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【論文568】要る鎖の長さは、水深に比例しない

要旨

錨を打つとき、鎖は水深の何倍と決めて出す。本稿が示すのは、要る長さの水深に対する比が一定ではなく、荷重と鎖の重さの比 $a/d$ だけで決まること、そして錨を水平に引かせているのは錨ではなく鎖の重さであることである。新しい定理も法則も主張しない。

第一に、要る長さには閉じた式がある。錨のところで鎖が海底に接する最短の長さは $\sqrt{d^{2}+2da}$ で、形は論文327 の懸垂線である(第2節)。

第二に、これが本稿の芯である。水深に対する比は $a/d$ だけで決まる。「$5$〜$7$ 倍」は $a/d=12$ と $24$ にちょうど当たり、$\mathbf{5.000000}$ と $\mathbf{7.000000}$ を返す(第2節)。

第三に、同じ荷重なら深いほど比は小さい。水深 $5$ m で $\mathbf{4.582576}$ 倍、$80$ m で $\mathbf{1.500000}$ 倍。長さそのものは伸びる(第3節)。

第四に、荷重を $2$ 倍にしても長さは $2$ 倍にならない。水深 $10$ m で $\mathbf{1.381699}$ 倍(第3節)。

第五に、足りなければ錨が持ち上がる。必要長の $0.95$ 倍で $\mathbf{1.960175}$ 度、半分で $\mathbf{30.823826}$ 度(第4節)。

第六に、分離子は、索に水中重量があるかどうかである。重さの無い索は、スコープ $5$ でも $\mathbf{11.536959}$ 度で引き、どれだけ長くしても水平にならない(第5節)。

キーワード:懸垂線、錨鎖、係留、水深、把駐力。

射程(何を示さないか)

新しい定理も法則も主張しない。懸垂線の式も、係留索の静力学も標準的である。投錨の手順を勧めない。何メートル出すべきかは述べない。出した長さで何が起きるかだけを見る。錨の保持力を扱わない。錨がどれだけの力に耐えるかは海底と錨の形で決まる経験的な量で、本稿は入れていない。見るのは「錨がどの角度で引かれるか」という幾何だけである。鎖は伸びず一様で、海底は平らとした。鎖の弾性も、斜面も入っていない。動的な張力を扱わない。波・うねり・船の動揺による張力の変動は主題ではない。舷から水面までの高さを入れない。入れれば水深 $d$ がそのぶん増える。荷重は与えたものとした。風や潮流から荷重を計算していない。$a$ は荷重を鎖の水中重量で割った長さとして与える。「水深の何倍」という目安を否定しない。目安が当たる $a/d$ の範囲を示すだけである。既刊との関係:論文327 は二つの曲線が $0.083$ パーセントしか違わず、それでも別物であると示し、垂れた鎖が懸垂線になるのは荷重を弧長で数えるからだと述べた。本稿はその曲線を使って「どれだけの長さが要るか」を問う。あちらは形を分け、こちらは長さを測る。論文556 は外力の多数派を受けているのがボルトではないと示した。本稿も同じ型で、錨を水平に引かせているのは錨ではなく鎖の重さである。目立つ部品ではなく、目立たない側が仕事をしている。論文300 は同根か別根かが判定できると示した。「比が $a/d$ で決まる」と「短いと錨が持ち上がる」は、同じ懸垂線から出る同根である。加えたのは、スコープが $a/d$ だけで決まることを、水深と荷重を入れ替えた二組の一致で $12$ 桁確かめたこと、「$5$〜$7$ 倍」が $a/d=12$ と $24$ にちょうど当たることを示したこと、鎖が短いときの錨の角度を二分法で解き、境目の両側で確かめたこと、重さの無い索の角度を二つの道で出して突き合わせたこと、分離子を「索に水中重量があるかどうか」に置いたことである。

1. 記法と問い

設定:水深 $d$ の海で、船が水平な荷重 $H$ で錨鎖を引いている。鎖の単位長さあたりの水中重量を $w$ とし、

$$a=\frac{H}{w}$$

という長さを置く。鎖は自重で垂れ、形は懸垂線になる(論文327)。

観察 1.1 錨は水平に引かれたいとき、最もよく効く。上向きの成分があれば、錨は海底から抜ける向きに引かれる。だから「錨のところで鎖が海底に接している」ことが目標になる。

観察 1.2 目安は水深の倍数で語られる。「水深の $5$〜$7$ 倍を出せ」という言い方がよく聞かれる。比が一定だという前提が入っている。

問い:錨を水平に引かせるには、どれだけの長さが要るか。それは水深に比例するか。

2. 要る長さと、比を決めるもの

計算 2.1:錨のところで鎖が海底に接する(傾きが $0$)とき、懸垂線の弧長と高さの関係から、要る最短の長さは

$$L=\sqrt{d^{2}+2da}$$

となる。水深に対する比(スコープ)は $L/d=\sqrt{1+2a/d}$ である。

$a/d$ スコープ $L/d$
$1$ $1.732051$
$5$ $3.316625$
$12$ $\mathbf{5.000000}$
$24$ $\mathbf{7.000000}$
$50$ $10.049876$

観察 2.2 これが本稿の芯である。スコープは $a/d$ だけで決まる。水深 $10$ m・$a=100$ m と、水深 $5$ m・$a=50$ m とで、スコープは $12$ 桁一致した。水深と荷重を一緒に倍にしても、比は変わらない。

観察 2.3 「$5$〜$7$ 倍」には意味がある。$a/d=12$ でちょうど $\mathbf{5.000000}$、$24$ でちょうど $\mathbf{7.000000}$ になる($\sqrt{25}$ と $\sqrt{49}$)、つまりこの目安は、「水平な荷重が、水深の $12$〜$24$ 倍の長さの鎖の水中重量に等しい」ときに当たる。目安が当たる条件が、式から読める。

観察 2.4 逆算でも確かめた。得た長さを懸垂線の関係 $d=\sqrt{a^{2}+L^{2}}-a$ に戻すと、水深がそのまま返る($10^{-9}$)、別に組み立てた式との突合せである。

3. 深さと荷重を動かす

計算 3.1:荷重を固定し($a=50$ m)、水深を変えた。

水深 必要長 スコープ
$5$ m $22.9129$ m $\mathbf{4.582576}$
$10$ m $33.1662$ m $3.316625$
$20$ m $48.9898$ m $2.449490$
$40$ m $74.8331$ m $1.870829$
$80$ m $120.0000$ m $\mathbf{1.500000}$

観察 3.2 深いほど比は小さい。水深 $80$ m ではちょうど $\mathbf{1.500000}$ 倍で足りる($\sqrt{2.25}$)、それでも長さそのものは深いほど長い。比が下がることと、長さが減ることは別である。

観察 3.3 一定の倍数は、深さによって外れ方が逆になる。同じ荷重で「$5$ 倍」を守ると、浅い海では足りず($5$ m で $4.58$ 倍が要る)、深い海では出しすぎる。比が一定でない以上、一つの倍数がどの水深でも正しいことはない。

計算 3.4:水深を固定し($10$ m)、荷重を変えた。

$a$ 必要長 スコープ
$25$ m $24.4949$ m $2.449490$
$50$ m $33.1662$ m $3.316625$
$100$ m $45.8258$ m $4.582576$
$200$ m $64.0312$ m $6.403124$

観察 3.5 荷重を $2$ 倍にしても、長さは $2$ 倍にならない。$a=50$ から $100$ で $\mathbf{1.381699}$ 倍($1.3$ より大きく $1.4$ より小さい)。風が強まっても、鎖を倍出す必要はない。だが同じ長さのままでは足りない。

4. 足りないと、錨が持ち上がる

計算 4.1:水深 $10$ m・$a=50$ m(必要長 $33.166248$ m)で、鎖を短くしたときの錨のところの角度を、懸垂線の弧の位置を二分法で求めて出した。

必要長に対する長さ 錨のところの角度
$1.00$ $0.000000$ 度
$0.95$ $\mathbf{1.960175}$ 度
$0.90$ $4.053067$ 度
$0.80$ $8.736431$ 度
$0.70$ $14.331042$ 度
$0.50$ $\mathbf{30.823826}$ 度
$0.35$ $57.722845$ 度

観察 4.2 境目の両側を見ている。必要長ちょうどで角度 $0$、その $1$ パーセント下で角度が正になる。必要長が境目であることを両側から確かめた。

観察 4.3 短くするほど角度は急に増す。$5$ パーセント短くして約 $2$ 度、半分で $30$ 度を超える($30$ より大きく $31$ より小さい)。錨がどれだけ耐えられなくなるかは本稿の射程外だが、引かれる向きが海底から離れていくことは幾何だけで言える。

5. 分離子

計算 5.1:重さの無い索(水中重量 $0$)で同じことを考えた。索はまっすぐ張り、錨のところの角度は $\arcsin(d/L)$ になる。

スコープ 錨のところの角度
$5$ $\mathbf{11.536959}$ 度
$7$ $8.213211$ 度
$100$ $0.572967$ 度

観察 5.2 分離子は、索に水中重量があるかどうかである。同じスコープ $5$ でも、$a/d=12$ の鎖なら角度はちょうど $0$、重さの無い索なら $\mathbf{11.536959}$ 度、重さの無い索は、スコープ $100$ でも $0.572967$ 度で、有限の長さでは決して水平にならない。錨を水平に引かせているのは、長さではなく重さである。

観察 5.3 角度は二つの道で一致した。水平距離から出した $\arctan$ と、$\arcsin(d/L)$ が $10^{-9}$ 以内で合う。別々に組み立てた式どうしの突合せである。

観察 5.4 論文327 とは問いが違う。あちらは垂れた鎖が懸垂線か放物線かを分け、分けているのは荷重を弧長で数えるか水平長で数えるかだと示した。本稿はその「弧長で数える荷重」、すなわち鎖の自重こそが錨を水平に引かせることを使う。あちらは形を分け、こちらは長さを測る。

観察 5.5 論文556 と同じ「目立たない側が仕事をする」型である。あちらは外力の多数派を、ボルトではなく被締結体が受けていた。こちらは錨を水平に引かせているのが、錨ではなく鎖の重さである。

観察 5.6 論文300 の基準では同根である。「比が $a/d$ で決まる」と「短いと錨が持ち上がる」は、どちらも同じ懸垂線から出る。鎖の重さを $0$ にすれば、どちらも別の式(まっすぐな索)に替わる。

6. 点呼と結び

  1. 必要長 $\sqrt{d^{2}+2da}$(計算 2.1):懸垂線から。
  2. スコープは $a/d$ だけで決まる(観察 2.2):本稿の芯・$12$ 桁。
  3. $a/d=12$ で $\mathbf{5.000000}$・$24$ で $\mathbf{7.000000}$(観察 2.3):目安の条件。
  4. 水深 $80$ m で $\mathbf{1.500000}$(観察 3.2):深いほど比は小さい。
  5. 水深 $5$ m で $\mathbf{4.582576}$(計算 3.1):浅いと「$5$ 倍」近くが要る。
  6. 荷重 $2$ 倍で $\mathbf{1.381699}$ 倍(観察 3.5):$2$ 倍にはならない。
  7. $0.95$ 倍で $\mathbf{1.960175}$ 度(計算 4.1):境目のすぐ内側。
  8. 半分で $\mathbf{30.823826}$ 度(計算 4.1):急に増す。
  9. 重さの無い索はスコープ $5$ で $\mathbf{11.536959}$ 度(計算 5.1):水平にならない。
  10. 分離子は水中重量(観察 5.2):長さではなく重さ。

結び:錨を打つとき、鎖は水深の何倍と決めて出す。ところが要る長さの水深に対する比は、一定ではない。錨のところで鎖が海底に接する最短の長さは $\sqrt{d^{2}+2da}$($a$ は荷重を鎖の水中重量で割った長さ)で、スコープは $\sqrt{1+2a/d}$、つまり $a/d$ だけで決まる。水深と荷重を一緒に倍にしても比は変わらず、そのことを二組の一致で $12$ 桁確かめた。得た長さを懸垂線の関係に戻すと水深が返ることも見た。よく言われる「$5$〜$7$ 倍」は $a/d=12$ と $24$ にちょうど当たり、$\mathbf{5.000000}$ と $\mathbf{7.000000}$ を返す。目安が当たるのは、水平な荷重が水深の $12$〜$24$ 倍の長さの鎖の水中重量に等しいときである。同じ荷重なら、深いほど比は小さい。$a=50$ m で水深 $5$ m なら $\mathbf{4.582576}$ 倍が要るが、$80$ m ではちょうど $\mathbf{1.500000}$ 倍で足りる。長さそのものは深いほど長いが、比は下がる。だから一つの倍数を守ると、浅い海では足りず深い海では出しすぎることになり、どの水深でも正しい倍数は無い。荷重を $2$ 倍にしても長さは $\mathbf{1.381699}$ 倍で、$2$ 倍にはならない。足りなければ、錨は持ち上がる。必要長の $0.95$ 倍で $\mathbf{1.960175}$ 度、半分で $\mathbf{30.823826}$ 度になり、短くするほど急に増す。必要長ちょうどで角度 $0$、$1$ パーセント下で正になるのを両側から確かめた。錨がどれだけ耐えられなくなるかは射程外だが、引かれる向きが海底から離れていくことは幾何だけで言える。分離子は、索に水中重量があるかどうかである。同じスコープ $5$ でも、$a/d=12$ の鎖なら角度はちょうど $0$、重さの無い索なら $\mathbf{11.536959}$ 度で、スコープ $100$ でも $0.572967$ 度と、有限の長さでは決して水平にならない。角度は $\arctan$ と $\arcsin$ の二つの道で一致した。錨を水平に引かせているのは、長さではなく重さである。論文300 の基準では、「比が $a/d$ で決まる」と「短いと錨が持ち上がる」はどちらも同じ懸垂線から出る同根である。既刊との位置、論文327 は垂れた鎖が懸垂線になるのは荷重を弧長で数えるからだと示した。本稿はその弧長で数える荷重、すなわち鎖の自重が錨を水平に引かせることを使う。あちらは形を分け、こちらは長さを測る。論文556 と同じ「目立たない側が仕事をする」型でもあり、錨を水平に引かせているのは錨ではなく鎖である。正直に言えば、投錨の手順は勧めていない。錨の保持力は海底と錨の形で決まる経験的な量で、本稿は入れておらず、見たのは錨が引かれる角度という幾何だけである。鎖は伸びず一様で海底は平らとし、波や動揺による動的な張力も、舷から水面までの高さも入れていない。荷重は風や潮流から計算せず、$a$ として与えた。そして「水深の何倍」という目安を否定もしない。それが当たる $a/d$ の範囲を示しただけである。

参考文献

  1. Chakrabarti, S. K. (Ed.) (2005). Handbook of Offshore Engineering. Elsevier.
  2. Faltinsen, O. M. (1990). Sea Loads on Ships and Offshore Structures. Cambridge University Press.
  3. Irvine, H. M. (1981). Cable Structures. MIT Press.
  4. 山岸勇輝 (2026). 『三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
  5. 山岸勇輝 (2026). 『二つの曲線は $\mathbf{0.083}$ パーセントしか違わず、それでも別物である』[論文327]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22210286
  6. 山岸勇輝 (2026). 『外力の多数派を受けているのは、ボルトではない』[論文556]. Zenodo. 10.5281/zenodo.23014218

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「要る鎖の長さは、水深に比例しない」[論文568]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.23014280

YOI 568第1版・2026年9月ビットコインに記録済み

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引用するとき

山岸勇輝 (2026). 要る鎖の長さは、水深に比例しない [論文568]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/568 ・ DOI: 10.5281/zenodo.23014280

Yamagishi, Y. (2026). The Chain Needed Is Not Proportional to the Depth [Paper 568]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/568; DOI: 10.5281/zenodo.23014280

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