【F031】最大ドローダウンは、取引の順序に属している

要旨

本稿が問うのは、最大ドローダウンが取引の性質なのか並び順の性質なのか、である。答えは、並び順の性質である。新しい数学定理も新しい法則も主張しない。

第一に、並べ替えても、合計も平均も勝率もまったく動かない。 同じ数を足す順番を変えただけだからで、ここが動いたら計算が壊れている(第3節)。

第二に、これが本稿の芯である。★ だが最大ドローダウンは大きく動く。 並べ替えだけで最小の 1.77 倍から 5.39 倍(中央 4.23 倍)まで動き、幅は 2,713.40 から 12,267.52 pips である(第4節)。

第三に、実際の並びは、その分布の中に収まる。 最大ドローダウンの百分位は中央 0.5330、幅 0.0060 から 0.8760 で、0.95 を超えたものは 16 のうち 0 である(第5節)。

第四に、端に出たのは一つだけで、しかも良い側だった。 EURUSD の乖離の符号は百分位 0.0060 で、並べ替えのどれよりも小さいドローダウンだった(第5節)。

第五に、★ 合成乱数でも、並べ替えだけで最大ドローダウンは中央 4.28 倍まで動く。 実測の 4.23 倍とほとんど変わらない。この幅は市場の性質ではなく、並べ替えの算術である(第6節)。

第六に、最長の水面下も同じ形である。 百分位は中央 0.3745、幅 0.0170 から 0.9730 で、実際の並びはここでも分布の中にある(第5節)。

本稿の射程(scope note):新しい数学定理も新しい法則も主張しない。並べ替え検定、ドローダウンの定義はどちらも既知である。特定の商材や提唱者を論じない。実在の教材、その著者、販売元は主題ではなく、一切名指さない。売買を論じない。コストを入れていないので、本稿の数字は売買の成績ではない(第7節)。ロットを固定している。複利や資金比例では最大ドローダウンの出方が変わる。本稿は固定一単位である(第7節)。取引の作り方を一通りに固定する。24 本ごとに一件、24 本後に切る。別の作り方では件数も幅も変わる(第2節・第7節)。四つの向きは独立ではない。常に買いと常に売りは同じ取引の符号違いである(第3節)。並べ替えは 1,000 回である。百分位は千分の一までしか分けられず、それより細かいことは言えない(第7節)。射程は日中・少数銘柄に限る。四銘柄・六年・1 時間足の測定である。月次の時系列モメンタム(数十市場・保有1〜12ヶ月)は学術的に文書化されており、本稿はそれを否定しない。予測を主張しない。

1. 記法と問い

資金曲線を見せて「最大ドローダウンは N pips でした」と書くことがある。

報告されること 報告されないこと
最大ドローダウン 同じ取引を並べ替えたらいくつになるか
資金曲線の形 実際の並びがその分布のどこに来るか
最長の水面下 エッジが無い系列で同じことをしたらどうなるか

観察 1.1:★ 合計は、足す順番に依らない。 どう並べ替えても同じである。足し算がそういうものだからで、測定の結果ではない。

観察 1.2:★ だが最大ドローダウンは、途中経過を見る量である。 負けが固まって来れば深くなり、散らばって来れば浅くなる。 同じ取引の集合でも、並べ方で変わる。

観察 1.3:分離子は、取引を並べる順序である。 取引の集合・件数・合計をすべて固定し、並べる順序だけを変える。

観察 1.4:★ 実際の並びが分布のどこに来るかで、相場に順序の構造があるかが分かる。 真ん中なら特別なことは無い。端に出るなら、負けが固まって来ているということである。

問い:最大ドローダウンは、取引の性質なのか、並び順の性質なのか。

2. 測る量と設計を、先に書く

予言(走らせる前に書いた)

① 合計は並べ替えでまったく動かない(足し算は順序に依らない)。

② 最大ドローダウンは大きく動く。

③ ★ 実際の並びの最大ドローダウンは、並べ替えた分布の中に収まるはずである。収まらない(端に出る)なら、相場に順序の構造がある。

④ 合成乱数では、実際の並びは分布のちょうど真ん中あたりになるはずである(独立な増分には順序の構造が無いので)。

設計(走らせる前に宣言し、実行時に変えていない)

項目 決めたこと
取引 1 時間足の終値から建て、24 本後に切る
24 本ごとに一件だけ建てる(重複しない)
向き 常に買い / 常に売り / 移動平均(20)の傾きの符号 / 乖離の符号
集合 銘柄 × 向き = 16 通り。件数は銘柄あたり 1,452 から 1,522 件
並べ替え 1,000 回(種は固定)
測る量 合計 / 最大ドローダウン / 最長の水面下
ロット 固定一単位(複利にしない)
コスト 入れない
基準線 足の中まで合成乱数(3 系列)
銘柄 USDJPY・EURUSD・GBPUSD・XAUUSD
期間 2019–2024

観察 2.1:★ 重複を除いてあるので、資金曲線を素直に積み上げられる。 24 本保有して 24 本ごとに一件なので、玉が重ならない。

観察 2.2:★ 常に買いと常に売りは、同じ取引の符号違いである。 合計が符号違いで一致するかどうかが、そのまま検算になる。

観察 2.3:ロットは固定一単位にしてある。 複利や資金比例にすると、後ろのほうの取引ほど資金への影響が大きくなり、順序の効果がさらに増える。 本稿は増やさない側で測っている。

3. 並べ替えても動かないもの(検算)

計算 3.1 合計・平均・勝率

銘柄 向き 件数 合計 平均 勝率
USDJPY 常に買い 1,521 4781.85 3.1439 0.5345
USDJPY 常に売り 1,521 −4781.85 −3.1439 0.4655
USDJPY 傾きの符号 1,521 2838.85 1.8664 0.5082
EURUSD 常に買い 1,522 −995.05 −0.6538 0.4895
EURUSD 常に売り 1,522 995.05 0.6538 0.5092
GBPUSD 常に買い 1,521 −80.85 −0.0532 0.5108
GBPUSD 傾きの符号 1,521 1660.65 1.0918 0.5266
XAUUSD 常に買い 1,452 13172.91 9.0723 0.5324
XAUUSD 常に売り 1,452 −13172.91 −9.0723 0.4676
XAUUSD 乖離の符号 1,452 1464.17 1.0084 0.4876

観察 3.2:★ 常に買いと常に売りの合計は、符号違いでぴったり一致する。 USDJPY は 4781.85 と −4781.85、XAUUSD は 13172.91 と −13172.91 である。同じ取引の符号を変えただけだからで、ここがずれていたら計算が壊れている。

観察 3.3:★ 合計・平均・勝率は、並べ替えでは定義上まったく動かない。 同じ数を足す順番を変えただけである。

観察 3.4:XAUUSD の常に買いは合計 13172.91 pips である。 六年のあいだ金が上がったという意味であって、手法の成績ではない。 本稿はドリフトを分離していない。

観察 3.5:勝率はどの向きでも 0.4655 から 0.5345 の帯にある。 ★ 勝率が 0.5 の近くにあるまま、合計が +13172.91 pips にも −4781.85 pips にもなる。

4. 並べ替えると動くもの

計算 4.1 実際の最大ドローダウンと、並べ替えた分布(pips)

銘柄 向き 実際 並べ替え 中央 最小 最大
USDJPY 常に買い 2247.70 2089.42 1120.20 4604.10
USDJPY 傾きの符号 2725.30 2430.25 1335.65 4982.45
EURUSD 常に買い 2788.90 2459.87 1307.15 4541.75
EURUSD 乖離の符号 874.70 1527.05 846.95 3560.35
GBPUSD 常に買い 3584.20 3085.05 1536.60 6268.80
GBPUSD 傾きの符号 3120.60 2500.72 1229.60 5230.35
XAUUSD 常に買い 4483.68 4669.50 2435.18 11487.06
XAUUSD 常に売り 15120.63 15915.08 12950.51 22957.23
XAUUSD 乖離の符号 9422.06 7023.74 3355.60 15623.12

観察 4.2:★ これが本稿の芯である。 並べ替えだけで、最大ドローダウンは最小の 1.77 倍から 5.39 倍(中央 4.23 倍)まで動く。

観察 4.3:幅(並べ替えの最大 − 最小)は 2,713.40 から 12,267.52 pips である。 ★ 同じ取引・同じ合計で、これだけ違う資金曲線が作れる。

観察 4.4:★ USDJPY の常に買いは、並べ替えだけで 1,120.20 pips にも 4,604.10 pips にもなる。 「最大ドローダウンは 2,247.70 pips でした」という一文は、その四通りのうち一つを報告しているだけである。

観察 4.5:合計はびくとも動かないのに、最大ドローダウンはこれだけ動く。 ★ 二つは同じ資金曲線から出ているのに、片方は順序に依らず、片方は順序にしか依らない。

図1 同じ取引の集合を並べ替えるだけで、最大ドローダウンはこれだけ散る

図1:横が最大ドローダウン、縦が並べ替えの回数。縦線が実際の並びの値である(常に買い)。

5. 実際の並びは、分布のどこに来るか

計算 5.1 百分位(0.5 が真ん中、1.0 に近いほど実際の並びが悪い)

銘柄 向き 最大DD の百分位 最長の水面下 並べ替え 中央 その百分位
USDJPY 常に買い 0.6070 636 451.5 0.8200
USDJPY 傾きの符号 0.6630 300 614.0 0.0370
EURUSD 常に買い 0.7050 1,002 1185.0 0.3430
EURUSD 傾きの符号 0.1140 258 575.0 0.0170
EURUSD 乖離の符号 0.0060 316 618.5 0.0380
GBPUSD 常に買い 0.7240 898 993.5 0.4060
GBPUSD 傾きの符号 0.7720 1,068 718.0 0.8510
XAUUSD 常に買い 0.4450 812 387.0 0.9730
XAUUSD 常に売り 0.3260 1,386 1387.0 0.4910
XAUUSD 乖離の符号 0.8760 936 807.5 0.6430

観察 5.2:★ 予言③は当たった。 最大ドローダウンの百分位は中央 0.5330、幅 0.0060 から 0.8760 で、0.95 を超えたものは 16 のうち 0 である。

観察 5.3:★ 実際の並びは、特別ではない。 負けが固まって来ているなら百分位は 1.0 に寄るはずだが、そうなっていない。

観察 5.4:端に出たのは一つだけで、しかも良い側だった。 EURUSD の乖離の符号は百分位 0.0060 で、1,000 通りの並べ替えのどれよりも小さいドローダウンだった。

観察 5.5:最長の水面下も同じ形である。 百分位は中央 0.3745、幅 0.0170 から 0.9730 である。XAUUSD の常に買いだけ 0.9730 と端に寄るが、16 のうち一つである。

観察 5.6:1,000 回の並べ替えなので、百分位は千分の一までしか分けられない。 それより細かいことは言えない。

6. 基準線、方向の情報がゼロの系列で、同じことをする

計算 6.1 実測と合成乱数(四銘柄の中央)

向き 最大DD の百分位 最大DD ÷ 並べ替え中央
常に買い 実測 0.6560 1.1494
常に買い 乱数 0.3745 1.0812
常に売り 実測 0.4090 0.9613
常に売り 乱数 0.4955 0.9573
傾きの符号 実測 0.4980 1.1855
傾きの符号 乱数 0.4600 1.0316
乖離の符号 実測 0.6130 1.0831
乖離の符号 乱数 0.2975 0.9729

観察 6.2:★ 予言④は当たった。 合成乱数の百分位は中央 0.3915、幅 0.0440 から 0.9820 で、実測と同じ帯にある。

観察 6.3:★ そして並べ替えの幅も同じである。 合成乱数でも、並べ替えだけで最大ドローダウンは中央 4.28 倍まで動く。実測の 4.23 倍とほとんど変わらない。

観察 6.4:★ したがって、この幅は市場の性質ではない。 並べ替えの算術である。 順序の構造が無いと分かっている系列でも、同じだけ動く。 この基準線が何についてゼロなのかは、[F033] で測ってある。

観察 6.5:0.95 を超えたものは、乱数で 48 のうち 4 である。 偶然でも 2 から 3 は出る数なので、これは特別ではない。 実測は 16 のうち 0 である。

観察 6.6:実測の「常に買い」だけ、百分位が乱数より高い(0.6560 対 0.3745)。★ 負けがいくらか固まって来ている可能性はあるが、16 のうち 0.95 を超えたものが無いので、本稿はそれを効果として主張しない。

図2 実際の並びは、分布のどこに来るか

図2:横が実際の並びの百分位、縦が件数。濃い方が実測、薄い方が合成乱数で、点線が真ん中(0.5)である。

7. 限界

  1. ⚠️ ロットを固定一単位にしている。 複利や資金比例にすると、後ろの取引ほど資金への影響が大きくなり、順序の効果はさらに増える。 本稿は増やさない側で測っている。
  2. 取引の作り方を一通りに固定している。 24 本ごとに一件、24 本後に切る。別の作り方では件数も幅も変わる。
  3. 四つの向きは独立ではない。 常に買いと常に売りは同じ取引の符号違いである。
  4. 並べ替えは 1,000 回である。 百分位は千分の一までしか分けられず、それより細かいことは言えない。
  5. ドリフトを分離していない。 XAUUSD の常に買いが 13,172.91 pips なのは、六年のあいだ金が上がったという意味である。
  6. コストを入れていない。 したがって本稿の数字は売買の成績ではない。
  7. 最長の水面下は件数で数えている。 時間ではないので、取引の間隔が変われば意味も変わる。
  8. 四銘柄・六年である。 他の市場、他の期間について述べるものではない。

結び

同じ取引の集合を 1,000 回並べ替えた。合計も平均も勝率も、まったく動かない。同じ数を足す順番を変えただけだからである。常に買いと常に売りの合計は 4781.85 と −4781.85 でぴったり符号違いになり、計算が壊れていないことが確かめられる。

だが最大ドローダウンは、並べ替えだけで最小の 1.77 倍から 5.39 倍(中央 4.23 倍)まで動く。幅は 2,713.40 から 12,267.52 pips である。★ USDJPY の常に買いは、同じ取引・同じ合計のまま 1,120.20 pips にも 4,604.10 pips にもなる。

最大ドローダウンは、取引の性質ではなく、並び順の性質である。

★ そして実際の並びは、特別ではない。 最大ドローダウンの百分位は中央 0.5330、0.95 を超えたものは 16 のうち 0 である。端に出たのは一つだけで、しかも 0.0060、つまり良い側だった。最長の水面下も百分位の中央が 0.3745 で、分布の中にある。

★ 合成乱数でも、並べ替えだけで最大ドローダウンは中央 4.28 倍まで動く。 実測の 4.23 倍とほとんど変わらない。この幅は市場の性質ではなく、並べ替えの算術である。

したがって、最大ドローダウンを報告するときに必要なのは、同じ取引を並べ替えた分布である。 ★ その一つの数字は、四通りにも五通りにもなりうる値のうち、たまたま実現した一つにすぎない。 そして本稿はロットを固定して測っている。複利にすれば、順序の効果はさらに増える。

データと再現

データ 為替は Dukascopy 由来のティック(2019 年以降はミリ秒・bid・ask まで一致することを確認済み)。金は Dukascopy
期間 2019–2024(六年)
銘柄 USDJPY・EURUSD・GBPUSD・XAUUSD
足 1 時間足・中値・完成足の終値のみ。ティックの無い足は作らない
取引 24 本ごとに一件建て、24 本後に切る(重複しない)。銘柄あたり 1,452 から 1,522 件
向き 常に買い / 常に売り / 移動平均(20)の傾きの符号 / 乖離の符号
並べ替え 1,000 回。種は固定
ロット 固定一単位。コストは入れない
検算 検算/F031.py(--zu で図も書き出す)。本文の数字はすべて 検算/F031_output.txt から取っている
図 図/F031_zu1・図/F031_zu2(png・svg・英語版)
乱数の種 固定。再実行しても同じ値が出る
土台の検査 _ツール/audit_bars.py(足の先読み・夏時間・日の区切り)。記録は _土台の検査.txt

参考文献

  • 山岸勇輝 (2026). 合成乱数には、ボラティリティの群れが無い [F033]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22893674

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「最大ドローダウンは、取引の順序に属している」[F031]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22893510

YOI F031FX と金融ビットコインに記録済み

日付の証拠(OpenTimestamps):日本語版の .ots・英語版の .ots・SHA256SUMS

予備の置き場所(ミラー。中身は上と同じです):PDF 日本語・PDF English・SHA256SUMS

住所:https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/F031・DOI 10.5281/zenodo.22893510・CC BY 4.0・プレプリント(査読を経ていません)・ORCID 0009-0006-8587-3450

引用するとき

山岸勇輝 (2026). 最大ドローダウンは、取引の順序に属している [F031]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/F031 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22893510

Yamagishi, Y. (2026). The Maximum Drawdown Belongs to the Order of the Trades [F031]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/F031; DOI: 10.5281/zenodo.22893510

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指紋(SHA-256)と確かめ方
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