要旨
配水管は、将来の需要や消火に備えて「余裕を持って太く」選ばれることが多い。本稿が示すのは、同じ流量なら水が管にいる時間は口径の二乗で延び、太くした分だけ消毒の塩素が道中で尽きていくことである。新しい定理も法則も主張しない。
第一に、管にいる時間は口径の二乗に比例する。口径を $4$ 倍にすると、滞留はちょうど $\mathbf{16.000000}$ 倍になる(第3節)。
第二に、塩素の持ち時間には上限がある。一次で減る塩素が $0.5$ から下限の $0.1$ mg/L に落ちるまでは $\mathbf{80.4719}$ 時間である(第2節)。
第三に、これが本稿の芯である。口径 $300$ mm では出口の塩素は $\mathbf{0.1039}$ mg/L で下限の上にあり、$400$ mm では $\mathbf{0.0306}$ mg/L で下限を割る。境目の口径は $\mathbf{303.6676}$ mm で、一段太くしただけで蛇口の塩素が足りなくなる(第3節)。
第四に、細い側は余裕がある。$100$ mm で滞留 $\mathbf{8.7266}$ 時間・出口 $\mathbf{0.4199}$ mg/L、$200$ mm で $\mathbf{34.9066}$ 時間・$\mathbf{0.2488}$ mg/L である(第3節)。
第五に、壁での消費を入れても向きは変わらない。減りの指数は $k_bD^2+4k_wD$ に比例し、口径とともに増える(第4節)。
第六に、分離子は、口径を決める流量がふだんの流量か、まれな最大の流量か、である。最大の流量で決めた管は、ふだんの流量では流れが遅すぎる(第5節)。
キーワード:配水管、滞留時間、残留塩素、水道、口径。
射程(何を示さないか)
新しい定理も法則も主張しない。管の中の流速と滞留時間、塩素の一次の減り方はどれも標準的である。数は代表値である。水の中での塩素の減りの速さを 1 時間あたり $0.02$、送り出す濃度を $0.5$ mg/L、蛇口で守る下限を $0.1$ mg/L、枝管の長さ $2$ km、日平均の流量 $0.5$ L/s と置いた。流量は日平均で一定とした。実際の流量は一日の中で大きく変わり、夜は滞留がさらに延びる。一本の管だけを見る。管網での混ざり方、ループ、貯水槽は入れていない。壁での消費は向きだけを示す。壁の消費の速さの数は出していない。温度による減りの速さの変化も、消毒副生成物も扱わない。「管を細くせよ」とは書かない。消火や将来の需要に応える口径は要る。そのときは塩素を途中で足すか、流れを作る手当てが別に要る、ということまでが本稿の範囲である。既刊との関係:論文557 は、歯を強くする圧力角が伝動をなめらかにする角度と逆を向くと示した。本稿も同じ型で、流す力を確保する口径が、水の新しさと逆を向く。論文346 は、半減期が物質の性質になるのは一次の反応だけだと示した。水の中の塩素の減り方は一次なので、$0.5$ から $0.1$ までの時間は、いつから数えても同じ $80.4719$ 時間になる。論文300 は同根か別根かが判定できると示した。「水が古くなる」と「塩素が下限を割る」は、滞留時間という一つの根から出る。加えたのは、同じ流量で口径を変えたときの滞留と出口の塩素を並べ、口径の比の二乗で滞留が延びることを確かめたこと、出口でちょうど下限になる口径 $\mathbf{303.6676}$ mm を出し、その両側($300$ mm と $400$ mm)で確かめたこと、壁での消費を入れても向きが変わらないことを式の形で示したこと、分離子を「口径を決める流量」に置いたことである。
1. 記法と問い
設定:流量 $Q$ が口径 $D$、長さ $L$ の管を流れるとき、流速と、水が管にいる時間(滞留時間)は
$$v=\frac{4Q}{\pi D^{2}},\qquad t=\frac{L}{v}=\frac{\pi D^{2}L}{4Q}$$
である。塩素が一次で減るとき、出口の濃度は $C=C_0 e^{-kt}$ になる。
観察 1.1 配水管は「余裕を持って太く」選ばれることが多い。太い管は流れの抵抗が小さく、水圧を保ちやすく、消火のときの大きな流量にも応えられる。余裕を持つのは、ふつうは安全側の選び方と考えられている。
問い:ふだんの流量で、太い管の中の水に何が起きるか。
2. 塩素の持ち時間
計算 2.1:水の中での塩素の減りの速さを 1 時間あたり $0.02$、送り出す濃度を $0.5$ mg/L、蛇口で守る下限を $0.1$ mg/L とした。下限に落ちるまでの滞留時間の上限は $t_{\max}=\ln(0.5/0.1)/0.02=\mathbf{80.4719}$ 時間である(その時間で濃度がちょうど $0.1$ に戻る・$10^{-12}$)。
観察 2.2 減り方が一次なので、持ち時間はいつから数えても同じである。論文346 は、半減期が物質の性質になるのは一次の反応だけだと示した。水の中の塩素はその場合で、$0.5$ から $0.1$ までの $80.4719$ 時間は、管の入口から数えても途中から数えても変わらない。
3. 口径と滞留時間
計算 3.1:長さ $2$ km の枝管に日平均 $0.5$ L/s が流れるとして、口径だけを変えた。
| 口径 | 流速 | 滞留時間 | 出口の塩素 |
|---|---|---|---|
| $100$ mm | $\mathbf{0.063662}$ m/s | $\mathbf{8.7266}$ 時間 | $\mathbf{0.4199}$ mg/L |
| $150$ mm | $\mathbf{0.028294}$ m/s | $\mathbf{19.6350}$ 時間 | $\mathbf{0.3376}$ mg/L |
| $200$ mm | $\mathbf{0.015915}$ m/s | $\mathbf{34.9066}$ 時間 | $\mathbf{0.2488}$ mg/L |
| $300$ mm | $\mathbf{0.007074}$ m/s | $\mathbf{78.5398}$ 時間 | $\mathbf{0.1039}$ mg/L |
| $400$ mm | $\mathbf{0.003979}$ m/s | $\mathbf{139.6263}$ 時間 | $\mathbf{0.0306}$ mg/L |
観察 3.2 滞留は口径の二乗で延びる。口径を $100$ から $400$ mm へ $4$ 倍にすると、滞留は $\mathbf{16.000000}$ 倍で、口径の比の二乗と $10^{-9}$ で一致した。同じ量の水が、断面が広がった分だけゆっくり流れる。
観察 3.3 これが本稿の芯である。口径 $300$ mm では出口の塩素は $0.1039$ mg/L で下限の上にあり、$400$ mm では $0.0306$ mg/L で下限を割る。境目の両側を確かめた。出口でちょうど下限になる口径は $\mathbf{303.6676}$ mm で、その口径で滞留はちょうど上限の $80.4719$ 時間に戻る($10^{-9}$)。「余裕を持って」一段太くしただけで、蛇口の塩素が足りなくなる。
観察 3.4 細い側には余裕がある。$100$ mm なら滞留は $8.7266$ 時間で、出口に $0.4199$ mg/L 残る。太さの余裕が、塩素の余裕を食っている。
4. 壁での消費
観察 4.1 実際の管では、塩素は水の中だけでなく管の壁でも消費される。壁の消費を入れると減りの速さは $k_b+4k_w/D$ になり、細い管ほど速く減る。それでも、管を通る間の減りの指数は
$$\left(k_b+\frac{4k_w}{D}\right)\frac{\pi D^{2}L}{4Q}=\frac{\pi L}{4Q}\left(k_bD^{2}+4k_wD\right)$$
で、どちらの項も口径とともに増える。太くするほど塩素が減るという向きは変わらない。
5. 分離子
観察 5.1 分離子は、口径を決める流量が、ふだんの流量か、まれな最大の流量か、である。最大の流量(消火や将来の需要)で決めた管は、ふだんの流量では流れが遅すぎる。同じ管が、まれな日には足りて、ふだんの日には水を古くする。
観察 5.2 論文557 と同じ型である。あちらでは、歯を強くする圧力角が、伝動をなめらかにする角度と逆を向いた。こちらでは、流す力を確保する口径が、水の新しさと逆を向く。一つの寸法に二つの要求がかかり、向きが逆である。
観察 5.3 論文300 の基準では同根である。「水が古くなる」と「塩素が下限を割る」は、滞留時間という一つの根から出る。滞留を短く保てば、どちらも起きない。
観察 5.4 言わないこと。「管を細くせよ」とは書かない。消火や将来の需要に応える口径は要る。太い管を選ぶなら、途中で塩素を足すか、流れを作る手当てが別に要る。示したのは、余裕が安全側だけに働くのではないということである。
6. 点呼と結び
- 塩素の持ち時間 $\mathbf{80.4719}$ 時間(計算 2.1):一次なのでいつから数えても同じ。
- 口径 $4$ 倍で滞留 $\mathbf{16.000000}$ 倍(観察 3.2):口径の二乗。
- $100$ mm で $\mathbf{8.7266}$ 時間・$\mathbf{0.4199}$ mg/L(計算 3.1):細い側の余裕。
- $200$ mm で $\mathbf{34.9066}$ 時間・$\mathbf{0.2488}$ mg/L(計算 3.1):まだ上。
- $300$ mm で $\mathbf{0.1039}$ mg/L(計算 3.1):かろうじて下限の上。
- $400$ mm で $\mathbf{0.0306}$ mg/L(計算 3.1):下限を割る。
- 境目の口径 $\mathbf{303.6676}$ mm(観察 3.3):本稿の芯・両側を確かめた。
- 壁の消費を入れても向きは同じ(観察 4.1):指数は $k_bD^2+4k_wD$。
- 分離子は口径を決める流量(観察 5.1):ふだんか、まれな最大か。
- 論文557 と同じ型(観察 5.2):一つの寸法に逆向きの二つの要求。
結び:配水管は、将来の需要や消火に備えて「余裕を持って太く」選ばれることが多い。ところが同じ流量なら、水が管にいる時間は口径の二乗で延びる。長さ $2$ km の枝管に日平均 $0.5$ L/s が流れるとき、口径を $100$ から $400$ mm へ $4$ 倍にすると、滞留は $\mathbf{8.7266}$ 時間から $\mathbf{139.6263}$ 時間へちょうど $\mathbf{16.000000}$ 倍になる。一次で減る塩素が $0.5$ から下限の $0.1$ mg/L に落ちるまでの持ち時間は $\mathbf{80.4719}$ 時間で、減り方が一次なのでいつから数えても変わらない。口径 $300$ mm では出口の塩素は $\mathbf{0.1039}$ mg/L で下限の上にあり、$400$ mm では $\mathbf{0.0306}$ mg/L で下限を割る。境目の口径は $\mathbf{303.6676}$ mm で、その両側を確かめた。「余裕を持って」一段太くしただけで、蛇口の塩素が足りなくなる。細い側では $100$ mm で出口に $\mathbf{0.4199}$ mg/L 残り、太さの余裕が塩素の余裕を食っていることが分かる。壁での消費を入れても、減りの指数は $k_bD^2+4k_wD$ に比例して口径とともに増え、向きは変わらない。分離子は、口径を決める流量がふだんの流量か、まれな最大の流量か、である。最大の流量で決めた管は、ふだんの流量では流れが遅すぎ、同じ管がまれな日には足りてふだんの日には水を古くする。論文300 の基準で、「水が古くなる」と「塩素が下限を割る」は滞留時間という一つの根から出る。既刊との位置、論文557 と同じく、一つの寸法に逆向きの二つの要求がかかる。論文346 が示したとおり、半減期が物質の性質になるのは一次のときだけで、塩素の持ち時間が一つの数で言えるのはそのためである。正直に言えば、数は代表値で、流量は日平均で一定とし、管網での混ざり方も貯水槽も入れていない。壁での消費は向きだけを示し、温度の効きも消毒副生成物も扱わない。そして「管を細くせよ」とは書かない。示したのは、余裕が安全側だけに働くのではないということである。
参考文献
- Rossman, L. A., Clark, R. M., & Grayman, W. M. (1994). Modeling Chlorine Residuals in Drinking-Water Distribution Systems. Journal of Environmental Engineering.
- Walski, T. M., Chase, D. V., Savic, D. A., Grayman, W., Beckwith, S., & Koelle, E. (2003). Advanced Water Distribution Modeling and Management. Haestad Press.
- 山岸勇輝 (2026). 『三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
- 山岸勇輝 (2026). 『三つの反応次数のうち二つでは、「半減期」は物質の性質ですらない』[論文346]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22682323
- 山岸勇輝 (2026). 『歯を強くする角度は、伝動をなめらかにする角度と逆を向いている』[論文557]. Zenodo. 10.5281/zenodo.23014224
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「配水管は、太くすると水が古くなる」[論文576]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.23014315
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引用するとき
山岸勇輝 (2026). 配水管は、太くすると水が古くなる [論文576]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/576 ・ DOI: 10.5281/zenodo.23014315
Yamagishi, Y. (2026). Make a Water Main Wider and the Water in It Grows Older [Paper 576]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/576; DOI: 10.5281/zenodo.23014315
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author = {Yamagishi, Yuuki},
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