【M036】脳梗塞の死亡が脳内出血を上回った年は、数で見るか年齢調整の率で見るかで違う

要旨

本稿が問うのは、脳血管疾患の死亡の中で脳梗塞が脳内出血を上回った「入れ替わりの年」が、死亡数で見るときと年齢調整死亡率で見るときで同じか、である。人口動態統計の脳血管疾患の内訳(第5.27表)で三つの見方の入れ替わりを比べ、人口動態統計特殊報告の年齢別の率(10 歳階級)で年齢ごとの入れ替わりを見た。新しい数学定理も新しい法則も主張しない。

第一に、表どうしはそろっている。特殊報告の男女別の率は第5.27表の率と 60 升目で一致し(1985 年は表の注により除く)、第5.27表の病類の和は脳血管疾患を超えない(第3節)。

第二に、男性では、脳梗塞が脳内出血を上回るのが、死亡数と死亡率では 1975→1980 年の間(見積もり 1975.3 年)、年齢調整死亡率では 1970→1975 年の間(見積もり 1970.1 年)で、5 年の区切りが違う。 女性と男女計は、三つの見方とも 1970→1975 年の間だが、見積もりの年は女性でも年齢調整死亡率の方が 2.9 年早い(第4節)。

第三に、これが本稿の芯である。入れ替わりは高い年齢ほど早い。男性の見積もりの年は、90 歳以上で 1965.8 年、80〜89 歳で 1967.8 年、70〜79 歳で 1971.4 年、60〜69 歳で 1984.2 年で、59 歳以下の 3 階級では 2004 年まで入れ替わらない。 女性も同じ順である(第5節)。

第四に、年齢調整死亡率の重みに使う 2015 年モデル人口は、70 歳以上が 0.192 を占める。1970 年の人口では 0.047、1975 年では 0.053 で、モデル人口はその 3.61 倍(1975 年比)である。 高い年齢で先に起きた入れ替わりを、年齢調整の率は重く映し、数は軽く映す(第4節)。

第五に、60〜69 歳では、入れ替わったあとに脳内出血が再び上回った(男性 2004 年、女性 2000 年と 2004 年)。入れ替わったあとに戻ったのは、この年齢だけである(第5節)。

第六に、分けているのは、年齢構成の重みである。「脳梗塞が脳内出血を上回った年」は、どの年齢の重みで二つを並べるかで、5 年の区切りが変わる。

本稿の射程(scope note):新しい数学定理も新しい法則も主張しない。病類別の死亡数・死亡率・年齢調整死亡率は人口動態統計が公表している数で、本稿は入れ替わりの年を比べるだけである。本稿は公開の集計データの数の形を述べる構造的解釈であり、医学的な助言・診断・治療の推奨ではない。著者は医師ではない。個人の健康に関する判断は医師・医療機関に相談すること。査読を経ていないプレプリントである。 なぜ脳内出血が減り脳梗塞が増えたのか(血圧・食事・診断・画像検査・治療など)には立ち入らない。 分類の変更も数に入っている。第5.27表の注によれば、1978 年以前の脳内出血は非外傷性頭蓋内出血を含む。これは数でも年齢調整の率でも同じ定義なので、二つの入れ替わりの年のずれは定義の違いでは説明されない。入れ替わりの年は 5 年の区切りでしか決まらない。見積もりの年は、前後の二つの年のあいだを対数の直線でつないだもので、表に在る年ではない。一人のなりやすさではない。地域を比べない。 データについて:e-Stat の人口動態統計は政府標準利用規約(第2.0版)に、厚生労働省の頁は公共データ利用規約(第1.0版)に従って使い、本稿の比・見積もりの年・割合は加工して作成した。加えたのは、同じ入れ替わりが見方で 5 年の区切りを変えることを示したこと、年齢別に入れ替わりの年を出し、高い年齢ほど早いことを示したこと、その差をモデル人口と当時の人口の年齢構成で裏づけたことである。

1. 記法と問い

  • 入れ替わり:脳梗塞の値が脳内出血の値を初めて上回った、表の年と年のあいだ(5 年の区切り)。
  • 見積もりの年:前後の二つの年で、脳内出血 ÷ 脳梗塞の自然対数が年とともに直線で動くとしたとき、0 になる年。
  • 見方:死亡数・死亡率(粗)・年齢調整死亡率(2015 年モデル人口)の三つ(第5.27表)。
  • 年齢別:特殊報告の第5表の、10 歳階級ごとの粗死亡率。
  • 70 歳以上の割合:1970・1975 年は第5.15表の死亡数 ÷ 死亡率で出した人口から、2015 年モデル人口は付録第6表から。

問い:脳梗塞が脳内出血を上回った年は、数・率・年齢調整の率で同じか。違うなら、何がその違いを作っているか。

観察 1.1:M024 は、がんの死亡数と年齢調整の率が別々に動くことを、年齢構成の押し上げとして分けた。M035 は、心疾患の死亡の段差が死亡診断書の書き方の変更に重なることを示した。本稿は、脳血管疾患の中の二つの病類の順位が、年齢構成の重みでどう変わるかを見る。

2. 下見と設計

正直に書く:本稿の設計は、表を見たあとに決めた。

中身
病類別 人口動態統計 令和6年 上巻 第5.27表(脳血管疾患の内訳・死亡数・死亡率・年齢調整死亡率・1951〜2005 年は 5 年おき)
年齢別 人口動態統計特殊報告「心疾患-脳血管疾患死亡統計の概況」統計表 第5表(10 歳階級・1951〜2004 年)
年齢構成 第5.15表(1970・1975 年の人口)と付録第6表(2015 年モデル人口)
見込みと、測ったこと 下見の前は、入れ替わりの年はどの見方でも同じと見込んでいた。男性で 5 年の区切りが違い、年齢別に見ると高い年齢ほど早かった。図を見て、60〜69 歳では入れ替わったあとに戻っていたことにも気づき、検算に数えさせた

3. データと、その確かめ

計算 3.1 取得したファイル 4 本を SHA-256 で固定し、次のことを確かめた。

  • 第5.27表の年は 1951〜2024 年の 31 の年(2005 年までは 5 年おき)。どの年も、くも膜下出血・脳内出血・脳梗塞の死亡数の和は脳血管疾患を超えず、男 + 女 = 総数。
  • 特殊報告の第5表は、性 × 病類 × 総数と 7 つの年齢階級の 64 系列、1951〜2004 年。
  • 特殊報告の第5表の「総数」の率 = 第5.27表の男女別の死亡率(60 升目・食い違い 0。1985 年は、表の注によれば人口が違うので除いた)。

4. 見方ごとの入れ替わり

計算 4.1 脳梗塞が脳内出血を上回った区切りと見積もりの年(第5.27表)

性・見方 区切り 見積もりの年 前の年の 脳内出血・脳梗塞 後の年の 脳内出血・脳梗塞
総数・死亡数 1970→1975 年 1974.3 年 85,518・59,003 64,744・68,547
総数・死亡率 1970→1975 年 1974.3 年 82.9・57.2 58.2・61.6
男・死亡数 1975→1980 年 1975.3 年 34,981・34,130 26,785・37,175
男・死亡率 1975→1980 年 1975.3 年 63.9・62.4 46.8・65
男・年齢調整死亡率 1970→1975 年 1970.1 年 360.9・358 229.8・359.1
女・死亡数 1970→1975 年 1973.4 年 38,654・28,399 29,763・34,417
女・死亡率 1970→1975 年 1973.4 年 73.6・54.1 52.7・60.9
女・年齢調整死亡率 1970→1975 年 1970.5 年 261.4・248.9 168.1・266.6

観察 4.2:男性では、死亡数と死亡率で 1975→1980 年の間、年齢調整死亡率で 1970→1975 年の間に入れ替わる。 見積もりの年は 1975.3 年と 1970.1 年で、5.3 年離れている。1970 年の年齢調整死亡率は、脳内出血 360.9・脳梗塞 358 と、ほぼ並んでいた(比 1.008)。女性と男女計は三つの見方とも 1970→1975 年の間だが、女性の見積もりの年も年齢調整の方が 2.9 年早い。どの見方でも、入れ替わったあとに脳内出血が再び上回った年は無い。

観察 4.3:年齢調整死亡率の重みに使う 2015 年モデル人口では、70 歳以上が 0.192 を占める。実際の人口では 1970 年 0.047、1975 年 0.053 で、モデル人口はその 3.61 倍である(1975 年比)。死亡数と死亡率(粗)は、その年の実際の年齢構成で二つの病類を並べ、年齢調整死亡率は、70 歳以上がずっと多い構成で並べる。

図1 男性の脳内出血 ÷ 脳梗塞

図1:男性の脳内出血 ÷ 脳梗塞(第5.27表・縦は対数)。紺は死亡数、金は年齢調整死亡率(2015 年モデル人口)。破線が 1。金の線が先に 1 を下回る。

5. 芯、年齢ごとの入れ替わり

計算 5.1 年齢ごとの入れ替わり(特殊報告の第5表・粗死亡率)

性・年齢 区切り 見積もりの年 そのあと脳内出血が再び上回った年
男・39歳以下 2004 年まで入れ替わらない 。 、
男・40〜49歳 2004 年まで入れ替わらない 。 、
男・50〜59歳 2004 年まで入れ替わらない 。 、
男・60〜69歳 1980→1985 年 1984.2 年 2004
男・70〜79歳 1970→1975 年 1971.4 年 無し
男・80〜89歳 1965→1970 年 1967.8 年 無し
男・90歳以上 1965→1970 年 1965.8 年 無し
女・39歳以下 2004 年まで入れ替わらない 。 、
女・40〜49歳 2004 年まで入れ替わらない 。 、
女・50〜59歳 2004 年まで入れ替わらない 。 、
女・60〜69歳 1990→1995 年 1994.5 年 2000・2004
女・70〜79歳 1970→1975 年 1972.4 年 無し
女・80〜89歳 1965→1970 年 1968.8 年 無し
女・90歳以上 1965→1970 年 1966.0 年 無し

観察 5.2:入れ替わりは高い年齢ほど早い。男性の見積もりの年は、90 歳以上 1965.8 年、80〜89 歳 1967.8 年、70〜79 歳 1971.4 年、60〜69 歳 1984.2 年、女性は 1966.0 年・1968.8 年・1972.4 年・1994.5 年で、60 歳以上の 4 階級ではどちらも年齢が高いほど早い。 男女とも 59 歳以下の 3 階級では、2004 年まで脳内出血の方が多い(男性の 50〜59 歳で 2004 年に脳内出血 26.5・脳梗塞 8.1)。

観察 5.3:60〜69 歳では、入れ替わったあとに脳内出血が再び上回った。 男性は 2004 年(脳内出血 50.2・脳梗塞 45.4)、女性は 2000 年と 2004 年(2004 年 17.9・13.3)である。70 歳以上では、入れ替わったあとに戻った年は無い。

観察 5.4:高い年齢で先に起きた入れ替わりは、70 歳以上の多い重みで並べる年齢調整死亡率には早めに映り、1970 年代の若い年齢構成で並べる死亡数には遅れて映る。第4節の男性の 5 年のずれは、この年齢ごとの入れ替わりの違いと、重みの年齢構成の違いが重なってできている。

図2 男性の脳内出血 ÷ 脳梗塞(年齢別)

図2:男性の脳内出血 ÷ 脳梗塞(年齢別・粗死亡率・縦は対数)。色が明るいほど高い年齢。破線が 1。高い年齢の線ほど先に 1 を下回り、59 歳以下の線は下回らない。

計算 5.5 その後の死亡数(第5.27表・男女計)

年 脳梗塞 脳内出血 くも膜下出血
1990 64,575 29,558 12,281
1995 89,431 33,187 14,424
2005 80,964 33,362 14,883
2024 56,129 32,566 11,070

脳梗塞の死亡数がいちばん多いのは 1995 年(89,431)で、この年は M035 が示した心疾患の段差の年でもある。

6. 限界

  1. なぜ脳内出血が減り脳梗塞が増えたのかには立ち入らない。
  2. 1978 年以前の脳内出血は非外傷性頭蓋内出血を含む(表の注)。数でも年齢調整の率でも同じ定義なので、二つの見方のずれの説明にはならないが、入れ替わりの年そのものには影響しうる。
  3. 表は 5 年おきである。 入れ替わりは 5 年の区切りでしか決まらず、見積もりの年は前後の二つの年を直線でつないだものである。
  4. 年齢別の率は粗死亡率で、10 歳階級である。
  5. 一人のなりやすさではない。 地域を比べない。

結び

脳梗塞の死亡が脳内出血を上回った年は、男性では死亡数で 1975→1980 年の間、年齢調整死亡率で 1970→1975 年の間だった。入れ替わりは高い年齢ほど早く、59 歳以下では 2004 年まで起きていない。年齢調整の重みに使う 2015 年モデル人口は、70 歳以上が 1975 年の人口の 3.61 倍あり、高い年齢で先に起きた入れ替わりを早めに映す。

分けるものは一つ、年齢構成の重み、である。

「この年に脳梗塞が脳内出血を上回った」と聞いたときは、それが数の話か、年齢調整の率の話か、どの年齢の話かを、一緒に確かめる。

データと再現

データ 人口動態統計 令和6年(確定数)上巻 第5.27表・第5.15表・付録第6表(e-Stat)、人口動態統計特殊報告「心疾患-脳血管疾患死亡統計の概況」統計表 第5表(厚生労働省)(2026 年 9 月 26 日に取得)
利用条件 e-Stat のコンテンツは政府標準利用規約(第2.0版)に準拠。厚生労働省ホームページは公共データ利用規約(第1.0版)に準拠。本稿の比・見積もりの年・割合は、これらを加工して作成したもので、国が作成した数ではない
範囲 日本・1951〜2024 年
検算 検算/M036.py(--zu で図も書き出す)。本文の数字はすべて 検算/M036_output.txt から取っている
生データ data/ に取得したファイル 4 本と SOURCES.md(URL・取得日・SHA-256・利用条件・表の注・言葉と計算の置き方)
図 図/M036_zu1・図/M036_zu2(png・svg・英語版)

参考文献

  • 厚生労働省 (2006). 心疾患-脳血管疾患死亡統計の概況 人口動態統計特殊報告 統計表 第5表(2026年9月26日に利用). https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/tokusyu/sinno05/13-5.html
  • 厚生労働省. 人口動態統計 令和6年(確定数)上巻 第5.15表・第5.27表・付録第6表. e-Stat(2026年9月26日に利用). https://www.e-stat.go.jp/
  • 山岸勇輝 (2026). がんで亡くなる人は増え、年齢調整の率は下がった。年齢構成の押し上げは、部位で乳房の 1.433 倍から前立腺の 2.918 倍まで違う [M024]. Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22968432
  • 山岸勇輝 (2026). 心疾患の死亡は 1994 年と 1995 年の 2 年続けて 1 割あまり減った。死亡診断書の注意書きの年で、減ったのは心不全だけ(1990→1995 年に 0.377 倍)、急性心筋梗塞は 1.645 倍に増えた [M035]. Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22973433

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「脳梗塞の死亡が脳内出血を上回った年は、数で見るか年齢調整の率で見るかで違う」[M036]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22973792

YOI M036医療統計ビットコインに記録済み

日付の証拠(OpenTimestamps):日本語版の .ots・英語版の .ots・SHA256SUMS

予備の置き場所(ミラー。中身は上と同じです):PDF 日本語・PDF English・SHA256SUMS

住所:https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/M036・DOI 10.5281/zenodo.22973792・CC BY 4.0・プレプリント(査読を経ていません)・ORCID 0009-0006-8587-3450

引用するとき

山岸勇輝 (2026). 脳梗塞の死亡が脳内出血を上回った年は、数で見るか年齢調整の率で見るかで違う [M036]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/M036 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22973792

Yamagishi, Y. (2026). The Year Cerebral Infarction Deaths Overtook Intracerebral Hemorrhage Depends on Whether One Looks at Counts or at Age-Standardized Rates [M036]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/M036; DOI: 10.5281/zenodo.22973792

@misc{yamagishi2026yoiM036,
  author = {Yamagishi, Yuuki},
  title = {The Year Cerebral Infarction Deaths Overtook Intracerebral Hemorrhage Depends on Whether One Looks at Counts or at Age-Standardized Rates},
  year = {2026},
  howpublished = {YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/M036},
  doi = {10.5281/zenodo.22973792},
  note = {Preprint}
}
指紋(SHA-256)と確かめ方
0d85dabca5f745c53a26d1a9c6c5238f8c296118ac6f0bbbcb536d4b4333b561 yamagishi_M036_year_cerebral_infarction_deaths_overtook_20260926_jp.pdf
762055b31f0174fd312d3c122ae6f04c67310d70392c58d46a1103060a7c2ab2 yamagishi_M036_year_cerebral_infarction_deaths_overtook_20260926_en.pdf

PDF と .ots を同じ場所に保存し、opentimestamps.org に .ots、続けて PDF を落とすと、記録された日時が表示されます。PDF が 1 バイトでも変わっていれば通りません。