要旨
本稿が問うのは、脳卒中の三つの病型(くも膜下出血・脳内出血・脳梗塞)で、死亡率が年齢とともに上がる形がどれだけ違い、その形が年とともに動いたか、である。人口動態統計特殊報告の都道府県別年齢調整死亡率の表(1980〜2020 年の 9 版)の全国の年齢別死亡率で、40〜84 歳の ln(死亡率)に直線を当て、M002・M019 と同じ「倍になる年数」を病型ごと・性ごとに測った。新しい数学定理も新しい法則も主張しない。
第一に、特殊報告の全国の年齢調整死亡率は、人口動態統計の第5.27表の値と 54 の升目(9 つの年 × 3 病型 × 男女)すべてで一致する(第3節)。
第二に、2020 年の男性で、脳梗塞は 4.4 年、脳内出血は 9.5 年、くも膜下出血は 20.1 年で倍になる。女性では 4.5 年・8.1 年・11.9 年である。 くも膜下出血の倍になる年数は、脳梗塞の 4.61 倍(男性)・2.65 倍(女性)である(第4節)。
第三に、これが本稿の芯である。「脳梗塞 < 脳内出血 < くも膜下出血」の順は、1980〜2020 年の 9 つの年すべて・男女ともで変わらない。 男性の脳梗塞の倍になる年数は 3.9〜4.4 年の幅にとどまり、その間に年齢調整死亡率は 323.4 から 52.5 へ 0.162 倍になった。9 つの年を通して、脳梗塞のいちばん長い倍になる年数(男性 4.4 年・女性 4.5 年)は、脳内出血のいちばん短い年数(8.1 年・6.5 年)より短い(第5節)。
第四に、女性の率が男性を上回るのは、くも膜下出血だけである。 2020 年のくも膜下出血では 65〜69 歳から上のすべての階級で女性が上回り、85〜89 歳で 2.04 倍になる。脳内出血は 40 歳以上のどの階級でも女性が下回り、脳梗塞で女性が上回るのは 95 歳以上だけである。年齢調整死亡率で女性が上回るのも、9 つの年すべてでくも膜下出血だけである(第6節)。
第五に、くも膜下出血は直線の当てはまりがほかの二つより弱く(R² の最小 0.866)、倍になる年数も 9 つの年で男性 17.1〜25.3 年と揺れる(第5節)。
第六に、分けているのは、病型ごとの年齢の傾きである。脳卒中の死亡率の高さは 40 年で大きく下がったが、三つの病型が年齢とともにどれだけ急に上がるかは、ほとんど動いていない。
本稿の射程(scope note):新しい数学定理も新しい法則も主張しない。病型別の年齢別死亡率は人口動態統計特殊報告が公表している数で、本稿はそれに直線を当てて倍になる年数を測り、並べるだけである。本稿は公開の集計データの数の形を述べる構造的解釈であり、医学的な助言・診断・治療の推奨ではない。著者は医師ではない。個人の健康に関する判断は医師・医療機関に相談すること。査読を経ていないプレプリントである。 なぜ病型で年齢の傾きが違うのか、なぜ女性のくも膜下出血が高い年齢で多いのかには立ち入らない。 一年の年齢別の率である。生まれた年の違う人たちを並べたもので、一人が年をとるときの率の動きとは限らない(M003 の区別)。都道府県の行は使わず、地域を比べない。一人のなりやすさではない。 データについて:e-Stat の人口動態統計特殊報告と人口動態統計は政府標準利用規約(第2.0版)に従って使い、本稿の倍になる年数・比は加工して作成した。加えたのは、脳卒中の三つの病型の倍になる年数を 9 つの年で並べ、順が一度も入れ替わらないことを示したこと、率の高さが大きく下がったのに年齢の傾きはほとんど動かないことを病型ごとに示したこと、女性が上回るのはくも膜下出血の高い年齢だけであることを示したことである。
1. 記法と問い
- 倍になる年数:40〜84 歳の 9 つの 5 歳階級で、ln(死亡率)を年齢(階級の真ん中 − 62.5)に直線で当てた傾き b から ln2 ÷ b。M002・M019 と同じ当てはめ方である。当てはまりは R²。
- 女性 ÷ 男性:同じ年齢階級の女性の死亡率 ÷ 男性の死亡率。
- 9 つの年:1980・1985・…・2020 年(人口動態統計特殊報告の都道府県別年齢調整死亡率の 9 版。どの版も年齢調整死亡率は平成27年モデル人口による)。
問い:脳卒中の三つの病型は、年齢とともに倍になる速さがどれだけ違うか。その速さは 40 年で動いたか。女性と男性でどう違うか。
観察 1.1:M002 は、大人の死亡率が年齢とともに倍になる速さはほとんど動かず、下がったのは高さであることを示した。M019 は、その速さが死因ごとに違う速さの混ぜ合わせであることを示した。M036 は、脳梗塞と脳内出血の入れ替わりが年齢ごとに違う年に起きたことを示した。本稿は、脳卒中の中の三つの病型について、速さと高さを分ける。
2. 下見と設計
正直に書く:本稿の設計は、表を見たあとに決めた。
| 中身 | |
|---|---|
| 年齢別死亡率 | 人口動態統計特殊報告 都道府県別年齢調整死亡率(平成27年モデル人口)の第29表(くも膜下出血)・第30表(脳内出血)・第31表(脳梗塞)、1980〜2020 年の 9 版の「全国」の行 |
| 確かめ | 人口動態統計 令和6年 上巻 第5.27表の年齢調整死亡率 |
| 物差し | 40〜84 歳の倍になる年数と R²、女性 ÷ 男性 |
| 見込みと、測ったこと | 下見の前は、2020 年の一つの年だけを見るつもりだった。同じ形の表が 1980 年から 5 年ごとに 9 版そろっていたので、倍になる年数の動きも測った。くも膜下出血の当てはまりが弱いことも、そのとき分かった |
3. データと、その確かめ
計算 3.1 取得したファイル 28 本を SHA-256 で固定し、次のことを確かめた。
- 27 本の表(9 つの年 × 3 病型)の表題の病型が、読み込んだ病型と合う。
- 特殊報告の全国の年齢調整死亡率 = 第5.27表の年齢調整死亡率(9 つの年 × 3 病型 × 男女 = 54 の升目)。
- 全国の 40〜84 歳の死亡率に 0 が無い。
4. 2020 年の倍になる年数
計算 4.1 2020 年の、年齢とともに倍になる年数(40〜84 歳)と年齢調整死亡率(人口 10 万対)
| 病型・性 | 倍になる年数 | R² | 年齢調整死亡率 |
|---|---|---|---|
| くも膜下出血・男 | 20.1 年 | 0.962 | 7.1 |
| くも膜下出血・女 | 11.9 年 | 0.966 | 9.2 |
| 脳内出血・男 | 9.5 年 | 0.996 | 31.9 |
| 脳内出血・女 | 8.1 年 | 0.977 | 16.3 |
| 脳梗塞・男 | 4.4 年 | 0.999 | 52.5 |
| 脳梗塞・女 | 4.5 年 | 0.989 | 29.3 |
観察 4.2:2020 年は男女とも、脳梗塞がいちばん速く、くも膜下出血がいちばん遅く倍になる。 男性では、くも膜下出血の倍になる年数(20.1 年)は脳梗塞(4.4 年)の 4.61 倍、女性では 11.9 年と 4.5 年で 2.65 倍である。脳内出血と脳梗塞は直線によく乗る(R² 0.977 以上)。

図1:男性の年齢別死亡率(2020 年・縦は対数)。灰色の帯が当てはめに使った 40〜84 歳。対数の縦軸では、一定の速さで倍になる形はまっすぐな線になり、傾きが急なほど速く倍になる。
5. 芯、高さは下がり、傾きは動かない
計算 5.1 倍になる年数(1980〜2020 年)と、年齢調整死亡率の 1980→2020 年の倍率
| 病型・性 | 1980 | 1985 | 1990 | 1995 | 2000 | 2005 | 2010 | 2015 | 2020 | 年齢調整死亡率 1980→2020 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| くも膜下出血・男 | 25.3 | 24.4 | 20.6 | 17.6 | 17.1 | 17.5 | 17.8 | 19.2 | 20.1 | 11.6 → 7.1(0.612 倍) |
| くも膜下出血・女 | 13.4 | 11.8 | 10.8 | 9.8 | 10.0 | 10.1 | 10.8 | 11.3 | 11.9 | 14 → 9.2(0.657 倍) |
| 脳内出血・男 | 8.1 | 8.6 | 9.0 | 8.4 | 8.6 | 8.7 | 8.9 | 9.0 | 9.5 | 147.7 → 31.9(0.216 倍) |
| 脳内出血・女 | 6.5 | 6.8 | 6.9 | 6.8 | 6.9 | 7.1 | 7.1 | 7.2 | 8.1 | 109.6 → 16.3(0.149 倍) |
| 脳梗塞・男 | 3.9 | 4.0 | 4.0 | 4.0 | 4.1 | 4.2 | 4.2 | 4.4 | 4.4 | 323.4 → 52.5(0.162 倍) |
| 脳梗塞・女 | 3.8 | 3.8 | 4.0 | 4.0 | 4.2 | 4.2 | 4.1 | 4.2 | 4.5 | 241.9 → 29.3(0.121 倍) |
観察 5.2:9 つの年すべて・男女とも、倍になる年数は「脳梗塞 < 脳内出血 < くも膜下出血」の順で、一度も入れ替わらない。 9 つの年を通して、脳梗塞のいちばん長い年数(男性 4.4 年・女性 4.5 年)は、脳内出血のいちばん短い年数(男性 8.1 年・女性 6.5 年)より短い。
観察 5.3:男性の脳梗塞の年齢調整死亡率は 323.4 から 52.5 へ 0.162 倍になったが、倍になる年数は 3.9 年から 4.4 年(1.122 倍)にしか動いていない。 脳内出血も、年齢調整死亡率が男性 0.216 倍・女性 0.149 倍になる間に、倍になる年数は男性 8.1〜9.5 年・女性 6.5〜8.1 年の幅にとどまる。下がったのは高さで、年齢の傾きはほとんど動いていない。
観察 5.4:くも膜下出血は、倍になる年数が男性 17.1〜25.3 年・女性 9.8〜13.4 年と、ほかの二つより大きく揺れる。直線の当てはまり(R²)の最小も 0.866 で、脳内出血と脳梗塞の 0.977 より低い。くも膜下出血の年齢の形は、一定の速さで倍になる形からいくらか外れている。

図2:年齢とともに倍になる年数(40〜84 歳・縦は対数)。実線が男性、点線が女性。紫がくも膜下出血、金が脳内出血、紺が脳梗塞。三つの色の上下は 40 年間入れ替わらない。
6. 女性と男性
計算 6.1 女性 ÷ 男性(2020 年・年齢別)
| 年齢 | くも膜下出血 | 脳内出血 | 脳梗塞 |
|---|---|---|---|
| 40〜44 歳 | 0.62 | 0.31 | 0.40 |
| 45〜49 歳 | 0.73 | 0.37 | 0.50 |
| 50〜54 歳 | 0.99 | 0.35 | 0.36 |
| 55〜59 歳 | 0.95 | 0.31 | 0.26 |
| 60〜64 歳 | 0.94 | 0.31 | 0.25 |
| 65〜69 歳 | 1.03 | 0.31 | 0.23 |
| 70〜74 歳 | 1.34 | 0.37 | 0.26 |
| 75〜79 歳 | 1.43 | 0.48 | 0.34 |
| 80〜84 歳 | 1.84 | 0.62 | 0.45 |
| 85〜89 歳 | 2.04 | 0.68 | 0.57 |
| 90〜94 歳 | 1.82 | 0.70 | 0.79 |
| 95 歳以上 | 2.04 | 0.81 | 1.01 |
観察 6.2:女性の率が男性を上回るのは、くも膜下出血だけである。 くも膜下出血では 65〜69 歳(1.03)から上のすべての階級で女性が上回り、85〜89 歳と 95 歳以上で 2.04 倍になる。脳内出血は 40 歳以上のどの階級でも女性が下回り(0.31〜0.81)、脳梗塞で女性が上回るのは 95 歳以上(1.01)だけである。
観察 6.3:年齢調整死亡率で女性が男性を上回るのも、9 つの年すべてでくも膜下出血だけである(2020 年は女性 9.2・男性 7.1)。くも膜下出血の倍になる年数が女性で短い(11.9 年と 20.1 年)のは、女性の率が年齢とともに男性より急に上がることを表しており、65〜69 歳から女性が上回る形と向きがそろう。
7. 限界
- なぜ病型で年齢の傾きが違うのかには立ち入らない。
- 一年の年齢別の率である。 生まれた年の違う人たちを並べたもので、一人が年をとるときの率の動きとは限らない。
- 40〜84 歳だけで当てはめた。 くも膜下出血は一定の速さの形からいくらか外れる。
- 1995 年には死亡診断書の書き方が変わった(M035)。本稿は、その変更が倍になる年数に与えた影響を分けていない。
- 都道府県の行は使わず、地域を比べない。 一人のなりやすさではない。
結び
脳卒中の三つの病型は、年齢とともに倍になる速さがはっきり違った。2020 年の男性で、脳梗塞は 4.4 年、脳内出血は 9.5 年、くも膜下出血は 20.1 年で倍になり、この順は 1980 年から 2020 年までの 9 つの年すべて・男女ともで変わらなかった。その 40 年に、脳梗塞と脳内出血の年齢調整死亡率は 0.121〜0.216 倍に下がったが、年齢の傾きはほとんど動かなかった。女性の率が男性を上回るのは、くも膜下出血の 65 歳以上だけだった。
分けるものは一つ、病型ごとの年齢の傾き、である。
「脳卒中は年齢とともに増える」と聞いたときは、それが三つの病型でどれだけ違う速さなのか、そして下がってきたのは高さなのか傾きなのかを、一緒に確かめる。
データと再現
| データ | 人口動態統計特殊報告 都道府県別年齢調整死亡率(平成27年モデル人口)第29〜31表(昭和55年〜令和2年の 9 版)、人口動態統計 令和6年(確定数)上巻 第5.27表(e-Stat・2026 年 9 月 26 日に取得) |
| 利用条件 | e-Stat のコンテンツは政府標準利用規約(第2.0版)に準拠。本稿の倍になる年数・比は、これらを加工して作成したもので、国が作成した数ではない |
| 範囲 | 日本(全国)・1980〜2020 年(5 年おき) |
| 検算 | 検算/M037.py(--zu で図も書き出す)。本文の数字はすべて 検算/M037_output.txt から取っている |
| 生データ | data/ に取得したファイル 28 本と SOURCES.md(URL・取得日・SHA-256・利用条件・言葉と計算の置き方) |
| 図 | 図/M037_zu1・図/M037_zu2(png・svg・英語版) |
参考文献
- 厚生労働省. 人口動態統計特殊報告 都道府県別年齢調整死亡率(平成27年モデル人口)昭和55年〜令和2年 第29表・第30表・第31表. e-Stat(2026年9月26日に利用). https://www.e-stat.go.jp/
- 厚生労働省. 人口動態統計 令和6年(確定数)上巻 第5.27表. e-Stat(2026年9月26日に利用). https://www.e-stat.go.jp/
- 山岸勇輝 (2026). 大人の死亡率が年齢とともに倍になる速さはほとんど動かず、下がったのは高さである [M002]. Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22963210
- 山岸勇輝 (2026). 平均余命は、誰かが実際に生きる年数ではない [M003]. Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22963485
- 山岸勇輝 (2026). 男性の死亡率が年齢とともに倍になる 6.99 年は、4.80 年の肺炎から 14.52 年の肝疾患までの混ぜ合わせである [M019]. Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22967853
- 山岸勇輝 (2026). 心疾患の死亡は 1994 年と 1995 年の 2 年続けて 1 割あまり減った。死亡診断書の注意書きの年で、減ったのは心不全だけ(1990→1995 年に 0.377 倍)、急性心筋梗塞は 1.645 倍に増えた [M035]. Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22973433
- 山岸勇輝 (2026). 脳梗塞の死亡が脳内出血を上回った年は、数で見るか年齢調整の率で見るかで違う。男性では数で 1975〜1980 年、年齢調整の率で 1970〜1975 年の間で、入れ替わりは高い年齢ほど早く、59 歳以下では 2004 年まで起きていない [M036]. Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22973792
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「脳卒中の三つは、年齢とともに倍になる速さが違う」[M037]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22973884
日付の証拠(OpenTimestamps):日本語版の .ots・英語版の .ots・SHA256SUMS
予備の置き場所(ミラー。中身は上と同じです):PDF 日本語・PDF English・SHA256SUMS
住所:https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/M037・DOI 10.5281/zenodo.22973884・CC BY 4.0・プレプリント(査読を経ていません)・ORCID 0009-0006-8587-3450
引用するとき
山岸勇輝 (2026). 脳卒中の三つは、年齢とともに倍になる速さが違う [M037]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/M037 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22973884
Yamagishi, Y. (2026). The Three Types of Stroke Double with Age at Different Speeds [M037]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/M037; DOI: 10.5281/zenodo.22973884
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author = {Yamagishi, Yuuki},
title = {The Three Types of Stroke Double with Age at Different Speeds},
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指紋(SHA-256)と確かめ方
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