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【論文604】6 次のラテン方陣には、直交する相手が一つも無い

要旨

$n$ 次のラテン方陣は、$n\times n$ のます目に $n$ 種類の記号を、どの行にもどの列にも一つずつ現れるように並べたものである。二つのラテン方陣を重ねたとき、記号の組 $n^2$ 通りがすべて一度ずつ現れるなら、二つは直交するという。オイラーは、六つの連隊から六つの位の士官を一人ずつ、どの行にもどの列にも各連隊・各位が一人ずつ並ぶように立たせられるかを問うた。$6$ 次の直交する方陣の組があるかという問いである。新しい定理も法則も主張しない。

第一に、$6$ 次の方陣は、一行目と一列目を揃えると $9408$ 個である。揃えた方陣を作り尽くすと、$1$ 次から $6$ 次で $1,1,1,4,56,9408$ 個だった。揃える前の全数は $4$ 次で $576$、$5$ 次で $161280$ で、どちらも作り尽くして数えた値と一致した(第2節)。

第二に、これが本稿の芯である。$6$ 次の $9408$ 個のどれにも、直交する相手が無い。相手があることは、方陣を $n$ 本の交わらない横断(どの行・どの列・どの記号からも一つずつ選んだ $n$ 個のます)に分けられることと同じである。$9408$ 個すべてで調べ、分けられる方陣は $0$ 個だった(第3節)。

第三に、小さい次数には相手がある。相手を持つ方陣は、$2$ 次で $0$ 個、$3$ 次で $1$ 個中 $1$ 個、$4$ 次で $4$ 個中 $1$ 個、$5$ 次で $56$ 個中 $6$ 個である。$3$ 次と $4$ 次は、横断で調べた答と、相手の候補を全部重ねてみる総当たりの答が、方陣ごとに一致した(第3節)。

第四に、横断が無いから相手が無いのではない。$6$ 次の方陣のうち横断を $1$ 本も持たないのは $2100$ 個($\mathbf{0.223214}$)で、残りは $8$ 本が $7020$ 個、$24$ 本が $108$ 個、$32$ 本が $180$ 個の横断を持つ。それでも、交わらない $6$ 本には一つも分けられない(第3節)。

第五に、分離子は「偶数か」ではなく「$6$ か」である。$i+j$ を $n$ で割った余りを並べた方陣は、偶数次($2$・$4$・$6$)で横断が $0$ 本、奇数次で $3$・$15$・$133$ 本だった。だが $4$ 次では、別の方陣(クラインの四元群の表)が横断 $8$ 本を持って相手を持つ。偶数の方陣がみな相手を持たないのではなく、$6$ 次だけが全部の方陣で相手を持たない(第4節)。

キーワード:ラテン方陣、直交ラテン方陣、三十六人の士官の問題、横断、組合せ論。

射程(何を示さないか)

新しい定理も法則も主張しない。オイラーの問い($1782$)、$6$ 次に直交する組が無いこと(タリー、$1900$)、$10$ 次以上ではオイラーの予想が外れること(ボース、シュリカンデ、パーカー、$1960$)、小さいラテン方陣の個数(マッケイ、マイネルト、マーヴォルド、$2007$)は、いずれも既知である。タリーの証明を再現しない。一行目と一列目を揃えた $9408$ 個を作り尽くし、一つずつ横断で調べるだけである。$10$ 次以上は計算しない。オイラーの予想($4$ で割って $2$ 余る次数には組が無い)が外れる側は、既知の結果として述べるだけである。実験計画での使い方は扱わない。既刊との関係:論文247 は「偶数と奇数で分かれる」を八つに数えた。偶数次の巡回の方陣に横断が無いのは偶奇の分かれの一つだが、$6$ 次の不在はそれでは説明できない。加えたのは、$6$ 次の揃えた方陣 $9408$ 個の横断の本数の分布を出したこと、$3$・$4$ 次で横断の方法と総当たりを方陣ごとに突き合わせたこと、分離子を「偶数か」ではなく「$6$ か」に置き、偶数次の巡回の方陣と $4$ 次のクラインの四元群の表を並べて確かめたことである。

1. 記法と問い

設定:$n$ 次のラテン方陣 $L$ は、記号 $0,1,\dots,n-1$ を $n\times n$ のます目に、どの行にもどの列にも一つずつ現れるように並べたものである。二つの方陣 $L,M$ は、組 $(L_{ij},M_{ij})$ が $n^2$ 通りすべて一度ずつ現れるとき直交するという。$L$ の横断とは、どの行からもどの列からも一つずつ選んだ $n$ 個のますで、その記号がすべて違うものである。

相手と横断:$L$ に直交する $M$ があれば、$M$ で同じ記号が置かれた $n$ 個のますは $L$ の横断になり、それが $n$ 本で全部のますを分ける。逆に、$L$ を $n$ 本の交わらない横断に分けられれば、横断ごとに記号を置いて $M$ が作れる。

揃えてよい理由:$L$ と $M$ の行を同じように並べ替えても、列を同じように並べ替えても、直交は保たれる。どの方陣も、列を並べ替えて一行目を $0,1,\dots,n-1$ にし、残りの行を並べ替えて一列目も $0,1,\dots,n-1$ にできる。だから相手の有無は、一行目と一列目を揃えた方陣(簡約した方陣)だけ調べれば分かる。

問い:$6$ 次の方陣に直交する相手はあるか。無いなら、それは横断が無いからか。偶数次だからか。

2. 方陣を作り尽くす

計算 2.1:簡約した方陣を、ますを一つずつ埋める探索で作り尽くした。

次数 $1$ $2$ $3$ $4$ $5$ $6$
簡約した方陣 $1$ $1$ $1$ $4$ $56$ $9408$

計算 2.2:揃えない方陣を作り尽くして数えると、$4$ 次で $576$、$5$ 次で $161280$ 個だった。これは $n!(n-1)!$ に簡約の数を掛けた $4! 3!\times4=576$、$5! 4!\times56=161280$ とそれぞれ一致する。同じ掛け算で、$6$ 次の全数は $6! 5!\times9408=812851200$ である。

観察 2.3 二つの数え方が合った。揃えた方陣の数と、揃えない方陣の全数の二つを別々に作り尽くして、掛け算の関係が $4$ 次と $5$ 次で成り立った。$9408$ はマッケイらが示した値でもある。

3. 相手を探す

計算 3.1:簡約した方陣ごとに横断を全部数え、$n$ 本の交わらない横断に分けられるか(相手があるか)を調べた。

次数 簡約した方陣 相手を持つ方陣 横断の本数(その本数を持つ方陣の数)
$2$ $1$ $0$ $0$ 本($1$)
$3$ $1$ $1$ $3$ 本($1$)
$4$ $4$ $1$ $0$ 本($3$)・$8$ 本($1$)
$5$ $56$ $6$ $3$ 本($50$)・$15$ 本($6$)
$6$ $9408$ $0$ $0$ 本($2100$)・$8$ 本($7020$)・$24$ 本($108$)・$32$ 本($180$)

$5$ 次で相手を持つ $6$ 個は、横断を $15$ 本持つ $6$ 個とちょうど一致した。

計算 3.2:横断の方法とは独立に、$3$ 次と $4$ 次では、揃えない方陣を全部($3$ 次 $12$ 個、$4$ 次 $576$ 個)重ねてみて直交するものがあるかを総当たりで調べた。相手を持つ簡約した方陣は $3$ 次で $1$ 個、$4$ 次で $1$ 個で、横断の方法の答と方陣ごとに一致した。

観察 3.3 これが本稿の芯である。$6$ 次には、相手を持つ方陣が一つも無い。三十六人の士官は、どう並べても揃わない。これはタリーが $1900$ 年に示したことで、本稿は簡約した $9408$ 個を一つずつ調べてそれを確かめた。

観察 3.4 横断が無いから相手が無いのではない。$6$ 次で横断を $1$ 本も持たない方陣は $2100$ 個(割合 $\mathbf{0.223214}$)だけで、$7308$ 個は $8$ 本以上の横断を持つ。最多は $32$ 本である。横断は十分あっても、互いに交わらない $6$ 本を選び出せない。問題は本数ではなく、組み合わせ方である。

4. 分離子

計算 4.1:$i$ 行 $j$ 列に $i+j$ を $n$ で割った余りを置いた方陣(巡回の方陣)の横断を数えた。$2$ 次から $7$ 次で、$0,3,0,15,0,133$ 本だった。

観察 4.2 偶数次の巡回の方陣には横断が無い。$2$・$4$・$6$ 次で $0$ 本、奇数次では $3$・$15$・$133$ 本ある。ここまでなら、偶数か奇数かで分かれる現象に見える。

観察 4.3 分離子は「偶数か」ではなく「$6$ か」である。$4$ 次で相手を持つ唯一の簡約した方陣は、$i$ と $j$ を二進法で繰り上がりなしに足した表(クラインの四元群の表)で、横断を $8$ 本持つ。巡回の方陣とは別の方陣が、偶数次でも相手を持つ、$4$ 次には相手を持つ方陣があり、$6$ 次には無い。$2$ 次を除けば、全部の方陣で相手が無いのは $6$ 次だけで、オイラーはこれが $4$ で割って $2$ 余る次数すべてに及ぶと予想したが、$10$ 次以上では外れた(ボース、シュリカンデ、パーカー)。

観察 4.4 論文247 と並べる。247 は「偶数と奇数で分かれる」を八つに数えた。偶数次の巡回の方陣に横断が無いのは、その一つに数えてよい偶奇の分かれである。だが $6$ 次の不在は偶奇の分かれではない。$4$ 次は偶数でも相手を持つ。

観察 4.5 言わないこと。タリーの証明を再現していない。$10$ 次以上は計算していない。実験計画での使い方は扱わない。示したのは、$6$ 次の簡約した $9408$ 個すべてに相手が無いこと、横断の本数の分布、そして「偶数か」が分離子ではないことである。

5. 点呼と結び

  1. 簡約した方陣は $1,1,1,4,56,9408$ 個(計算 2.1):作り尽くした。
  2. $4$ 次 $576$・$5$ 次 $161280$ が掛け算と一致(計算 2.2):二つの数え方。
  3. $6$ 次の全数は $812851200$(計算 2.2):揃えれば $9408$ で足りる。
  4. $6$ 次で相手を持つ方陣は $0$ 個(計算 3.1):本稿の芯。
  5. $3$・$4$・$5$ 次では $1$・$1$・$6$ 個が相手を持つ(計算 3.1):小さい次数にはある。
  6. $3$・$4$ 次で横断と総当たりが方陣ごとに一致(計算 3.2):二つの道筋。
  7. $6$ 次で横断の無い方陣は $2100$ 個($\mathbf{0.223214}$)(観察 3.4):残りは $8$ 本以上持つ。
  8. 横断があっても $6$ 本に分けられない(観察 3.4):本数ではなく組み合わせ方。
  9. 偶数次の巡回の方陣は横断 $0$ 本(計算 4.1):偶奇の分かれに見える。
  10. $4$ 次のクラインの四元群の表は相手を持つ(観察 4.3):分離子は「$6$ か」。

結び:オイラーは、六つの連隊から六つの位の士官を一人ずつ、どの行にもどの列にも各連隊・各位が一人ずつ並ぶように立たせられるかを問うた。$6$ 次のラテン方陣には、直交する相手が一つも無い。一行目と一列目を揃えた $6$ 次の方陣 $9408$ 個を作り尽くし、一つずつ $6$ 本の交わらない横断に分けられるかを調べると、分けられる方陣は $0$ 個だった。$3$・$4$・$5$ 次には相手を持つ方陣があり、$3$・$4$ 次では横断の方法と総当たりが方陣ごとに一致した。横断が無いから相手が無いのではない。$6$ 次で横断を持たないのは $2100$ 個だけで、多くは $8$ 本以上、最多で $32$ 本の横断を持つが、交わらない $6$ 本は選び出せない。分離子は「偶数か」ではなく「$6$ か」である。偶数次の巡回の方陣は横断を持たないが、$4$ 次ではクラインの四元群の表が相手を持つ。既刊との位置、論文247 が数えた偶奇の分かれの隣に、偶奇では説明できない $6$ 次の不在を置く。正直に言えば、タリーの証明は再現しておらず、簡約した方陣の総当たりで確かめただけである。$10$ 次以上でオイラーの予想が外れることは計算していない。

参考文献

  1. Bose, R. C., Shrikhande, S. S., & Parker, E. T. (1960). Further results on the construction of mutually orthogonal Latin squares and the falsity of Euler’s conjecture. Canadian Journal of Mathematics.
  2. Euler, L. (1782). Recherches sur une nouvelle espèce de quarrés magiques. Verhandelingen uitgegeven door het zeeuwsch Genootschap der Wetenschappen te Vlissingen.
  3. McKay, B. D., Meynert, A., & Myrvold, W. (2007). Small Latin squares, quasigroups, and loops. Journal of Combinatorial Designs.
  4. Tarry, G. (1900). Le problème des 36 officiers. Compte Rendu de l’Association Française pour l’Avancement des Sciences.
  5. 山岸勇輝 (2026). 『「偶数と奇数で分かれる」は、一つの現象ではない』[論文247]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22159832

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「6 次のラテン方陣には、直交する相手が一つも無い」[論文604]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.23014438

YOI 604第1版・2026年9月ビットコインに記録済み

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引用するとき

山岸勇輝 (2026). 6 次のラテン方陣には、直交する相手が一つも無い [論文604]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/604 ・ DOI: 10.5281/zenodo.23014438

Yamagishi, Y. (2026). No Latin Square of Order Six Has an Orthogonal Mate [Paper 604]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/604; DOI: 10.5281/zenodo.23014438

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