本稿の位置づけ 本稿は確立した関係に対する構造的解釈を提示する。一般相対論を改変せず、可変光速を提案せず、新たな物理法則も主張しない。結果は明確化である:論文60の $E=4\pi/|K|$ は局所不変量であり、重力赤方偏移を再現しない(そして再現すべきでない)なぜなら「局所の $c$」(速度空間の半径)と「座標の $c$」(底の計量のゲージ量)は別物だからである。これは論文63で提起された未解決問題を否定的に解決する。既存理論と矛盾する主張は含まない。
要旨
論文60は、$m=4\pi$ 表現で静止エネルギーが $E=4\pi/|K|$($K=-1/c^2$ は双曲的速度空間の断面曲率)と書けることを示した。論文63は未解決問題として、曲がった時空の位置依存の座標光速を $K_{\mathrm{eff}}(r)=-1/c_{\mathrm{coord}}(r)^2$ として代入すると赤方偏移を再現するか、と問うた。本稿は否定的に答え、失敗の仕方が鋭い。(i) シュワルツシルト時空では座標光速が方向に依存する。動径 $c(1-r_s/r)$、接線 $c\sqrt{1-r_s/r}$、ので、速度球の半径になれない。(ii) 素直な代入はエネルギー因子 $(1-r_s/r)$(接線)/$(1-r_s/r)^2$(動径)を与えるが、真の赤方偏移因子は $\sqrt{1-r_s/r}$;計量因子を $\sqrt{g_{00}}$ の1乗ぶん過剰に適用している。(iii) 正しい言明は、等価原理(繊維の一様性、論文63)により局所の速度空間がどの事象でも曲率 $-1/c^2$ の双曲3空間であり、$E=4\pi/|K|=4\pi c^2$ は局所スカラー不変量、ということ;重力赤方偏移は底の計量 $E_\infty=E_{\mathrm{local}}\sqrt{g_{00}}$、すなわち繊維間の接続に住む。結論:「局所の $c$」(繊維の半径)と「座標の $c$」(底のゲージ)は別根であり、論文58の因子2の結果の $c$ 版である。可変光速の誘惑はまさに両者の混同である。
§1. 序論
論文60は、速度空間、曲率 $K=-1/c^2$ の双曲3球 $\{|v|<c\}$(Varičak 1910)、において $E=4\pi c^2=4\pi/|K|$ が成り立つことを示した。これは「$c$ が半径である」が記法上のパッチとしてではなく文字通り成り立つ唯一の場所である。論文63はこれをアインシュタイン方程式と曲率双対として対にし、未解決問題として、座標光速が位置で変わる曲がった時空では $E_{\mathrm{eff}}=4\pi/|K_{\mathrm{eff}}|$ が赤方偏移を再現するか、と問うた。
本稿はこれに答える。答えは否であり、理由は示唆に富む:変わる量(座標光速)は、半径の役を演じる量(局所光速)ではない。 これを精密化することは、未解決問題を解決すると同時に「$c$ が半径」の意味を鋭くする。
本稿が行わないこと。 一般相対論の改変も可変光速の主張も行わない。どの $c$ がどれかを明確化する。
§2. 再掲:二つの確立された素材
2.1 $E=4\pi/|K|$(論文60)
許される速度 $\{|v|<c\}$ は曲率 $K=-1/c^2$ の双曲3空間 $\mathbb{H}^3$ をなし、$m=4\pi$ のもとで $E=4\pi c^2=4\pi/|K|$。曲率 $|K|$ はThomas歳差として測定される。
2.2 繊維の一様性(論文63)
等価原理により各事象 $p$ の接空間 $T_pM$ はミンコフスキー的。ゆえに局所の速度空間はどの事象でも曲率 $-1/c^2$ の同じ双曲3空間である(等価原理の垂直=繊維方向の表現)。底の曲率 $R_{\mu\nu\rho\sigma}$ は変わるが、繊維の曲率 $K=-1/c^2$ は一様。
§3. 誘惑的な代入とその失敗
3.1 座標光速は方向に依存する
シュワルツシルト時空
$$ds^2=-\Bigl(1-\tfrac{r_s}{r}\Bigr)c^2\,dt^2+\Bigl(1-\tfrac{r_s}{r}\Bigr)^{-1}dr^2+r^2\,d\Omega^2$$
の零測地線は二つの異なる「座標光速」を与える:
$$c_{\mathrm{coord}}^{\,\text{動径}}=c\Bigl(1-\tfrac{r_s}{r}\Bigr),\qquad c_{\mathrm{coord}}^{\,\text{接線}}=c\sqrt{1-\tfrac{r_s}{r}}$$
前者は動径零光線の $dr/dt$、後者は接線零光線の $r\,d\phi/dt$ から。これだけで代入は致命的である:半径は単一の数だが、$c_{\mathrm{coord}}$ は方向に依存する。方向依存の半径を持つ球は存在しない。
3.2 エネルギー因子は赤方偏移を行き過ぎる
$f:=1-r_s/r$ とおく。エネルギーの重力赤方偏移(局所で放たれ無限遠で受け取る量子)は $\;E_\infty/E_{\mathrm{local}}=\sqrt{g_{00}}=\sqrt{f}\;$。しかし素直な代入 $E_{\mathrm{eff}}=4\pi c_{\mathrm{coord}}^2$ は:
$$\frac{E_{\mathrm{eff}}^{\,\text{接線}}}{4\pi c^2}=f,\qquad \frac{E_{\mathrm{eff}}^{\,\text{動径}}}{4\pi c^2}=f^2$$
命題 3.1(代入は計量因子を過剰適用する)
真の赤方偏移因子 $\sqrt f$ に対して、素直な代入は接線の場合に $\sqrt f$ の1乗ぶん行き過ぎ(因子 $f=\sqrt f\cdot\sqrt f$)、動径の場合に $f^{3/2}$ ぶん行き過ぎる。いずれも赤方偏移を再現しない。
食い違いの起源は単純:$E=4\pi c^2$ は $c$ を2乗で担うので、$c\to c_{\mathrm{coord}}=c\sqrt f$ とすると $f$ 倍、赤方偏移因子を2回適用、になる。物理的な赤方偏移は単一の因子 $\sqrt{g_{00}}$ を通じて $\sqrt f$ を1回適用する。
§4. 正しい姿
定理 4.1(速度空間の曲率の局所不変性)
任意の時空において、各事象 $p$ で、接空間 $T_pM$ の未来向き単位時間的ベクトルの全体は、等価原理が保証する局所ミンコフスキー計量のもとで、一定断面曲率 $K=-1/c^2$ の双曲3空間 $\mathbb{H}^3$ をなす。ゆえに $E=4\pi/|K|=4\pi c^2$ は、局所の $c$ を用いた、どの事象でも同一のスカラー不変量である。
証明. 等価原理は $T_pM$ がどの $p$ でもミンコフスキー空間に等長であると述べる。ミンコフスキー空間の未来向き単位時間的ベクトルの全体は単位双曲面、すなわち曲率 $-1/c^2$ の $\mathbb{H}^3$(Varičak 1910)。どの $p$ でも同じ局所 $c$ で成り立つので、$|K|=1/c^2$、$E=4\pi/|K|=4\pi c^2$ が至る所で成り立つ。∎
系 4.2(赤方偏移は繊維でなく底の効果)
局所で測ったエネルギーの無限遠での値は $\;E_\infty=E_{\mathrm{local}}\sqrt{g_{00}}=4\pi c^2\sqrt{1-r_s/r}\;$。因子 $\sqrt{g_{00}}$ は局所固有時と座標時の関係(接続が繊維を貼り合わせる仕方)から生じるのであって、定理4.1 により一定である繊維の曲率 $K$ の変化から生じるのではない。ゆえに $E=4\pi/|K|$ は重力赤方偏移を符号化しないし、すべきでもない。
§5. $c$ の別根
状況は論文58の厳密な $c$ 版である($D=4$ で値が等しい二つの因子2が異なる出自を持つ、という結果)。ここでは、ともに「$c$」と呼ばれる二つの対象を分離せねばならない:
| 局所の $c$ | 座標の $c$ | |
|---|---|---|
| 棲息地 | 繊維 $T_pM$(速度空間) | 底の計量(ゲージ) |
| 性質 | 不変量・単一の数 | 方向依存・ゲージ |
| 役割 | $\mathbb{H}^3$ の半径;$E=4\pi c^2$ を与える | 選んだ座標での帳簿づけ |
| 赤方偏移を符号化? | いいえ(一定) | いいえ(測定量でない) |
| 赤方偏移の在処 | 、 | $\sqrt{g_{00}}$(繊維間の接続) |
両者が一致するのは平坦/局所極限のみで、論文58で $f_{\mathrm{GR}}(D)$ と $f_{\mathrm{ladder}}(D)$ が $D=4$ でのみ一致するのと同様。可変光速の諸プログラム(Moffat 1993; Albrecht & Magueijo 1999;批判は Ellis & Uzan 2005)が誘惑的なのは、まさにこの二つを混同するから。本解析は、「速度空間の半径としての $c$」(論文60)が局所の $c$ のみについての言明であり、曲がった時空の座標 $c$ の変動には触れられず、それと直交することを示す。
§6. 主張の射程
射程(何を示さないか)
確立されたこと
1. 素直な代入 $E_{\mathrm{eff}}=4\pi c_{\mathrm{coord}}^2$ は赤方偏移を再現しない;$\sqrt{g_{00}}$ の冪ぶん行き過ぎ、$c_{\mathrm{coord}}$ が方向依存で定義自体が不良(命題3.1)。
2. $E=4\pi/|K|=4\pi c^2$ はどの事象でも同一の局所スカラー不変量(定理4.1)。
3. 重力赤方偏移は底の計量(接続)の効果 $E_\infty=E_{\mathrm{local}}\sqrt{g_{00}}$ であり、繊維の曲率と直交する(系4.2)。
確立されていないこと/未解決問題
・一般相対論や赤方偏移公式の改変(標準を用いるだけで変えない)。
・可変光速(本稿は座標 $c$ と局所 $c$ の混同に反対する)。
・赤方偏移の新たな導出(所与とし、寄与は繊維/底の分離と「$c$ の別根」の読み)。
・未解決:底の因子 $\sqrt{g_{00}}$ と繊維の不変量 $4\pi c^2$ が共変的に組み合わさって真の $E_\infty$ をなす、$TM$(あるいは $T^*M$)上の自然なペアリングは存在するか? これは論文63のヒンジの共変版。
§7. 結論
速度空間の曲率 $K=-1/c^2$ は赤方偏移しない。等価原理によりそれは局所不変量であり、$E=4\pi/|K|=4\pi c^2$ はどの事象でも同じ;重力赤方偏移は底の計量因子 $\sqrt{g_{00}}$、すなわち繊維間の接続が担う。座標光速を代入する誘惑は失敗する(赤方偏移を行き過ぎ、さらに方向依存である)なぜなら座標 $c$(底のゲージ量)と局所 $c$(繊維の半径)を混同しているからである。「局所の $c$」と「座標の $c$」は別根であり、論文58の因子2の結果の $c$ 版である。これは論文63の未解決問題を否定的に解決すると同時に、「$c$ が半径」を局所の $c$ のみについての言明へと鋭くする。
参考文献
- Varičak, V. (1910). Anwendung der Lobatschefskijschen Geometrie in der Relativtheorie. Phys. Z., 11, 93–96.
- Schwarzschild, K. (1916). Über das Gravitationsfeld eines Massenpunktes nach der Einsteinschen Theorie. Sitzungsber. Preuss. Akad. Wiss., 189–196.
- Misner, C. W., Thorne, K. S. & Wheeler, J. A. (1973). Gravitation. Freeman.
- Wald, R. M. (1984). General Relativity. University of Chicago Press.
- Moffat, J. W. (1993). Superluminary universe. Int. J. Mod. Phys. D, 2, 351–365.
- Albrecht, A. & Magueijo, J. (1999). A time varying speed of light as a solution to cosmological puzzles. Phys. Rev. D, 59, 043516.
- Ellis, G. F. R. & Uzan, J.-P. (2005). ‘c’ is the speed of light, isn’t it? Am. J. Phys., 73, 240–247.
- [Yamagishi 2026, Paper 58] Y. Yamagishi, The Factor Two as a Distinct Root. Zenodo. 10.5281/zenodo.21597747
- [Yamagishi 2026, Paper 60] Y. Yamagishi, c as the Radius of Velocity Space. Zenodo. 10.5281/zenodo.21598012
- [Yamagishi 2026, Paper 61] Y. Yamagishi, The Light Sphere r = ct. Zenodo. 10.5281/zenodo.21598127
- [Yamagishi 2026, Paper 63] Y. Yamagishi, The Velocity–Spacetime Curvature Duality. Zenodo. 10.5281/zenodo.21606250
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「速度空間の曲率と重力赤方偏移」[論文66]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.21616607
日付の証拠(OpenTimestamps):日本語版の .ots・英語版の .ots・SHA256SUMS
予備の置き場所(ミラー。中身は上と同じです):PDF 日本語・PDF English・SHA256SUMS
住所:https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/66・DOI 10.5281/zenodo.21616607・CC BY 4.0・プレプリント(査読を経ていません)・ORCID 0009-0006-8587-3450
引用するとき
山岸勇輝 (2026). 速度空間の曲率と重力赤方偏移 [論文66]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/66 ・ DOI: 10.5281/zenodo.21616607
Yamagishi, Y. (2026). Velocity-Space Curvature and Gravitational Redshift [Paper 66]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/66; DOI: 10.5281/zenodo.21616607
@misc{yamagishi2026yoi66,
author = {Yamagishi, Yuuki},
title = {Velocity-Space Curvature and Gravitational Redshift},
year = {2026},
howpublished = {YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/66},
doi = {10.5281/zenodo.21616607},
note = {Preprint, edition 1}
}
指紋(SHA-256)と確かめ方
7371833d47d4675da671dbba0fbdba389b1897e52b8a31400805308066055310 yamagishi_yoi66_v1_jp.pdf26a2c11aa1c7d87934fe20bb0f8f326807207064818a335783ed5ad37828f126 yamagishi_yoi66_v1_en.pdfPDF と .ots を同じ場所に保存し、opentimestamps.org に .ots、続けて PDF を落とすと、記録された日時が表示されます。PDF が 1 バイトでも変わっていれば通りません。