要旨
$n$ 次のラテン方陣は、$n\times n$ のます目に $n$ 種類の記号を、どの行にもどの列にも一つずつ現れるように並べたものである。二つのラテン方陣を重ねたとき、記号の組 $n^2$ 通りがすべて一度ずつ現れるなら、二つは直交するという。オイラーは、六つの連隊から六つの位の士官を一人ずつ、どの行にもどの列にも各連隊・各位が一人ずつ並ぶように立たせられるかを問うた。$6$ 次の直交する方陣の組があるかという問いである。新しい定理も法則も主張しない。
第一に、$6$ 次の方陣は、一行目と一列目を揃えると $9408$ 個である。揃えた方陣を作り尽くすと、$1$ 次から $6$ 次で $1,1,1,4,56,9408$ 個だった。揃える前の全数は $4$ 次で $576$、$5$ 次で $161280$ で、どちらも作り尽くして数えた値と一致した(第2節)。
第二に、これが本稿の芯である。$6$ 次の $9408$ 個のどれにも、直交する相手が無い。相手があることは、方陣を $n$ 本の交わらない横断(どの行・どの列・どの記号からも一つずつ選んだ $n$ 個のます)に分けられることと同じである。$9408$ 個すべてで調べ、分けられる方陣は $0$ 個だった(第3節)。
第三に、小さい次数には相手がある。相手を持つ方陣は、$2$ 次で $0$ 個、$3$ 次で $1$ 個中 $1$ 個、$4$ 次で $4$ 個中 $1$ 個、$5$ 次で $56$ 個中 $6$ 個である。$3$ 次と $4$ 次は、横断で調べた答と、相手の候補を全部重ねてみる総当たりの答が、方陣ごとに一致した(第3節)。
第四に、横断が無いから相手が無いのではない。$6$ 次の方陣のうち横断を $1$ 本も持たないのは $2100$ 個($\mathbf{0.223214}$)で、残りは $8$ 本が $7020$ 個、$24$ 本が $108$ 個、$32$ 本が $180$ 個の横断を持つ。それでも、交わらない $6$ 本には一つも分けられない(第3節)。
第五に、分離子は「偶数か」ではなく「$6$ か」である。$i+j$ を $n$ で割った余りを並べた方陣は、偶数次($2$・$4$・$6$)で横断が $0$ 本、奇数次で $3$・$15$・$133$ 本だった。だが $4$ 次では、別の方陣(クラインの四元群の表)が横断 $8$ 本を持って相手を持つ。偶数の方陣がみな相手を持たないのではなく、$6$ 次だけが全部の方陣で相手を持たない(第4節)。
キーワード:ラテン方陣、直交ラテン方陣、三十六人の士官の問題、横断、組合せ論。
射程(何を示さないか)
新しい定理も法則も主張しない。オイラーの問い($1782$)、$6$ 次に直交する組が無いこと(タリー、$1900$)、$10$ 次以上ではオイラーの予想が外れること(ボース、シュリカンデ、パーカー、$1960$)、小さいラテン方陣の個数(マッケイ、マイネルト、マーヴォルド、$2007$)は、いずれも既知である。タリーの証明を再現しない。一行目と一列目を揃えた $9408$ 個を作り尽くし、一つずつ横断で調べるだけである。$10$ 次以上は計算しない。オイラーの予想($4$ で割って $2$ 余る次数には組が無い)が外れる側は、既知の結果として述べるだけである。実験計画での使い方は扱わない。既刊との関係:論文247 は「偶数と奇数で分かれる」を八つに数えた。偶数次の巡回の方陣に横断が無いのは偶奇の分かれの一つだが、$6$ 次の不在はそれでは説明できない。加えたのは、$6$ 次の揃えた方陣 $9408$ 個の横断の本数の分布を出したこと、$3$・$4$ 次で横断の方法と総当たりを方陣ごとに突き合わせたこと、分離子を「偶数か」ではなく「$6$ か」に置き、偶数次の巡回の方陣と $4$ 次のクラインの四元群の表を並べて確かめたことである。
1. 記法と問い
設定:$n$ 次のラテン方陣 $L$ は、記号 $0,1,\dots,n-1$ を $n\times n$ のます目に、どの行にもどの列にも一つずつ現れるように並べたものである。二つの方陣 $L,M$ は、組 $(L_{ij},M_{ij})$ が $n^2$ 通りすべて一度ずつ現れるとき直交するという。$L$ の横断とは、どの行からもどの列からも一つずつ選んだ $n$ 個のますで、その記号がすべて違うものである。
相手と横断:$L$ に直交する $M$ があれば、$M$ で同じ記号が置かれた $n$ 個のますは $L$ の横断になり、それが $n$ 本で全部のますを分ける。逆に、$L$ を $n$ 本の交わらない横断に分けられれば、横断ごとに記号を置いて $M$ が作れる。
揃えてよい理由:$L$ と $M$ の行を同じように並べ替えても、列を同じように並べ替えても、直交は保たれる。どの方陣も、列を並べ替えて一行目を $0,1,\dots,n-1$ にし、残りの行を並べ替えて一列目も $0,1,\dots,n-1$ にできる。だから相手の有無は、一行目と一列目を揃えた方陣(簡約した方陣)だけ調べれば分かる。
問い:$6$ 次の方陣に直交する相手はあるか。無いなら、それは横断が無いからか。偶数次だからか。
2. 方陣を作り尽くす
計算 2.1:簡約した方陣を、ますを一つずつ埋める探索で作り尽くした。
| 次数 | $1$ | $2$ | $3$ | $4$ | $5$ | $6$ |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 簡約した方陣 | $1$ | $1$ | $1$ | $4$ | $56$ | $9408$ |
計算 2.2:揃えない方陣を作り尽くして数えると、$4$ 次で $576$、$5$ 次で $161280$ 個だった。これは $n!(n-1)!$ に簡約の数を掛けた $4! 3!\times4=576$、$5! 4!\times56=161280$ とそれぞれ一致する。同じ掛け算で、$6$ 次の全数は $6! 5!\times9408=812851200$ である。
観察 2.3 二つの数え方が合った。揃えた方陣の数と、揃えない方陣の全数の二つを別々に作り尽くして、掛け算の関係が $4$ 次と $5$ 次で成り立った。$9408$ はマッケイらが示した値でもある。
3. 相手を探す
計算 3.1:簡約した方陣ごとに横断を全部数え、$n$ 本の交わらない横断に分けられるか(相手があるか)を調べた。
| 次数 | 簡約した方陣 | 相手を持つ方陣 | 横断の本数(その本数を持つ方陣の数) |
|---|---|---|---|
| $2$ | $1$ | $0$ | $0$ 本($1$) |
| $3$ | $1$ | $1$ | $3$ 本($1$) |
| $4$ | $4$ | $1$ | $0$ 本($3$)・$8$ 本($1$) |
| $5$ | $56$ | $6$ | $3$ 本($50$)・$15$ 本($6$) |
| $6$ | $9408$ | $0$ | $0$ 本($2100$)・$8$ 本($7020$)・$24$ 本($108$)・$32$ 本($180$) |
$5$ 次で相手を持つ $6$ 個は、横断を $15$ 本持つ $6$ 個とちょうど一致した。
計算 3.2:横断の方法とは独立に、$3$ 次と $4$ 次では、揃えない方陣を全部($3$ 次 $12$ 個、$4$ 次 $576$ 個)重ねてみて直交するものがあるかを総当たりで調べた。相手を持つ簡約した方陣は $3$ 次で $1$ 個、$4$ 次で $1$ 個で、横断の方法の答と方陣ごとに一致した。
観察 3.3 これが本稿の芯である。$6$ 次には、相手を持つ方陣が一つも無い。三十六人の士官は、どう並べても揃わない。これはタリーが $1900$ 年に示したことで、本稿は簡約した $9408$ 個を一つずつ調べてそれを確かめた。
観察 3.4 横断が無いから相手が無いのではない。$6$ 次で横断を $1$ 本も持たない方陣は $2100$ 個(割合 $\mathbf{0.223214}$)だけで、$7308$ 個は $8$ 本以上の横断を持つ。最多は $32$ 本である。横断は十分あっても、互いに交わらない $6$ 本を選び出せない。問題は本数ではなく、組み合わせ方である。
4. 分離子
計算 4.1:$i$ 行 $j$ 列に $i+j$ を $n$ で割った余りを置いた方陣(巡回の方陣)の横断を数えた。$2$ 次から $7$ 次で、$0,3,0,15,0,133$ 本だった。
観察 4.2 偶数次の巡回の方陣には横断が無い。$2$・$4$・$6$ 次で $0$ 本、奇数次では $3$・$15$・$133$ 本ある。ここまでなら、偶数か奇数かで分かれる現象に見える。
観察 4.3 分離子は「偶数か」ではなく「$6$ か」である。$4$ 次で相手を持つ唯一の簡約した方陣は、$i$ と $j$ を二進法で繰り上がりなしに足した表(クラインの四元群の表)で、横断を $8$ 本持つ。巡回の方陣とは別の方陣が、偶数次でも相手を持つ、$4$ 次には相手を持つ方陣があり、$6$ 次には無い。$2$ 次を除けば、全部の方陣で相手が無いのは $6$ 次だけで、オイラーはこれが $4$ で割って $2$ 余る次数すべてに及ぶと予想したが、$10$ 次以上では外れた(ボース、シュリカンデ、パーカー)。
観察 4.4 論文247 と並べる。247 は「偶数と奇数で分かれる」を八つに数えた。偶数次の巡回の方陣に横断が無いのは、その一つに数えてよい偶奇の分かれである。だが $6$ 次の不在は偶奇の分かれではない。$4$ 次は偶数でも相手を持つ。
観察 4.5 言わないこと。タリーの証明を再現していない。$10$ 次以上は計算していない。実験計画での使い方は扱わない。示したのは、$6$ 次の簡約した $9408$ 個すべてに相手が無いこと、横断の本数の分布、そして「偶数か」が分離子ではないことである。
5. 点呼と結び
- 簡約した方陣は $1,1,1,4,56,9408$ 個(計算 2.1):作り尽くした。
- $4$ 次 $576$・$5$ 次 $161280$ が掛け算と一致(計算 2.2):二つの数え方。
- $6$ 次の全数は $812851200$(計算 2.2):揃えれば $9408$ で足りる。
- $6$ 次で相手を持つ方陣は $0$ 個(計算 3.1):本稿の芯。
- $3$・$4$・$5$ 次では $1$・$1$・$6$ 個が相手を持つ(計算 3.1):小さい次数にはある。
- $3$・$4$ 次で横断と総当たりが方陣ごとに一致(計算 3.2):二つの道筋。
- $6$ 次で横断の無い方陣は $2100$ 個($\mathbf{0.223214}$)(観察 3.4):残りは $8$ 本以上持つ。
- 横断があっても $6$ 本に分けられない(観察 3.4):本数ではなく組み合わせ方。
- 偶数次の巡回の方陣は横断 $0$ 本(計算 4.1):偶奇の分かれに見える。
- $4$ 次のクラインの四元群の表は相手を持つ(観察 4.3):分離子は「$6$ か」。
結び:オイラーは、六つの連隊から六つの位の士官を一人ずつ、どの行にもどの列にも各連隊・各位が一人ずつ並ぶように立たせられるかを問うた。$6$ 次のラテン方陣には、直交する相手が一つも無い。一行目と一列目を揃えた $6$ 次の方陣 $9408$ 個を作り尽くし、一つずつ $6$ 本の交わらない横断に分けられるかを調べると、分けられる方陣は $0$ 個だった。$3$・$4$・$5$ 次には相手を持つ方陣があり、$3$・$4$ 次では横断の方法と総当たりが方陣ごとに一致した。横断が無いから相手が無いのではない。$6$ 次で横断を持たないのは $2100$ 個だけで、多くは $8$ 本以上、最多で $32$ 本の横断を持つが、交わらない $6$ 本は選び出せない。分離子は「偶数か」ではなく「$6$ か」である。偶数次の巡回の方陣は横断を持たないが、$4$ 次ではクラインの四元群の表が相手を持つ。既刊との位置、論文247 が数えた偶奇の分かれの隣に、偶奇では説明できない $6$ 次の不在を置く。正直に言えば、タリーの証明は再現しておらず、簡約した方陣の総当たりで確かめただけである。$10$ 次以上でオイラーの予想が外れることは計算していない。
参考文献
- Bose, R. C., Shrikhande, S. S., & Parker, E. T. (1960). Further results on the construction of mutually orthogonal Latin squares and the falsity of Euler’s conjecture. Canadian Journal of Mathematics.
- Euler, L. (1782). Recherches sur une nouvelle espèce de quarrés magiques. Verhandelingen uitgegeven door het zeeuwsch Genootschap der Wetenschappen te Vlissingen.
- McKay, B. D., Meynert, A., & Myrvold, W. (2007). Small Latin squares, quasigroups, and loops. Journal of Combinatorial Designs.
- Tarry, G. (1900). Le problème des 36 officiers. Compte Rendu de l’Association Française pour l’Avancement des Sciences.
- 山岸勇輝 (2026). 『「偶数と奇数で分かれる」は、一つの現象ではない』[論文247]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22159832
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「6 次のラテン方陣には、直交する相手が一つも無い」[論文604]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.23014438
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引用するとき
山岸勇輝 (2026). 6 次のラテン方陣には、直交する相手が一つも無い [論文604]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/604 ・ DOI: 10.5281/zenodo.23014438
Yamagishi, Y. (2026). No Latin Square of Order Six Has an Orthogonal Mate [Paper 604]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/604; DOI: 10.5281/zenodo.23014438
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author = {Yamagishi, Yuuki},
title = {No Latin Square of Order Six Has an Orthogonal Mate},
year = {2026},
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note = {Preprint, edition 1}
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指紋(SHA-256)と確かめ方
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