【論文469】混みぐあいを一割上げたときの待ち時間は、いまどこにいるかで決まる

要旨

混雑は投入量に比例して悪くなる、と思われている。本稿が示すのは、同じ $1$ 割増でも、いまどこにいるかで待ちが $\mathbf{9}$ 倍違うことである。そしてその比は、閉じた式で書ける。新しい定理も法則も主張しない。

第一に、利用率 $0.50$ での待ちは、サービス時間ちょうど $\mathbf{1.000000000000}$ 個ぶんである(第2節)。

第二に、利用率 $0.90$ では $\mathbf{9.000000000000}$ 倍、$0.99$ では $\mathbf{99.0000}$ 分になる(第2節)。

第三に、これが本稿の芯である。同じ $1$ 割増でも、$0.50\to0.55$ は $\mathbf{1.2222}$ 倍、$0.90\to0.99$ は $\mathbf{11.0000}$ 倍である(第3節)。

第四に、その比は閉じた式 $a(1-\rho)/(1-a\rho)$ と厳密に一致する(第3節)。

第五に、余裕を $1000$ 分の $1$ にすると、待ちは $\mathbf{1001.000000}$ 倍になる(第3節)。

第六に、分離子は「投入に比例するか、余裕の逆数で効くか」である(第4節)。

キーワード:待ち行列、M/M/1、リトルの法則、利用率、待ち時間。

射程(何を示さないか)

新しい定理も法則も主張しない。待ち行列の $\mathrm{M}/\mathrm{M}/1$ 模型、リトルの法則はすべて既知である。系を設計しない。窓口数、優先順位、予約、割込みは主題ではない。$\mathrm{M}/\mathrm{M}/1$ に限る。到着がポアソン、サービスが指数分布、窓口が一つ。実際の系はこの仮定を満たさないことが多い。ばらつきを扱わない。平均だけを見る。分散や分位点は主題ではない。人の行動を扱わない。離脱、再来、行列を見て諦めることは主題ではない。既刊との関係:論文308 はあなたが乗るバスの間隔が平均の $2$ 倍になることを示し、射程注記で「待ち行列理論を作らない」と明記していた。本稿はその予約席を埋める。論文300 は同根か別根かが判定できることを示した。「投入量」と「余裕」は、その基準で別根である。論文468 は同じ倍率でも高い側では効きが落ちることを示した。そこでも、起点が効果を決めた。ここでは向きが逆で、高い側ほど効きが大きい。加えたのは、五つの利用率で待ちを出したこと、同じ $1$ 割増の効きを $1.2222$ 倍と $11.0000$ 倍と出したこと、比が閉じた式と厳密に一致することを示したこと、余裕を $1000$ 分の $1$ にすると $1001.000000$ 倍になることを示したこと、分離子を「投入か余裕か」に置いたことである。

1. 記法と問い

設定:到着率 $\lambda$、サービス率 $\mu$ の窓口一つの系で、利用率を $\rho=\lambda/\mu$ とする。$\mathrm{M}/\mathrm{M}/1$ の平均系内数と平均待ち時間は

$$L=\frac{\rho}{1-\rho},\qquad W_{q}=\frac{\rho}{\mu(1-\rho)}$$

である。以下 $\mu=1$($1$ 件を $1$ 分で処理)とする。

観察 1.1 混雑は投入量に比例して悪くなる、と思われている。$1$ 割多く来れば $1$ 割待つ、直線的な像である。

観察 1.2 だが式の分母には $1-\rho$ がある。効いているのは投入量ではなく、残っている余裕である。余裕がゼロに近づくと、逆数が跳ね上がる。

問い:同じ $1$ 割増が、どこでどれだけ効くのか。

2. 利用率 0.99 で待ちは 99 分になる

計算 2.1:五つの利用率で、系内数と待ち時間を出す。

利用率 平均系内数 [件] 平均待ち [分]
$0.50$ $1.0000$ $\mathbf{1.0000}$
$0.80$ $4.0000$ $4.0000$
$0.90$ $9.0000$ $\mathbf{9.0000}$
$0.95$ $19.0000$ $19.0000$
$0.99$ $99.0000$ $\mathbf{99.0000}$

観察 2.2 利用率 $0.50$ での待ちは、ちょうど $\mathbf{1.000000000000}$ 分である。サービス時間そのもの、式が正しく置かれていることの確認になる。

観察 2.3 $0.50$ から $0.90$ へ上げると、待ちがちょうど $\mathbf{9.000000000000}$ 倍になる。投入は $1.8$ 倍にしかしていない。$1.8$ 倍の入力が、$9$ 倍の待ちになる。

観察 2.4 $0.99$ では $\mathbf{99.0000}$ 分である。投入を $1.98$ 倍にして、待ちは $99$ 倍、比例からは遠く離れている。

観察 2.5 利用率 $0$ では待ちがちょうど $\mathbf{0.000000000000000}$ である。誰もいなければ待たない。両端で式が正しく振る舞う。

3. 同じ一割増が、1.2222 倍にも 11.0000 倍にもなる

計算 3.1:利用率を $1.1$ 倍にする操作を、二つの起点で行う。

操作 待ちの変化 倍率
$0.50\to0.55$ $1.0000\to1.2222$ 分 $\mathbf{1.2222}$
$0.90\to0.99$ $9.0000\to99.0000$ 分 $\mathbf{11.0000}$

観察 3.2 同じ $1$ 割増が、$9$ 倍違う効きになる。$1.2222$ 対 $11.0000$、どこにいるかを言わなければ、「$1$ 割増える」に意味がない。

観察 3.3 この比は閉じた式 $a(1-\rho)/(1-a\rho)$ と厳密に一致する。$a=1.1$、$\rho=0.50$ で $1.2222$、$\rho=0.90$ で $11.0000$、数値と式が同じ値に落ちる。

観察 3.4 効いているのは $1-\rho$、すなわち余裕である。$0.50$ では余裕が $0.50$、$0.90$ では $0.10$、同じ $1$ 割増が、余裕を $10$ 分の $1$ にするか、$9$ 割にするかの違いになる。

計算 3.5:余裕を $10^{-3}$、$10^{-6}$、$10^{-9}$ と縮めたときの待ちを出す。

余裕 $1-\rho$ 待ち [分]
$10^{-3}$ $9.990000\times10^{2}$
$10^{-6}$ $9.999990\times10^{5}$
$10^{-9}$ $1.000000\times10^{9}$

観察 3.6 余裕を $1000$ 分の $1$ にすると、待ちは $\mathbf{1001.000000}$ 倍になる。ほぼ反比例、待ちと余裕の積が $1$ に収束する($10^{-9}$ で $1.000000027$)。

観察 3.7 だから「あと少し詰められる」は、最も高くつく判断である。余裕の残り少ないところで削るから、同じ削り方が、空いているうちならほとんど効かない。

4. 分離子

分離子:投入に比例するか、余裕の逆数で効くか。

観察 4.1 比例するなら、どこで増やしても同じだけ悪くなる。$1$ 割増は $1$ 割悪化、見積もりが立てやすい。

観察 4.2 余裕の逆数なら、残りが少ないほど跳ねる。$1-\rho$ が分母にあるから、同じ操作が、起点で $9$ 倍違う。

観察 4.3 これは論文300 の基準で別根である。どちらも「混みぐあい」と呼ばれる。一方は投入の量、一方は残っている余裕の量である。

観察 4.4 論文468 と同じ場所にいて、向きが逆である。そこでは同じ倍率の操作が高い側で効きを $1.48$ 分の $1$ に落とした。ここでは高い側で $9$ 倍に増やす。どちらも起点が効果を決めるが、増える側か減る側かが違う。

観察 4.5 論文308 の予約席を埋めている。そこではあなたが乗るバスの間隔が平均の $2$ 倍になることを示し、射程注記で「待ち行列理論を作らない」と明記していた。本稿がその席に入る。

観察 4.6 だから稼働率の目標は、余裕として述べる。「$90$ パーセント稼働」ではなく「余裕 $10$ パーセント」、同じことを言っているが、$95$ へ上げるのが余裕を半分にすることだと分かる。

観察 4.7 正直に言えば、$\mathrm{M}/\mathrm{M}/1$ に限っている。到着がポアソンでサービスが指数分布という仮定は、実際の系では満たされないことが多い。$99$ 分という値はこの模型に依るが、余裕の逆数で効くという結論は、待ち行列の広い族で成り立つ。

5. 点呼と結び

  1. 利用率 $0.50$ で待ち $1.000000000000$ 分(観察 2.2):式の確認。
  2. $0.90$ で $9.000000000000$ 倍(観察 2.3):投入は $1.8$ 倍。
  3. $0.99$ で $99.0000$ 分(計算 2.1):比例から遠い。
  4. $0.50\to0.55$ で $1.2222$ 倍(計算 3.1):本稿の芯。
  5. $0.90\to0.99$ で $11.0000$ 倍(計算 3.1):同じ $1$ 割増。
  6. 閉じた式と厳密に一致(観察 3.3):$a(1-\rho)/(1-a\rho)$。
  7. 効いているのは余裕(観察 3.4):$1-\rho$ が分母。
  8. 余裕 $1000$ 分の $1$ で $1001.000000$ 倍(観察 3.6):ほぼ反比例。
  9. 分離子は投入か余裕か(観察 4.3):論文300 の基準で別根。
  10. 論文308 の予約席(観察 4.5):そこが待ち行列を除いていた。

結び:混雑は投入量に比例して悪くなる、と思われている。$1$ 割多く来れば $1$ 割待つ、という直線的な像である。だが式の分母には $1-\rho$ があり、効いているのは投入量ではなく残っている余裕で、余裕がゼロに近づくと逆数が跳ね上がる。まず、待ちそのものが比例から遠い。利用率 $0.50$ での待ちはちょうど $\mathbf{1.000000000000}$ 分、サービス時間そのものである。$0.90$ へ上げると待ちはちょうど $\mathbf{9.000000000000}$ 倍になるが、投入は $1.8$ 倍にしかしていない。$0.99$ では $\mathbf{99.0000}$ 分、投入を $1.98$ 倍にして、待ちは $99$ 倍である。そして利用率 $0$ では待ちがちょうど $0.000000000000000$ で、両端で式が正しく振る舞う。同じ「$1$ 割増」が、起点で $9$ 倍違う。$0.50\to0.55$ では待ちが $1.0000$ から $1.2222$ 分へ $\mathbf{1.2222}$ 倍、$0.90\to0.99$ では $9.0000$ から $99.0000$ 分へ $\mathbf{11.0000}$ 倍になる。この比は閉じた式 $a(1-\rho)/(1-a\rho)$ と厳密に一致する。効いているのは $1-\rho$、すなわち余裕である。$0.50$ では余裕が $0.50$、$0.90$ では $0.10$ で、同じ $1$ 割増が余裕を $10$ 分の $1$ にするか $9$ 割にするかの違いになる。余裕を $10^{-3}$、$10^{-6}$、$10^{-9}$ と縮めると待ちは $9.990000\times10^{2}$、$9.999990\times10^{5}$、$1.000000\times10^{9}$ 分となり、$1000$ 分の $1$ にすると $\mathbf{1001.000000}$ 倍。待ちと余裕の積は $1$ に収束する。だから「あと少し詰められる」は最も高くつく判断である。余裕の残り少ないところで削るからで、同じ削り方が空いているうちならほとんど効かない。分けているものは一つ、投入に比例するか、余裕の逆数で効くか。比例するならどこで増やしても同じだけ悪くなり、$1$ 割増は $1$ 割悪化で、見積もりが立てやすい。余裕の逆数なら残りが少ないほど跳ね、同じ操作が起点で $9$ 倍違う。論文300 の基準で別根であり、一方は投入の量、一方は残っている余裕の量である。論文468 と同じ場所にいて向きが逆である。そこでは同じ倍率の操作が高い側で効きを $1.48$ 分の $1$ に落とし、ここでは高い側で $9$ 倍に増やす。そして論文308 の予約席を埋めている。そこではあなたが乗るバスの間隔が平均の $2$ 倍になることを示し、射程注記で「待ち行列理論を作らない」と明記していた。だから稼働率の目標は余裕として述べる。「$90$ パーセント稼働」ではなく「余裕 $10$ パーセント」と言えば、$95$ へ上げるのが余裕を半分にすることだと分かる。正直に言えば、$\mathrm{M}/\mathrm{M}/1$ に限っており、到着がポアソンでサービスが指数分布という仮定は実際の系では満たされないことが多い。$99$ 分という値はこの模型に依るが、余裕の逆数で効くという結論は待ち行列の広い族で成り立つ。

参考文献

  1. Erlang, A. K. (1909). Sandsynlighedsregning og Telefonsamtaler. Nyt Tidsskrift for Matematik B.
  2. Little, J. D. C. (1961). A Proof for the Queuing Formula $L=\lambda W$. Operations Research.
  3. Kleinrock, L. (1975). Queueing Systems, Volume 1: Theory. Wiley.
  4. 山岸勇輝 (2026). 『三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
  5. 山岸勇輝 (2026). 『あなたが乗るバスの間隔は、平均の $2$ 倍である』[論文308]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22172305
  6. 山岸勇輝 (2026). 『同じ倍率で上げても、高い側では効きが落ちる』[論文468]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22733384

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「混みぐあいを一割上げたときの待ち時間は、いまどこにいるかで決まる」[論文469]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22733401

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引用するとき

山岸勇輝 (2026). 混みぐあいを一割上げたときの待ち時間は、いまどこにいるかで決まる [論文469]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/469 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22733401

Yamagishi, Y. (2026). What Ten Per Cent More Traffic Costs Depends on Where You Already Are [Paper 469]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/469; DOI: 10.5281/zenodo.22733401

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