要旨
重い紙飛行機は遠くへ飛ばない、と思われやすい。本稿が示すのは、滑空の角度は揚力と抗力の比だけで決まって重さに依らず、重さが変えるのは速さと滞空時間であり、距離を競うか時間を競うかで、飛ばすべき速さが違うことである。新しい定理も法則も主張しない。
第一に、滑空の角度は揚力係数だけで決まる。定常に滑空するとき、滑空角の正接は抗力と揚力の比である。代表値の抗力の式で、揚抗比の最大は $\mathbf{6.864684}$、そのときの滑空角は $\mathbf{8.288157}$ 度である(第2節)。
第二に、これが本稿の芯である。$1$ g のクリップで重さが $1.200417$ 倍になっても、距離は変わらない。速さと沈下の速さは $\mathbf{1.095635}$ 倍(重さの比の平方根)、滞空時間は $\mathbf{3.996122}$ 秒から $\mathbf{3.647310}$ 秒へ $\mathbf{0.912712}$ 倍になるが、$1.8$ m の高さからの距離は $\mathbf{12.356432}$ m のままである(第3節)。
第三に、運動方程式をそのまま解いても同じである。質点の運動方程式を数値で解くと、距離と時間は定常の式と $4.2\times10^{-13}$ 以内で一致する(第3節)。
第四に、時間を競うなら、沈下が最も遅い揚力係数で飛ぶ、角度を小さいと置いた教科書の閉じた式では、その速さは最良滑空の $3^{-1/4}=\mathbf{0.759836}$ 倍、揚抗比は $\sqrt3/2=\mathbf{0.866025}$ 倍である(第4節)。
第五に、滑空角 $8$ 度を正しく入れると数は少し動く。正確な式で数値的に最適にすると、速さは $\mathbf{0.747049}$ 倍、揚抗比(すなわち距離)は $\mathbf{0.852819}$ 倍、滞空は $\mathbf{1.146023}$ 倍である(第4節)。
第六に、分離子は、距離を競うか時間を競うかである。同じ抗力の式の、別の点が最良になる。重さはどちらの点も動かさず、速さだけを平方根で変える(第5節)。
キーワード:紙飛行機、滑空比、揚抗比、最小沈下、滑空。
射程(何を示さないか)
新しい定理も法則も主張しない。定常な滑空の釣り合い、抗力が揚力係数の二乗で増える式(放物線の極曲線)、最良滑空と最小沈下は、すべて標準的である。抗力の式は代表値である。形状抗力の係数 $0.04$、縦横比 $3$、効率 $0.8$、翼面積 $0.015$ m$^2$、空気の密度 $1.204$ kg/m$^3$ と置いた。係数は速さに依らないとした。紙飛行機の速さでは実際には係数が変わるが、入れていない。失速を入れない。最小沈下の揚力係数 $0.980229$ が失速の手前にあるかは確かめていない。投げたあとの揺れと風を入れない。定常に滑空しているところだけを見る。紙飛行機を設計しない。既刊との関係:論文458 は、揚力係数を六割上げても失速速度は二割しか下がらない、平方根でしか効かないことを示した。本稿でも速さは重さの平方根で動く。同じ平方根だが、距離のほうは重さに依らない。論文390 は、揚抗比が帆走艇の速さと風の速さの比を決めることを示した。本稿では揚抗比が距離を決める。論文300 は同根か別根かが判定できると示した。最良滑空と最小沈下は同じ抗力の式から出る同根で、最適にする量が違うだけである。加えたのは、重さを変えても滑空角と距離が変わらないことを定常の式と運動方程式の二つの道で確かめたこと、滞空時間が重さの比の平方根で縮むことを数で出したこと、最小沈下の速さを角度を小さいとした閉じた式と正確な式の両方で出したこと、分離子を距離か時間かに置いたことである。
1. 記法と問い
設定:質量 $m$ の紙飛行機が、翼面積 $S$、揚力係数 $C_L$ で、滑空角 $\gamma$ の道を定常に降りるとする。揚力と抗力と重さの釣り合いから
$$\tan\gamma=\frac{C_D}{C_L},\qquad v=\sqrt{\frac{2mg\cos\gamma}{\rho SC_L}},\qquad C_D=C_{D0}+KC_L^2$$
で、$K=1/(\pi eA)$($A$ は縦横比、$e$ は効率)である。高さ $H$ から降りる距離は $H/\tan\gamma$、時間は $H/(v\sin\gamma)$ である。
観察 1.1 重い紙飛行機は遠くへ飛ばない、と思われやすい。クリップを付けると、速く落ちるように見える。速く落ちることと、近くに落ちることは、別のことである。
問い:重さで、紙飛行機の飛ぶ距離は変わるのか。
2. 滑空角
計算 2.1:形状抗力の係数 $C_{D0}=0.04$、縦横比 $3$、効率 $0.8$ で、$K=0.132629$ である。揚抗比が最大になる揚力係数は $C_L^*=\sqrt{C_{D0}/K}=0.549175$(数値で最適にしても同じ)で、揚抗比は $\mathbf{6.864684}$、滑空角は $\mathbf{8.288157}$ 度である。
観察 2.2 滑空角の式に、重さは入らない。$\tan\gamma=C_D/C_L$ は揚力係数だけで決まる。重さが入るのは速さの式だけである。
3. 重さを変える
計算 3.1:A4 の紙一枚(坪量 $80$ g/m$^2$)で $4.9896$ g、翼面積 $0.015$ m$^2$、空気の密度 $1.204$ kg/m$^3$、揚抗比が最大の揚力係数で、$1.8$ m の高さから飛ばした。
| 滑空角 | 速さ | 沈下 | 滞空 | 距離 | |
|---|---|---|---|---|---|
| 機体だけ($4.9896$ g) | $\mathbf{8.288157}$ 度 | $3.124742$ m/s | $0.450437$ m/s | $\mathbf{3.996122}$ 秒 | $\mathbf{12.356432}$ m |
| $1$ g のクリップ($5.9896$ g) | $\mathbf{8.288157}$ 度 | $3.423578$ m/s | $0.493514$ m/s | $\mathbf{3.647310}$ 秒 | $\mathbf{12.356432}$ m |
観察 3.2 これが本稿の芯である。重さが $1.200417$ 倍になると、速さと沈下の速さは $\mathbf{1.095635}$ 倍(重さの比の平方根)、滞空は $\mathbf{0.912712}$ 倍になるが、距離は変わらない。クリップを付けた紙飛行機は、同じ角度の道を速く降りる。近くに落ちるのではなく、早く着く。
計算 3.3:定常の式とは別の道として、揚力と抗力と重さを受ける質点の運動方程式を数値で解いた(ルンゲ=クッタ法)。機体だけで距離 $12.356432$ m・時間 $3.996122$ 秒、クリップ付きで $12.356432$ m・$3.647310$ 秒で、定常の式との差は $4.2\times10^{-13}$ 以内である。
4. 距離か時間か
計算 4.1:沈下の速さ $v\sin\gamma$ を最小にする揚力係数は、角度を小さいと置けば $\sqrt3 C_L^*=0.951199$、正確な式で数値的に最小にすると $0.980229$ である。最良滑空に対する比は、
| 比 | 角度を小さいとした閉じた式 | 正確な式 |
|---|---|---|
| 速さ | $\mathbf{0.759836}$($3^{-1/4}$) | $\mathbf{0.747049}$ |
| 揚抗比(距離) | $\mathbf{0.866025}$($\sqrt3/2$) | $\mathbf{0.852819}$ |
| 沈下の速さ | $0.877383$ | $0.872583$ |
正確な式では、最良滑空が速さ $3.124742$ m/s・距離 $12.356432$ m・滞空 $3.996122$ 秒、最小沈下が $2.334334$ m/s・$10.537797$ m・$4.579646$ 秒である。
観察 4.2 時間を競うなら、遅く飛ばす。最小沈下の速さは最良滑空の $0.747049$ 倍で、滞空は $\mathbf{1.146023}$ 倍に延びるが、距離は $0.852819$ 倍に落ちる。距離の最良と時間の最良は、同じ紙飛行機の別の速さにある。
観察 4.3 教科書の閉じた式は、角度を小さいと置いている。滑空角 $8$ 度では、速さの比 $0.759836$ に対して正しくは $0.747049$、揚抗比の比 $0.866025$ に対して正しくは $0.852819$ である。向きは同じだが、数は角度を入れて出す。
5. 分離子
観察 5.1 分離子は、距離を競うか時間を競うかである。距離なら揚抗比が最大の点、時間なら沈下が最小の点で飛ぶ。同じ抗力の式の、別の点である。重さはどちらの点の揚力係数も動かさず、速さだけを平方根で変える。だから重さは距離を変えず、時間だけを変える。
観察 5.2 論文458 と並べる。あちらは、揚力係数を六割上げても失速速度は二割しか下がらない、平方根でしか効かないことを示した。ここでも速さは重さの平方根で動く。同じ平方根だが、距離はその平方根の外にある。
観察 5.3 論文390 と並べる。あちらは、揚抗比が帆走艇の速さと風の速さの比を決めることを示した。ここでは揚抗比が、高さに対する距離の比を決める。
観察 5.4 論文300 の基準では同根である。最良滑空と最小沈下は、同じ抗力の式から出る。違うのは、最適にする量が距離か時間かだけである。
観察 5.5 言わないこと。紙飛行機を設計しない。係数の速さによる変化、失速、投げたあとの揺れ、風は入れていない。示したのは、重さが距離を変えずに時間を変えることと、距離と時間で最良の速さが違うことである。
6. 点呼と結び
- 揚抗比の最大 $\mathbf{6.864684}$(計算 2.1):滑空角 $\mathbf{8.288157}$ 度。
- 滑空角に重さは入らない(観察 2.2):揚力係数だけで決まる。
- クリップで速さは $\mathbf{1.095635}$ 倍(観察 3.2):重さの比の平方根。
- 滞空は $\mathbf{3.996122}$ 秒から $\mathbf{3.647310}$ 秒へ(計算 3.1):$\mathbf{0.912712}$ 倍。
- 距離は $\mathbf{12.356432}$ m のまま(観察 3.2):本稿の芯。
- 運動方程式との差は $4.2\times10^{-13}$ 以内(計算 3.3):二つの道。
- 時間を競うなら速さ $\mathbf{0.747049}$ 倍(観察 4.2):滞空 $\mathbf{1.146023}$ 倍。
- そのとき距離は $\mathbf{0.852819}$ 倍(観察 4.2):距離と時間は別の速さ。
- 閉じた式は $\mathbf{0.759836}$ と $\mathbf{0.866025}$(観察 4.3):角度を小さいと置いた値。
- 分離子は距離か時間か(観察 5.1):同じ抗力の式の別の点。
結び:重い紙飛行機は遠くへ飛ばない、と思われやすい。滑空の角度は揚力係数だけで決まり、重さに依らない。代表値の抗力の式で揚抗比の最大は $\mathbf{6.864684}$、滑空角は $\mathbf{8.288157}$ 度である。A4 の紙一枚($4.9896$ g)の紙飛行機に $1$ g のクリップを付けると、速さと沈下の速さは $\mathbf{1.095635}$ 倍、滞空時間は $\mathbf{3.996122}$ 秒から $\mathbf{3.647310}$ 秒へ $\mathbf{0.912712}$ 倍になるが、$1.8$ m の高さからの距離は $\mathbf{12.356432}$ m のままで、運動方程式を解いても $4.2\times10^{-13}$ 以内で同じである。クリップを付けた紙飛行機は、近くに落ちるのではなく、同じ道を早く降りる。距離を競うか時間を競うかで、飛ばすべき速さが違う。時間を競うなら沈下が最小の点で飛び、その速さは最良滑空の $\mathbf{0.747049}$ 倍、滞空は $\mathbf{1.146023}$ 倍に延びるが、距離は $\mathbf{0.852819}$ 倍に落ちる。角度を小さいと置いた教科書の閉じた式は $\mathbf{0.759836}$ と $\mathbf{0.866025}$ を与え、向きは同じだが、数は角度を入れて出す。分離子は、距離を競うか時間を競うかである。同じ抗力の式の別の点が最良になり、論文300 の基準で二つは同根である。既刊との位置、論文458 と同じ平方根で速さは重さに従うが、距離はその平方根の外にある。論文390 で帆走艇の速さの比を決めた揚抗比が、ここでは距離を決める。正直に言えば、抗力の式も翼面積も代表値で、係数の速さによる変化、失速、投げたあとの揺れ、風は入れていない。最小沈下の揚力係数が失速の手前にあるかは確かめておらず、紙飛行機も設計しない。
参考文献
- Anderson, J. D. (2016). Introduction to Flight (8th ed.). McGraw-Hill Education.
- McCormick, B. W. (1995). Aerodynamics, Aeronautics, and Flight Mechanics (2nd ed.). Wiley.
- Tennekes, H. (2009). The Simple Science of Flight: From Insects to Jumbo Jets. MIT Press.
- 山岸勇輝 (2026). 『三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
- 山岸勇輝 (2026). 『速くなるほど風が強くなる。だから帆走艇は風より速く走れる』[論文390]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22699203
- 山岸勇輝 (2026). 『揚力係数を六割上げても、失速速度は二割しか下がらない』[論文458]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22733085
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「紙飛行機にクリップを付けても、飛ぶ距離は変わらない」[論文590]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.23014382
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引用するとき
山岸勇輝 (2026). 紙飛行機にクリップを付けても、飛ぶ距離は変わらない [論文590]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/590 ・ DOI: 10.5281/zenodo.23014382
Yamagishi, Y. (2026). A Clip on a Paper Aeroplane Does Not Shorten How Far It Glides [Paper 590]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/590; DOI: 10.5281/zenodo.23014382
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author = {Yamagishi, Yuuki},
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