要旨
衛生行政報告例(令和6年度)の医療の第1表〜第5表から、医療法第25条による立入検査・処分・告発、医療法人への指導監督、准看護師免許交付数、助産所数を数え、経済センサス(令和3年)と突き合わせた。
立入検査は25,678件。処分は3件(0.0117%)、告発は3件。8,559件に1件が処分である。
検査の密度は、施設の種類で大きく違う。
| 立入検査 | 施設(経済センサス) | 検査率 | |
|---|---|---|---|
| 病院 | 8,006 | 8,341 | 96.0% |
| 一般診療所 | 11,492 | 82,728 | 13.9% |
| 歯科診療所 | 5,946 | 64,655 | 9.2% |
| 助産所 | 234 | 2,984 | 7.8% |
病院の96.0%に対して、一般診療所は13.9%。6.9倍の差がある。
助産所は2,984施設あるが、分娩を取り扱うのは337(11.3%)。 2,647施設(88.7%)は分娩を扱わない。分娩を扱う助産所が1つも無い都道府県が6ある(岩手・秋田・山形・島根・徳島・佐賀)。
医療法人に対する指導・監督は、全国で1年に合わせて24件。 報告徴収10・立入検査12・改善命令1・設立認可取消1である。
准看護師免許の交付は7,190人(女84.9%)。
1. はじめに
I018 では、食品と環境衛生を見る職員が27,227人(のべ数、専従2,349人)だった。I020 では、食品の収去95,546点に対して不良が431点だった。I019・I015 では、興行場と理容所・美容所の処分が0件だった。
医療は、これらとは違う規制のされ方をしているのか。
医療施設は、どれだけ立入検査を受けているのか。そして処分は何件か。
2. データ
| 立入検査・処分・告発・使用許可 | 厚生労働省「衛生行政報告例」令和6年度 第1表(施設の種類別、全国)・第2表(都道府県別)。医療、令和6年度中 |
| 医療法人への指導・監督 | 同 第3表 |
| 准看護師免許交付数 | 同 第4表 |
| 助産所数 | 同 第5表。令和6年度末現在 |
| 事業所・従業者 | 総務省・経済産業省「経済センサス-活動調査」令和3年 831 病院/832 一般診療所/833 歯科診療所/834 助産・看護業 |
| 人口 | 総務省「住民基本台帳に基づく人口」2026年1月1日 |
47都道府県すべての行がそろい、立入検査と助産所は合計が全国の値とぴたり一致する(25,678、2,984、337、いずれも差0)。第1表の施設の種類別の内訳も、足し合わせが総数と一致する。
准看護師免許だけは一致しない。 都道府県の合計6,340に対して全国は7,190で、差の850は「関西広域連合」の行である(第4表に都道府県とは別に載っている)。近畿の府県の交付数はそちらに入るため、准看護師免許の都道府県別の比較はしていない。
3. 結果
3-1 立入検査25,678件、処分3件
| 令和6年度中 | 件 |
|---|---|
| 立入検査延件数 | 25,678 |
| 処分(増員又は業務の停止命令) | 1 |
| 処分(改善命令) | 1 |
| 処分(管理者変更) | 1 |
| 処分 合わせて | 3 |
| 告発 | 3 |
| 使用許可(新規開設) | 280 |
| 使用許可(構造設備の変更) | 5,037 |
立入検査25,678件に対して、処分は3件(0.0117%)。8,559件に1件である。
使用許可は、新規開設280件に対して構造設備の変更が5,037件で18倍ある。新しく建てるより、建てたものを直すほうがはるかに多い。
3-2 病院は96%、一般診療所は13.9%

図1 医療法の立入検査は、施設の種類でこれだけ違う(令和6年度)。
延件数を事業所数で割った目安。助産所のみ施設数は第5表による。
| 立入検査 | 施設 | 検査率 | 1事業所あたりの人(X001) | |
|---|---|---|---|---|
| 病院 | 8,006 | 8,341 | 96.0% | 288.16人 |
| 一般診療所 | 11,492 | 82,728 | 13.9% | 12.66人 |
| 歯科診療所 | 5,946 | 64,655 | 9.2% | 7.06人 |
| 助産所 | 234 | 2,984 | 7.8% | (834は11.94人) |
病院は、ほぼすべてが年に1回立入検査を受けている。 一般診療所は13.9%で、6.9倍の差がある。
病院は1事業所あたり288.16人で、526分類のなかでもっとも大きいほうである。一般診療所は12.66人、歯科診療所は7.06人。
3-3 助産所2,984のうち、分娩を扱うのは337
| 助産所 | 2,984施設 |
| 分娩を取り扱う助産所 | 337施設(11.3%) |
| 分娩を扱わない助産所 | 2,647施設(88.7%) |
分娩を扱う助産所が0の都道府県が6ある:岩手県・秋田県・山形県・島根県・徳島県・佐賀県。
| 分娩を扱う割合 | |
|---|---|
| 高い | 岡山33.3%(10/30)/大阪27.5%(38/138)/愛知26.6%(25/94) |
| 中央値 | 9.1% |
経済センサスの834(助産・看護業)は8,146事業所(97,285人、1事業所あたり11.94人、1,274市区町村)。助産所2,984 ÷ 8,146 = 0.37倍だが、834には訪問看護なども入るので単位が違う。
3-4 医療法人への指導・監督は、全国で年24件
| 令和6年度中(全国) | 件 |
|---|---|
| 報告徴収 | 10 |
| 立入検査 | 12 |
| 改善命令 | 1 |
| 業務停止(一部) | 0 |
| 業務停止(全部) | 0 |
| 役員解任勧告 | 0 |
| 設立認可取消(第65条) | 1 |
| 設立認可取消(第66条) | 0 |
| 合わせて | 24 |
医療法人への立入検査12件は、医療法第25条の立入検査25,678件の0.047%にあたる。
施設を見ることと、法人を見ることは別である。 前者は年25,678件、後者は12件。
3-5 准看護師免許7,190人
| 令和6年度中 | 人 |
|---|---|
| 男 | 1,083 |
| 女 | 6,107 |
| 合わせて | 7,190(女84.9%) |
都道府県の合計は6,340で、差の850は「関西広域連合」の行である(全国の11.8%)。近畿の府県の交付数はそちらに入るので、都道府県別の比較はしない。
3-6 都道府県ごと
| 人口10万人あたり | 全国 | 多い | 少ない | 上と下 | 中央値 |
|---|---|---|---|---|---|
| 立入検査 | 20.7件 | 青森57.8/長崎50.0/福井47.9 | 栃木7.1/埼玉5.7/新潟5.1 | 11.25倍 | 23.0 |
| 助産所 | 2.41施設 | 京都6.84/島根6.78/滋賀5.64 | 千葉1.11/新潟0.96/福島0.80 | 8.52倍 | 2.04 |
| 相関(47都道府県) | r |
|---|---|
| 立入検査(10万人あたり)× 人口(対数) | −0.243 |
| 助産所(10万人あたり)× 人口(対数) | −0.241 |
3-7 北海道と釧路総合振興局管内
| 北海道 | |
|---|---|
| 立入検査 | 637件(処分0件/告発0件) |
| 使用許可 | 新規32件/変更196件 |
| 助産所 | 78施設(分娩を扱う8、10.3%。全国11.3%) |
| 准看護師免許交付 | 194人 |
| 人口10万人あたり | 立入検査12.7(35位/47)/助産所1.56(37位) |
釧路管内(経済センサス 令和3年):
| 市町村 | 831 病院 | 832 一般診療所 | 833 歯科診療所 | 834 助産・看護業 |
|---|---|---|---|---|
| 釧路市 | 18 | 66 | 81 | 13 |
| 釧路郡釧路町 | 0 | 8 | 9 | 3 |
| 厚岸町 | 1 | 1 | 5 | 1 |
| 浜中町 | 0 | 1 | 1 | 1 |
| 標茶町 | 1 | 0 | 2 | 1 |
| 弟子屈町 | 1 | 4 | 3 | 0 |
| 鶴居村 | 1 | 1 | 1 | 0 |
| 白糠町 | 0 | 4 | 4 | 1 |
| 合計 | 22(5市町村) | 85(7市町村) | 106(8市町村) | 20(6市町村) |
歯科診療所だけが、管内8市町村すべてにある。 病院があるのは5市町村、一般診療所は7市町村。標茶町には病院1があるが、一般診療所は0である。
4. 考察
4-1 病院だけが毎年見られている
病院の検査率96.0%は、事実上「すべての病院が年に1回入られる」ことを意味する。一般診療所13.9%、歯科診療所9.2%との差は大きい。
これは制度の設計どおりである。 医療法は病院に対して定期の立入検査を求めており、診療所には同じ頻度を求めていない。
注目すべきは、規模との対応である。 病院は1事業所あたり288.16人、一般診療所は12.66人、歯科診療所は7.06人(X001)。大きい施設ほど、頻繁に見られている。
I018 で見た食品衛生では、施設の大きさに関係なく2,769,361施設を8,558人で見ていた。医療では、規模で頻度を変えている。
4-2 25,678件から処分3件
立入検査25,678件に対して処分3件、告発3件。8,559件に1件である。
これまで見てきた数字と並べてみる。
| 分母 | 処分など | 率 | |
|---|---|---|---|
| 医療法の立入検査 | 25,678件 | 処分3件 | 0.0117% |
| 医薬品の販売(I014) | 処分2,633件のうち | 取消・停止6件 | 0.063% |
| 理容所・美容所(I015) | 385,747施設 | 閉鎖命令0件 | 0% |
| 興行場(I019) | 4,826施設 | 処分0件 | 0% |
| 食品の収去(I020) | 95,546点 | 不良431点 | 0.45% |
処分という形で行政が動くことは、どの分野でもきわめて少ない。
これは「問題が無い」ことを意味しない。 立入検査で見つかったことは、その場の指導や改善で終わる。処分は、そこに至らなかった場合の最後の手段である。
逆に言えば、この統計では「指導」が見えない。 25,678件の検査で何が言われたかは、どの表にも載っていない。
4-3 分娩を扱わない助産所が88.7%
助産所2,984のうち、分娩を取り扱うのは337(11.3%)。9割近くは分娩を扱わない。
助産所は、分娩のほか、妊婦健診・保健指導・産後ケア・母乳相談などを行える。「助産所」という名前から想像される業務と、実際に行われている業務は違う。
分娩を扱う助産所が0の都道府県が6ある(岩手・秋田・山形・島根・徳島・佐賀)。その県では、助産所で産むという選択肢が制度上は存在するが、実際には無い。
これは I016 の特別牛乳(全国52キロリットル、3都道府県のみ)、I009 の銭湯(山形県0)と同じ形である。制度としては全国にあるが、実際には限られた場所でしか動いていない。
4-4 医療法人への監督が年24件であること
医療法人に対する指導・監督は、全国で1年に24件。報告徴収10、立入検査12、改善命令1、設立認可取消1である。
施設への立入検査25,678件に対して、法人への立入検査は12件。 0.047%にあたる。
見ているものが違う。 施設の検査は医療法第25条により構造設備や人員配置を見る。法人の監督は経営そのものを見る。前者は毎年ほぼ全病院に入り、後者は年12件である。
4-5 釧路管内で歯科だけが全市町村にあること
管内8市町村すべてにあるのは歯科診療所だけ(106事業所)。一般診療所は7市町村(85)、病院は5市町村(22)、助産・看護業は6市町村(20)。
標茶町には病院1があるが、一般診療所は0である。 人口6,698人の町で、病院があって診療所が無いという形になっている。
X001 で見たとおり、1事業所あたりが小さい商売ほど多くの市区町村にある(r = −0.417)。歯科診療所は7.06人で、病院の288.16人の40.8分の1。小さいから、どこにでもある。
R005 の計算では、釧路管内は8市町村すべてで2050年までに人口が3割以上減る。いま5市町村にしかない病院と、8市町村すべてにある歯科診療所では、減り方が同じにならない可能性がある。 ただし本稿はその計算をしていない。
5. 限界
- 「立入検査延件数」は医療法第25条第1項による立入検査を行った延件数で、施設の数ではない。同じ施設に複数回入れば複数件になる
- 検査率は、延件数 ÷ 経済センサスの事業所数である。時点が3年10か月ちがい、単位も違う(件と事業所)。100%を超えうる目安である
- 病院・診療所の数は経済センサスの事業所数で、医療施設調査の施設数とは違う
- 助産所の数は第5表(衛生行政報告例)で、経済センサスの834には訪問看護なども入る
- 「告発」は行政活動により発見した違反者を刑事訴訟法第239条により告発した件数(第1表の注2)
- 准看護師免許交付数は年度中の新規交付で、働いている人の数ではない
- 准看護師免許の第4表には「関西広域連合」の行が都道府県とは別にある。 近畿の府県の交付数はそちらに入るので、都道府県別の比較はしていない
- 衛生行政報告例に市区町村別の表は無い。釧路管内は経済センサスで見ている
- 立入検査で行われた指導の内容は、どの表にも載っていない
- 処分の少なさが問題の少なさを意味するとは限らない
- 相関は関係の強さの目安で、原因と結果の向きは示さない
6. 再現の手順
- e-Stat で衛生行政報告例 令和6年度の医療の第1表〜第5表を落とす(CP932)
- 第1表から施設の種類別(病院・一般診療所・歯科診療所・助産所)の立入検査延件数を取る
- 第2表から全国の行と47都道府県の行を取る(「指定都市(再掲)」より下は使わない)
- 経済センサス 令和3年の産業小分類 831・832・833 の事業所数で割って検査率を出す。助産所は第5表を使う
- 第5表から助産所数と分娩を取り扱う助産所数を取り、割合を出す
- 第4表は「関西広域連合」の行を確かめる。 都道府県の合計が全国と合わないのはこのため
本稿の数値は、すべて1本のスクリプト(kensan_212)の出力である。中間の数値を手で書き写していない。
この論文の位置づけ
新しい理論を主張するものではない。衛生行政報告例の医療の第1表〜第5表を数え、経済センサスと突き合わせただけである。立入検査25,678件に対して処分が3件であること、検査率が病院96.0%・一般診療所13.9%と6.9倍ちがうこと、助産所2,984のうち分娩を扱うのが337(11.3%)で6県では0であること、医療法人への指導監督が全国で年24件であることを示した。検査率は延件数を事業所数で割った目安であり、100%を超えうる。処分の少なさが問題の少なさを意味するとは限らない。相関は示したが、原因と結果の向きは示していない。
参考文献・データの出典
- 厚生労働省「衛生行政報告例」令和6年度、第1表〜第5表(医療)
- 総務省・経済産業省「経済センサス-活動調査」令和3年、第9-1A表・第9-1B表
- 総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数調査」2026年1月1日現在
- 山岸勇輝「「公衆浴場」23,668のうち、銭湯は2,730」(I009)。Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22876425
- 山岸勇輝「薬をネットで売る店は11,910(12.8%)」(I014)。Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22877337
- 山岸勇輝「理容所107,995、美容所277,752」(I015)。Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22878037
- 山岸勇輝「乳の処理量は、上と下で20,444倍」(I016)。Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22879076
- 山岸勇輝「見張る側は27,227人、うち専従は2,349人」(I018)。Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22879207
- 山岸勇輝「映画館は1,468施設、市区町村の82.1%には1つも無い」(I019)。Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22879269
- 山岸勇輝「食品95,546点を調べて、不良は431点(0.45%)」(I020)。Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22879317
- 山岸勇輝「その商売は、1事業所あたり何人か」(X001)。Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22877856
- 山岸勇輝「2050年、その町から何分類が消えるか」(R005)。Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22877595
版の記録
| 版 | 日付 | 内容 |
|---|---|---|
| 第1版 | 2026-09-22 | 初出 |
引用のしかた
山岸勇輝(2026)「立入検査25,678件に対して処分3件、助産所2,984のうち、分娩を扱うのは337 [I021]」Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22879344
(この DOI は concept DOI。常に最新の版を指す。引用にはこれを使う)
© 2026 山岸 勇輝(Yuuki YAMAGISHI)
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書誌
山岸勇輝(2026)「立入検査25,678件に対して処分3件」[I021]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22879344
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引用するとき
山岸勇輝 (2026). 立入検査25,678件に対して処分3件 [I021]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/I021 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22879344
Yamagishi, Y. (2026). 25,678 Inspections, 3 Sanctions [I021]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/I021; DOI: 10.5281/zenodo.22879344
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