要旨
干支は、十干(甲・乙・丙…の $10$)と十二支(子・丑・寅…の $12$)を一つずつ組にして年を呼ぶ仕組みである。年ごとに両方を一つずつ進めたとき、組が何通り現れるかを数える。新しい定理も法則も主張しない。
第一に、現れる組は $120$ 通りではなく $60$ 通りである。年を $120$ 年ぶん回して組を集めると、現れたのは $60$ 通り(割合 $0.500000$)で、$60$ 年で一巡し、それ以後は新しい組が一つも出なかった。甲子の次に甲子が来るのは $60$ 年後で、これが還暦である(第2節)。
第二に、現れるのは偶奇が揃う組だけである。十干と十二支に $0$ から番号を振ると、現れた $60$ 組はすべて二つの番号の偶奇が揃っており、偶奇が揃う組はちょうど $60$ ある。甲($0$)と丑($1$)の組、甲丑は一度も来ない(第2節)。
第三に、これが本稿の芯である。分離子は、二つの周期の最大公約数である。年が一つ進むと二つの番号がどちらも一つ進むので、番号の差は、$10$ と $12$ の最大公約数 $2$ で割った余りが変わらない。最大公約数が $1$ なら全部の組が現れ、$g$ なら $1/g$ しか現れない(第3節)。
第四に、マヤの暦では五分の一しか現れない。$13$ の数と $20$ の日の名の組(ツォルキン)は最大公約数が $1$ で、$260$ 通りすべてが現れる。そのツォルキンの $260$ 日と、$365$ 日の暦の組は最大公約数が $5$ で、$94900$ 通りのうち $18980$ 通り(割合 $0.200000$)しか現れず、$18980$ 日($365$ 日の年の $52$ 年)で一巡する(第3節)。
第五に、互いに素な周期を三つ組むと、全部が現れる。$28$ 年・$19$ 年・$15$ 年の三つの周期(ユリウス周期)は、どの二つも最大公約数が $1$ で、$7980$ 年のあいだに $7980$ 通りの組がすべて一度ずつ現れる(第3節)。
第六に、二つの道筋が合った。年を回して集めた組の数と、「二つの番号の差を最大公約数で割った余りが $0$」という条件だけで数えた組の数は、干支でもマヤの暦でも一致した(第3節)。
キーワード:干支、中国の剰余の定理、最大公約数、暦、カレンダー・ラウンド。
射程(何を示さないか)
新しい定理も法則も主張しない。二つの余りから元の数を決める定理(中国の剰余の定理)、干支が $60$ 年で一巡すること、マヤのカレンダー・ラウンドが $52$ 年であること、ユリウス周期(スカリゲル、$1583$)は、いずれも既知である。暦の歴史を扱わない。改暦・閏・地域差、干支の起源、マヤ暦の起点をいまの暦のどの日に合わせるかは主題ではない。年の数え方の規約を論じない。番号はどれも $0$ から振り、周期の組み合わせ方だけを数える。既刊との関係:論文319 は、暦が自然の周期に人間の数を合わせる近似を三段重ねたものだと示した。本稿は近似ではなく、人間が決めた周期を二つ三つ組み合わせたとき、組が何通り現れるかを数える。加えたのは、干支・ツォルキン・カレンダー・ラウンド・ユリウス周期を同じ数え方で並べたこと、年を回す道筋と条件で数える道筋を突き合わせたこと、分離子を周期の最大公約数に置き、現れる割合が $1/g$ になることを数で確かめたことである。
1. 記法と問い
設定:十干を甲・乙・丙・丁・戊・己・庚・辛・壬・癸の順に $0$ から $9$、十二支を子・丑・寅・卯・辰・巳・午・未・申・酉・戌・亥の順に $0$ から $11$ と番号を振る。年 $y$($y=0$ を甲子の年とする)の干支は、$y$ を $10$ で割った余りと $12$ で割った余りの組 $(a,b)$ である。
一般に:周期 $m_1,m_2$ の二つの数え方を一つずつ進めるとき、現れる組 $(y \bmod m_1, y \bmod m_2)$ を数える。
問い:組の候補 $m_1m_2$ 通りのうち、何通りが現れるか。何で決まるか。
2. 年を回して数える
計算 2.1:年を回して、現れる組を集めた(一巡の三倍まで回し、一巡を越えて新しい組が出ないことも確かめた)。
| 組み合わせる周期 | 組の候補 | 現れる組 | 割合 | 一巡 |
|---|---|---|---|---|
| 十干と十二支($10$ と $12$) | $120$ | $60$ | $0.500000$ | $60$ 年 |
| ツォルキン($13$ と $20$) | $260$ | $260$ | $1.000000$ | $260$ 日 |
| カレンダー・ラウンド($260$ 日と $365$ 日) | $94900$ | $18980$ | $0.200000$ | $18980$ 日 |
| ユリウス周期($28$・$19$・$15$ 年) | $7980$ | $7980$ | $1.000000$ | $7980$ 年 |
観察 2.2 干支は $60$ 通りしかない。甲子の次に甲子が来るのは $60$ 年後で、そのあいだに $60$ の組がそれぞれ一度ずつ現れる。$120$ の候補の半分は、どれだけ年を重ねても来ない。
観察 2.3 現れる $60$ 組は、二つの番号の偶奇が揃う組である。甲子 $(0,0)$、乙丑 $(1,1)$、丙寅 $(2,2)$ と進み、癸酉 $(9,9)$ の次は甲戌 $(0,10)$ である。偶奇が揃う組は $5\times6+5\times6=60$ で、現れた組とちょうど一致した。甲丑 $(0,1)$ は、偶奇が揃わないので一度も来ない。
3. 分離子
観察 3.1 これが本稿の芯である。分離子は、二つの周期の最大公約数である。$a$ は $y$ を $10$ で割った余りなので、$y$ と偶奇が同じである($10$ が $2$ で割り切れるから)。$b$ も $y$ と偶奇が同じである($12$ も $2$ で割り切れるから)、だから $a$ と $b$ の偶奇はいつも揃う。$2$ は $10$ と $12$ の最大公約数で、一般には、$a$ も $b$ も $y$ も、最大公約数 $g$ で割った余りが等しい。
計算 3.2:年を回すのとは独立に、「$a-b$ を最大公約数 $g$ で割った余りが $0$」という条件だけで組を数えた。
| 周期 | 最大公約数 $g$ | 条件を満たす組 | 最小公倍数 |
|---|---|---|---|
| $10$ と $12$ | $2$ | $60$ | $60$ |
| $13$ と $20$ | $1$ | $260$ | $260$ |
| $260$ と $365$ | $5$ | $18980$ | $18980$ |
条件で数えた組の数は、年を回して集めた数と、干支でもカレンダー・ラウンドでも一致した。どれも最小公倍数 $m_1m_2/g$ に等しく、候補に対する割合は $1/g$ である。
観察 3.3 条件を満たす組は、みな現れる。偶奇が揃う組 $(a,b)$ ならば、$10$ で割って $a$ 余り $12$ で割って $b$ 余る年が $60$ 年のうちにちょうど一つある。これが二つの余りから元の数を決める定理(中国の剰余の定理)である。最大公約数が $1$ のときは条件が消え、全部の組が現れる。
観察 3.4 マヤの暦は、同じ仕組みの二段である。$13$ と $20$ は最大公約数が $1$ なので、ツォルキンの $260$ 日には $260$ 通りの組が全部並ぶ。そのツォルキンと $365$ 日の暦は最大公約数が $5$ で、組は五分の一の $18980$ 通りしか現れず、$18980$ 日、つまり $365$ 日の年の $52$ 年で一巡する。一段目では何も消えず、二段目で五分の四が消える。違いは最大公約数だけである。
観察 3.5 ユリウス周期は、消えないように組んである。$28$・$19$・$15$ はどの二つも最大公約数が $1$ で、$7980$ 年のあいだに $7980$ 通りの三つ組がすべて一度ずつ現れる。スカリゲルは、三つの周期の番号の組から年を一つに決められる長さとしてこれを組んだ。
観察 3.6 論文319 と並べる。319 は、ユリウス暦が $128$ 年で一日ずれ、グレゴリオ暦が $3226$ 年で一日ずれることを出し、暦を近似の三段重ねとして示した。そこでは自然の周期に人間の数を合わせる近似が問題だった。本稿の周期はどれも人間が決めた整数で、近似は無い。消えるか消えないかは、整数どうしの最大公約数だけで決まる。
観察 3.7 言わないこと。暦の歴史、改暦、閏、干支の起源、マヤ暦の起点をいまの暦に合わせる方法は扱わない。示したのは、周期を組み合わせたときに現れる組の数が最大公約数で決まることを、二つの道筋で確かめたことである。
4. 点呼と結び
- 干支の候補 $120$ のうち現れるのは $60$(計算 2.1):割合 $0.500000$。
- $60$ 年で一巡し、新しい組はもう出ない(計算 2.1):還暦。
- 現れるのは偶奇が揃う組(観察 2.3):甲丑は来ない。
- 分離子は周期の最大公約数(観察 3.1):本稿の芯。
- 条件で数えた組と年を回した組が一致(計算 3.2):二つの道筋。
- 現れる割合は $1/g$(計算 3.2):最小公倍数ぶんだけ現れる。
- ツォルキンは $260$ 通りすべて(計算 2.1):最大公約数 $1$。
- カレンダー・ラウンドは $94900$ のうち $18980$(計算 2.1):最大公約数 $5$、$52$ 年。
- ユリウス周期は $7980$ 通りすべて(計算 2.1):消えないように組んである。
- 近似ではなく整数の最大公約数で決まる(観察 3.6):論文319 との違い。
結び:干支は、十干の $10$ と十二支の $12$ を一年に一つずつ進めて年を呼ぶ。組の候補は $120$ あるのに、現れるのは $60$ だけである。年を回して集めると $60$ 年で一巡し、それ以後は新しい組が出ない。現れるのは二つの番号の偶奇が揃う組だけで、甲丑は一度も来ない。分離子は、二つの周期の最大公約数である。年が進むと二つの番号が一緒に進むので、番号の差を最大公約数で割った余りは変わらない。最大公約数が $g$ なら、現れる組は候補の $1/g$ で、年を回した数と条件で数えた数は一致した。同じ仕組みはマヤの暦にもある。$13$ と $20$ は最大公約数 $1$ で $260$ 通りすべてが現れ、$260$ 日と $365$ 日は最大公約数 $5$ で $94900$ 通りのうち $18980$ 通りしか現れない。$28$・$19$・$15$ 年を組んだユリウス周期は、どの二つも最大公約数が $1$ で、$7980$ 通りすべてが現れる。既刊との位置、論文319 が扱った暦の近似とは違い、ここでの周期はどれも整数で、消えるか消えないかは最大公約数だけで決まる。正直に言えば、示したのは既知の定理の数え上げで、暦の歴史やマヤ暦の起点の対応には触れていない。
参考文献
- Aveni, A. F. (2001). Skywatchers: A Revised and Updated Version of Skywatchers of Ancient Mexico. University of Texas Press.
- Hardy, G. H., & Wright, E. M. (2008). An Introduction to the Theory of Numbers (6th ed.). Oxford University Press.
- Richards, E. G. (1998). Mapping Time: The Calendar and its History. Oxford University Press.
- Scaliger, J. J. (1583). Opus novum de emendatione temporum.
- 山岸勇輝 (2026). 『暦は、近似を三段重ねたものである』[論文319]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22208933
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「干支は百二十通りではなく、六十通りしかない」[論文605]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.23014440
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引用するとき
山岸勇輝 (2026). 干支は百二十通りではなく、六十通りしかない [論文605]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/605 ・ DOI: 10.5281/zenodo.23014440
Yamagishi, Y. (2026). The Sexagenary Cycle Has Sixty Pairs, Not a Hundred and Twenty [Paper 605]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/605; DOI: 10.5281/zenodo.23014440
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note = {Preprint, edition 1}
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指紋(SHA-256)と確かめ方
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