要旨
小規模事業者が置かれている条件を、最低賃金(令和8年度答申)・消費者物価地域差指数(2024年)・1人あたり課税対象所得(令和7年度)・商業地の地価(令和8年 地価公示)の4つで、47都道府県について並べた。
地域差の大きさが、費目によって桁で違う。
| 上と下の比 | |
|---|---|
| 消費者物価 | 1.081倍 |
| 最低賃金(現行) | 1.198倍 |
| 1人あたり課税対象所得 | 1.85倍 |
| 商業地の地価 | 87.4倍 |
最低賃金は、全国加重平均で1,121円から1,177円へ(+5.0%)。 引き上げ率は佐賀県+6.3%から東京都+4.4%まで開き、現行の額と引き上げ率の相関は r = −0.889。低い県ほど大きく上げるため、上と下の比は1.198倍から1.180倍へわずかに縮まる。
物価で割ると、差は1.198倍から1.165倍に縮まるだけである。 物価の地域差が1.081倍しかないためで、「地方は物価が安いから賃金が低くてよい」という関係は、数字の上では弱い(最低賃金と物価の相関 r = +0.521)。
北海道は名目13位だが、物価で割ると29位に下がる(−16)。 物価指数101.9は全国3位である。逆に鹿児島県は44位から24位へ(+20)上がる。
釧路市の商業地の地価は 35,140円/㎡。東京都の加重平均3,340,679円/㎡の1/95、全国の中央値107,201円/㎡の3分の1である。
1. はじめに
R005 は、2050年に市区町村から何分類が消えるかを計算した。X001 は、526分類それぞれが1事業所あたり何人でやっているかを数えた。
残っているのは、その商売を置く場所の条件である。 人を雇う値段、暮らしの値段、客が持っている所得、店を構える地代。
小規模事業者が置かれている条件は、地域でどれだけ違うのか。そして、どの費目がいちばん違うのか。
2. データ
| 最低賃金 | 厚生労働省「令和8年度 地域別最低賃金 答申状況」(現行=令和7年度、答申=令和8年度、ランクA/B/C) |
| 物価 | 総務省「消費者物価地域差指数」総合・2024年(全国=100) |
| 所得 | 「市町村税課税状況等の調」令和7年度 納税義務者1人あたり課税対象所得 |
| 地価 | 「令和8年 地価公示」(国土数値情報)商業地の標準地。市区町村の平均を地点数で加重して都道府県にまとめた |
| 人口・高齢化率・事業所数 | 総務省「住民基本台帳に基づく人口」2026年1月1日/経済センサス 令和3年 |
4つすべてがそろう都道府県は47。 すべての都道府県で比較できる。
「物価で割った最低賃金」は 現行の額 ÷ 物価指数 × 100 で計算した。これは本稿の計算で、公式の指標ではない。
3. 結果
3-1 最低賃金は1.198倍しか違わない
| 高い | 中央値 | 低い | 上と下 | |
|---|---|---|---|---|
| 現行(令和7年度) | 東京1,226/神奈川1,225/大阪1,177 | 1,051 | 高知1,023/宮崎1,023/沖縄1,023 | 203円差、1.198倍 |
| 答申(令和8年度) | 東京1,280/神奈川1,279/大阪1,231 | 高知1,086/沖縄1,086/宮崎1,085 | 195円差、1.180倍 |
全国加重平均は 1,121円 → 1,177円(+5.0%)。
| 引き上げ率 | 大きい | 小さい |
|---|---|---|
| 佐賀+6.3%(+65円)/鹿児島+6.2%(+64円)/高知+6.2%(+63円) | 大阪+4.6%(+54円)/神奈川+4.4%(+54円)/東京+4.4%(+54円) |
現行の額と引き上げ率の相関は r = −0.889。 きわめて強い負の相関で、低い県ほど大きく上げるという方針が数字にはっきり出ている。その結果、上と下の比は1.198倍から1.180倍へ縮まる。
3-2 物価で割っても、あまり縮まらない

図1 最低賃金と消費者物価地域差指数(47都道府県)。
灰色は都道府県、橙は北海道、青の直線は最小二乗のあてはめ。
| 消費者物価地域差指数(全国=100) | 高い | 低い | 上と下 |
|---|---|---|---|
| 東京104.0/神奈川103.3/北海道101.9 | 宮崎97.0/鹿児島96.4/群馬96.2 | 1.081倍 |
物価の地域差は1.081倍しかない。 最低賃金の1.198倍より小さい。
| 物価で割った最低賃金 | 高い | 低い | 上と下 |
|---|---|---|---|
| 神奈川1,186/大阪1,185/東京1,179 | 高知1,023/沖縄1,021/山形1,018 | 1.165倍 |
名目1.198倍が、実質1.165倍になるだけである。 物価で割っても差はほとんど埋まらない。
最低賃金と物価の相関は r = +0.521。正の相関はあるが、強くはない。「地方は物価が安いから賃金が低くてよい」という関係は、数字の上では弱い。
3-3 順位が大きく動く県
| 名目 → 実質 | 動き |
|---|---|
| 北海道 | 13位 → 29位(−16) |
| 宮城県 | 30位 → 43位(−13) |
| 山形県 | 37位 → 47位(−10) |
| 佐賀県 | 42位 → 31位(+11) |
| 宮崎県 | 46位 → 30位(+16) |
| 鹿児島県 | 44位 → 24位(+20) |
北海道は、名目では上から13番目だが、物価で割ると29番目に落ちる。 物価指数101.9は東京・神奈川に次ぐ全国3位である。
逆に鹿児島県は44位から24位に上がる。物価が96.4で全国46位に低いためである。
3-4 地価だけ、桁が違う
| 高い | 低い | 上と下 | |
|---|---|---|---|
| 1人あたり課税対象所得(千円) | 東京5,511/神奈川4,356/愛知4,075 | 鳥取3,005/青森2,989/秋田2,985 | 1.85倍 |
| 商業地の地価(円/㎡) | 東京3,340,679/大阪1,643,618/京都1,153,621 | 山形49,285/鳥取47,170/秋田38,205 | 87.4倍 |
4つの費目のうち、地価だけが2桁の差である。
| 費目 | 上と下の比 |
|---|---|
| 消費者物価 | 1.081倍 |
| 最低賃金 | 1.198倍 |
| 1人あたり課税対象所得 | 1.85倍 |
| 商業地の地価 | 87.4倍 |
3-5 4つはどう関係しているか
| 相関(47都道府県) | r |
|---|---|
| 最低賃金 × 所得 | +0.906 |
| 最低賃金 × 人口(対数) | +0.851 |
| 最低賃金 × 地価(対数) | +0.754 |
| 最低賃金 × 物価 | +0.521 |
| 最低賃金 × 高齢化率 | −0.742 |
| 最低賃金 × 人口1万人あたり事業所数 | −0.537 |
| 所得 × 地価(対数) | +0.785 |
| 物価 × 地価(対数) | +0.513 |
最低賃金は、所得(+0.906)ともっとも強く結びついている。 物価(+0.521)との結びつきはそれより弱い。
最低賃金と「人口1万人あたりの事業所数」の相関は −0.537。 最低賃金が低い県ほど、人口あたりの事業所は多い。R001 で見た「人口が少ない市区町村ほど人口あたりの事業所が多い」と同じ向きである。
3-6 ランクA・B・C
| ランク | 県数 | 現行の中央値 | 物価の中央値 | 実質の中央値 | 所得の中央値 |
|---|---|---|---|---|---|
| A | 6 | 1,159円 | 100.8 | 1,170 | 4,012千円 |
| B | 28 | 1,056円 | 98.6 | 1,074 | 3,411千円 |
| C | 13 | 1,030円 | 99.2 | 1,040 | 3,066千円 |
ランクBとCで、物価の中央値は逆転している(B 98.6、C 99.2)。名目の最低賃金はBのほうが高いが、物価はCのほうが高い。
3-7 北海道と釧路総合振興局管内
| 最低賃金 現行 | 1,075円(13位/47)、ランクB |
| 最低賃金 答申 | 1,131円(+5.2%) |
| 物価指数 | 101.9(3位) |
| 物価で割った最低賃金 | 1,055(29位) |
| 名目 → 実質 | 13位 → 29位(−16) |
| 1人あたり課税対象所得 | 3,389千円(22位) |
| 商業地の地価 | 300,144円/㎡(12位) |
北海道の条件は「賃金は真ん中より上、物価は全国3位、所得は真ん中」である。 物価で割った実質では、47都道府県中29位まで下がる。
釧路管内の商業地の地価は、次のとおりである。
| 市町村 | 商業地の平均(円/㎡) |
|---|---|
| 釧路市 | 35,140 |
| 釧路郡釧路町 | 56,500 |
| 厚岸町・浜中町・標茶町・弟子屈町・鶴居村・白糠町 | 商業地の標準地なし |
釧路市の35,140円/㎡は、東京都の加重平均3,340,679円/㎡の1/95である。 北海道の加重平均300,144円/㎡の約1/8.5、全国の中央値107,201円/㎡の約3分の1にあたる。
釧路町(56,500)のほうが釧路市(35,140)より高い。
管内8市町村のうち6つには、商業地の標準地そのものが無い。
4. 考察
4-1 「地方は安い」は、費目による
「地方は人件費が安い」という言い方がある。だが最低賃金の差は1.198倍で、答申では1.180倍に縮まる。1.2倍というのは、2割の差である。
物価の差はもっと小さく1.081倍。所得は1.85倍。
地価だけが87.4倍である。 東京都3,340,679円/㎡に対して秋田県38,205円/㎡。桁が2つ違う。
したがって、「地方でやると安い」が本当に効くのは、地代である。 人件費では2割、物価では1割しか効かない。
4-2 物価で割っても、賃金の差はほとんど埋まらない
名目1.198倍が実質1.165倍になる。差の埋まり方は、1.198から1.165への0.033だけである。
これは、物価の地域差(1.081倍)が賃金の地域差(1.198倍)より小さいからである。物価が賃金より均されている。
最低賃金と物価の相関は +0.521 で、所得との相関 +0.906 よりずっと弱い。最低賃金の水準を決めているのは、物価よりも所得のほうに近い。
4-3 北海道は、賃金より物価が高い
北海道は最低賃金で13位だが、物価で3位である。その結果、物価で割ると29位に落ちる。
これは北海道の小規模事業者にとって、両側から効く。 払う側から見れば賃金は全国の真ん中より上、暮らす側から見れば物価は全国3位。払う賃金は上位なのに、その賃金で買えるものは中位以下である。
逆の県もある。鹿児島県は名目44位・実質24位で、物価の低さが賃金の低さを打ち消している。
「賃金が低い県=暮らしが楽な県」ではない。 順位で16〜20も動く県がある。
4-4 低い県ほど大きく上げる
現行の額と引き上げ率の相関は −0.889 である。これは方針としてはっきりしている。
上と下の比は1.198倍から1.180倍へ縮まる。ただし縮まり方は小さい。 この率で続けたとしても、差が半分になるには長い時間がかかる。
一方で、引き上げ幅が大きいのは、もともと賃金が低い県である。 佐賀県は+65円。そうした県には、人口あたりの事業所が多い(最低賃金と人口1万人あたり事業所数の相関 −0.537)。小さい事業所が多い県ほど、引き上げ幅が大きいということになる。
4-5 釧路で商売を置くということ
釧路市の商業地は35,140円/㎡で、東京の1/95である。最低賃金は北海道1,075円で東京1,226円の0.88倍。
地代は1/95、人件費は0.88倍。 この2つの差が、釧路で商売を置くことの形である。
地代が主な費用になる商売ほど、地方に置く意味が大きい。 逆に人件費が主な費用になる商売では、地方に置いても2割しか変わらない。
X001 で見たとおり、1事業所あたりが小さい商売ほど多くの市区町村にある(r = −0.417)。人が少ない商売は、そもそも人件費の差が効きにくい。
管内8市町村のうち6つに商業地の標準地が無いことも、同じ話の裏側である。取引が少なすぎて、地価という数字が作られていない。
5. 限界
- 最低賃金は令和8年度の答申(発効は令和8年10月ごろ)。現行は令和7年度。時点が4つともそろっていない
- 消費者物価地域差指数は2024年で、総合(持家の帰属家賃を含む)。市区町村別は公表されていない
- 「物価で割った最低賃金」は本稿の計算で、公式の指標ではない
- 1人あたり課税対象所得は納税義務者1人あたりで、住民1人あたりではない
- 地価は商業地の標準地の平均で、地点数で加重した。標準地の無い市区町村は欠ける
- 最低賃金は都道府県単位で、同じ県の中の差は見えない
- 最低賃金は実際に支払われている賃金ではなく、下限である
- 相関は関係の強さの目安で、原因と結果の向きは示さない
- 地代・人件費以外の費用(仕入れ・光熱費・運賃)は見ていない
6. 再現の手順
- 厚生労働省「令和8年度 地域別最低賃金 答申状況」から、都道府県ごとの現行額・答申額・ランクを取る
- 総務省「消費者物価地域差指数」2024年の総合を、都道府県ごとに取る(全国=100)
- 「市町村税課税状況等の調」令和7年度から、納税義務者1人あたり課税対象所得を都道府県ごとに取る
- 令和8年 地価公示の商業地の標準地から、市区町村の平均を地点数で加重して都道府県にまとめる
- 物価で割った最低賃金 = 現行 ÷ 物価指数 × 100 を出す
- それぞれの上と下の比と、相関を出す
本稿の数値は、すべて1本のスクリプト(kensan_205)の出力である。中間の数値を手で書き写していない。
この論文の位置づけ
新しい理論を主張するものではない。最低賃金・物価・所得・地価という4つの公的な数字を、47都道府県について並べて比べただけである。地域差の大きさが費目によって桁で違うこと(1.081倍から87.4倍まで)、物価で割っても賃金の差がほとんど埋まらないこと、北海道が名目13位から実質29位に下がることを示した。相関は示したが、原因と結果の向きは示していない。
参考文献・データの出典
- 厚生労働省「令和8年度 地域別最低賃金 答申状況」
- 総務省統計局「小売物価統計調査(構造編)消費者物価地域差指数」2024年
- 総務省「市町村税課税状況等の調」令和7年度
- 国土交通省「令和8年 地価公示」(国土数値情報)
- 総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数調査」2026年1月1日現在
- 山岸勇輝「人口で説明した残りは、所得でも地価でも説明できない」(R004)。Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22872530
- 山岸勇輝「その商売は、1事業所あたり何人か」(X001)。Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22877856
版の記録
| 版 | 日付 | 内容 |
|---|---|---|
| 第1版 | 2026-09-21 | 初出 |
引用のしかた
山岸勇輝(2026)「賃金は1.20倍、物価は1.08倍、所得は1.85倍、地価は87.4倍、地域差は、費目によって桁が違う [X002]」Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22877924
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© 2026 山岸 勇輝(Yuuki YAMAGISHI)
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書誌
山岸勇輝(2026)「賃金は1.20倍、物価は1.08倍、所得は1.85倍、地価は87.4倍」[X002]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22877924
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引用するとき
山岸勇輝 (2026). 賃金は1.20倍、物価は1.08倍、所得は1.85倍、地価は87.4倍 [X002]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/X002 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22877924
Yamagishi, Y. (2026). Wages Differ 1.20-fold, Prices 1.08-fold, Income 1.85-fold, Land 87.4-fold: Regional Gaps Differ by Orders of Magnitude Across Cost Items [X002]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/X002; DOI: 10.5281/zenodo.22877924
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