要旨
粘りのない理想的な流体の運動は、面積(三次元なら体積)を保つ変形の集まりの中の、いちばんまっすぐな道(測地線)として書ける。アーノルドは、この集まりの曲がり方(曲率)がほとんどの向きで負であることを示し、負の曲率では近い道が離れていくので、天気予報には限界があると論じた。本稿は、二次元の周期の箱で曲率を数え、曲率が負であることと、近い流れが実際に指数で離れることを分けて測る。新しい定理も法則も主張しない。
第一に、曲率を二つの道で測った。曲率の式と、オイラー方程式を実際に解いて近い流れの離れ方から読み取った値は、三つの組で相対差 5.59e-06 から 5.20e-05 で合った。
第二に、曲率はほとんど負である。でたらめに選んだ面 2000 組はすべて負で、一つの波どうしの 1128 組にも正は無かった。二つの波を足した流れの 4000 組で、正の面が 1 組だけ見つかった(0.661408)。
第三に、これが本稿の芯である。曲率が負でも、指数で離れるとは限らない。貿易風(ずれの流れ cos y)と、それに直交するずれの流れの面は曲率 −1/2 で、一定の曲率なら 0.707107 の速さで指数に育つはずである。だが二つの流れは正確に定常で、近い流れは t の 1.1444 乗から 1.5515 乗でしか離れず、t=40 で 190.6485 にとどまった(指数の見込みは 1.3589e+12)。
第四に、対照として、ずれの流れ cos 2y は指数で離れる。離れ方の速さは 0.739423 で、線形化した方程式の固有値 0.738924436 と合った。曲率からの見積もりは 0.877207 で、育たない貿易風の 0.707107 と同じ程度である。
正直に書くと、貿易風と一つの波の曲率がきれいな形に乗ることは当てはめで見つけたもので、文献の式と同じかは確かめていない。大気の値は使わず、アーノルドの予報の見積もりの数も引かない。
キーワード:理想流体、オイラー方程式、測地線、断面曲率、貿易風、ヤコビ場、予報の限界、線形安定性。
射程(何を示さないか)
新しい定理も法則も主張しない。理想流体が面積や体積を保つ変形の測地線であること、その曲率がほとんどの断面で負であること(アーノルド 1966)、その解析の土台(エビン、マースデン 1970)、流れの安定と曲率の関係の議論(ミシオウェク 1993)、全体のまとめ(アーノルド、ヘシン 1998)は、いずれも既知である。曲率の式を証明しない。平らな空間の中の曲がった面の曲率を書くガウスの式で計算し、オイラー方程式を解いた離れ方と突き合わせるまでである。天気予報の限界を出さない。大気の値(地球の大きさ、風の速さ、誤差が倍になる日数)は使わず、アーノルドの見積もりの数も引かない。乱流とカオスに立ち入らない。扱うのは二次元の周期の箱の、定常なずれの流れと、その近くだけである。粘りと三次元を扱わない。球面の上の流れも扱わない。曲率の形を新しいと言わない。貿易風と一つの波の曲率が乗る形は当てはめで見つけたもので、文献の式と同じかは確かめていない。既刊との関係:論文289 は射程注記で、実際の大気には尺度ごとに違う成長率があるとして、単一の指数だとは言わなかった。本稿はその射程注記の席に座る。流れの幾何(曲率)から出る育ち方の見積もりは、向きごとに違い(小さい渦ほど 1 に近い)、しかも実際の育ち方とは別であることを数える。論文198 は、まっすぐな道が最短とは限らず、共役点で近い道どうしが再び出会うことを示した。ここでは、同じ近い道のずれ(ヤコビ場)の時間の 4 乗の係数から、曲率を読み取る。加えたのは、曲率の式を離れ方の測定と突き合わせたこと、曲率の符号の割合を三通りの選び方で数えたこと、貿易風の面の曲率を一つの波ごとに並べたこと、曲率が負なのに冪でしか離れない定常な流れと、指数で離れる流れを並べたこと、測り方の誤りを記録したことである。
1. 問いと答えの形
粘りのない理想的な流体の中で、粒子は流れに運ばれる。はじめにどこにあった粒子が、時刻 $t$ にどこへ行ったかを並べたもの(ラグランジュの写像)は、箱の面積を保つ変形である。流体の運動は、面積を保つ変形の集まりの中で、運動のエネルギーで測った長さが最もまっすぐな道(測地線)をたどる。これはアーノルドが 1966 年に示したことである。
曲がった空間では、近い測地線どうしの離れ方が曲率で決まる。曲率が正なら近い道は寄り合い、負なら離れていく。アーノルドはこの集まりの曲率がほとんどの断面で負であることを示し、近い流れが離れていくことから、天気予報には限界があると論じた。
本稿は、二次元の周期の箱 $[0, 2\pi)^2$ で曲率を数え、曲率が負であることと、近い流れが実際に指数で離れることを分けて測る。答えは、曲率の符号だけでは決まらず、流れの形(渦度)が保たれるかで分かれる、である。
2. 曲率を二つの道で測る
流れは流れ関数 $\psi$ から $u = (\partial\psi/\partial y, -\partial\psi/\partial x)$ で作る。長さは箱の上の平均 $\langle u, v\rangle$ で測る。面積を保つ変形の集まりは、すべての変形の集まり(平らな空間)の中の曲がった面なので、その曲率はガウスの式で書ける。
$$\langle R(X,Y)Y, X\rangle = \langle Q\nabla_X X,\; Q\nabla_Y Y\rangle – \lvert Q\nabla_X Y\rvert^2,\qquad
K(X,Y) = \frac{\langle R(X,Y)Y,X\rangle}{\lvert X\rvert^2\lvert Y\rvert^2 – \langle X,Y\rangle^2}$$
ここで $\nabla_X Y = (X\cdot\nabla)Y$、$Q$ は流れを勾配の部分に射影する操作である。
これと独立に、オイラー方程式を実際に解いて確かめた。はじめの流れを $X + \varepsilon Y$ と $X – \varepsilon Y$ にして、粒子の行き先の差 $J = (\varphi_+ – \varphi_-)/(2\varepsilon)$ を測る。近い測地線のずれ(ヤコビ場)は
$$\lvert J(t)\rvert^2 = t^2\lvert Y\rvert^2 – \tfrac{1}{3}\langle R(Y,X)X, Y\rangle\, t^4 + \cdots$$
と育つので、時間の 4 乗の係数から曲率が読み取れる。
| 組 | 曲率の式 | 離れ方から | 相対差 |
|---|---|---|---|
| 1 | $-1.344103$ | $-1.344168$ | $4.79\times10^{-5}$ |
| 2 | $-1.603911$ | $-1.603902$ | $5.59\times10^{-6}$ |
| 3 | $-1.356819$ | $-1.356749$ | $5.20\times10^{-5}$ |
二つの道は、相対差 $5.20\times10^{-5}$ 以内で合った。流れは波の数 3 以下のでたらめな組で、格子は 48 点四方、粒子は 16 点四方である。
3. 曲率はほとんど負である
| 選び方 | 組の数 | 負 | 正 | ちょうど 0 |
|---|---|---|---|---|
| でたらめな流れ(波の数 3 以下) | 2000 | 2000 | 0 | 0 |
| 一つの波どうし(波の数 4 以下) | 1128 | 1048 | 0 | 80 |
| 二つの波を足した流れ | 4000 | 1 |
でたらめな流れの組は、最小 $-2.476692$、最大 $-0.061172$、中央 $-1.449503$ で、すべて負だった。一つの波どうしでも正は無く、最小は $-8.000000$ だった。二つの波を足した流れの 4000 組のうち、1 組(割合 0.0003)で正の曲率 0.661408 が出た。正の面は在るが、まれで、探し方しだいでは一つも見えない。

4. 貿易風の面
貿易風は、$x$ の向きに吹き、$y$ によって強さが変わるずれの流れ $u = (\cos y, 0)$ である。アーノルドが予報の議論で使った流れの形で、本稿では長さが 1 になるようにそろえた。でたらめな流れとの 1000 組の曲率は、最大 $-1.049\times10^{-1}$、最小 $-0.711855$、中央 $-0.346827$ で、すべて負だった。$y$ だけで決まるずれの流れとの面は、ちょうど 0 だった。
一つの波 $\sin(ax + by)$ との面の曲率は、次のように並んだ($\cos$ でも同じ値)。
| $(a, b)$ | $(1,0)$ | $(1,1)$ | $(2,0)$ | $(2,1)$ | $(2,2)$ | $(3,0)$ | $(4,0)$ | $(6,0)$ | $(8,0)$ |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 曲率 | $-0.5$ | $-0.3$ | $-0.8$ | $-0.6$ | $-0.276923$ | $-0.9$ | $-0.941176$ | $-0.972973$ | $-0.984615$ |
これらは
$$K = -\frac{a^4}{2(a^2+b^2)}\left(\frac{1}{a^2+(b+1)^2} + \frac{1}{a^2+(b-1)^2}\right)$$
という形に、110 個の波で差 $1.33\times10^{-15}$ 以内で乗った。この形は当てはめで見つけたもので、アーノルドが与えた式と同じかは確かめていない。$b = 0$ なら $K = -a^2/(a^2+1)$ で、一定の曲率から見積もる育ち方 $\sqrt{-K} = a/\sqrt{a^2+1}$ は、$a = 1$ で 0.707107、2 で 0.894427、4 で 0.970143、8 で 0.992278 になる。小さい渦ほど見積もりは大きいが、1 を超えない。
5. 曲率が負でも、指数で離れない
貿易風 $X = (\cos y, 0)$ と、それに直交するずれの流れ $Y = (0, -\cos x)$ の面の曲率は、ちょうど $-1/2$ である。曲率が一定なら、近い道のずれは $\sinh(\lambda t)/\lambda$、$\lambda = \sqrt{-K} = 0.707107$ で指数に育つはずである。
だが $X + \varepsilon Y$ の流れ関数は $\sin y – \varepsilon c \sin x$ で、二つの波が同じ大きさの波の数を持つので、渦度が流れ関数に比例し、正確に定常である。渦度の運ばれ方 $u\cdot\nabla\omega$ の最大は $2.87\times10^{-12}$ で丸めの大きさにとどまり、定常でない対照 $\sin y + 0.3\sin 2x$ では 1.800000 だった。流れが定常なので、粒子を運ぶだけで、近い流れの離れ方を長い時間まで測れる。
| 時刻 $t$ | 測った $\lvert J(t)\rvert$ | 一定の曲率の見込み |
|---|---|---|
| 1 | 1.0405 | $1.0854$ |
| 2 | 2.3001 | $2.7366$ |
| 5 | 8.2635 | $2.4243\times10^{1}$ |
| 10 | 24.2224 | $8.3255\times10^{2}$ |
| 20 | 70.5219 | $9.8025\times10^{5}$ |
| 40 | 190.6485 | $1.3589\times10^{12}$ |
両対数の傾き(隣どうし)は 1.1444、1.3957、1.5515、1.5417、1.4348 で、ずれは $t$ の冪でしか育たなかった。$t = 40$ では、一定の曲率の見込みは測った値の $10^{9}$ 倍を超える。曲率はこの面で負なのに、近い流れは指数では離れない。
6. 対照:ずれの流れ cos 2y は指数で離れる
測り方が指数の育ちを見落としていないことを、指数で離れる流れで確かめた。ずれの流れ $u = (\cos 2y, 0)$(長さ 1 にそろえる)に、小さな流れ $\sin x + 0.3\cos(x + y)$ を足し、オイラー方程式を解いて粒子の離れ方を測った。
| 流れ | 曲率 | 曲率からの見積もり | 実際の育ち方 |
|---|---|---|---|
| 貿易風 $\cos y$ と $(0, -\cos x)$ | $-0.5$ | 0.707107 | 冪(傾き 1.1444〜1.5515) |
| ずれの流れ $\cos 2y$ と小さな流れ | $-0.769492$ | 0.877207 | 指数(0.739423) |
$\cos 2y$ では、$\lvert J\rvert$ は $t = 4$ で $1.3599\times10^{1}$、8 で $2.3389\times10^{2}$、12 で $4.5161\times10^{3}$、16 で $8.6750\times10^{4}$ と、ほぼ一定の割合で育った。$t = 8$ から 16 の $\log\lvert J\rvert$ の傾きは 0.739423 である。
これを、線形化したオイラー方程式の固有値という別の道で確かめた。$\cos 2y$ のまわりでは、$x$ の波の数 1 の揺らぎだけが育ち、育つ速さは 0.738924436 で、粒子の測定と合った($x$ の波の数 2 と 3 は 0)。貿易風 $\cos y$ のまわりでは、$x$ の波の数 1、2、3 のどれも 0 で、育つ揺らぎは無かった。
曲率からの見積もりは、育たない貿易風で 0.707107、育つ $\cos 2y$ で 0.877207 と、同じ程度だった。分けていたのは曲率の符号ではなく、流れの形(渦度)が保たれるかどうかだった。貿易風は少し揺すっても別の定常な流れに移るだけで形が崩れず、$\cos 2y$ は揺らぎが育って形が崩れていく。

7. 既刊との関係
論文289 は射程注記で、実際の大気には尺度ごとに違う成長率があり、小さい渦ほど速く育つとして、単一の指数だとは言わなかった。本稿はその射程注記の席に座り、流れの幾何から出る育ち方の見積もりを数えた。見積もりは向きごとに違い、貿易風と一つの波の面では小さい渦ほど 1 に近づいた。しかし見積もりは実際の育ち方とは別で、同じ程度の見積もりの面が、冪でしか育たないことも、指数で育つこともあった。
論文198 は、まっすぐな道が最短とは限らず、共役点で近い道どうしが再び出会うことを示した。ここでは、同じ近い道のずれ(ヤコビ場)の時間の 4 乗の係数から、曲率を読み取った。
測り方の誤りを一つ直したことも書いておく。定常の確かめに、渦度の運ばれ方の最大を $10^{-12}$ 未満と、測る前に置いて落ちた。実測の $2.87\times10^{-12}$ は格子の上の微分の丸めの大きさで、定常でない対照と比べる形に替えた。
結び
結び:理想流体の曲率はほとんど負だが、それだけでは近い流れが指数で離れるとは決まらない。曲率の式は、オイラー方程式を解いた離れ方と相対差 5.20e-05 以内で合った。でたらめな面 2000 組はすべて負で、正の面は二つの波の 4000 組で 1 組だけだった。貿易風と直交するずれの流れの面は曲率 −1/2 だが、二つの流れは定常で、近い流れは t の 1.1444 乗から 1.5515 乗でしか離れず、t=40 で 190.6485 にとどまった。ずれの流れ cos 2y は指数 0.739423 で離れ、固有値 0.738924436 と合った。曲率からの見積もりは、育たない面で 0.707107、育つ面で 0.877207 と同じ程度だった。正直に書くと、貿易風と一つの波の曲率の形は当てはめで見つけたもので、大気の値もアーノルドの見積もりの数も使っていない。分離子は、曲率の符号ではなく、流れの形が保たれるか。保たれれば冪で、崩れれば指数で離れる。
参考文献
- Arnold, V. (1966). Sur la géométrie différentielle des groupes de Lie de dimension infinie et ses applications à l’hydrodynamique des fluides parfaits. Annales de l’Institut Fourier.
- Arnold, V. I., & Khesin, B. A. (1998). Topological Methods in Hydrodynamics. Springer.
- Ebin, D. G., & Marsden, J. (1970). Groups of Diffeomorphisms and the Motion of an Incompressible Fluid. Annals of Mathematics.
- Misiołek, G. (1993). Stability of Flows of Ideal Fluids and the Geometry of the Group of Diffeomorphisms. Indiana University Mathematics Journal.
- 山岸勇輝 (2026). 「まっすぐ」は「最短」を意味せず、柵は二つある [論文198]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/198 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22107954
- 山岸勇輝 (2026). 予報の限界を決めているのは、たった一つの数である [論文289]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/289 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22171367
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「理想流体の曲率はほとんど負だが、それだけでは近い流れが指数で離れるとは決まらない」[論文1079]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/1079
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住所:https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/1079・CC BY 4.0・プレプリント(査読を経ていません)・ORCID 0009-0006-8587-3450
引用するとき
山岸勇輝 (2026). 理想流体の曲率はほとんど負だが、それだけでは近い流れが指数で離れるとは決まらない [論文1079]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/1079
Yamagishi, Y. (2026). The Curvature of an Ideal Fluid Is Mostly Negative, but That Alone Does Not Make Nearby Flows Part Exponentially [Paper 1079]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/1079
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指紋(SHA-256)と確かめ方
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