【論文142】動かすと、$2\pi$ だけが残る

要旨

論文52 は、ホーキング温度の $8\pi$ が $4\times2\pi$ であり、その $2\pi$ が周期性であって立体角ではないこと、そしてウンルー効果の $2\pi$ と同根であることを述べた。本稿はそれを証明し、さらにブラックホールを動かして、その分解が持ちこたえるかを試す。新しい数学定理も新しい物理法則も主張しない。

第一に、$2\pi$ は滑らかさの条件である。ユークリッド化したリンドラー計量は原点近傍で極座標の平面であり、円錐特異点を持たないための条件が「角の周期がちょうど $2\pi$」である。周期が $\pi$ でも $4\pi$ でも欠損角が残る(本稿で確認)。ゆえに $T=a/(2\pi)$ の $2\pi$ は、立体角ではなく滑らかさである(第2節)。

第二に、$4$ は表面重力に住んでいる。シュヴァルツシルトでは $\kappa=f'(r_h)/2=1/(4M)$ であり、$T=\kappa/(2\pi)=1/(8\pi M)$ となる(本稿で記号計算)。$8\pi=2\pi\times4$ の $4$ は、表面重力と質量の関係から来ている(第3節)。

第三に、これが本稿の芯である。ブラックホールを動かすと $4$ は動き、$2\pi$ は動かない。ライスナー=ノルドシュトロムでは $Q/M=0$ で係数が $1/(8\pi)=0.039789$、$0.9$ で $0.033648$、$0.99$ で $0.017243$、極限でゼロになる。カーでも同様である。$8\pi$ は普遍ではない。普遍なのは $T=\kappa/(2\pi)$ である(第4節)。

第四に、地平線の近くで局所温度はウンルー温度そのものになる。トールマン則による局所温度と静止観測者の固有加速度の比は、$r/2M-1$ を $10^{-2}$ から $10^{-8}$ まで縮めると $0.16235396\to0.15915495$ となり、$1/(2\pi)=0.15915494$ と8桁一致する(第5節)。

第五に、それでも二つは同じ現象ではない。ウンルー効果には有限面積の地平線も、蒸発も、重力も要らない。$2\pi$ は同根、まわりの物理は別物である(第6節)。

射程(何を示さないか)

本稿の射程:新しい数学定理も新しい物理法則も主張しない。ウンルー(1976)、ホーキング(1975)、ギボンズ=ホーキングのユークリッド法、表面重力と温度の関係はいずれも標準的である。本稿が加えるのは、論文52 が主張した同根性を円錐欠損の計算で示したこと、荷電・回転させて分解を試験したこと、近傍極限で比が $1/(2\pi)$ に8桁で収束することを確かめたことだけである。本稿は「別根」ではなく「同根」を確認する回である。体系にとって、その確認も点呼の一部である。

1. 記法と位置づけ

$G=c=\hbar=k_B=1$ とする。ウンルー温度は $T=a/(2\pi)$、ホーキング温度は $T=\kappa/(2\pi)$($\kappa$ は表面重力)である。

論文52 が置いたもの:$T_{\rm BH}$ の $8\pi$ は $4\times2\pi$ であり、その $2\pi$ は周期性であって、アインシュタイン方程式の $8\pi=2\times4\pi$(立体角)とは別根である。そしてウンルーの $2\pi$ と同根である。

本稿が加えるもの:同根であることの証明と、分解の試験。体系はふつう別根を分けるが、本稿は同根を確認する。確認もまた点呼である(論文100)。

2. $2\pi$ は、滑らかさの条件である

観察 2.1 ユークリッド化したリンドラー計量は
$$ ds^2=\rho^2\,d(a\eta)^2+d\rho^2 $$
であり、原点近傍では極座標で書いた平面である。$a\eta$ が角にあたる。

検算 2.2(円錐欠損):欠損角は $2\pi-(\text{周期})$ である。本稿では

$a\eta$ の周期 欠損角
$\pi$ $\pi$ 円錐特異点
$2\pi$ $0$ 滑らか
$4\pi$ $-2\pi$ 円錐特異点

を得た。ちょうど $2\pi$ のときだけ、円錐が消える。(証明終)

観察 2.3 $a\eta$ の周期が $2\pi$ ということは $\eta$ の周期が $2\pi/a$ ということであり、虚時間の周期が逆温度であるから $T=a/(2\pi)$ となる。

ゆえに $2\pi$ の住所は「滑らかさ」である。球面の全立体角ではない(論文35・45)。同じ記号が別の場所から来る、という体系の主題の実例である。

3. $4$ は、表面重力に住んでいる

検算 3.1:$f(r)=1-2M/r$ について、地平線 $r_h=2M$ での表面重力は
$$ \kappa=\frac{f'(r_h)}{2}=\frac{1}{4M} $$
であり(本稿で記号計算)、したがって
$$ T=\frac{\kappa}{2\pi}=\frac{1}{8\pi M} $$
となる。(証明終)

観察 3.2 $8\pi=2\pi\times4$ の $4$ は、表面重力と質量の関係から来ている。周期性からではない。論文52 の分解は、ここで具体的に確かめられる。

4. 動かすと、$4$ は動き、$2\pi$ は動かない

検算 4.1(荷電させる):ライスナー=ノルドシュトロムでは $\kappa=(r_+-r_-)/(2r_+^2)$ である。本稿では

$Q/M$ $\kappa M$ $TM$
0.00 0.250000 0.039789($=1/8\pi$)
0.50 0.248711 0.039584
0.90 0.211414 0.033648
0.99 0.108344 0.017243
1.00 0.000000 0.000000

を得た。(証明終)

検算 4.2(回転させる):カーでは $\kappa=(r_+-M)/(r_+^2+a^2)$ である。

$a/M$ $\kappa M$ $TM$
0.000 0.250000 0.039789
0.500 0.232051 0.036932
0.900 0.151784 0.024157
0.998 0.029728 0.004731
1.000 0.000000 0.000000

(証明終)

観察 4.3 (これが本稿の芯である) $8\pi$ は普遍ではない。荷電させても回転させても係数は動き、極限ではゼロになる。一方 $2\pi$ で割るという操作は、一度も変わらない。

ゆえに普遍なのは $T=\kappa/(2\pi)$ であって、$T=1/(8\pi M)$ ではない。論文52 の分解は試験に耐えた。動かして、動く部分と動かない部分が分かれた。

観察 4.4 (体系の道具として) 論文117 と論文132 は「何を動かすと動くか」が分離子であると述べた。ここではブラックホールの荷電と角運動量が分離子である。同じ試験で、$4$ と $2\pi$ が分かれた。

5. 近傍では、局所温度がウンルー温度である

検算 5.1:トールマン則により局所温度は $T_{\rm loc}=T_\infty/\sqrt{f}$、静止観測者の固有加速度は $a=M/(r^2\sqrt{f})$ である。本稿では

$r/2M-1$ $T_{\rm loc}/a$
$10^{-2}$ 0.16235396
$10^{-4}$ 0.15918678
$10^{-6}$ 0.15915526
$10^{-8}$ 0.15915495

を得た。$1/(2\pi)=0.15915494$ と8桁一致する。(証明終)

観察 5.2 地平線の近くで局所的に測られるホーキング温度は、その場の加速度に対するウンルー温度そのものである。二つの $2\pi$ は、同じ一つのものである。論文52 の主張は、ここで数値的にも確かめられた。

6. それでも、同じ現象ではない

観察 6.1 (何が違うか) 

ウンルー ホーキング
重力 要らない 要る
有限面積の地平線 無い 有る
蒸発・質量の減少 無い 有る
$2\pi$ の出所 滑らかさ 滑らかさ(同根)

観察 6.2 (同根と同一は違う) $2\pi$ が同根であることは、二つが同じ現象であることを意味しない。ウンルー効果は平坦時空で起き、エントロピーの面積則も情報の問題も伴わない。論文17 が求めたのは住所であり、住所が同じでも建物は別でありうる。

観察 6.3 (同根の確認も点呼である) 体系はふつう「別根である」と言う。だが「同根である」と確かめることも、同じ規律の一部である。どちらも、確かめずに言わない、という一つの態度から出ている。同根だと言うためにも、動かしてみる必要があった。

7. 結論

  1. $2\pi$ は滑らかさの条件である(検算2.2)。ユークリッド断面が円錐にならないのは周期がちょうど $2\pi$ のときだけ。立体角ではない。
  2. $4$ は表面重力に住んでいる(検算3.1)。$\kappa=1/(4M)$ ゆえ $T=1/(8\pi M)$。論文52 の分解が具体的に確かめられた。
  3. 動かすと $4$ は動き、$2\pi$ は動かない(検算4.1・4.2)。$Q/M=0.99$ で係数は $0.017243$、極限でゼロ。カーでも同様。$8\pi$ は普遍でなく、$T=\kappa/(2\pi)$ が普遍である。
  4. 近傍で局所温度はウンルー温度である(検算5.1)。比は $0.15915495$、$1/(2\pi)$ と8桁一致。
  5. それでも同じ現象ではない(観察6.1)。ウンルーには重力も有限面積の地平線も蒸発も無い。同根と同一は違う。
  6. 同根の確認も点呼である(観察6.3)。確かめずに言わない、という一つの態度から出ている。

結び:動かしてみると、$2\pi$ だけが残った。荷電させても回転させても、割る数は変わらない。変わったのは表面重力のほうであり、$8\pi$ という顔はシュヴァルツシルトが着けていたものである。普遍なものを見分ける方法は一つしかない。動かしてみることである。

参考文献

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  3. Gibbons, G. W. & Hawking, S. W. (1977). Action integrals and partition functions in quantum gravity. Physical Review D, 15.
  4. Fulling, S. A. (1973). Nonuniqueness of canonical field quantization in Riemannian space-time. Physical Review D, 7.
  5. Davies, P. C. W. (1975). Scalar production in Schwarzschild and Rindler metrics. Journal of Physics A, 8.
  6. Wald, R. M. (1994). Quantum Field Theory in Curved Spacetime and Black Hole Thermodynamics. University of Chicago Press.
  7. 山岸勇輝 (2026). 等号は六つの別根を持つ [論文16] 第3版. Zenodo. 10.5281/zenodo.21600471
  8. 山岸勇輝 (2026). 別根と言うのは半分である。住所を書け [論文17] 第3版. Zenodo. 10.5281/zenodo.21600813
  9. 山岸勇輝 (2026). $4\pi G$ の中の二つの $4\pi$ [論文35] 第3版. Zenodo. 10.5281/zenodo.21430118
  10. 山岸勇輝 (2026). $4\pi$ は相殺する [論文51] 第4版. Zenodo. 10.5281/zenodo.21602935
  11. 山岸勇輝 (2026). 臨界半径に $G$ は無い [論文52] 第3版. Zenodo. 10.5281/zenodo.21603034
  12. 山岸勇輝 (2026). ブラックホール・エントロピーの「$1/4$」 [論文73]. Zenodo. 10.5281/zenodo.21666086
  13. 山岸勇輝 (2026). 二つのエントロピー [論文88]. Zenodo. 10.5281/zenodo.21747809
  14. 山岸勇輝 (2026). 王道の点呼 [論文100]. Zenodo. 10.5281/zenodo.21758864
  15. 山岸勇輝 (2026). 光は共形構造までしか決めない [論文111]. Zenodo. 10.5281/zenodo.21961685
  16. 山岸勇輝 (2026). 尺度不変性は四つの根を持つ [論文117]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22005515
  17. 山岸勇輝 (2026). $k_BT\ln2$ のうち、物理は $T$ だけである [論文131]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22080240
  18. 山岸勇輝 (2026). フィッシャー計量が一意なのは、古典の側だけである [論文133]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22080550
  19. 山岸勇輝 (2026). 対称性は比を決め、力学は尺度を決める [論文140]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22081997
  20. 山岸勇輝 (2026). 限界が存在するのは、二つの力が同じ指数を持つからである [論文141]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22082127

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書誌

山岸勇輝(2026)「動かすと、2π だけが残る」[論文142]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22082281

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引用するとき

山岸勇輝 (2026). 動かすと、2π だけが残る [論文142]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/142 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22082281

Yamagishi, Y. (2026). Move It, and Only the 2π Survives [Paper 142]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/142; DOI: 10.5281/zenodo.22082281

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