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【論文562】残留応力の上限を決めているのは、温度ではなく降伏である

要旨

溶接の残留応力は、どれだけ熱したかで決まると思われている。本稿が示すのは、弾性で見た応力が降伏をはるかに超えるので上限が降伏で決まってしまい、温度の細かいところが答に入らないことである。新しい定理も法則も主張しない。

第一に、弾性だけで見ると降伏をはるかに超える。$600$ K の温度差で $\mathbf{1483.2000}$ MPa、降伏の $\mathbf{4.944000}$ 倍である(第2節)。

第二に、$200$ K でも既に超えている。$\mathbf{494.4000}$ MPa で、降伏の $\mathbf{1.648000}$ 倍になる(第2節)。

第三に、これが本稿の芯である。降伏にちょうど届く温度差は $\mathbf{121.359223}$ K しかない。それを超えれば残留応力は降伏で頭打ちになり、どれだけ熱したかが答に入らなくなる(第3節)。

第四に、だから結論は仮定に鈍い。温度差を $200$ K から $800$ K まで $4$ 倍振っても、残る応力は変わらない(第3節)。

第五に、引張は必ず圧縮と釣り合う。$20$ mm の引張域が降伏で立つとき、残る $180$ mm は $\mathbf{33.3333}$ MPa の圧縮で支払う(比 $\mathbf{9.000000}$)(第4節)。

第六に、分離子は、材料が降伏できるかどうかである。降伏できなければ頭打ちが働かず、割れる(第4節)。

キーワード:残留応力、溶接、熱収縮、降伏、自己平衡。

射程(何を示さないか)

新しい定理も法則も主張しない。拘束された熱収縮も、降伏による頭打ちも、自己平衡も標準的である。溶接の施工を勧めない。予熱も後熱も入熱管理も述べない。一次元の棒の模型である。実際の溶接部は三次元で、拘束の度合いも場所で違う。ここでは「完全に拘束された一本の棒」という最も単純な形だけを見る。温度によって材料定数が変わることを入れない。ヤング率も降伏応力も線膨張係数も、室温の値を定数として使った。高温では降伏応力が下がるので、実際の経過は本稿より複雑である。相変態を扱わない。鋼のマルテンサイト変態は膨張を伴い、残留応力の符号を変えうる。これは入っていない。応力除去焼なましを論じない。後処理でどれだけ下がるかは主題ではない。「残留応力は必ず降伏に等しい」とは書かない。等しくなるのは完全に拘束された部分だけで、拘束が緩ければ下がる。本稿が言うのは上限であって、実測値ではない。既刊との関係:論文556 は外力の多数派を受けているのがボルトではないと示し、仮定を $4.394554$ 倍振っても結論が動かないことを見せた。本稿も同じ形で、温度差を $4$ 倍振っても答が動かない。ただしあちらは不等号が保たれる型、こちらは頭打ちで値そのものが同じになる型で、鈍さの出方が違う。論文262 は「壊れる」が三つあり強度では決まらないと示し、降伏・座屈・破壊のうち最も低いものが実際の限界になると述べた。本稿の降伏はその三つのうち一つで、ここでは限界としてではなく「頭打ちを与えるもの」として働いている。同じ降伏が、片方では壊れ方、片方では守り手である。論文300 は同根か別根かが判定できると示した。「上限が降伏で決まる」と「引張が圧縮と釣り合う」は別根である。加えたのは、弾性で見た応力を四つの温度差で並べ、降伏との比を $\mathbf{4.944000}$ と測ったこと、降伏にちょうど届く温度差を $\mathbf{121.359223}$ K と逆算し、両側で符号が変わることを見たこと、$200$ K でも既に超えていることを対照に置いたこと、自己平衡を三通りの幅で確かめ、合力が $0$ になることを $12$ 桁で見たこと、分離子を「材料が降伏できるかどうか」に置いたことである。

1. 記法と問い

設定:溶接した部分は、周りより高温になってから冷える。冷えれば縮もうとするが、周りの金属がそれを許さない。完全に拘束された棒が温度差 $\Delta T$ だけ冷えるとき、弾性だけで見た応力は

$$\sigma_{\text{弾性}}=\alpha\,\Delta T\,E$$

である。鋼では $\alpha=12\times10^{-6}$ 毎ケルビン、$E=206$ GPa、降伏応力を $300$ MPa とする。

観察 1.1 この式に「どれだけ強く拘束したか」は入っていない。完全拘束を仮定しているので、拘束の度合いは上限としてだけ効く。だから得られるのは最悪の場合である。

観察 1.2 式は温度差に比例している。だから「熱すぎたら残留応力も大きい」と考えるのが自然である。その自然さが、本稿で消える。

問い:温度差は、残る応力にどれだけ効くか。

2. 弾性で見ると、降伏をはるかに超える

計算 2.1:温度差を振って、弾性だけで見た応力を出した。

温度差 弾性で見た応力 降伏に対する比
$200$ K $\mathbf{494.4000}$ MPa $\mathbf{1.648000}$
$400$ K $988.8000$ MPa $3.296000$
$600$ K $\mathbf{1483.2000}$ MPa $\mathbf{4.944000}$
$800$ K $1977.6000$ MPa $6.592000$

観察 2.2 どれも降伏を超えている。いちばん低い $200$ K でも $\mathbf{1.648000}$ 倍、つまりこの応力は、実際には生じない。材料が先に降伏する。

観察 2.3 $600$ K では $4$ 倍より大きく $5$ 倍より小さい。実測 $\mathbf{4.944000}$、溶接の実際の温度差はこの程度である。降伏の五倍に近い力で引っぱられていることになる。

観察 2.4 境目でも確かめた。温度差 $0$ なら応力 $0$ である。単調でもある。式が壊れていないことの確認である。

3. だから、上限は温度ではなく降伏が決める

計算 3.1:降伏にちょうど届く温度差を逆算した。

$$\Delta T_{\text{臨界}}=\frac{\sigma_y}{\alpha E}=\mathbf{121.359223}\ \text{K}$$

観察 3.2 逆算が検査になっている。戻すとちょうど $300$ MPa になる。そして境目の $1$ パーセント下では届かず、$1$ パーセント上では超える。両側を見ている。

観察 3.3 これが本稿の芯である。$\mathbf{121.359223}$ K は、溶接の温度差としては小さすぎる。実際の $600$ K はその $\mathbf{4.944000}$ 倍である。つまり、まともな溶接なら必ず超える。

観察 3.4 超えたあとは、どれだけ超えても同じである。$200$ K でも $800$ K でも、残る引張応力は降伏応力で頭打ちになる。温度差を $4$ 倍振っても答が変わらない。「どれだけ熱したか」は、この上限には入っていない。

観察 3.5 論文556 と同じ「仮定に鈍い」型である。あちらは被締結体の外径を $4.394554$ 倍振ってもボルトが少数派であることが変わらなかった。ただし鈍さの出方が違う。あちらは不等号が保たれるだけで値は動いたが、こちらは値そのものが同じになる。頭打ちのほうが強い鈍さである。

観察 3.6 測らなくてよいことが増える。入熱を細かく測っても、この上限は動かない。動かせるのは拘束の度合いのほうである。

4. 分離子

計算 4.1:引張と圧縮の釣り合いを見た。外力がかかっていないのだから、断面全体の合力は $0$ でなければならない。

引張域 全幅 圧縮域 圧縮応力
$20$ mm $200$ mm $180$ mm $\mathbf{33.3333}$ MPa
$20$ mm $100$ mm $80$ mm $75.0000$ MPa
$40$ mm $200$ mm $160$ mm $75.0000$ MPa

観察 4.2 合力はちょうど $0$ になる。引張の面積と圧縮の面積が $12$ 桁で一致する。定義から出るので当然だが、当然のことが数で合うことを確かめておく。

観察 4.3 圧縮側は薄まる。$20$ mm の引張域が降伏で立つとき、残る $180$ mm は $\mathbf{33.3333}$ MPa でよい(比 $\mathbf{9.000000}$)、だから残留応力を「測った」と言うとき、どこを測ったかで桁が違う。溶接部を測れば降伏、少し離れれば $9$ 分の $1$ である。

観察 4.4 分離子は、材料が降伏できるかどうかである。降伏という逃げ道があるから上限で止まる。ガラスやセラミクスのように降伏できない材料では、$\alpha\Delta T E$ が強度を超えた時点で割れる。同じ拘束・同じ温度差でも、片方は残留応力になり、片方は割れになる。

観察 4.5 論文262 のいう三つの壊れ方のうち、降伏がここでは守り手である。あちらでは降伏は限界の一つ、すなわち壊れ方だった。ここでは同じ降伏が、応力を頭打ちにして割れを防いでいる。同じ現象が、問いによって壊れ方にも守り手にもなる。

観察 4.6 論文300 の基準で別根である。「上限が降伏で決まる」は塑性という持ち物を要る。「引張が圧縮と釣り合う」は外力が $0$ という別の持ち物を要る。降伏しない材料でも後者は成り立つ。

観察 4.7 言わないこと。「残留応力は必ず降伏に等しい」とは書かない。等しくなるのは完全に拘束された部分だけで、拘束が緩ければ下がる。本稿が言うのは上限であって、実測値ではない。

5. 点呼と結び

  1. $600$ K で $\mathbf{1483.2000}$ MPa(計算 2.1):弾性だけで見た値。
  2. 降伏の $\mathbf{4.944000}$ 倍(計算 2.1):実測してから挟んだ。
  3. $200$ K でも $\mathbf{1.648000}$ 倍(計算 2.1):いちばん低くても超える。
  4. 臨界温度差 $\mathbf{121.359223}$ K(計算 3.1):本稿の芯。
  5. 戻すとちょうど $300$ MPa(観察 3.2):逆算・両側で符号が変わる。
  6. 温度差 $4$ 倍でも答が同じ(観察 3.4):頭打ち。
  7. 圧縮側 $\mathbf{33.3333}$ MPa(計算 4.1):比 $\mathbf{9.000000}$。
  8. 合力がちょうど $0$(観察 4.2):$12$ 桁。
  9. 分離子は降伏できるか(観察 4.4):できなければ割れる。
  10. 降伏が守り手になる(観察 4.5):論文262 では壊れ方だった。

結び:溶接の残留応力は、どれだけ熱したかで決まると思われている。ところが弾性だけで見た応力は、降伏をはるかに超えてしまう。完全に拘束された鋼が $600$ K の温度差で冷えるとき、$\alpha\Delta T E$ は $\mathbf{1483.2000}$ MPa、降伏の $\mathbf{4.944000}$ 倍になる。いちばん低い $200$ K でも $\mathbf{1.648000}$ 倍で、どの温度差でも超えている。つまりこの応力は実際には生じず、材料が先に降伏する。温度差 $0$ で応力 $0$ に戻ることも確かめた。降伏にちょうど届く温度差は $\mathbf{121.359223}$ K しかない。戻すとちょうど $300$ MPa になり、境目の $1$ パーセント下では届かず $1$ パーセント上では超える。実際の溶接の $600$ K はその $\mathbf{4.944000}$ 倍だから、まともな溶接なら必ず超える。そして超えたあとは、どれだけ超えても同じである。$200$ K でも $800$ K でも残る引張応力は降伏で頭打ちになり、温度差を $4$ 倍振っても答が変わらない。「どれだけ熱したか」は、この上限に入っていない。入熱を細かく測ってもこの上限は動かず、動かせるのは拘束の度合いのほうである。そして引張は必ず圧縮と釣り合っている。外力がかかっていない以上、断面全体の合力は $0$ でなければならず、実際に引張の面積と圧縮の面積が $12$ 桁で一致する。$20$ mm の引張域が降伏で立つとき、残る $180$ mm は $\mathbf{33.3333}$ MPa でよい(比 $\mathbf{9.000000}$)。だから「残留応力を測った」と言うとき、どこを測ったかで桁が違う。溶接部なら降伏、少し離れれば $9$ 分の $1$ である。分離子は、材料が降伏できるかどうかである。降伏という逃げ道があるから上限で止まる。ガラスやセラミクスのように降伏できない材料では、$\alpha\Delta T E$ が強度を超えた時点で割れる。同じ拘束・同じ温度差でも、片方は残留応力になり、片方は割れになる。論文262 は「壊れる」が三つあると示し、そこでは降伏は限界の一つ、すなわち壊れ方だった。ここでは同じ降伏が応力を頭打ちにして割れを防いでいる。同じ現象が、問いによって壊れ方にも守り手にもなる。論文300 の基準では、「上限が降伏で決まる」は塑性を、「引張が圧縮と釣り合う」は外力が $0$ であることを、それぞれ別に要る。論文556 と同じ「仮定に鈍い」型でもある。あちらは被締結体の外径を $4.394554$ 倍振ってもボルトが少数派であることが変わらなかった。ただし鈍さの出方が違い、あちらは不等号が保たれるだけで値は動いたが、こちらは値そのものが同じになる。頭打ちのほうが強い鈍さである。正直に言えば、溶接の施工は勧めていない。一次元の棒という最も単純な模型で、実際の溶接部は三次元であり拘束の度合いも場所で違う。ヤング率も降伏応力も線膨張係数も室温の値を定数として使っており、高温では降伏応力が下がるので実際の経過はもっと複雑である。相変態も入れておらず、鋼のマルテンサイト変態は膨張を伴って符号を変えうる。応力除去焼なましも論じていない。そして「残留応力は必ず降伏に等しい」とも書かない。等しくなるのは完全に拘束された部分だけで、本稿が言うのは上限である。

参考文献

  1. Masubuchi, K. (1980). Analysis of Welded Structures: Residual Stresses, Distortion, and Their Consequences. Pergamon Press.
  2. Radaj, D. (1992). Heat Effects of Welding: Temperature Field, Residual Stress, Distortion. Springer.
  3. Timoshenko, S. P., & Goodier, J. N. (1970). Theory of Elasticity (3rd ed.). McGraw-Hill.
  4. Withers, P. J., & Bhadeshia, H. K. D. H. (2001). Residual Stress. Part 1、Measurement Techniques. Materials Science and Technology.
  5. 山岸勇輝 (2026). 『「壊れる」は三つあり、強度では決まらない』[論文262]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22169671
  6. 山岸勇輝 (2026). 『三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
  7. 山岸勇輝 (2026). 『外力の多数派を受けているのは、ボルトではない』[論文556]. Zenodo. 10.5281/zenodo.23014218

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「残留応力の上限を決めているのは、温度ではなく降伏である」[論文562]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.23014250

YOI 562第1版・2026年9月ビットコインに記録済み

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引用するとき

山岸勇輝 (2026). 残留応力の上限を決めているのは、温度ではなく降伏である [論文562]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/562 ・ DOI: 10.5281/zenodo.23014250

Yamagishi, Y. (2026). What Caps a Residual Stress Is Not the Temperature but the Yield [Paper 562]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/562; DOI: 10.5281/zenodo.23014250

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