要旨
上下法は、答えが正しければ刺激を弱め、誤れば強めて、決まった正答の割合の点を追う。本稿は、論文935 の観察者に当て推量を入れ、2 択と 4 択の課題で、1・2・3 回続けて正しければ下げる規則が集まる点を、式と乱数の観察者で出す。新しい定理も法則も主張しない。
第一に、当て推量があると、同じ規則が追う強さは下へずれる。2 回で下げる規則の目標の点は、はい・いいえの課題で $0.544952$、2 択で $\mathbf{-0.216719}$ で、$0.761671$ 違う。乱数の観察者は $0.558854$ と $-0.224659$ に集まった(第2節)。
第二に、1 回で下げる規則は、2 択では目標の点を持たない。目標の正答 $0.5$ は 2 択の当て推量の床と同じで、刺激をどこまで弱めても届いてしまう。乱数の観察者は $-2.680489$ まで下がり、後半の正答の割合は $0.513672$ だった(第2節)。
第三に、集まらない規則は、試行を増やすほど位置がばらける。2 択で 1 回で下げる規則は、試行を $600$ から $2400$ にすると終わりの位置のばらつきが $\mathbf{2.033179}$ 倍になり、2 回で下げる規則は $1.039756$ 倍にとどまった(第3節)。
第四に、床が低い 4 択では、1 回で下げる規則にも目標の点がある。4 択(当て推量 $0.25$)では 1・2・3 回で下げる規則の目標の点が $-0.430727$・$0.277953$・$0.597562$ で、乱数の観察者は $-0.454345$・$0.284358$・$0.611233$ に集まった。目標のある八つの組すべてで、後半の正答の割合は目標と $0.002$ 以内だった(第2節)。
第五に、分離子は、正答の割合の床が規則の目標より上か下かである。床が目標より下なら、規則は床の分だけ下がった強さに集まる。床が目標と同じかそれより上なら、集まる点は無く、刺激は弱い側をさまよう(第4節)。
キーワード:上下法、当て推量、強制選択、心理測定関数、正答の割合、乱数の観察者。
射程(何を示さないか)
新しい定理も法則も主張しない。上下法とその変形、選ぶ課題で正答の割合が当て推量の割合から始まること、k 回で下げる規則が正答の割合 $0.5$ の $k$ 乗根を追うことは、いずれも既知である。論文935 の模型である。観察者は、強さ $x$ で正しく答える割合が当て推量 $\gamma$ と標準正規分布の累積の混ぜ合わせになる模型で、疲れ・慣れ・見落としは入れない。規則の良し悪しを言わない。推定の効率、試行の数の選び方、どの規則を使うべきかは扱わない。極限を主張しない。集まらない規則のばらつきは $2400$ 試行までの実測で、試行を限りなく増やしたときの振る舞いは主張しない。既刊との関係:論文935 の射程注記は、実際の知覚を扱わず、当て推量のある選択課題や、疲れ・慣れは入れないと書いた。本稿はそのうち当て推量のある選択課題の席に座る(先客なし)。論文935 は、上下法が追う割合は下げる規則が選び、非対称な規則では集まる点が歩幅に比例して上にずれることを示した。ここでは同じ規則でも、当て推量の床があると追う強さが下がり、床が目標に届くと集まる点そのものが無くなることを数える。加えたのは、はい・いいえ・2 択・4 択で三つの規則の目標の点を式で出したこと、乱数の観察者で集まった点と正答の割合を確かめたこと、集まらない規則のばらつきが試行とともに広がることを示したこと、分離子を「正答の割合の床が規則の目標より上か下か」に置いたことである。
1. 記法と問い
観察者:刺激の強さ $x$ で正しく答える割合を次のように置く。$\gamma$ は当て推量の割合で、はい・いいえの課題(論文935)は $0$、2 択は $0.5$、4 択は $0.25$ である。
$$p(x)=\gamma+(1-\gamma)\,\Phi(x)$$
規則:$k$ 回続けて正しければ $x$ を歩幅 $0.1$ だけ下げ、一度でも誤れば上げる。この規則は正答の割合 $0.5^{1/k}$ の点に集まるので、目標の強さは $p(x)=0.5^{1/k}$ を解いた $x$ である。$0.5^{1/k}\le\gamma$ なら解は無い。
乱数の観察者:論文935 と同じく、開始 $2.0$・歩幅 $0.1$・$1000$ 回×$600$ 試行で、後半 $400$ 試行の位置を平均した。
問い:当て推量がある課題で、同じ規則はどこに集まり、集まらないのはどんなときか。
2. 集まる点
計算 2.1:目標の点と、乱数の観察者の集まった点(括弧は標準誤差)と後半の正答の割合。
| 課題・規則 | 目標の正答 | 目標の点 | 集まった点 | 正答の割合 |
|---|---|---|---|---|
| はい・いいえ・1 回 | $0.500000$ | $-0.000000$ | $-0.002298$($0.001934$) | $0.500108$ |
| はい・いいえ・2 回 | $0.707107$ | $0.544952$ | $0.558854$($0.002130$) | $0.706233$ |
| はい・いいえ・3 回 | $0.793701$ | $0.819329$ | $0.834829$($0.002226$) | $0.793065$ |
| 2 択・1 回 | $0.500000$ | 無し | $-2.680489$($0.028605$) | $0.513672$ |
| 2 択・2 回 | $0.707107$ | $\mathbf{-0.216719}$ | $-0.224659$($0.003744$) | $0.707117$ |
| 2 択・3 回 | $0.793701$ | $0.220865$ | $0.234317$($0.003400$) | $0.793233$ |
| 4 択・1 回 | $0.500000$ | $-0.430727$ | $-0.454345$($0.002886$) | $0.500062$ |
| 4 択・2 回 | $0.707107$ | $0.277953$ | $0.284358$($0.002554$) | $0.706425$ |
| 4 択・3 回 | $0.793701$ | $0.597562$ | $0.611233$($0.002473$) | $0.792843$ |
目標のある八つの組すべてで、集まった点は目標と歩幅の $1/4$ 以内、後半の正答の割合は目標と $0.002$ 以内だった。2 回で下げる規則の目標の点は、はい・いいえと 2 択で $0.761671$ 違う。
観察 2.2 当て推量の床の分だけ、同じ規則が追う強さは下がる。2 回で下げる規則はどの課題でも正答の割合 $0.707107$ を追うが、2 択では床 $0.5$ があるので、それに届く強さは $-0.216719$ まで下がった。2 択の 1 回で下げる規則は、目標 $0.5$ が床と同じで、乱数の観察者は $-2.680489$ まで下がっても正答の割合は $0.513672$ だった。
3. 集まらない規則のばらつき
計算 3.1:2 択で、$400$ 回ずつの終わりの位置。
| 規則・試行 | 位置の平均 | ばらつき(標準偏差) | 試行 4 倍でのばらつきの比 |
|---|---|---|---|
| 1 回で下げ・$600$ | $-3.130000$ | $1.438915$ | |
| 1 回で下げ・$2400$ | $-5.169500$ | $2.925571$ | $\mathbf{2.033179}$ |
| 2 回で下げ・$600$ | $-0.213000$ | $0.288077$ | |
| 2 回で下げ・$2400$ | $-0.234000$ | $0.299530$ | $1.039756$ |
観察 3.2 集まらない規則は、試行を増やすほど位置がばらける。2 回で下げる規則は、試行を $4$ 倍にしても位置の平均もばらつきもほとんど変わらなかった。1 回で下げる規則は位置の平均が $-3.130000$ から $-5.169500$ へ下がり続け、ばらつきは $2.033179$ 倍に広がった。弱い側では正答の割合が床の $0.5$ に近く($600$ 試行の後半で $0.513672$)、下げる一歩と上げる一歩の起こりやすさの差が小さい。
4. 分離子
観察 4.1 分離子は、正答の割合の床が規則の目標より上か下かである。規則が選ぶのは正答の割合で、刺激の強さではない。床が目標より下なら、その割合に届く強さが一つあり、規則は床の分だけ下がったそこに集まる。床が目標と同じなら、どこまで弱めても割合は目標から離れず、集まる点は無くなった。4 択の床 $0.25$ は目標 $0.5$ より下なので、1 回で下げる規則にも $-0.430727$ の目標があった。
観察 4.2 言わないこと。実在の知覚、疲れ・慣れ・見落とし、推定の効率、どの規則を使うべきか、試行を限りなく増やしたときの振る舞いは扱わない。示したのは、当て推量の床が同じ規則の追う強さを下げ、床が目標に届くと集まる点が無くなることである。
5. 点呼と結び
- 当て推量のある正答の割合と規則の目標(第1節):$0.5^{1/k}$ を解く。
- 2 択・2 回で $\mathbf{-0.216719}$(計算 2.1):はい・いいえより $0.761671$ 下。
- 2 択・1 回は目標無し(計算 2.1):$-2.680489$ まで下がる。
- ばらつきが試行 4 倍で $\mathbf{2.033179}$ 倍(計算 3.1):集まらない。
- 4 択には 1 回の目標 $-0.430727$ がある(計算 2.1):床が低い。
- 床が目標より上か下か(観察 4.1):分離子・論文935 の射程注記。
結び:当て推量があると上下法が追う強さは下へずれ、1 回で下げる規則は 2 択で集まる点を持たない。2 回で下げる規則の目標の点は、はい・いいえで $0.544952$、2 択で $-0.216719$ で、乱数の観察者もそこに集まった。2 択の 1 回で下げる規則は目標が床と重なり、試行を $4$ 倍にすると位置のばらつきが $2.033179$ 倍に広がった。床の低い 4 択では、1 回で下げる規則にも目標の点があった。分離子は、正答の割合の床が規則の目標より上か下かである。既刊との位置:論文935 が「割合は規則が選ぶ」と示した上下法に、論文935 が入れなかった当て推量の床を入れた。正直に言えば、どの規則を使うべきかは言わない。床と目標の位置で、規則が集まるか、どこに集まるか、そこまでである。
参考文献
- Levitt, H. (1971). Transformed up-down methods in psychoacoustics. The Journal of the Acoustical Society of America.
- 山岸勇輝 (2026). 『上下法が追う割合は下げる規則が選び、非対称な規則では集まる点が歩幅に比例して上にずれる』[論文935]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/935
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「当て推量があると上下法が追う強さは下へずれ、1 回で下げる規則は 2 択で集まる点を持たない」[論文954]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/954
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引用するとき
山岸勇輝 (2026). 当て推量があると上下法が追う強さは下へずれ、1 回で下げる規則は 2 択で集まる点を持たない [論文954]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/954
Yamagishi, Y. (2026). Guessing Shifts the Level an Up-Down Method Tracks Downward, and a One-Down Rule Has No Convergence Point in Two-Choice Tasks [Paper 954]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/954
@misc{yamagishi2026yoi954,
author = {Yamagishi, Yuuki},
title = {Guessing Shifts the Level an Up-Down Method Tracks Downward, and a One-Down Rule Has No Convergence Point in Two-Choice Tasks},
year = {2026},
howpublished = {YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/954},
note = {Preprint, edition 1}
}
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