要旨
本稿が問うのは、がんがどの道で見つかるか(がん検診・健康診断・人間ドック、他の病気の経過観察中、それ以外)が、部位でどう違うか、である。全国がん登録の 2023 年の発見経緯の表(表 4-A)を部位ごとに並べ、2018 年診断例の進行度の構成とも並べた。新しい数学定理も新しい法則も主張しない。
第一に、表 4-A の集計対象数は、罹患数(表 1-A)から死亡情報だけで登録された人(DCO・表 8-A)を除いた数と、26 部位とも一致する(差 1 人未満)。全部位は 972,956 人である(第3節)。
第二に、これが本稿の芯である。全部位では、34.49 % が「他疾患の経過観察中」に見つかり、「がん検診・健康診断・人間ドック」(本稿では検診等)で見つかるのは 15.06 % である。 経過観察中は検診等の 2.29 倍で、およそ 2.90 人に 1 人である。47.68 % は「その他」、2.73 % は「不明」、剖検発見は 0.04 % である(第4節)。
第三に、検診等で見つかる割合は、部位で皮膚の 0.21 % から前立腺の 26.59 % まで開く(乳房 26.16 %・胃 18.36 %・直腸 18.35 % が続く)。経過観察中は肝臓の 60.12 % がいちばん多く、多発性骨髄腫 52.67 %・腎・尿路 51.59 % が続く。経過観察中が「その他」より多い部位は 23 部位のうち 6 部位である(第5節)。
第四に、部位をまたぐと、見つかり方と限局の割合(2018 年診断・進行度の分かる人の中)はほとんど並ばない(19 部位で、検診等の割合との順位相関 −0.126、検診等+経過観察中との順位相関 −0.146)。皮膚は検診等 0.21 % で限局 89.4 %、膀胱は 3.51 % で 77.1 %、肺は 15.80 % で 35.0 % である(第6節)。
第五に、この並ばなさは、部位ごとの見つかり方の違いでは、部位ごとの進行度の違いが説明できないことを示すだけで、検診が役に立つかどうかについては何も言わない。部位の間の比べと、同じ部位の中の効き目は、別の問いである(第6節)。
第六に、分けているのは、部位ごとの見つかる道である。
本稿の射程(scope note):新しい数学定理も新しい法則も主張しない。発見経緯は全国がん登録が公表している数で、本稿はそれを部位ごとに並べ、進行度の構成と並べるだけである。本稿は公開の集計データの数の形を述べる構造的解釈であり、医学的な助言・診断・治療の推奨ではない。著者は医師ではない。個人の健康に関する判断は医師・医療機関に相談すること。査読を経ていないプレプリントである。 検診の効き目を論じず、検診を勧めも退けもしない。部位の間で見つかり方と進行度が並ばないことは、同じ部位の中で検診が進行度を動かすかどうかについて何も言わない。「その他」を症状での受診などと読み替えない。表にその中身は書かれていない。一人の見通しではない。 地域・施設を比べない。 人数に直すと 10 未満になる升目(部位ごとの剖検発見)は本文に出さない。データについて:e-Stat の全国がん登録は政府標準利用規約(第2.0版)に従って使い、本稿の比・順位相関は加工して作成した。進行度の割合は出典として「国立がん研究センターがん情報サービス」と明記して使う。加えたのは、表 4-A の集計対象数が死亡情報だけで登録された人を除いた数であることを、三つの表の突き合わせで確かめたこと、全部位で経過観察中が検診等の 2.29 倍あることと、部位ごとの見つかり方の開きを並べたこと、部位をまたいでは見つかり方と進行度が並ばないことを測ったことである。
1. 記法と問い
- 見つかり方:表 4-A の五つの区分(%・男女計・2023 年)、「がん検診・健康診断・人間ドック」(本稿では検診等)、「他疾患の経過観察中」(経過観察中)、「剖検発見」、「その他」、「不明」。
- 限局の割合:2018 年診断例の進行度の分かる人の中の限局の割合(がん情報サービスの集計表・M026 と同じ)。
問い:がんはどの道で見つかり、それは部位でどう違うか。見つかり方の違いは、部位の進行度の違いと並ぶか。
観察 1.1:「がんは検診で見つかる」と「がんは症状が出てから見つかる」の二つで語られることが多い。表 4-A はそのどちらでもない大きな道、他の病気で通っているあいだに見つかる。を数えている。
2. 下見と設計
正直に書く:本稿の設計は、表を見たあとに決めた。
| 中身 | |
|---|---|
| 見つかり方 | 全国がん登録 2023 年 表 4-A「発見経緯(%):部位別」(男女計) |
| 突き合わせ | 同 表 1-A(罹患数)・表 8-A(DCO) |
| 進行度 | がん情報サービスの集計表の 2018 年診断例の進行度別(男女計)。4-A とは年が違う |
| 見込みと、測ったこと | 下見の前は「検診等で見つかる割合の高い部位ほど、限局の割合も高い」と見込んでいた。部位をまたいで並べると、順位相関は −0.126 でほとんど並ばなかった |
3. データと、その確かめ
計算 3.1 取得したファイル 4 本を SHA-256 で固定し、次のことを確かめた。
- 表 4-A の列の並び:集計対象数・がん検診・健康診断・人間ドック・他疾患の経過観察中・剖検発見・その他・不明。
- 五つの区分の割合の和 = 100(部位すべて)。
- 表 4-A の集計対象数 = 表 1-A の罹患数 ×(1 − 表 8-A の DCO ÷ 100)(26 部位とも差 1 人未満)。全部位:罹患数 993,469 × (1 − DCO 2.06 % ÷ 100) = 972,956.0、集計対象数 972,956。
- 検診等・経過観察中・その他・不明を人数に直して 10 未満になる升目は 0 個。剖検発見は 23 部位のうち 14 部位で 10 人未満になるので、部位ごとの値は本文に出さない。
観察 3.2:表 4-A の割合は、死亡情報だけで登録された人(DCO)を除いた人たちの割合である。亡くなってから初めてがんと分かった人は、発見経緯の分母に入っていない。DCO は、M025 が MI 比と並べた登録の精度の指標である。
4. 全部位の見つかり方
計算 4.1 全部位(972,956 人・2023 年)
| 見つかり方 | 割合(%) | 人数に直すと |
|---|---|---|
| がん検診・健康診断・人間ドック | 15.06 | 146,493 |
| 他疾患の経過観察中 | 34.49 | 335,576 |
| 剖検発見 | 0.04 | 393 |
| その他 | 47.68 | 463,914 |
| 不明 | 2.73 | 26,580 |
観察 4.2:経過観察中は検診等の 2.29 倍で、およそ 2.90 人に 1 人である。 「その他」の中身は表に書かれていないので、本稿は症状での受診などと読み替えない。
5. 芯、部位ごとの見つかり方
計算 5.1 部位ごとの見つかり方(%・男女計・2023 年)。検診等の割合の高い順。剖検発見は部位ごとに出さない。
| 部位 | 集計対象数 | 検診等 | 経過観察中 | その他 | 不明 |
|---|---|---|---|---|---|
| 前立腺 | 101,047 | 26.59 | 44.65 | 23.87 | 4.83 |
| 乳房 | 101,510 | 26.16 | 16.89 | 53.18 | 3.75 |
| 胃 | 103,018 | 18.36 | 37.12 | 42.51 | 1.98 |
| 直腸 | 51,011 | 18.35 | 22.27 | 56.95 | 2.41 |
| 甲状腺 | 16,376 | 18.24 | 45.38 | 30.06 | 6.08 |
| 結腸 | 100,250 | 17.29 | 29.81 | 50.88 | 2.00 |
| 子宮頸部 | 10,371 | 17.25 | 17.46 | 62.45 | 2.83 |
| 肺 | 119,748 | 15.80 | 47.78 | 34.22 | 2.15 |
| 食道 | 25,644 | 15.68 | 33.36 | 49.26 | 1.66 |
| 腎・尿路 | 30,231 | 10.87 | 51.59 | 34.41 | 3.06 |
| 白血病 | 14,853 | 9.61 | 40.31 | 47.02 | 3.03 |
| 子宮体部 | 19,848 | 8.46 | 21.19 | 69.21 | 1.14 |
| 卵巣 | 12,678 | 7.80 | 28.34 | 60.77 | 3.07 |
| 悪性リンパ腫 | 36,882 | 6.79 | 30.52 | 60.57 | 2.01 |
| 多発性骨髄腫 | 7,690 | 6.23 | 52.67 | 38.40 | 2.69 |
| 膵臓 | 45,742 | 5.22 | 36.40 | 56.88 | 1.45 |
| 肝臓 | 31,157 | 4.70 | 60.12 | 31.42 | 3.69 |
| 胆のう・胆管 | 20,014 | 4.01 | 35.65 | 58.48 | 1.84 |
| 膀胱 | 23,358 | 3.51 | 28.01 | 65.30 | 3.17 |
| 脳・中枢神経系 | 5,674 | 1.94 | 17.01 | 76.93 | 4.07 |
| 口腔・咽頭 | 23,466 | 1.77 | 26.23 | 69.77 | 2.22 |
| 喉頭 | 4,614 | 1.41 | 22.37 | 74.32 | 1.89 |
| 皮膚 | 27,252 | 0.21 | 14.36 | 84.07 | 1.36 |
観察 5.2:検診等で見つかる割合は、皮膚の 0.21 % から前立腺の 26.59 % まで開く。 上位は前立腺・乳房(26.16 %)・胃(18.36 %)・直腸(18.35 %)、下位は皮膚・喉頭(1.41 %)・口腔・咽頭(1.77 %)・脳・中枢神経系(1.94 %)である。
観察 5.3:経過観察中は、肝臓の 60.12 % がいちばん多い。 多発性骨髄腫 52.67 %・腎・尿路 51.59 %・肺 47.78 %・甲状腺 45.38 %・前立腺 44.65 % が続く。経過観察中が「その他」より多いのは、肝臓・肺・前立腺・腎・尿路・甲状腺・多発性骨髄腫の 6 部位である。

図1:部位ごとの見つかり方(%)。青ががん検診・健康診断・人間ドック(数字はその割合)、緑が他疾患の経過観察中、灰がその他、橙が不明、黒が剖検発見。
6. 見つかり方と、進行度の構成
計算 6.1 部位ごとの限局の割合(2018 年診断・進行度の分かる人の中)と、見つかり方(2023 年)(%)。限局の割合の高い順。
| 部位 | 限局の割合 | 検診等 | 経過観察中 |
|---|---|---|---|
| 皮膚 | 89.4 | 0.21 | 14.36 |
| 膀胱 | 77.1 | 3.51 | 28.01 |
| 喉頭 | 75.1 | 1.41 | 22.37 |
| 肝臓 | 70.9 | 4.70 | 60.12 |
| 子宮体部 | 70.8 | 8.46 | 21.19 |
| 前立腺 | 67.0 | 26.59 | 44.65 |
| 乳房 | 64.6 | 26.16 | 16.89 |
| 腎・尿路 | 62.3 | 10.87 | 51.59 |
| 胃 | 61.2 | 18.36 | 37.12 |
| 結腸 | 49.2 | 17.29 | 29.81 |
| 直腸 | 48.7 | 18.35 | 22.27 |
| 甲状腺 | 44.7 | 18.24 | 45.38 |
| 子宮頸部 | 43.8 | 17.25 | 17.46 |
| 食道 | 40.9 | 15.68 | 33.36 |
| 口腔・咽頭 | 38.0 | 1.77 | 26.23 |
| 肺 | 35.0 | 15.80 | 47.78 |
| 卵巣 | 24.2 | 7.80 | 28.34 |
| 胆のう・胆管 | 19.3 | 4.01 | 35.65 |
| 膵臓 | 17.5 | 5.22 | 36.40 |
観察 6.2:部位をまたぐと、見つかり方と限局の割合はほとんど並ばない。 19 部位で、検診等と限局の順位相関は −0.126、検診等+経過観察中と限局は −0.146、その他と限局は +0.160 である。皮膚は検診等 0.21 % で限局 89.4 %、膀胱は 3.51 % で 77.1 %、肺は 15.80 % で 35.0 %、膵臓は 5.22 % で 17.5 % である。
観察 6.3:部位の進行度の違いは、見つかり方の違いでは説明できない。 皮膚や膀胱は、検診等で見つかることがほとんど無くても、限局で見つかる人が多い。なぜそうなのか(症状の出方など)には、本稿は立ち入らない。この並ばなさは、同じ部位の中で検診が進行度を動かすかどうかについて何も言わない。部位の間の比べと、同じ部位の中の効き目は、別の問いである(年も 2023 年と 2018 年で違う)。

図2:部位ごとの、検診等で見つかる割合(横・2023 年)と、限局の割合(縦・2018 年診断・進行度の分かる人の中)。
7. 限界
- 「その他」の中身は分からない。 表に書かれていない。
- 見つかり方(2023 年)と進行度(2018 年診断)は年が違う。 同じ人たちの突き合わせではない。
- 男女計だけを見た。
- 検診の効き目を論じない。 部位の間の並びと、同じ部位の中の効き目は別の問いである。
- 死亡情報だけで登録された人は入っていない(表 4-A の分母の外)。
- 一人の見通しではない。 地域・施設を比べない。
結び
2023 年に登録されたがんのおよそ 3 人に 1 人(34.49 %)は、他の病気の経過観察中に見つかり、検診・健診などで見つかったのは 15.06 % だった。その割合は部位で 0.21 %(皮膚)から 26.59 %(前立腺)まで開き、肝臓は 60.12 % が経過観察中に見つかっていた。部位をまたいでは、見つかり方と限局の割合はほとんど並ばなかった。
分けるものは一つ、部位ごとの見つかる道、である。
がんがどう見つかるかを考えるときは、検診と症状の二つだけでなく、別の病気で通っているあいだという大きな道があること、そしてその道の太さが部位で違うことを、一緒に思い出す。
データと再現
| データ | 全国がん登録 2023 年 表 4-A・表 1-A・表 8-A(e-Stat)、全国がん登録に基づく 5 年相対生存率の集計表(2018 年診断例・進行度別)(がん情報サービス)(2026 年 9 月 26 日に利用) |
| 利用条件 | e-Stat は政府標準利用規約(第2.0版)。進行度の割合は出典として「国立がん研究センターがん情報サービス」と明記して利用。本稿の比・順位相関は加工して作成した数で、国や集計した機関が作成した数ではない |
| 範囲 | 日本・2023 年(見つかり方)、2018 年診断(進行度) |
| 検算 | 検算/M028.py(--zu で図も書き出す)。本文の数字はすべて 検算/M028_output.txt から取っている |
| 生データ | data/ に取得したファイル 4 本と SOURCES.md(URL・取得日・SHA-256・利用条件・言葉と計算の置き方) |
| 図 | 図/M028_zu1・図/M028_zu2(png・svg・英語版) |
参考文献
- 厚生労働省. 全国がん登録 全国がん登録罹患数・率 2023年 表 1-A・表 4-A・表 8-A. e-Stat(2026年9月26日に利用). https://www.e-stat.go.jp/
- 国立がん研究センターがん情報サービス. 全国がん登録によるがん生存率データ(2016年〜2018年診断例)5年相対生存率 cancer_survivalNCR(2016-2018).xlsx(2026年9月26日に利用). https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/data/dl/excel/cancer_survivalNCR%282016-2018%29.xlsx
- 山岸勇輝 (2026). その年の死亡数 ÷ 罹患数(MI 比)は、同じ人たちの割合ではない。1 − 5 年生存率と比べると、膵臓では 0.97 倍、前立腺では 3.07 倍になる [M025]. Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22968532
- 山岸勇輝 (2026). 部位の 5 年生存率の違いは、進行度の構成と進行度ごとの生存率に分かれる。膀胱と肺は進行度ごとにはほぼ同じで、合わせると 69.6 対 41.9 になる [M026]. Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22968675
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「がんのおよそ 3 人に 1 人は、別の病気の経過観察中に見つかる」[M028]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22968852
日付の証拠(OpenTimestamps):日本語版の .ots・英語版の .ots・SHA256SUMS
予備の置き場所(ミラー。中身は上と同じです):PDF 日本語・PDF English・SHA256SUMS
住所:https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/M028・DOI 10.5281/zenodo.22968852・CC BY 4.0・プレプリント(査読を経ていません)・ORCID 0009-0006-8587-3450
引用するとき
山岸勇輝 (2026). がんのおよそ 3 人に 1 人は、別の病気の経過観察中に見つかる [M028]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/M028 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22968852
Yamagishi, Y. (2026). About One in Three Cancers Is Found During Follow-Up of Another Disease [M028]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/M028; DOI: 10.5281/zenodo.22968852
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