要旨
揺れを抑えるには減衰を増やせばよい、と思われやすい。本稿が示すのは、地面の揺れと建物の固有の周期の比が $\sqrt2$ より大きい側では、減衰を増やすと建物に伝わる揺れがかえって増え、減衰の効きは $\sqrt2$ を境に逆向きになることである。新しい定理も法則も主張しない。
第一に、共振すると揺れは増幅される。固有周期 $1$ 秒の建物が周期 $1$ 秒の揺れを受けると、減衰 $0.05$ で地面の $\mathbf{10.049876}$ 倍になる(第2節)。
第二に、免震で周期を $4$ 秒に延ばすと、揺れは $\mathbf{0.071777}$ 倍になる。周期比が $4$ になり、揺れはほとんど伝わらない(第4節)。
第三に、周期比 $\sqrt2$ では、減衰に依らず伝わる揺れはちょうど $1$ 倍である。減衰 $0.05$・$0.20$・$0.40$・$1.00$ のどれでも $1$ に $10^{-12}$ で一致する(第3節)。
第四に、これが本稿の芯である。$\sqrt2$ より外側では、減衰を増やすと伝わる揺れが増える。周期比 $4$ で、減衰 $0.05$・$0.20$・$0.40$ に対し $\mathbf{0.071777}$・$\mathbf{0.125077}$・$\mathbf{0.218589}$ 倍。内側(周期比 $1$)では逆に $\mathbf{10.049876}$ から $\mathbf{1.600781}$ へ減る(第4節)。
第五に、それでも減衰が要る理由がある。免震建物が周期 $4$ 秒の長い揺れと共振すると、免震層の変位は $1/(2\zeta)$ で、減衰 $0.05$ で $\mathbf{10.000000}$ 倍、$0.40$ で $\mathbf{1.250000}$ 倍に抑えられる。ふつうの揺れでは変位は $\mathbf{1.066288}$ から $\mathbf{1.043192}$ とほとんど変わらない(第5節)。
第六に、分離子は、周期比が $\sqrt2$ より上か下か、である。同じ減衰が、下では揺れを減らし、上では揺れを増やす(第6節)。
キーワード:免震、減衰、伝達率、周期比、地震動。
射程(何を示さないか)
新しい定理も法則も主張しない。地面の揺れを受ける一自由度の振動と、その伝達率の式は標準的である。一自由度・線形の粘性減衰に限る。建物を免震層の上の一つの塊とし、免震ゴムの非線形なふるまい、鉛の履歴、ねじれは入れていない。揺れは単一の周期とした。実際の地震は多くの周期を含む。本稿は周期を一つずつ取り出して見る。周期は代表値である。ふつうの建物の固有周期 $1$ 秒、免震建物 $4$ 秒、地面の揺れ $1$ 秒と $4$ 秒を置いた。建物を設計しない。減衰をいくつにすべきかは述べない。既刊との関係:論文351 は、ブランコの立ち漕ぎと座り漕ぎが二つの機構であることを示し、射程注記で減衰を主題にしないとしていた。本稿はその席に座り、減衰の効きが周期比で逆向きになることを主題にする。論文557 は、歯を強くする角度が伝動をなめらかにする角度と逆を向くことを示した。本稿でも、一つのつまみ(減衰)に、伝わる揺れと免震層の変位という逆向きの二つの要求がかかる。論文300 は同根か別根かが判定できると示した。「$\sqrt2$ の内側で減衰は揺れを減らす」と「外側で増やす」は、一つの伝達率の式から出る同根である。加えたのは、周期比 $\sqrt2$ で伝わる揺れが減衰に依らずちょうど $1$ になることを四つの減衰で確かめ、その理由を式の形で示したこと、外側で減衰が揺れを増やし内側で減らすことを並べたこと、長い周期の共振で変位が $1/(2\zeta)$ に抑えられることを閉じた式と突き合わせたこと、分離子を周期比 $\sqrt2$ に置いたことである。
1. 記法と問い
設定:固有周期 $T_n$、減衰比 $\zeta$ の建物が、周期 $T$ の地面の揺れを受けるとする。周期比を $r=T_n/T$(地面の振動数と建物の固有振動数の比)とすると、建物に伝わる加速度と地面の加速度の比、免震層の変位と地面の変位の比は
$$\mathrm{TR}=\sqrt{\frac{1+(2\zeta r)^2}{(1-r^2)^2+(2\zeta r)^2}},\qquad
\frac{Z}{Y}=\frac{r^2}{\sqrt{(1-r^2)^2+(2\zeta r)^2}}$$
である。
観察 1.1 揺れを抑えるには、減衰を増やせばよいと思われやすい。共振したときの揺れは、減衰を増やすほど小さくなる。それが、周期比のどこでも成り立つかは別の問いである。
問い:減衰を増やすと、建物に伝わる揺れは必ず減るか。
2. 伝わる揺れ
計算 2.1:周期比と減衰を変えて、伝わる加速度の比を出した。
| 周期比 $r$ | 減衰 $0.05$ | 減衰 $0.20$ | 減衰 $0.40$ |
|---|---|---|---|
| $1$ | $\mathbf{10.049876}$ | $\mathbf{2.692582}$ | $\mathbf{1.600781}$ |
| $2$ | $\mathbf{0.339182}$ | $\mathbf{0.412461}$ | $\mathbf{0.554940}$ |
| $4$ | $\mathbf{0.071777}$ | $\mathbf{0.125077}$ | $\mathbf{0.218589}$ |
観察 2.2 共振($r=1$)では、減衰を増やすほど揺れは減る。固有周期 $1$ 秒の建物が周期 $1$ 秒の揺れを受けると、減衰 $0.05$ で地面の $10.049876$ 倍だが、$0.40$ にすると $1.600781$ 倍になる。ここまでは直観どおりである。
観察 2.3 ところが $r=2$ と $r=4$ の行では、減衰を増やすほど揺れが増えている。周期比 $2$ で $0.339182$ から $0.554940$ へ、$4$ で $0.071777$ から $0.218589$ へ、同じ減衰が、行によって逆向きに効いている。
3. 境目は $\sqrt2$
計算 3.1:周期比 $r=\sqrt2$ で、減衰を $0.05$・$0.20$・$0.40$・$1.00$ と変えた。伝わる比は四つとも $1.000000000000$ で、$1$ と $10^{-12}$ で一致した。
観察 3.2 $\sqrt2$ では、減衰がまったく効かない。$r^2=2$ のとき $(1-r^2)^2=1$ なので、式の分子と分母で減衰の項 $(2\zeta r)^2$ に足されるものが同じ $1$ になり、比がちょうど $1$ になる。$\sqrt2$ より内側では分母の $(1-r^2)^2$ が $1$ より小さいので、同じ減衰の項を足すと分母のほうが割合として大きく増え、比は下がる。外側では $(1-r^2)^2$ が $1$ より大きいので、分子のほうが割合として大きく増え、比は上がる。
4. 免震建物とふつうの揺れ
計算 4.1:固有周期 $4$ 秒の免震建物が、周期 $1$ 秒のふつうの揺れを受けた($r=4$)。
| 減衰 | 伝わる揺れ | 免震層の変位 |
|---|---|---|
| $0.05$ | $\mathbf{0.071777}$ | $\mathbf{1.066288}$ |
| $0.20$ | $\mathbf{0.125077}$ | $\mathbf{1.060650}$ |
| $0.40$ | $\mathbf{0.218589}$ | $\mathbf{1.043192}$ |
観察 4.2 これが本稿の芯である。免震建物では、減衰を $0.05$ から $0.40$ に増やすと、伝わる揺れが $0.071777$ から $0.218589$ へ増える。免震が揺れを減らすのは周期を延ばして $\sqrt2$ の外側に出るからで、そこでは減衰は揺れを伝える通り道になる。しかも免震層の変位は $1.066288$ から $1.043192$ とほとんど減らない。
5. 長い周期の揺れ
計算 5.1:同じ免震建物が、周期 $4$ 秒の長い揺れを受けた($r=1$・共振)。
| 減衰 | 伝わる揺れ | 免震層の変位($1/(2\zeta)$) |
|---|---|---|
| $0.05$ | $\mathbf{10.049876}$ | $\mathbf{10.000000}$ |
| $0.20$ | $\mathbf{2.692582}$ | $\mathbf{2.500000}$ |
| $0.40$ | $\mathbf{1.600781}$ | $\mathbf{1.250000}$ |
観察 5.2 それでも減衰が要るのは、長い周期の揺れのためである。共振では免震層の変位の比は閉じた式 $1/(2\zeta)$ に $10^{-12}$ で一致し、減衰 $0.05$ で $10$ 倍、$0.40$ で $1.25$ 倍に抑えられる。免震層が動ける幅には限りがあるので、減衰を小さくしすぎると長い揺れで壁に当たる。減衰は、ふつうの揺れには少し損をし、長い揺れには大きく得をするつまみである。
6. 分離子
観察 6.1 分離子は、周期比が $\sqrt2$ より上か下か、である。下では減衰は揺れを減らし、上では揺れを増やす。「減衰を増やせば揺れは減る」は、$\sqrt2$ より内側だけの話である。
観察 6.2 論文351 の予約席に座る。あちらはブランコの漕ぎ方が、固有振動数の二倍で漕ぐパラメトリック励振と、一倍で漕ぐ強制振動の二つの機構であることを示し、射程注記で減衰を主題にしないとしていた。本稿は強制振動の側で、減衰の効きが周期比によって逆向きになることを主題にした。
観察 6.3 論文557 と同じ型である。あちらでは、歯を強くする角度が伝動をなめらかにする角度と逆を向いた。こちらでは、減衰という一つのつまみに、ふつうの揺れを伝えないことと、長い揺れで動きすぎないことの二つの要求が、逆向きにかかる。
観察 6.4 論文300 の基準では同根である。「内側で減衰は揺れを減らす」と「外側で増やす」は、一つの伝達率の式から出る。二つを分けているのは、式の中の $(1-r^2)^2$ が $1$ より大きいか小さいかだけである。
観察 6.5 言わないこと。建物を設計しない。減衰をいくつにすべきかも述べない。示したのは、減衰の効きが周期比で逆向きになり、その境目が $\sqrt2$ だということである。
7. 点呼と結び
- 共振で $\mathbf{10.049876}$ 倍(計算 2.1):固有周期 $1$ 秒・減衰 $0.05$。
- 共振では減衰で $\mathbf{1.600781}$ 倍へ減る(観察 2.2):直観どおり。
- $\sqrt2$ で減衰に依らず $1$(計算 3.1):四つの減衰で $10^{-12}$。
- 理由は $(1-r^2)^2=1$(観察 3.2):分子と分母がそろう。
- 免震で $\mathbf{0.071777}$ 倍(計算 4.1):周期 $4$ 秒。
- 減衰を増やすと $\mathbf{0.218589}$ 倍へ増える(観察 4.2):本稿の芯。
- 変位は $\mathbf{1.066288}$ から $\mathbf{1.043192}$(計算 4.1):ほとんど減らない。
- 長い揺れの共振で変位 $\mathbf{10.000000}$ から $\mathbf{1.250000}$ 倍へ(計算 5.1):それでも減衰が要る理由。
- 分離子は周期比 $\sqrt2$(観察 6.1):下で減らし、上で増やす。
- 論文351 の予約席(観察 6.2):減衰を主題にする。
結び:揺れを抑えるには減衰を増やせばよい、と思われやすい。それは共振のそばでは正しい。固有周期 $1$ 秒の建物が周期 $1$ 秒の揺れを受けると、減衰 $0.05$ で地面の $\mathbf{10.049876}$ 倍、$0.40$ にすると $\mathbf{1.600781}$ 倍に減る。ところが周期比 $\sqrt2$ より外側では、減衰を増やすと伝わる揺れがかえって増える。$\sqrt2$ では減衰をいくつにしても伝わる比はちょうど $1$ で、式の $(1-r^2)^2$ がちょうど $1$ になって分子と分母がそろうからである。周期 $4$ 秒の免震建物が周期 $1$ 秒の揺れを受けると、減衰 $0.05$ で $\mathbf{0.071777}$ 倍だった揺れが、$0.40$ で $\mathbf{0.218589}$ 倍に増え、免震層の変位は $\mathbf{1.066288}$ から $\mathbf{1.043192}$ とほとんど減らない。それでも減衰が要るのは長い周期の揺れのためで、同じ建物が周期 $4$ 秒の揺れと共振すると、免震層の変位は $1/(2\zeta)$、減衰 $0.05$ で $\mathbf{10.000000}$ 倍、$0.40$ で $\mathbf{1.250000}$ 倍に抑えられる。分離子は、周期比が $\sqrt2$ より上か下か、である。下では減衰は揺れを減らし、上では揺れを伝える通り道になる。論文300 の基準で、二つは一つの伝達率の式から出る同根である。既刊との位置、論文351 が射程注記で空けていた減衰の席に座った。論文557 と同じく、一つのつまみに逆向きの二つの要求がかかる。正直に言えば、一自由度・線形の粘性減衰・単一周期の揺れに限り、免震ゴムの非線形も、ねじれも、多くの周期を含む実際の地震も入れていない。周期は代表値で、建物は設計しておらず、減衰をいくつにすべきかも述べない。
参考文献
- Chopra, A. K. (2012). Dynamics of Structures: Theory and Applications to Earthquake Engineering (4th ed.). Prentice Hall.
- Den Hartog, J. P. (1956). Mechanical Vibrations (4th ed.). McGraw-Hill.
- Kelly, J. M. (1997). Earthquake-Resistant Design with Rubber (2nd ed.). Springer.
- 山岸勇輝 (2026). 『三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
- 山岸勇輝 (2026). 『ブランコの立ち漕ぎと座り漕ぎは、二つの機構である』[論文351]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22695649
- 山岸勇輝 (2026). 『歯を強くする角度は、伝動をなめらかにする角度と逆を向いている』[論文557]. Zenodo. 10.5281/zenodo.23014224
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「免震層の減衰を増やすと、伝わる揺れがかえって増える側がある」[論文584]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.23014359
日付の証拠(OpenTimestamps):日本語版の .ots・英語版の .ots・SHA256SUMS
予備の置き場所(ミラー。中身は上と同じです):PDF 日本語・PDF English・SHA256SUMS
住所:https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/584・DOI 10.5281/zenodo.23014359・CC BY 4.0・プレプリント(査読を経ていません)・ORCID 0009-0006-8587-3450
引用するとき
山岸勇輝 (2026). 免震層の減衰を増やすと、伝わる揺れがかえって増える側がある [論文584]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/584 ・ DOI: 10.5281/zenodo.23014359
Yamagishi, Y. (2026). More Damping in a Base Isolator Transmits More Shaking on One Side [Paper 584]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/584; DOI: 10.5281/zenodo.23014359
@misc{yamagishi2026yoi584,
author = {Yamagishi, Yuuki},
title = {More Damping in a Base Isolator Transmits More Shaking on One Side},
year = {2026},
howpublished = {YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/584},
doi = {10.5281/zenodo.23014359},
note = {Preprint, edition 1}
}
指紋(SHA-256)と確かめ方
b68b7706d2529eb60a731ca1fd78d77c51090afd75df6f81a040e75dc9de7f75 yamagishi_yoi584_v1_jp.pdf2804cbeee9b94d5c3cba3d84b1972a90976207e8d9cb212b9a62eabdf99761f1 yamagishi_yoi584_v1_en.pdfPDF と .ots を同じ場所に保存し、opentimestamps.org に .ots、続けて PDF を落とすと、記録された日時が表示されます。PDF が 1 バイトでも変わっていれば通りません。