【M038】心不全の死亡が増えたのは年齢構成のためで、心疾患に占める割合が上がったのは急性心筋梗塞が速く減ったため

要旨

本稿が問うのは、心疾患の死亡の中で心不全が増え、心不全の割合が上がったことが、年齢構成(高齢化)でどこまで説明できるか、である。人口動態統計特殊報告の都道府県別年齢調整死亡率の表(1995〜2020 年の 6 版)の全国の値で、心疾患・急性心筋梗塞・不整脈及び伝導障害・心不全の粗死亡率と年齢調整死亡率を並べ、心不全の割合を三通りに出した。新しい数学定理も新しい法則も主張しない。

第一に、特殊報告の全国の年齢調整死亡率は、人口動態統計の第5.28表の値と 48 の升目(6 つの年 × 4 つ × 男女)すべてで一致する(第3節)。

第二に、1995→2020 年に、男性の心不全の粗死亡率は 27.3 から 56.5 へ 2.070 倍になったが、年齢調整死亡率は 81.8 から 69 へ 0.844 倍に下がった。 女性も粗死亡率 2.571 倍・年齢調整死亡率 0.798 倍である。心不全の死亡が増えたのは、年齢構成の押し上げ(男性 2.454・女性 3.223)による(第4節)。

第三に、これが本稿の芯である。心疾患に占める心不全の割合は、年齢調整死亡率でそろえても上がった。男性では死亡数の割合が 0.239 から 0.341、年齢調整でそろえた割合が 0.265 から 0.363 で、上がり幅は +0.103 と +0.098(0.951)とほぼ同じである。 割合の上がりは、年齢構成ではほとんど説明されない(第5節)。

第四に、割合が上がったのは、急性心筋梗塞の年齢調整死亡率が 0.279 倍(女性 0.204 倍)と、心不全(0.844 倍)よりずっと速く下がったためである。 年齢調整でそろえた割合の倍率 1.368 は、心不全の倍率 0.844 ÷ 心疾患の倍率 0.616 に等しい(第6節)。

第五に、80〜84 歳と 90〜94 歳の年齢階級の中でも、心不全の割合は男女とも上がった(男性の 90〜94 歳で 0.329 から 0.487)。60〜64 歳では男性 0.192 から 0.180 と、ほとんど動いていない(第5節)。

第六に、分けているのは、数の問いか、割合の問いかである。「心不全の死亡が増えた」は年齢構成で説明され、「心不全の割合が上がった」は年齢構成では説明されない。同じ「心不全が増えた」が、二つの別の問いを指している。

本稿の射程(scope note):新しい数学定理も新しい法則も主張しない。粗死亡率と年齢調整死亡率は人口動態統計特殊報告が公表している数で、本稿はそれを比べ、比をとるだけである。本稿は公開の集計データの数の形を述べる構造的解釈であり、医学的な助言・診断・治療の推奨ではない。著者は医師ではない。個人の健康に関する判断は医師・医療機関に相談すること。査読を経ていないプレプリントである。 なぜ急性心筋梗塞の死亡率が速く下がったのか(治療・予防・診断など)には立ち入らない。 心不全の死亡の書き方は 1995 年に変わった(M035)、本稿は変更の後の 1995 年から比べる。変更のあとも書き方の慣行が変わった可能性は、本稿では分けていない。大動脈瘤及び解離は扱わない。この系列に年齢別の表が無い。都道府県の行は使わず、地域を比べない。一人のなりやすさではない。 データについて:e-Stat の人口動態統計特殊報告と人口動態統計は政府標準利用規約(第2.0版)に従って使い、本稿の倍率・割合・押し上げは加工して作成した。加えたのは、心不全の「数」と「割合」の増えを、年齢調整の率で別々に確かめ、前者は年齢構成で説明され後者は説明されないことを示したこと、割合の上がりが急性心筋梗塞の速い減りから来ることを、恒等式で分けたことである。

1. 記法と問い

  • 粗死亡率:各表の年齢階級別死亡率の「総数」の列(人口 10 万対)。年齢調整死亡率:各表の年齢調整死亡率(2015 年モデル人口)。
  • 年齢構成の押し上げ:粗死亡率の倍率 ÷ 年齢調整死亡率の倍率(M024 と同じ考え方)。
  • 心不全の割合:①粗死亡率の比(心不全 ÷ 心疾患)= 死亡数の割合、②年齢調整死亡率の比(年齢構成を 2015 年モデル人口にそろえた割合)、③年齢階級の中の比。
  • 6 つの年:1995・2000・…・2020 年。

問い:心不全の死亡が増えたこと、心疾患に占める心不全の割合が上がったことは、それぞれ年齢構成でどこまで説明できるか。

観察 1.1:M024 は、がんの死亡数の増えと年齢調整の率の下がりを、年齢構成の押し上げで分けた。M035 は、心疾患の死亡の 1994〜1995 年の段差が心不全の減りであることを示した。本稿は、その段差のあとの 25 年で、心不全の数と割合を分ける。

2. 下見と設計

正直に書く:本稿の設計は、表を見たあとに決めた。

中身
死亡率 人口動態統計特殊報告 都道府県別年齢調整死亡率(平成27年モデル人口)の第22表(心疾患)・第25表(急性心筋梗塞)・第26表(不整脈及び伝導障害)・第27表(心不全)、1995〜2020 年の 6 版の「全国」の行
確かめ 人口動態統計 令和6年 上巻 第5.28表の年齢調整死亡率
物差し 粗死亡率と年齢調整死亡率の倍率・年齢構成の押し上げ・心不全の割合(三通り)
見込みと、測ったこと 下見の前は、心不全の割合が上がったのも年齢構成のためと見込んでいた。年齢調整でそろえても割合はほとんど同じだけ上がり、見込みは外れた。在庫では大動脈瘤及び解離もこの編で見るつもりだったが、この系列に年齢別の表が無く、扱わなかった

3. データと、その確かめ

計算 3.1 取得したファイル 25 本を SHA-256 で固定し、次のことを確かめた。

  • 24 本の表(6 つの年 × 4 つ)の表題が、読み込んだ病類と合う。
  • 特殊報告の全国の年齢調整死亡率 = 第5.28表の年齢調整死亡率(48 の升目)。
  • 40 歳以上のどの年齢階級でも、急性心筋梗塞 + 不整脈及び伝導障害 + 心不全 ≦ 心疾患(丸めの 0.15 まで)。

4. 心不全の死亡が増えたのは年齢構成のため

計算 4.1 粗死亡率と年齢調整死亡率の 1995→2020 年(人口 10 万対)

病類・性 粗死亡率 1995 → 2020 倍率 年齢調整死亡率 1995 → 2020 倍率 年齢構成の押し上げ
心疾患・男 114.4 → 165.5 1.447 倍 308.4 → 190.1 0.616 倍 2.347
心疾患・女 109.6 → 167.7 1.530 倍 206.9 → 109.2 0.528 倍 2.899
急性心筋梗塞・男 46.6 → 29.9 0.642 倍 116.4 → 32.5 0.279 倍 2.298
急性心筋梗塞・女 38.1 → 19.9 0.522 倍 68.6 → 14 0.204 倍 2.559
不整脈及び伝導障害・男 10.6 → 25.9 2.443 倍 29.4 → 29.5 1.003 倍 2.435
不整脈及び伝導障害・女 10.1 → 24.4 2.416 倍 19.1 → 16.1 0.843 倍 2.866
心不全・男 27.3 → 56.5 2.070 倍 81.8 → 69 0.844 倍 2.454
心不全・女 30.8 → 79.2 2.571 倍 61.3 → 48.9 0.798 倍 3.223

観察 4.2:心不全の粗死亡率は男女とも上がり(男性 2.070 倍・女性 2.571 倍)、年齢調整死亡率は下がった(0.844 倍・0.798 倍)。 心不全の死亡が増えたのは、年齢構成の押し上げ(男性 2.454・女性 3.223)による。不整脈及び伝導障害も同じ形で、男性の年齢調整死亡率は 1.003 倍とほぼ動かず、粗死亡率は 2.443 倍になった。

観察 4.3:急性心筋梗塞は、粗死亡率も年齢調整死亡率も下がった。 男性の年齢調整死亡率は 116.4 から 32.5 へ 0.279 倍、女性は 0.204 倍で、年齢構成の押し上げ(男性 2.298)を上回って下がった。

図1 男性の粗死亡率と年齢調整死亡率

図1:男性の粗死亡率(実線)と年齢調整死亡率(点線)。金が急性心筋梗塞、紺が心不全。心不全の実線は上がり、点線は下がる。急性心筋梗塞は両方とも下がる。

5. 芯、心不全の割合は、年齢をそろえても上がった

計算 5.1 心疾患に占める心不全の割合(三通り)

性・年 粗死亡率の比 年齢調整死亡率の比 60〜64 歳の中 70〜74 歳の中 80〜84 歳の中 90〜94 歳の中
男・1995 0.239 0.265 0.192 0.204 0.250 0.329
男・2000 0.277 0.316 0.213 0.228 0.299 0.409
男・2005 0.274 0.313 0.191 0.219 0.295 0.412
男・2010 0.285 0.328 0.171 0.213 0.304 0.449
男・2015 0.293 0.327 0.154 0.212 0.306 0.445
男・2020 0.341 0.363 0.180 0.235 0.341 0.487
女・1995 0.281 0.296 0.237 0.230 0.267 0.349
女・2000 0.355 0.368 0.255 0.257 0.327 0.443
女・2005 0.375 0.378 0.245 0.254 0.328 0.459
女・2010 0.413 0.408 0.232 0.262 0.340 0.495
女・2015 0.432 0.418 0.245 0.267 0.347 0.506
女・2020 0.472 0.448 0.243 0.269 0.381 0.532

観察 5.2:男性では、死亡数の割合(粗死亡率の比)が 0.239 から 0.341 へ +0.103、年齢調整でそろえた割合が 0.265 から 0.363 へ +0.098 上がった。上がり幅の比は 0.951 で、割合の上がりのほとんどは年齢構成では説明されない。 女性は +0.191 と +0.152(0.792)で、年齢構成の分がいくらか大きいが、年齢調整でそろえた割合もはっきり上がった。

観察 5.3:80〜84 歳と 90〜94 歳の年齢階級の中でも、心不全の割合は男女とも上がった(男性の 90〜94 歳で 0.329 から 0.487)。60〜64 歳では、男性 0.192 から 0.180、女性 0.237 から 0.243 と、ほとんど動いていない。割合の上がりは、高い年齢の中で起きている。

図2 心疾患に占める心不全の割合

図2:心疾患に占める心不全の割合(男性)。紺は粗死亡率の比(死亡数の割合)、金は年齢調整死亡率の比(年齢構成をそろえた割合)。二つはほぼ平行に上がる。

6. 割合の上がりは急性心筋梗塞の速い減りから来る

計算 6.1 年齢調整でそろえた割合の倍率の分け方(1995→2020 年)

性 そろえた割合の倍率 心不全の倍率 心疾患の倍率 急性心筋梗塞の倍率
男 1.368 0.844 0.616 0.279
女 1.511 0.798 0.528 0.204

観察 6.2:年齢調整でそろえた割合の倍率は、心不全の年齢調整死亡率の倍率 ÷ 心疾患の年齢調整死亡率の倍率に等しい(男性 1.368 = 0.844 ÷ 0.616)。心不全の率は下がったが、心疾患全体の率はもっと下がった。その心疾患の下がりを引っぱったのが、急性心筋梗塞の 0.279 倍(女性 0.204 倍)という速い下がりである。 年齢をそろえた率で見ると、心不全の割合が上がったのは、心不全が増えたからではなく、ほかが速く減ったからである。

7. 限界

  1. なぜ急性心筋梗塞の死亡率が速く下がったのかには立ち入らない。
  2. 死因の書き方の慣行は、1995 年の変更のあとも動きうる(M035)。本稿は、その動きと病気の動きを分けていない。
  3. 大動脈瘤及び解離は扱わない。
  4. 年齢調整の率は 2015 年モデル人口によるもので、別の標準人口では値が変わる。
  5. 都道府県の行は使わず、地域を比べない。 一人のなりやすさではない。

結び

1995→2020 年に、男性の心不全の粗死亡率は 2.070 倍になったが、年齢調整死亡率は 0.844 倍に下がった。心不全の死亡が増えたのは年齢構成のためである。一方、心疾患に占める心不全の割合は、年齢調整でそろえても 0.265 から 0.363 に上がり、その上がりは急性心筋梗塞の年齢調整死亡率が 0.279 倍と速く下がったことから来ていた。

分けるものは一つ、数の問いか、割合の問いか、である。

「心不全が増えている」と聞いたときは、それが死亡の数の話か、心疾患の中の割合の話か、そして年齢をそろえたらどうなるかを、一緒に確かめる。

データと再現

データ 人口動態統計特殊報告 都道府県別年齢調整死亡率(平成27年モデル人口)第22・25・26・27表(平成7年〜令和2年の 6 版)、人口動態統計 令和6年(確定数)上巻 第5.28表(e-Stat・2026 年 9 月 26 日に取得)
利用条件 e-Stat のコンテンツは政府標準利用規約(第2.0版)に準拠。本稿の倍率・割合・押し上げは、これらを加工して作成したもので、国が作成した数ではない
範囲 日本(全国)・1995〜2020 年(5 年おき)
検算 検算/M038.py(--zu で図も書き出す)。本文の数字はすべて 検算/M038_output.txt から取っている
生データ data/ に取得したファイル 25 本と SOURCES.md(URL・取得日・SHA-256・利用条件・言葉と計算の置き方)
図 図/M038_zu1・図/M038_zu2(png・svg・英語版)

参考文献

  • 厚生労働省. 人口動態統計特殊報告 都道府県別年齢調整死亡率(平成27年モデル人口)平成7年〜令和2年 第22表・第25表・第26表・第27表. e-Stat(2026年9月26日に利用). https://www.e-stat.go.jp/
  • 厚生労働省. 人口動態統計 令和6年(確定数)上巻 第5.28表. e-Stat(2026年9月26日に利用). https://www.e-stat.go.jp/
  • 山岸勇輝 (2026). がんで亡くなる人は増え、年齢調整の率は下がった。年齢構成の押し上げは、部位で乳房の 1.433 倍から前立腺の 2.918 倍まで違う [M024]. Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22968432
  • 山岸勇輝 (2026). 心疾患の死亡は 1994 年と 1995 年の 2 年続けて 1 割あまり減った。死亡診断書の注意書きの年で、減ったのは心不全だけ(1990→1995 年に 0.377 倍)、急性心筋梗塞は 1.645 倍に増えた [M035]. Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.22973433

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「心不全の死亡が増えたのは年齢構成のためで、心疾患に占める割合が上がったのは急性心筋梗塞が速く減ったため」[M038]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22974029

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引用するとき

山岸勇輝 (2026). 心不全の死亡が増えたのは年齢構成のためで、心疾患に占める割合が上がったのは急性心筋梗塞が速く減ったため [M038]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/M038 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22974029

Yamagishi, Y. (2026). Heart Failure Deaths Rose Because of the Age Composition, While Its Share of Heart Disease Rose Because Acute Myocardial Infarction Fell Faster [M038]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/M038; DOI: 10.5281/zenodo.22974029

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  title = {Heart Failure Deaths Rose Because of the Age Composition, While Its Share of Heart Disease Rose Because Acute Myocardial Infarction Fell Faster},
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  howpublished = {YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/M038},
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  note = {Preprint}
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