要旨
日本の市区町村について、経済センサスの産業小分類526のうち何種類が「その市区町村に1軒以上ある」かを数えた。
全国1,889市区町村で、ある分類の数は人口の常用対数でほぼ決まる(R² = 0.925)。
人口が10倍になると、ある分類は約135増える。
この関係を基準にすると、ある市区町村の産業の厚みは「人口から予測される値との差(残差)」で表せる。
残差が大きく正の側に離れるのは都心部、負の側に離れるのは原子力災害の避難指示の対象となった自治体である。
釧路総合振興局管内の8市町村は、残差が −16.4 から +19.7 の範囲にあり、いずれも予測の近くにある。
管内で526分類のうち169が欠けていることは、この地域に固有の事情ではなく、人口規模から予測される通りである。
あわせて、市区町村の表を単純に合計すると政令指定都市を二重に数えることを示し、
単位の取り方を2通り定義して、いずれも全国人口と一致することを確認した。
1. はじめに
「この町には〇〇が無い」という言い方は、よく使われる。
だが、無い業種の数がいくつなら多いのかは、比べる基準が無ければ決まらない。
本稿の問いは1つである。
市区町村にある産業小分類の数は、何で決まるか。
答えが人口で決まるなら、「無い数」そのものではなく、人口から予測される数との差を見ればよい。
その差が、その地域に固有の何かを表す。
2. データ
| 事業所 | 総務省・経済産業省「令和3年 経済センサス-活動調査」(2021年6月1日)。産業小分類526 × 市区町村 |
| 人口 | 総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数調査」2026年1月1日現在 |
いずれも公開データである。時点が5年ずれていることは、第6節で述べる。
3. 単位の定義、市区町村の表は、単純に足せない
市区町村の表には、政令指定都市について「市の合計」の行と「各区」の行の両方が入っている。
すべての行を合計すると 151,230,856人 となり、全国人口を 27,463,214人 上回る。
そこで単位を2通り定義した。
| 単位 | 定義 | 数 | 人口の合計 |
|---|---|---|---|
| A | 集計行を除く(政令市を区に分ける) | 1,892 | 123,767,642 |
| B | 政令市を1市として数える(区を除く) | 1,741 | 123,767,642 |
どちらも全国人口(123,767,642人)と完全に一致する。
以下、特に断らない限り単位Aを用いる。2024年に区を再編した浜松市の旧区など、人口が空欄の行は除いてある。
4. 結果
4-1 人口1万人あたりの事業所数は、人口が多いほど小さい
| 人口の階級 | 市区町村の数 | 1万人あたり事業所(中央値) |
|---|---|---|
| 〜5,000 | 307 | 694.4 |
| 5,000〜10,000 | 243 | 549.7 |
| 10,000〜30,000 | 448 | 477.6 |
| 30,000〜100,000 | 498 | 427.4 |
| 100,000〜300,000 | 328 | 380.0 |
| 300,000〜1,000,000 | 65 | 351.5 |
相関係数は r = −0.459(log₁₀人口 × 密度、1,889市区町村)。単位Bでは r = −0.484 である。
人口が小さい市区町村ほど、人口あたりの事業所は多い。
なお単位Bで人口100万人以上の11市をとると中央値は450.7で、この傾向から外れる。
4-2 ある分類の数は、人口の対数でほぼ決まる
| 人口の階級 | 市区町村の数 | ある分類(中央値) | 無い分類 |
|---|---|---|---|
| 〜5,000 | 307 | 84 | 442 |
| 5,000〜10,000 | 243 | 132 | 394 |
| 10,000〜30,000 | 448 | 185 | 341 |
| 30,000〜100,000 | 498 | 261 | 265 |
| 100,000〜300,000 | 328 | 326.5 | 199.5 |
| 300,000〜1,000,000 | 65 | 391 | 135 |
相関係数は r = 0.962。最小二乗であてはめると、
ある分類の数 = 134.93 × log₁₀(人口) − 378.69
決定係数 R² = 0.925、残差の標準偏差 25.6分類、対象 1,889市区町村
人口が10倍になると、ある分類は約135増える。

図1 市区町村の人口と、そこにある産業小分類の数(1,889市区町村、単位A)。
灰色の点はほかの市区町村、青の直線はあてはめ(R² = 0.925)、橙の点は釧路管内の8市町村。
横軸は常用対数の目盛である。
4-3 予測から離れている市区町村
| 予測より多い | 人口 | 実際 | 予測 | 差 |
|---|---|---|---|---|
| 千代田区 | 69,139 | 446 | 274.3 | +171.7 |
| 大阪市中央区 | 120,441 | 440 | 306.9 | +133.1 |
| 大阪市北区 | 143,711 | 431 | 317.2 | +113.8 |
| 中央区(東京都) | 191,015 | 445 | 333.9 | +111.1 |
| 港区(東京都) | 269,877 | 455 | 354.1 | +100.9 |
| 予測より少ない | 人口 | 実際 | 予測 | 差 |
|---|---|---|---|---|
| 大熊町 | 9,803 | 19 | 159.9 | −140.9 |
| 双葉町 | 5,090 | 4 | 121.5 | −117.5 |
| 浪江町 | 14,106 | 71 | 181.2 | −110.2 |
| 福岡市城南区 | 127,995 | 225 | 310.4 | −85.4 |
| 富岡町 | 11,049 | 85 | 166.9 | −81.9 |
正の側は、昼間人口が夜間人口を大きく上回る都心部である。
負の側の5件のうち4件は、2011年の原子力災害にともなう避難指示の対象となった自治体で、
調査時点(2021年)において居住人口と事業所の関係が通常と異なる。
この式は、そうした事情を説明しない。
4-4 釧路総合振興局管内の8市町村
| 市町村 | 人口 | 1万人あたり事業所 | 密度の順位 | ある分類 | 予測 | 差 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 釧路市 | 151,566 | 527.1 | 727/1889 | 340 | 320.3 | +19.7 |
| 釧路町 | 18,021 | 559.9 | 606/1889 | 184 | 195.5 | −11.5 |
| 厚岸町 | 7,976 | 665.7 | 321/1889 | 161 | 147.8 | +13.2 |
| 浜中町 | 5,172 | 587.8 | 516/1889 | 106 | 122.4 | −16.4 |
| 標茶町 | 6,698 | 649.4 | 359/1889 | 132 | 137.6 | −5.6 |
| 弟子屈町 | 6,327 | 739.7 | 199/1889 | 142 | 134.2 | +7.8 |
| 鶴居村 | 2,368 | 591.2 | 505/1889 | 72 | 76.6 | −4.6 |
| 白糠町 | 6,840 | 583.3 | 533/1889 | 132 | 138.8 | −6.8 |
8市町村すべてが、残差の標準偏差(25.6分類)の内側にある。
管内を1つにまとめると、526分類のうち169(32.1%)が管内のどこにも無い。
白糠町ひとつでは394(74.9%)が無い。数は大きく違うが、どちらも人口から予測される範囲にある。
5. 考察
5-1 「無い数」ではなく、残差で見る
産業の厚みが人口の対数でほぼ決まるなら、無い業種の数を並べても、人口の大小を言い換えているだけになる。
地域に固有の何かを見たいのであれば、残差を見るほうがよい。
本稿の式は、残差を求めるための基準として使える。全国1,889市区町村の、どこにでも当てられる。
5-1b 年齢の構成を足しても、説明はよくならない
人口の大きさのほかに、年齢の構成も効くのではないか、という問いがありうる。確かめた。
高齢化率を2つ目の変数として足すと、あてはめは
ある分類の数 = 136.92 × log₁₀(人口) + 0.23 × 高齢化率 − 395.75 となり、
R² は 0.925 から 0.926 にしかならない(残差の標準偏差は 25.6分類のまま)。
残差と高齢化率の相関も r = +0.044 で、ほとんど無関係である。
理由は、高齢化率が人口の大きさとほぼ一緒に動くこと(r = −0.665。人口が小さい市区町村ほど高齢化率が高い)にある。
年齢の情報は、log₁₀(人口) にすでに含まれている。
5-2 粒度を決めてから数える
同じ釧路でも、管内でまとめると欠落は169、白糠町ひとつでは394になる。
欠落の数は、地域の性質であると同時に、切り取る範囲の関数である。
「無い」を数えるときは、範囲を先に決めて明示しなければならない。
5-3 何が言えて、何が言えないか
この式が言うのは、人口の規模から期待される産業の種類数である。
残差が正だからその地域が豊かだとか、負だから機会があるとかは、このデータからは言えない。
残差は、次に何を調べるかを決めるための入口にすぎない。
6. 限界
- 事業所は2021年6月1日、人口は2026年1月1日で、5年ずれている。人口が減っている地域では、残差が正の側に出やすくなる可能性がある
- 相関と回帰は関係の強さを示すもので、原因と結果の向きは示さない
- 「ある分類」は、その市区町村にその分類の事業所が1軒以上あるという意味である。秘匿や未回答の扱いは、元の表に従っている
- 産業小分類は行政上の区分であり、実務の呼び名と1対1では対応しない
- 単位Aは政令市を区に分けている。区は市の一部であり、独立した経済圏とは限らない
- 本稿は事業所の数だけを扱い、売上・従業者数・付加価値は見ていない
7. 再現の手順
- e-Stat から、令和3年 経済センサス-活動調査の産業小分類別 事業所数(市区町村別)を取得する
- 総務省から、住民基本台帳に基づく人口(2026年1月1日、市区町村別)を取得する
- 集計行を除き、市区町村コードで突き合わせる(第3節)
- 市区町村ごとに、事業所数が1以上の分類を数える
- log₁₀(人口) を説明変数として、最小二乗であてはめる
本稿の数値は、すべて1本のスクリプト(kensan_184)の出力である。中間の数値を手で書き写していない。
参考文献・データの出典
- 総務省統計局・経済産業省「令和3年 経済センサス-活動調査」産業小分類別 事業所数(市区町村別)
- 総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数調査」2026年1月1日現在
いずれも e-Stat および各府省のサイトで公開されている。
版の記録
| 版 | 日付 | 内容 |
|---|---|---|
| 第1版 | 2026-09-21 | 初出 |
引用のしかた
山岸勇輝(2026)「市区町村の人口と、そこにある産業小分類の数、全国1,889市区町村と、釧路総合振興局管内8市町村 [R001]」Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22872218
(この DOI は concept DOI。常に最新の版を指す。引用にはこれを使う)
© 2026 山岸 勇輝(Yuuki YAMAGISHI)
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書誌
山岸勇輝(2026)「市区町村の人口と、そこにある産業小分類の数」[R001]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22872218
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引用するとき
山岸勇輝 (2026). 市区町村の人口と、そこにある産業小分類の数 [R001]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/R001 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22872218
Yamagishi, Y. (2026). Population and the Number of Industrial Subcategories Present in Japanese Municipalities: Evidence from 1,889 Municipalities and the Kushiro Subprefecture [R001]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/R001; DOI: 10.5281/zenodo.22872218
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