【I023】特定建築物の不適、6割は相対湿度

要旨

衛生行政報告例(令和6年度)の第3表-1〜第3表-8から、特定建築物48,608を用途別に分け、管理技術者の選任・立入検査・調査項目ごとの不適件数を数えた。I012 は総数の表(第3表-1)だけを見ていた。

48,608のうち事務所が19,767(40.7%)でもっとも多い。 店舗10,616(21.8%)、旅館6,892(14.2%)と続き、もっとも少ないのは興行場1,257(2.59%)。事務所は興行場の16倍で、上位3用途で76.7%を占める。

管理技術者の選任率は全用途99.65%。 用途別では百貨店99.89%から旅館98.90%まで。選任されていない建築物は170施設。

立入検査は6,997件で、施設の14.4%。6.9年に1回の割合である。 報告徴収21,355件は立入検査の3.1倍ある。旅館は25.6%で最も高く、その他は9.6%。

調査371,503件のうち不適は30,982件(8.34%)。 だが項目によってまったく違う。

項目 調査件数 不適 不適率
相対湿度 13,968 8,355 59.82%
温度 14,250 5,697 39.98%
二酸化炭素の含有率 17,728 3,196 18.03%
…
一酸化炭素の含有率 17,478 98 0.56%
水質基準 18,424 85 0.46%

相対湿度は調べた6割が基準を満たさない。一方で一酸化炭素と水質基準は0.5%前後である。

1. はじめに

I012 では、特定建築物48,608と、それを管理する登録営業所17,842を数えた。あのとき見たのは第3表-1(総数)だけだった。

第3表は用途別に-2から-8まであり、興行場・百貨店・店舗・事務所・学校・旅館・その他に分かれている。そして各表には、39の調査項目それぞれの調査件数と不適件数が載っている。

特定建築物はどんな用途なのか。そして、何が基準を満たしていないのか。

2. データ

特定建築物・管理技術者・立入検査・調査項目 厚生労働省「衛生行政報告例」令和6年度 第3表-1〜第3表-8(生活衛生)。施設数と選任建築物数は令和6年度末現在、立入検査等回数と調査・不適件数は年度中
経済センサス 総務省・経済産業省「経済センサス-活動調査」令和3年 922 建物サービス業(I012 で数えたもの)
人口 総務省「住民基本台帳に基づく人口」2026年1月1日

7つの用途の足し合わせは、総数48,608とぴたり一致する(差0)。

調査項目は39。第3表の注1〜注5により、測定項目の含み方に例外がある(空気環境の測定にホルムアルデヒド量の測定を含まない、貯水槽の清掃に貯湯槽の清掃を含まない、など)。

「特定建築物」は建築物における衛生的環境の確保に関する法律(ビル管理法)の対象で、用途と面積の要件を満たすものだけが入る。

3. 結果

3-1 事務所が40.7%

横棒グラフ。特定建築物48,608を興行場・百貨店・その他・学校・旅館・店舗・事務所の用途別に並べ、事務所を色を変えて示している。

図1 特定建築物48,608を用途で分ける(令和6年度)。
橙は事務所。

用途 施設数 総数に占める割合
事務所 19,767 40.7%
店舗 10,616 21.8%
旅館 6,892 14.2%
学校 4,475 9.2%
その他 3,841 7.9%
百貨店 1,760 3.6%
興行場 1,257 2.59%
総数 48,608

事務所は興行場の16倍。上位3用途(事務所・店舗・旅館)で76.7%を占める。

I019 で見たとおり、興行場法の常設の興行場は4,826施設あった。そのうち特定建築物の要件を満たすのは1,257(26.0%)にあたる。 ただし2つの制度は面積の要件が違うので、単純な部分集合ではない。

3-2 管理技術者の選任率99.65%

用途 施設数 選任建築物 選任率
百貨店 1,760 1,758 99.89%
興行場 1,257 1,255 99.84%
事務所 19,767 19,728 99.80%
店舗 10,616 10,592 99.77%
学校 4,475 4,463 99.73%
その他 3,841 3,826 99.61%
旅館 6,892 6,816 98.90%
総数 48,608 48,438 99.65%

選任されていない建築物は170施設。 用途別の差は1%ほどで、旅館だけがわずかに低い。

3-3 立入検査は6.9年に1回

用途 報告徴収 立入検査 立入÷施設 報告÷施設
旅館 2,396 1,761 25.6% 34.8%
店舗 4,277 1,817 17.1% 40.3%
百貨店 659 265 15.1% 37.4%
興行場 369 186 14.8% 29.4%
事務所 10,501 2,118 10.7% 53.1%
学校 1,878 480 10.7% 42.0%
その他 1,275 370 9.6% 33.2%
総数 21,355 6,997 14.4% 43.9%

立入検査6,997件は施設48,608の14.4%。6.9年に1回の割合である。

報告徴収21,355件は立入検査の3.1倍。 行政が特定建築物に接する主な形は、立入ではなく書類の報告である。事務所では報告徴収が施設の53.1%に達する一方、立入検査は10.7%にとどまる。

旅館の立入検査率25.6%は、その他の9.6%の2.7倍。 旅館は選任率がもっとも低く、立入検査率がもっとも高い。

3-4 不適の6割は相対湿度

調査項目(調査1,000件以上の38項目) 調査件数 不適 不適率
相対湿度 13,968 8,355 59.82%
温度 14,250 5,697 39.98%
二酸化炭素の含有率 17,728 3,196 18.03%
排水受けの汚れ、閉塞の状況点検 9,294 1,333 14.34%
帳簿書類の備付け 15,018 1,916 12.76%
加湿装置の汚れ点検(1月以内ごと) 7,856 964 12.27%
加湿装置の清掃(1年以内ごと) 7,826 839 10.72%
排水設備の清掃 13,841 1,201 8.68%
……
貯水槽の清掃 18,841 155 0.82%
一酸化炭素の含有率 17,478 98 0.56%
水質基準 18,424 85 0.46%
調査件数の合計 371,503
不適件数の合計 30,982(8.34%)
中央値 4.32%
不適が0の項目 0/39

39項目すべてで不適が出ている。 そして相対湿度だけで不適全体の27.0%(8,355/30,982)を占める。相対湿度と温度の2項目で45.4%になる。

調査件数がもっとも多いのは遊離残留塩素の含有率の検査実施20,233、遊離残留塩素の含有率19,671、水質検査実施19,273、貯水槽の清掃18,841。水まわりがよく調べられている。

3-5 用途ごとの不適率は、ほとんど変わらない

用途 調査件数 不適件数 不適率
店舗 64,553 6,073 9.41%
その他 21,660 1,869 8.63%
学校 32,206 2,689 8.35%
事務所 165,046 13,550 8.21%
百貨店 13,335 1,075 8.06%
興行場 8,490 672 7.92%
旅館 66,213 5,054 7.63%
総数 371,503 30,982 8.34%

上と下で1.2倍しかない。 用途による差は、項目による差(0.46%から59.82%まで)に比べればごく小さい。

3-6 北海道

用途 施設数 選任 選任率 立入検査
事務所 747 738 98.80% 100
店舗 628 626 99.68% 43
旅館 532 516 96.99% 188
学校 284 283 99.65% 43
その他 219 212 96.80% 20
百貨店 102 102 100.00% 7
興行場 47 47 100.00% 7
総数 2,559 2,524 98.63% 408

北海道の特定建築物2,559は全国48,608の5.3%。 人口の割合4.0%より多い。

立入検査408件は施設の15.9%で、全国の14.4%より高い。

旅館532施設に対して立入検査188件=35.3%(全国の旅館25.6%)。北海道の旅館の選任率96.99%は全国の98.90%より低い。

北海道の管理技術者の選任率98.63%は、全国の99.65%より低い。

4. 考察

4-1 「ビル」は事務所である

特定建築物48,608のうち事務所が19,767(40.7%)。上位3用途で76.7%。

ビル管理法の対象は、実質的に事務所ビル・商業施設・ホテルである。

I012 では、これを管理する登録営業所が17,842、経済センサスの922(建物サービス業)が27,977事業所だった。48,608の建物を27,977の事業所が管理しているという関係になる。

X001 で見たとおり、922 建物サービス業は1事業所あたりの人数が多いほうの分類ではない。大きな建物を、中くらいの事業所が管理している。

4-2 相対湿度59.82%という数字の読み方

調査した13,968件のうち8,355件(59.82%)が相対湿度の基準を満たしていない。温度も39.98%。

これは「6割のビルが違法である」という意味ではない。

理由は2つある。

  1. 相対湿度の基準は、冬の乾燥した日には満たすのが難しい。 加湿設備を入れても、外気が乾いていれば下回る
  2. 測定は特定の日時に行われる。 1年を通して満たしているかではなく、測ったときにどうだったかである

注目すべきは、項目による差の大きさである。

不適率
相対湿度 59.82%
温度 39.98%
二酸化炭素の含有率 18.03%
一酸化炭素の含有率 0.56%
水質基準 0.46%

一酸化炭素と水質は、ほぼ完全に守られている。 相対湿度と温度は、半分前後が外れている。

健康への影響が直接的で、設備で確実に管理できるもの(水質・一酸化炭素)は守られ、外気に左右されるもの(湿度・温度)は外れる。 これは規制の設計と、物理的な難しさの両方を映している。ただしこの読みは仮説であり、この表では確かめられない。

4-3 報告徴収が立入検査の3.1倍

報告徴収21,355件に対して立入検査6,997件。行政が特定建築物に接する主な形は、書類である。

事務所では報告徴収が施設の53.1%に達する一方、立入検査は10.7%。1.9年に1回書類を出させ、9.3年に1回入るという形になる。

これまで見てきたものと並べると、特定建築物の立入検査率14.4%は中くらいである。

立入・監視の率
病院(I021) 96.0%
食品営業(I022、調査・監視指導) 59.1%
特定建築物(本稿、立入検査) 14.4%
一般診療所(I021) 13.9%
歯科診療所(I021) 9.2%

病院だけが毎年入られ、それ以外は数年に1回である。

4-4 用途で差がつかないこと

不適率は店舗9.41%から旅館7.63%まで、1.2倍しかない。

一方で項目による差は0.46%から59.82%まで130倍ある。

つまり、何が基準を外れるかは用途ではなく項目で決まる。 どの用途の建物でも、湿度は外れ、水質は守られる。

これは実用的な意味を持つ。建物の用途を変えても、外れる項目は変わらない。

4-5 北海道の旅館

北海道の旅館532施設に対して立入検査188件(35.3%)。全国の旅館25.6%より高い。一方で選任率は96.99%で、全国の98.90%より低い。

選任率が低いところに、立入検査が多く入っている。 向きとしては整合する。

I006 で見たとおり、旅館・ホテル営業は全国52,946施設・1,782,232室だった。そのうち特定建築物の要件(面積)を満たすのは6,892(13.0%)にとどまる。 大きいホテルだけがビル管理法の対象になる。

X002 で見たとおり、北海道は物価が全国3位で、実質の最低賃金は29位だった。R005 では釧路管内の8市町村すべてで2050年までに人口が3割以上減る。それでも大きい建物は、そこにある限り管理が要る。

5. 限界

  • 「特定建築物」は建築物における衛生的環境の確保に関する法律(ビル管理法)の対象で、用途と面積の要件を満たすものだけが入る
  • 7つの用途の足し合わせが総数と一致することを確かめている(差0)
  • 「立入検査等回数」は件数で、施設の数ではない。同じ施設に複数回入れば複数件になる
  • 不適率は調べ方によって動く。 調査件数の少ない項目・用途ほど、率は安定しない
  • 調査1,000件未満の項目は、1〜2件の増減で率が大きく動くので比較から外した
  • 測定は特定の日時に行われたもので、1年を通した状態ではない
  • 第3表の注1〜注5により、測定項目の含み方に例外がある(空気環境の測定にホルムアルデヒド量の測定を含まない、貯水槽の清掃に貯湯槽の清掃を含まない、など)
  • 相対湿度の不適率が高い理由(外気の乾燥・加湿設備の限界)は仮説であり、この表では確かめられない
  • 興行場4,826(I019)と特定建築物の興行場1,257は、面積の要件が違うので単純な部分集合ではない
  • 衛生行政報告例に市区町村別の表は無い
  • 不適の少なさが問題の少なさを意味するとは限らない

6. 再現の手順

  1. e-Stat で衛生行政報告例 令和6年度の第3表-1〜第3表-8(生活衛生、特定建築物)を落とす(CP932)
  2. 各表の全国の行と、北海道から沖縄県までの47行を取る(「指定都市(再掲)」より下は使わない)
  3. 7つの用途の施設数を足して、総数の表と一致するか確かめる
  4. 管理技術者選任建築物数 ÷ 施設数で選任率、立入検査等回数 ÷ 施設数で立入検査率を出す
  5. 見出しの行から39の調査項目を組み立て、調査件数と不適件数の対を拾う
  6. 項目ごと・用途ごとの不適率を出す。調査1,000件未満の項目は比較から外す

本稿の数値は、すべて1本のスクリプト(kensan_214)の出力である。中間の数値を手で書き写していない。

この論文の位置づけ

新しい理論を主張するものではない。衛生行政報告例の第3表-1〜第3表-8を用途別に数えただけである。特定建築物48,608のうち事務所が19,767(40.7%)であること、管理技術者の選任率が全用途99.65%で旅館だけ98.90%と低いこと、立入検査が6,997件で6.9年に1回の割合であること、報告徴収が立入検査の3.1倍あること、不適率が相対湿度59.82%から水質基準0.46%まで130倍開く一方で用途による差は1.2倍しかないことを示した。相対湿度の不適率が高い理由については仮説を挙げたが、この表では確かめられない。

参考文献・データの出典

  1. 厚生労働省「衛生行政報告例」令和6年度、第3表-1〜第3表-8(生活衛生)
  2. 総務省・経済産業省「経済センサス-活動調査」令和3年、第9-1A表・第9-1B表
  3. 総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数調査」2026年1月1日現在
  4. 山岸勇輝「宿の数は、統計によって13.7倍ちがう」(I006)。Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22876047
  5. 山岸勇輝「特定建築物48,608を管理する登録営業所は17,842」(I012)。Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22877101
  6. 山岸勇輝「映画館は1,468施設、市区町村の82.1%には1つも無い」(I019)。Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22879269
  7. 山岸勇輝「立入検査25,678件に対して処分3件」(I021)。Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22879344
  8. 山岸勇輝「許可のいる食品営業は1,904,239」(I022)
  9. 山岸勇輝「その商売は、1事業所あたり何人か」(X001)。Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22877856
  10. 山岸勇輝「賃金は1.20倍、物価は1.08倍、所得は1.85倍、地価は87.4倍」(X002)。Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22877924
  11. 山岸勇輝「2050年、その町から何分類が消えるか」(R005)。Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22877595

版の記録

版 日付 内容
第1版 2026-09-22 初出

引用のしかた

山岸勇輝(2026)「特定建築物の不適、6割は相対湿度、立入検査は6.9年に1回 [I023]」Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22879464

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© 2026 山岸 勇輝(Yuuki YAMAGISHI)

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書誌

山岸勇輝(2026)「特定建築物の不適、6割は相対湿度」[I023]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22879464

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引用するとき

山岸勇輝 (2026). 特定建築物の不適、6割は相対湿度 [I023]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/I023 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22879464

Yamagishi, Y. (2026). Six in Ten Non-Compliances Are Relative Humidity [I023]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/I023; DOI: 10.5281/zenodo.22879464

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