要旨
パスカルの三角形は、各行の両端を $1$ とし、内側の数を上の二つの数の和で作る三角形である。行 $n$ の左から $k$ 番目($0$ から数える)は、$n$ 個から $k$ 個を選ぶ選び方の数である。その数のうち奇数がいくつあるかを数える。新しい定理も法則も主張しない。
第一に、行 $n$ の奇数は $2^{s}$ 個である。$s$ は $n$ を二進法で書いたときの $1$ の数である。二を法として足した行で数えると、行 $0$ から $1023$ のすべてで一致した。行 $255$(二進法で $1$ が八つ)は $256$ 個すべてが奇数で、行 $256$($1$ が一つ)は両端の $2$ 個だけである(第2節)。
第二に、奇数の割合は、行が増えると零に近づく。初めの $2^{k}$ 行に含まれる奇数は、$k=0$ から $10$ のすべてで $3^{k}$ 個だった。行が $2$ 倍になるたびに奇数は $3$ 倍にしかならないので、割合は $8$ 行で $0.750000$、$256$ 行で $0.199447$、$1024$ 行で $\mathbf{0.112517}$ まで減る(第3節)。
第三に、これが本稿の芯である。奇数になるのは、$k$ と $n-k$ を二進法で足して、繰り上がりが一度も起きないときである。選び方の数を割り切る $2$ の冪の指数は、$k$ と $n-k$ を二進法で足したときの繰り上がりの回数に等しい。選び方の数を正確に計算して、$n<256$ のすべてで一致した。$6$ 個から $2$ 個の $15$ は $2$ と $4$ を足しても繰り上がらずに奇数、$6$ 個から $3$ 個の $20$ は $3$ と $3$ を足して二度繰り上がり、$4$ で割り切れる(第4節)。
第四に、分離子は、どの素数で割るかである。$3$ で割り切れない数の個数は、$n$ を $3$ 進法で書いた各桁に $1$ を足して掛けた数になり、行 $0$ から $728$ のすべてで一致した。$3$ で割り切れるかどうかも、$3$ 進法の繰り上がりの回数で決まる(第5節)。
キーワード:パスカルの三角形、二項係数の偶奇、ルカの定理、クンマーの定理、二進法。
射程(何を示さないか)
新しい定理も法則も主張しない。選び方の数の偶奇を二進法の桁で見分けること(ルカ、$1878$)、奇数の個数が $2^{s}$ であること(グレイシャー、$1899$)、割り切る素数の冪の指数が繰り上がりの回数であること(クンマー、$1852$)、素数 $p$ で割り切れない数の個数が $p$ 進法の桁で決まること(ファイン、$1947$)は、いずれも既知である。図形の理論を扱わない。奇数だけを塗った模様(シェルピンスキーの三角形)について、自己相似の次元を一行で言うだけである。定理を証明しない。行 $1023$ まで($3$ を法とする場合は $728$ まで)を数え、選び方の数を正確に計算して突き合わせるだけである。既刊との関係:論文602 は、ニムの勝ち負けが繰り上がりのない足し算で決まることを示した。本稿では、選び方の数が奇数であることが、繰り上がりの起きない足し算と同じことになる。加えたのは、二を法として足した行と選び方の数そのものの二つの道筋を突き合わせたこと、奇数の割合が $2^{k}$ 行でどう減るかを数で並べたこと、分離子を「どの素数で割るか」に置き、$3$ を法とする場合で確かめたことである。
1. 記法と問い
設定:行 $n$ の左から $k$ 番目($0\le k\le n$)の数を $\binom{n}{k}$ と書く。両端は $1$、内側は上の二つの和である。$n$ を二進法で書いたときの $1$ の数を $s(n)$ とする。
問い:行 $n$ に奇数はいくつあるか。どの $\binom{n}{k}$ が奇数か。$2$ の代わりに $3$ で割るとどうなるか。
2. 行ごとの奇数
計算 2.1:奇数か偶数かだけを残して(二を法として)行を作り、各行の奇数を数えた。
| 行 $n$ | 二進法 | 奇数の個数 | $2^{s(n)}$ |
|---|---|---|---|
| $6$ | $110$ | $4$ | $4$ |
| $7$ | $111$ | $8$ | $8$ |
| $8$ | $1000$ | $2$ | $2$ |
| $100$ | $1100100$ | $8$ | $8$ |
| $255$ | $11111111$ | $256$ | $256$ |
| $256$ | $100000000$ | $2$ | $2$ |
| $1023$ | $1111111111$ | $1024$ | $1024$ |
行 $0$ から $1023$ のすべてで、奇数の個数は $2^{s(n)}$ に一致した。
観察 2.2 行の大きさではなく、行の番号の二進法の $1$ の数が効く。行 $255$ は $256$ 個すべてが奇数なのに、すぐ次の行 $256$ は両端の $2$ 個しか奇数が無い。$255$ は二進法で $1$ が八つ、$256$ は一つである。
3. 奇数の割合
計算 3.1:初めの $2^{k}$ 行に含まれる奇数を数えた。
| 初めの行数 | 奇数 | 全部の数 | 割合 |
|---|---|---|---|
| $8$ | $27$ | $36$ | $0.750000$ |
| $16$ | $81$ | $136$ | $0.595588$ |
| $64$ | $729$ | $2080$ | $0.350481$ |
| $256$ | $6561$ | $32896$ | $0.199447$ |
| $1024$ | $59049$ | $524800$ | $\mathbf{0.112517}$ |
$k=0$ から $10$ のすべてで、初めの $2^{k}$ 行の奇数は $3^{k}$ 個だった。
観察 3.2 行が $2$ 倍になるたびに、奇数は $3$ 倍にしかならない。全部の数は行数のほぼ二乗に比例してほぼ $4$ 倍に増えるので、奇数の割合はほぼ $3/4$ ずつ掛かって零に近づく。奇数だけを塗った模様は、$2$ 倍に広げると $3$ 倍の塗りになる自己相似な形で、その次元は $\log3/\log2=1.584963$ である。
4. 繰り上がり
計算 4.1:$\binom{n}{k}$ を正確に計算し($n<256$)、次の二つを確かめた。
一つ目:$\binom{n}{k}$ が奇数であることは、$k$ を二進法で書いて $1$ の立つ桁が、$n$ でもすべて $1$ であることと一致した。
二つ目:$\binom{n}{k}$ を割り切る $2$ の冪の指数は、$k$ と $n-k$ を二進法で足したときの繰り上がりの回数と一致した。
例:$\binom{6}{2}=15$ は、$2=010$ と $4=100$ を足して繰り上がりが $0$ 回で、奇数である。$\binom{6}{3}=20$ は、$3=011$ と $3=011$ を足して繰り上がりが $2$ 回で、$20=2^2\times5$ である。
観察 4.2 これが本稿の芯である。奇数とは、繰り上がりが一度も起きない足し算のことである。$k$ と $n-k$ を二進法で足して $n$ になるとき、繰り上がりが起きなければ、$k$ の $1$ と $n-k$ の $1$ は同じ桁に重ならず、$n$ の $1$ を分け合っているだけである。$n$ の $1$ が $s$ 個あれば、それをどちらに渡すかの $2^{s}$ 通りが、行 $n$ の奇数の個数になる。
観察 4.3 論文602 と並べる。602 は、ニムの勝ち負けが繰り上がりのない足し算で決まることを示した。選び方の数が奇数であることも、同じく繰り上がりが起きないことで決まる。$k$ と $n-k$ の繰り上がりのない和が $n$ に等しいとき、そのときだけ奇数である。
5. 分離子
計算 5.1:$3$ で割った余りだけを残して行を作り($n\le728$)、$3$ で割り切れない数を数えた。
| 行 $n$ | $3$ 進法 | $3$ で割り切れない数 |
|---|---|---|
| $5$ | $12$ | $6$ |
| $8$ | $22$ | $9$ |
| $26$ | $222$ | $27$ |
| $27$ | $1000$ | $2$ |
| $80$ | $2222$ | $81$ |
行 $0$ から $728$ のすべてで、$3$ で割り切れない数の個数は、$n$ の $3$ 進法の各桁に $1$ を足して掛けた数に一致した。初めの $3^{6}=729$ 行では $46656=6^{6}$ 個だった。$3$ の冪の指数も、$3$ 進法で $k$ と $n-k$ を足したときの繰り上がりの回数に一致した($n<244$)。
観察 5.2 分離子は、どの素数で割るかである。$2$ で割るなら二進法の桁、$3$ で割るなら $3$ 進法の桁が効き、どちらも繰り上がりの回数が割り切れ方を決める。二進法の桁は $0$ か $1$ なので「$1$ を足して掛ける」が $2^{s}$ になり、$3$ 進法では桁が $2$ の所で $3$ が掛かる。
観察 5.3 言わないこと。シェルピンスキーの三角形の図形の理論には立ち入らない。定理は証明しない。示したのは、行 $1023$ までの数え上げと、選び方の数を正確に計算した突き合わせと、$3$ を法とする場合の確かめである。
6. 点呼と結び
- 行 $n$ の奇数は $2^{s(n)}$ 個(計算 2.1):行 $0$ から $1023$ で一致。
- 行 $255$ は全部奇数、行 $256$ は $2$ 個(観察 2.2):二進法の $1$ の数が効く。
- 初めの $2^{k}$ 行の奇数は $3^{k}$ 個(計算 3.1):$k=0$ から $10$。
- $1024$ 行で割合 $\mathbf{0.112517}$(計算 3.1):零に近づく。
- 自己相似の次元 $1.584963$(観察 3.2):$2$ 倍で $3$ 倍。
- 奇数は桁の含み合いで決まる(計算 4.1):$n<256$ で一致。
- $2$ の冪の指数は繰り上がりの回数(計算 4.1):$15$ は $0$ 回、$20$ は $2$ 回。
- 奇数とは繰り上がりの無い足し算(観察 4.2):本稿の芯。
- $3$ で割り切れない数は $3$ 進法の桁で決まる(計算 5.1):行 $728$ まで一致。
- 分離子はどの素数で割るか(観察 5.2):$2$ なら二進法、$3$ なら $3$ 進法。
結び:パスカルの三角形の数は、上の二つの和で作られる。行 $n$ にある奇数は、$n$ を二進法で書いたときの $1$ の数を $s$ として $2^{s}$ 個である。二を法として足した行で数えると行 $0$ から $1023$ のすべてで一致し、初めの $2^{k}$ 行の奇数は $3^{k}$ 個で、割合は $1024$ 行で $0.112517$ まで減る。奇数になるのは、$k$ と $n-k$ を二進法で足して、繰り上がりが一度も起きないときである。割り切る $2$ の冪の指数は繰り上がりの回数に等しく、選び方の数を正確に計算して $n<256$ のすべてで一致した。$n$ の $1$ を $k$ と $n-k$ に分け合う $2^{s}$ 通りが、奇数の個数である。分離子は、どの素数で割るかである。$3$ で割るなら $3$ 進法の桁と繰り上がりが効き、行 $728$ まで一致した。既刊との位置、論文602 がニムの勝ち負けに見た繰り上がりのない足し算が、ここでは選び方の数の偶奇を決める。正直に言えば、定理は証明しておらず、行 $1023$ までを数えて突き合わせただけである。
参考文献
- Fine, N. J. (1947). Binomial coefficients modulo a prime. The American Mathematical Monthly.
- Glaisher, J. W. L. (1899). On the residue of a binomial-theorem coefficient with respect to a prime modulus. The Quarterly Journal of Pure and Applied Mathematics.
- Kummer, E. E. (1852). Über die Ergänzungssätze zu den allgemeinen Reciprocitätsgesetzen. Journal für die reine und angewandte Mathematik.
- Lucas, É. (1878). Théorie des fonctions numériques simplement périodiques. American Journal of Mathematics.
- 山岸勇輝 (2026). 『ニムの勝ち負けは、繰り上がりのない足し算で決まる』[論文602]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22805951
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「パスカルの三角形の奇数は、行の番号を二進法で書いたときの 1 の数で決まる」[論文608]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.23014462
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引用するとき
山岸勇輝 (2026). パスカルの三角形の奇数は、行の番号を二進法で書いたときの 1 の数で決まる [論文608]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/608 ・ DOI: 10.5281/zenodo.23014462
Yamagishi, Y. (2026). The Odd Numbers in Pascal's Triangle Are Counted by the Ones in the Row Number Written in Binary [Paper 608]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/608; DOI: 10.5281/zenodo.23014462
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author = {Yamagishi, Yuuki},
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