【M035】心疾患の死亡は 1994 年と 1995 年の 2 年続けて 1 割あまり減った

要旨

本稿が問うのは、1990 年代半ばに心疾患の死亡が急に減ったことを、どの病類・どの年齢の動きとして見ればよいか、である。1995 年 1 月に施行された新しい死亡診断書(死体検案書)には、「死亡の原因欄には、疾患の終末期の状態としての心不全、呼吸不全等は書かないでください。」という注意書きが加わった。人口動態統計の毎年の死因別の死亡数(第5.12表)・心疾患の内訳(第5.28表)・年齢別の死亡数(第5.15表)で、その前後を測った。新しい数学定理も新しい法則も主張しない。

第一に、三つの表の心疾患の死亡数は互いに一致し(1990 年 165,478・1995 年 139,206)、厚生労働省の特殊報告と第5.12表の注は、1994 年(平成 6 年)の心疾患の減少を「注意書きの事前周知の影響によるものと考えられる」と書いている(第3節)。

第二に、心疾患の死亡数は 1993 年の 180,297 から 1994 年の 159,579、1995 年の 139,206 へ、2 年で 0.772 倍になった。前年比の 0.885(1994 年)と 0.872(1995 年)は、1951〜2024 年で小さい方から一つ目と二つ目である。 死亡総数の前年比は 1994 年 0.997・1995 年 1.053 だった(第4節)。

第三に、これが本稿の芯である。1990→1995 年に、心疾患の内訳 7 つのうち減ったのは心不全だけで、96,078 から 36,179 へ 0.377 倍になった。ほかの 6 つはすべて増え、急性心筋梗塞は 1.645 倍、不整脈及び伝導障害は 2.022 倍である。 心疾患に占める心不全の割合は 0.581 から 0.260 になった(第5節)。

第四に、全死因に占める心疾患の割合は、40〜94 歳の 11 階級すべてで 1990→1995 年に下がり、90〜94 歳の 0.680 倍がいちばん大きく下がった。 1985→1990 年には、同じ割合は 0.982〜1.101 倍だった(第6節)。

第五に、同じ 1995 年に、脳血管疾患の死亡数は前年比 1.219 で、1951〜2024 年でいちばん大きく増えた。 心不全の死亡数は、その後 2024 年に 98,814 と 1990 年を超えた(第4・5節)。

第六に、分けているのは、書き方か、病気かである。1994〜1995 年の心疾患の段差は、死亡診断書の書き方の決まりが変わった年に重なり、減ったのは心不全という一つの病類だけだった。

本稿の射程(scope note):新しい数学定理も新しい法則も主張しない。死因別の死亡数は人口動態統計が公表している数で、本稿はその前後を比べるだけである。本稿は公開の集計データの数の形を述べる構造的解釈であり、医学的な助言・診断・治療の推奨ではない。著者は医師ではない。個人の健康に関する判断は医師・医療機関に相談すること。査読を経ていないプレプリントである。 死亡診断書を書く人を評価しない。本稿が扱うのは、書き方の決まりが変わったことと数の動きの重なりだけである。段差のうち、書き方によるぶんと病気によるぶんを分けない。 厚生労働省は 1994 年の減少を注意書きの事前周知の影響と「考えられる」と書いており、本稿はそれを引く。1995 年に心疾患の中身(含む病気)が一部変わった(第5.28表の注)ことも、数には入っている。心不全に替わってどの死因が書かれたかは、表からは一つに決められない。 一人のなりやすさではない。地域を比べない。 データについて:e-Stat の人口動態統計は政府標準利用規約(第2.0版)に従って使い、本稿の前年比・倍率・割合は加工して作成した。厚生労働省の特殊報告の頁は、文を引くだけで数は使わない。加えたのは、段差が 1994 年と 1995 年の 2 年に分かれ、どちらも 1951 年以降で最も大きな減りであることを毎年の数で示したこと、内訳 7 つのうち減ったのは心不全だけで、ほかはすべて増えたことを示したこと、全死因に占める割合で、どの年齢でも下がったことを示したことである。

1. 記法と問い

  • 前年比:その年の死亡数 ÷ 前の年の死亡数(第5.12表・男女計)。
  • 心疾患:第5.12表の「心疾患(高血圧性を除く)」。第5.28表の注によれば、1994 年以前の心疾患には肺塞栓などを含み、心臓併発症を伴うリウマチ熱などを含まない。
  • 病類:第5.28表の心疾患の内訳 7 つ。この表は 1990 年と 1995 年のあいだが 5 年おきなので、1990→1995 年の倍率で見る。
  • 全死因に占める割合:第5.15表の年齢階級ごとの、心疾患(または脳血管疾患)の死亡数 ÷ 全死因の死亡数。人口の大きさに左右されない。

問い:1990 年代半ばの心疾患の減りは、いつ、どの病類で、どの年齢で起きたか。

観察 1.1:M020 は、死因の 1 位が年齢構成のそろえ方で入れ替わることを示し、M032 は、がんの罹患率が数え方の替わった年に跳んだことを示した。本稿は、死因の数え方の側、つまり死亡診断書の書き方の決まりの変更に重なる段差を見る。

2. 下見と設計

正直に書く:本稿の設計は、表と原典を見たあとに決めた。

中身
毎年の死因別死亡数 人口動態統計 令和6年 上巻 第5.12表(死因年次推移分類・1899〜2024 年の毎年)
心疾患の内訳 同 第5.28表(1950〜2005 年は 5 年おき)
年齢別 同 第5.15表(5 歳階級・1950〜2000 年は 5 年おき)
原典 人口動態統計特殊報告「心疾患-脳血管疾患死亡統計の概況」(厚生労働省発表 平成18年3月9日)
見込みと、測ったこと 下見の前は、段差を「1995 年」と覚えていた。原典を読むと、注意書きの影響は 1994 年(平成 6 年)と書かれており、毎年の数で測ると 1994 年と 1995 年の 2 年続けて大きく減っていた

3. データと、その確かめ

計算 3.1 取得したファイル 6 本を SHA-256 で固定し、次のことを確かめた。

  • 第5.12表の死因の列は 17(死亡総数を含む)、年は 1899〜2024 年の毎年。
  • 第5.12表の心疾患 = 第5.28表の心疾患 = 第5.15表の心疾患(1990・1995・2000 年。1990 年 165,478・1995 年 139,206)。
  • 第5.15表の年齢の列(不詳を含む)の和 = 総数(全死因・心疾患、1985〜2000 年)。
  • 第5.28表の病類 7 つの和は心疾患の総数を超えない(1990 年は 161,523 で、ほかの心疾患が 3,955。1995 年は 136,160 で、ほかが 3,046)。
  • 特殊報告の頁に、次の文が在る。「平成6年の心疾患の減少は、新しい死亡診断書(死体検案書)(平成7年1月1日施行)における『死亡の原因欄には、疾患の終末期の状態としての心不全、呼吸不全等は書かないでください。』という注意書きの事前周知の影響によるものと考えられる。」「『心不全』は男女ともにすべての年齢階級で平成6年に大きく低下した後、横ばいとなっている。」「『急性心筋梗塞』は男女ともに横ばいであったものが平成6年にいったん上昇しその後低下している。」

4. 毎年の死亡数

計算 4.1 死因別の死亡数(第5.12表・男女計・1990〜1998 年)

年 死亡総数 心疾患 脳血管疾患 肺炎 悪性新生物
1990 820,305 165,478 121,944 68,194 217,413
1991 829,797 168,878 118,448 70,057 223,727
1992 856,643 175,546 118,058 74,274 231,917
1993 878,532 180,297 118,794 81,138 235,707
1994 875,933 159,579 120,239 83,354 243,670
1995 922,139 139,206 146,552 79,629 263,022
1996 896,211 138,229 140,366 70,971 271,183
1997 913,402 140,174 138,697 78,904 275,413
1998 936,484 143,120 137,819 79,952 283,921

観察 4.2:心疾患の前年比は 1994 年 0.885・1995 年 0.872 で、1951〜2024 年で小さい方から一つ目(1995 年)と二つ目(1994 年)である。 三つ目は 1958 年の 0.895 で、1986〜1993 年の前年比は 0.993〜1.097 だった。1993→1995 年の 2 年で、心疾患は 180,297 から 139,206 へ 0.772 倍になった。死亡総数の前年比は 1994 年 0.997・1995 年 1.053 で、心疾患の減りとは別の動きである。

観察 4.3:1993→1994 年に、死亡総数は 2,599 減った。表の 15 の死因のうち、心疾患の減り(20,718)は、ほかの減った死因の減りをすべて足したものより大きい。増えたのは悪性新生物(7,963)・肺炎(2,216)・脳血管疾患(1,445)などで、表の死因の外の死亡も 4,302 増えた。心不全と書かれなくなった死亡がどの死因に入ったかは、この表からは一つに決められない。

観察 4.4:1994→1995 年には、脳血管疾患が 26,313 増え、前年比 1.219 は 1951〜2024 年でいちばん大きい。 同じ年に心疾患は 20,373 減った。

図1 心疾患と脳血管疾患の死亡数

図1:心疾患と脳血管疾患の死亡数(男女計・毎年・千人)。灰色の帯が、注意書きの事前周知(1994 年)と施行(1995 年)の 2 年。

5. 芯、減ったのは心不全だけ

計算 5.1 心疾患の内訳の死亡数(第5.28表・男女計)

病類 1985 1990 1995 2000 2024 1990→1995 年
慢性リウマチ性心疾患 1,644 1,360 2,755 2,522 1,893 2.026 倍(+1,395)
急性心筋梗塞 30,558 31,933 52,533 45,885 28,237 1.645 倍(+20,600)
その他の虚血性心疾患 18,926 19,504 23,040 24,298 39,357 1.181 倍(+3,536)
慢性非リウマチ性心内膜疾患 3,554 4,201 5,357 5,995 11,522 1.275 倍(+1,156)
心筋症 1,417 2,097 3,455 3,303 3,297 1.648 倍(+1,358)
不整脈及び伝導障害 4,977 6,350 12,841 15,097 35,964 2.022 倍(+6,491)
心不全 75,310 96,078 36,179 46,460 98,814 0.377 倍(-59,899)
心疾患 141,097 165,478 139,206 146,741 226,388 0.841 倍(-26,272)

観察 5.2:1990→1995 年に、心疾患の内訳 7 つのうち減ったのは心不全だけで、96,078 から 36,179 へ 0.377 倍(59,899 減)になった。ほかの 6 つはすべて増え、増えた分の和は 34,536 である。 急性心筋梗塞は 1.645 倍(20,600 増)、不整脈及び伝導障害は 2.022 倍、心筋症は 1.648 倍になった。心疾患に占める心不全の割合は、1990 年の 0.581 から 1995 年の 0.260 になり、2024 年は 0.436 である。

観察 5.3:心不全の死亡数は 1995 年の 36,179 から増え続け、2024 年の 98,814 は 1990 年の 96,078 を超えた。 注意書きのあとも、心不全は死因として書かれ続けている。

図2 心疾患の内訳の死亡数

図2:心疾患の内訳の死亡数(男女計・千人)。紺は心不全、金は急性心筋梗塞、灰はその他の虚血性心疾患、紫は不整脈及び伝導障害。灰色の帯が 1994〜1995 年。この表は 2005 年までは 5 年おき。

6. 年齢別

計算 6.1 全死因に占める心疾患の割合(第5.15表・男女計)

年齢 1985 1990 1995 2000 1990→1995 年 1985→1990 年 脳血管疾患の割合の 1990→1995 年
40〜44 歳 0.120 0.130 0.104 0.109 0.803 倍 1.079 倍 0.869 倍
45〜49 歳 0.125 0.135 0.109 0.108 0.809 倍 1.079 倍 0.903 倍
50〜54 歳 0.126 0.137 0.105 0.110 0.763 倍 1.092 倍 0.903 倍
55〜59 歳 0.135 0.138 0.116 0.111 0.837 倍 1.025 倍 0.982 倍
60〜64 歳 0.153 0.151 0.119 0.122 0.790 倍 0.985 倍 0.993 倍
65〜69 歳 0.172 0.169 0.128 0.125 0.760 倍 0.982 倍 1.007 倍
70〜74 歳 0.192 0.192 0.145 0.135 0.757 倍 1.000 倍 1.010 倍
75〜79 歳 0.209 0.219 0.162 0.155 0.739 倍 1.050 倍 1.025 倍
80〜84 歳 0.227 0.241 0.176 0.170 0.729 倍 1.060 倍 1.083 倍
85〜89 歳 0.240 0.257 0.183 0.189 0.711 倍 1.069 倍 1.095 倍
90〜94 歳 0.243 0.268 0.182 0.195 0.680 倍 1.101 倍 1.176 倍

観察 6.2:全死因に占める心疾患の割合は、40〜94 歳の 11 階級すべてで 1990→1995 年に下がった。 いちばん大きく下がったのは 90〜94 歳の 0.680 倍、いちばん小さいのは 55〜59 歳の 0.837 倍で、60 歳以上では年齢が高いほど大きく下がる。1985→1990 年には、同じ割合は 0.982〜1.101 倍だった。脳血管疾患の割合は、11 階級のうち 6(65 歳以上)で 1990→1995 年に上がった。

7. 限界

  1. 段差のうち、書き方によるぶんと病気によるぶんを分けない。 厚生労働省は 1994 年の減少を注意書きの事前周知の影響と「考えられる」と書いており、本稿はそれを引くだけである。
  2. 1995 年には心疾患に含む病気も一部変わった(第5.28表の注)。1995 年の減りには、その変更も入っている。
  3. 病類と年齢の表は 5 年おきである。 1994 年と 1995 年を分けて見られるのは、毎年の第5.12表(病類の内訳なし)だけである。
  4. 心不全と書かれなくなった死亡がどの死因に入ったかは、一つに決められない。
  5. 死亡診断書を書く人を評価しない。 一人のなりやすさではない。地域を比べない。

結び

心疾患の死亡数は、1994 年に前年の 0.885 倍、1995 年に 0.872 倍になり、どちらも 1951 年以降で最も大きな減りだった。その 2 年は、「疾患の終末期の状態としての心不全は書かない」という死亡診断書の注意書きが周知され、施行された年である。1990→1995 年に減ったのは心疾患の内訳のうち心不全だけで、ほかの病類はすべて増えた。減りはどの年齢でも起き、高い年齢ほど大きかった。

分けるものは一つ、書き方か、病気か、である。

長い年次推移で心疾患の死亡が 1990 年代半ばに急に減っているのを見たときは、その年に死因の書き方の決まりが変わったことを、一緒に確かめる。

データと再現

データ 人口動態統計 令和6年(確定数)上巻 第5.12表・第5.15表・第5.28表(e-Stat)、人口動態統計特殊報告「心疾患-脳血管疾患死亡統計の概況」の頁 3 枚(厚生労働省)(2026 年 9 月 26 日に取得)
利用条件 e-Stat のコンテンツは政府標準利用規約(第2.0版)に準拠。厚生労働省ホームページは公共データ利用規約(第1.0版)に準拠。本稿の前年比・倍率・割合は、これらを加工して作成したもので、国が作成した数ではない
範囲 日本・1950〜2024 年
検算 検算/M035.py(--zu で図も書き出す)。本文の数字はすべて 検算/M035_output.txt から取っている
生データ data/ に取得したファイル 6 本と SOURCES.md(URL・取得日・SHA-256・利用条件・表の注と引用する文の写し・言葉と計算の置き方)
図 図/M035_zu1・図/M035_zu2(png・svg・英語版)

参考文献

  • 厚生労働省 (2006). 心疾患-脳血管疾患死亡統計の概況 人口動態統計特殊報告(2026年9月26日に利用). https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/tokusyu/sinno05/2.html
  • 厚生労働省. 人口動態統計 令和6年(確定数)上巻 第5.12表・第5.15表・第5.28表. e-Stat(2026年9月26日に利用). https://www.e-stat.go.jp/
  • 山岸勇輝 (2026). 1950 年の死因の 1 位は結核だが、いまの年齢構成にそろえると老衰で、結核は 5 位になる [M020]. Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22968057
  • 山岸勇輝 (2026). がんの罹患率が 2016 年に跳んだ年は、登録の仕組みが替わった年である。年齢調整罹患率は 1 年で全国 1.089 倍・3 県 1.176 倍になり、3 県では 17 部位すべてが同じ年に上がった [M032]. Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22972789

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「心疾患の死亡は 1994 年と 1995 年の 2 年続けて 1 割あまり減った」[M035]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22973433

YOI M035医療統計ビットコインに記録済み

日付の証拠(OpenTimestamps):日本語版の .ots・英語版の .ots・SHA256SUMS

予備の置き場所(ミラー。中身は上と同じです):PDF 日本語・PDF English・SHA256SUMS

住所:https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/M035・DOI 10.5281/zenodo.22973433・CC BY 4.0・プレプリント(査読を経ていません)・ORCID 0009-0006-8587-3450

引用するとき

山岸勇輝 (2026). 心疾患の死亡は 1994 年と 1995 年の 2 年続けて 1 割あまり減った [M035]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/M035 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22973433

Yamagishi, Y. (2026). Heart Disease Deaths Fell by More Than a Tenth in Each of Two Years, 1994 and 1995 [M035]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/M035; DOI: 10.5281/zenodo.22973433

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  author = {Yamagishi, Yuuki},
  title = {Heart Disease Deaths Fell by More Than a Tenth in Each of Two Years, 1994 and 1995},
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指紋(SHA-256)と確かめ方
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