要旨
アンテナの利得(ここでは損失の無い指向性)は、ある向きに出る電力を、全方向に均等に配ったときの何倍かで表す。本稿は、利得を全方向で平均すると何になるかを確かめ、ビームの半値全幅から利得を見積もる係数がパターンの形でどれだけ変わるかを数える。新しい定理も法則も主張しない。
第一に、利得は全方向で平均すると $1$ である。短いダイポール・半波長ダイポール・余弦の冪の四つのパターン・二つの円形開口のどれでも、利得を $4\pi$ の立体角で平均すると $1$ で、差は $4.6\times10^{-15}$ 以内だった。短いダイポールは $1.500000$、半波長ダイポールは $\mathbf{1.640922}$ である(第2節)。
第二に、半値全幅から利得を出す係数は、パターンで変わる。利得×半値全幅の二乗(度²)は、余弦の $2$ 乗で $48600.0$、$10$ 乗で $39131.5$、$100$ 乗で $36686.7$、$1000$ 乗で $36435.5$ と下がった(第2節)。
第三に、裾の無い形は、ガウス形の極限に下りる。ガウス形の極限は $\mathbf{36407.5}$ 度²で、$4\pi$ ステラジアン $41252.961$ 度²の $0.882542$ 倍だった(第2節)。
第四に、裾を持つ円形開口の係数は、ガウスの極限より小さい。一様な円形開口では $ka=10$ で $34841.9$、$ka=30$ で $\mathbf{34392.7}$ だった。円形開口では最初の暗い輪の外へ電力の $\mathbf{0.162215}$ が出ている(第3節)。
第五に、分離子は、主ビームの外に出る電力の割合である。利得は $4\pi$ を主ビームに配った比なので、同じ半値全幅でも主ビームの外へ出る電力が多いほど利得は小さい。$41253$ を半値全幅の二乗で割る見積もりは、パターンによって $1.178097$ 倍から $0.833703$ 倍まで外れた(第4節)。
キーワード:アンテナの利得、指向性、半値全幅、立体角、サイドローブ、円形開口。
射程(何を示さないか)
新しい定理も法則も主張しない。指向性の定義、ダイポールの放射パターンと指向性、一様な円形開口の回折パターン、半値全幅から指向性を見積もる経験則は、いずれも標準的である。アンテナを設計しない。給電、整合、実在の製品の値は扱わない。損失を入れない。利得を指向性と同じに置く。効率による目減りは入れない。どの経験則が正しいかを裁かない。$41253$ やその他の係数のどれを使うべきかは述べず、パターンごとの値を並べるだけである。回転対称なパターンだけを使う。二つの面で幅の違うビームは扱わない。円形開口と余弦の冪のパターンは前の半球だけに出すと置く。既刊との関係:論文384 の射程注記は、アンテナの放射抵抗や指向性の理論には立ち入らないと書いた。本稿はその指向性の席に座る(先客なし)。論文335 は、レーダーでは往復で距離の冪が変わることを示した。ここでは、その式に入る利得が、全方向の平均が $1$ になるように $4\pi$ の立体角を配り直した比であることを数える。加えたのは、八つのパターンで利得の全方向の平均が $1$ であることを確かめたこと、半値全幅から利得を出す係数を並べたこと、余弦の冪のパターンの係数がガウス形の極限 $36407.5$ 度²に下りることを示したこと、裾を持つ円形開口の係数がその極限より小さいことを出したこと、分離子を「主ビームの外に出る電力の割合」に置いたことである。
1. 記法と問い
設定:向き $(\theta,\phi)$ への放射の強さを $U$ とする。指向性 $D$(損失が無いときの利得)は次のとおりで、定義から全方向の平均は $1$ になる。
$$D(\theta,\phi)=\frac{4\pi\,U(\theta,\phi)}{\oint U\,d\Omega},\qquad \frac{1}{4\pi}\oint D\,d\Omega=1$$
半値全幅を $\theta_{\mathrm{HP}}$(度)とすると、見積もり $D\approx K/\theta_{\mathrm{HP}}^2$ の係数 $K$ を、実際の $D$ から $K=D \theta_{\mathrm{HP}}^2$ として出す。検算では回転対称なパターンを球面で積分し、円形開口のパターン $(2J_1(u)/u)^2$($u=ka\sin\theta$)の $J_1$ は積分表示から求めた。
問い:利得は何を増やしているのか。半値全幅から利得を出す係数は、何で決まるのか。
2. 全方向の平均と、裾の無い形
計算 2.1:八つのパターン。
| パターン | 指向性 $D$ | 全方向の平均 | 半値全幅(度) | $K$(度²) |
|---|---|---|---|---|
| 短いダイポール | $1.500000$ | $1.000000000$ | (全方向に広い) | − |
| 半波長ダイポール | $1.640922$ | $1.000000000$ | (全方向に広い) | − |
| $\cos^2\theta$ | $6.000000$ | $1.000000000$ | $90.0000$ | $48600.0$ |
| $\cos^{10}\theta$ | $22.000000$ | $1.000000000$ | $42.1747$ | $39131.5$ |
| $\cos^{100}\theta$ | $202.000000$ | $1.000000000$ | $13.4765$ | $36686.7$ |
| $\cos^{1000}\theta$ | $2001.999999$ | $1.000000000$ | $4.2661$ | $36435.5$ |
| 円形開口 $ka=10$ | $100.672828$ | $1.000000000$ | $18.6035$ | $34841.9$ |
| 円形開口 $ka=30$ | $901.400125$ | $1.000000000$ | $6.1770$ | $34392.7$ |
全方向の平均と $1$ の差は最大 $4.6\times10^{-15}$、ダイポールの $1.5$ と $1.6409$ との差は $2.8\times10^{-14}$ と $3.8\times10^{-7}$ だった。
計算 2.2:$4\pi$ ステラジアンは $41252.961$ 度²、ガウス形の極限 $16\ln2$ ラジアン²は $\mathbf{36407.5}$ 度²(比 $0.882542$)だった。
観察 2.3 利得は電力を増やさず、$4\pi$ の立体角への配り方を測る。どのパターンでも全方向の平均は $1$ で、ある向きで $1$ を超えたぶん、ほかの向きで $1$ を下回る。裾の無い $\cos^n\theta$ では、ビームが細くなるにつれて係数 $K$ がガウス形の極限へ下りた。
3. 裾を持つ形
計算 3.1:一様な円形開口の係数は $ka=10$ で $34841.9$、$ka=30$ で $\mathbf{34392.7}$ 度²で、どちらもガウス形の極限 $36407.5$ 度²より小さい。最初の暗い輪($u=3.8317$)の外へ出る電力の割合は $J_0^2+J_1^2=\mathbf{0.162215}$ だった(その点で $J_1$ は $3.0\times10^{-12}$)。
観察 3.2 裾に電力を持つ形は、同じ半値全幅でも利得が小さい。半値全幅は主ビームの細さしか見ていない。主ビームの外へ出た電力は、全方向の平均 $1$ の中から主ビームの取り分を減らす。
4. 分離子
観察 4.1 分離子は、主ビームの外に出る電力の割合である。その割合が $0$ の $\cos^n\theta$ では係数がガウスの極限へ下り、円形開口ではそれより小さくなった。$41253$ を半値全幅の二乗で割る見積もりに対する実際の利得の比は、$\cos^2\theta$ の $1.178097$ から、$\cos^{100}\theta$ の $0.889310$、円形開口 $ka=30$ の $0.833703$ まで動いた。
観察 4.2 言わないこと。アンテナの設計、損失、二つの面で幅の違うビーム、どの経験則を使うべきかは扱わない。示したのは、利得が $4\pi$ の配り方の比であり、半値幅から利得を出す係数が裾の電力で変わることである。
5. 点呼と結び
- $D=4\pi U/\oint U d\Omega$(第1節):全方向の平均 $1$。
- 平均の差 $4.6\times10^{-15}$(計算 2.1):八つのパターン。
- 半波長ダイポール $\mathbf{1.640922}$(計算 2.1):既知の値。
- $K$ が $48600.0$ から $36435.5$(計算 2.1):パターンで変わる。
- ガウスの極限 $\mathbf{36407.5}$ 度²(計算 2.2):裾の無い形。
- 円形開口 $\mathbf{34392.7}$ 度²・外へ $\mathbf{0.162215}$(計算 3.1):裾を持つ形。
- 主ビームの外に出る電力の割合(観察 4.1):分離子・論文384 の射程注記・論文335。
結び:アンテナの利得は全方向で平均すると $1$ で、半値幅から利得を出す係数は裾の電力で変わる。八つのパターンのどれでも利得の全方向の平均は $1$ で、利得は電力を増やさず $4\pi$ の立体角への配り方を測っていた。半値全幅から利得を出す係数は、裾の無い形でガウスの極限 $36407.5$ 度²へ下り、最初の暗い輪の外へ $0.162215$ を出す円形開口では $34392.7$ 度²とさらに小さかった。同じ半値全幅でも、主ビームの外へ出た電力は主ビームの取り分を減らす。分離子は、主ビームの外に出る電力の割合である。既刊との位置:論文384 が立ち入らなかった指向性を、論文335 の往復の式に入る利得の中身として数えた。正直に言えば、どの係数を使うべきかは言わない。利得が配り方の比であることと、係数が裾で動くこと、そこまでである。
参考文献
- Balanis, C. A. (2016). Antenna Theory: Analysis and Design. Wiley.
- Kraus, J. D. (1988). Antennas. McGraw-Hill.
- 山岸勇輝 (2026). 『往復すると、冪が変わる』[論文335]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/335 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22681851
- 山岸勇輝 (2026). 『「自由空間損失」は損失ではない。真空は何も吸収していない』[論文384]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/384 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22699073
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「アンテナの利得は全方向で平均すると 1 で、半値幅から利得を出す係数は裾の電力で変わる」[論文918]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/918
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住所:https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/918・CC BY 4.0・プレプリント(査読を経ていません)・ORCID 0009-0006-8587-3450
引用するとき
山岸勇輝 (2026). アンテナの利得は全方向で平均すると 1 で、半値幅から利得を出す係数は裾の電力で変わる [論文918]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/918
Yamagishi, Y. (2026). Antenna Gain Averages to 1 over All Directions, and the Factor That Turns Beamwidth into Gain Depends on the Power in the Skirts [Paper 918]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/918
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author = {Yamagishi, Yuuki},
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指紋(SHA-256)と確かめ方
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