154b98d7083a92b143bc9e2934e671f00716838b0bddfa1fee64334580f5fd96 yamagishi_yoi561_v1_jp.pdf2434d0a2abc35aee9d155c8a97ca4801572a603e6353a6a673b525f5d4a98ae0 yamagishi_yoi561_v1_en.pdfPDF と .ots を同じ場所に保存し、opentimestamps.org に .ots、続けて PDF を落とすと、記録された日時が表示されます。PDF が 1 バイトでも変わっていれば通りません。