【論文236】同じ「=0」でも、解の集まりは五つの別の種類のものである

要旨

「解く」と言うとき、答が何個あるかを先に問うのが普通である。本稿が問うのは答の集まりがどういう種類の対象かである。空集合か、点の対か、球面か、ベクトル空間か、それとも最小ですらない一つの関数か。式はどれも同じ「=0」で書かれる。新しい数学定理も新しい法則も主張しない。

第一に、同じ $x^2=-1$ が三つの別の対象を返す。実数では空、複素数では二点、四元数では二次元球面である。単位純虚四元数を $20000$ 個取って、$q^2+1$ の最大成分は $0$(誤差 $1.11\times10^{-16}$)であった(第2節)。

第二に、有限体でも変わる。$x^2+1=0$ は法 $5,13,17,29$ で二解、法 $3,7,11,19,23$ で解なしである(第3節)。

第三に、行列にすると面になる。$X^2=I$ を満たす実 $2\times2$ 行列は二径数の族をなす(第4節)。

第四に、微分方程式では解の集まりがベクトル空間になる。$y’-y=0$ は一次元、$y”+y=0$ は二次元(ロンスキアン $1.000000000000$)である(第5節)。

第五に、これが本稿の芯である。変分問題では「=0」は停留を意味するだけで、最小を意味しない。$J[y]=\int_0^L(y’^2-y^2)$ に対し $y\equiv0$ はどの $L$ でも停留点だが、$L=3$ では $J=+0.1449$、$L=3.5$ では $\mathbf{-0.3401}$、$L=10$ では $-4.5065$ となり、$L=\pi$ ちょうどで最小点から鞍点へ変わる(第6節)。

射程(何を示さないか)

新しい数学定理も新しい法則も主張しない。代数閉体と方程式の解の個数、四元数における $x^2=-1$ の解集合、平方剰余の相互法則の初等的な帰結、線形常微分方程式の解空間の次元、第二変分による停留点の分類は、いずれも標準的である。解の存在定理を証明しない。どの節も既知の解を数えるだけである。ガロア理論に立ち入らない。第3節は数え上げだけで、なぜそうなるかは扱わない。非線形微分方程式を扱わない。第5節の「解空間はベクトル空間」は線形の場合に限る。変分法の一般論を作らない。第6節は一つの汎関数の一つの停留点を見るだけである。数値解析を論じない。既刊との関係:論文231 はケーリー=ディクソンの階段を降りるたびに法則が一つ落ちることを示した。本稿は同じ階段を、方程式の解の側から見る。論文16 は等号に六つの別根を数えた。本稿は「=0」という一つの用法の内側を割る。論文179 は「構成できない」の別根を数え、コーシーの函数方程式に触れた。本稿はそこへは入らない。論文227 は「等号は到達されるか」を点呼した。第6節はその変分版である。論文235 は境界条件で最小固有値が $\pi^2$ になることを測った。本稿第6節の $L=\pi$ は同じ $\pi^2$ に反対側から到着する。加えたのは四元数の解集合を二万点で確かめて球面だと示したこと、同じ多項式の解の個数を九つの法で並べたこと、行列解の二径数族を残差で確かめたこと、解空間の次元をロンスキアンで測ったこと、停留点が最小でなくなる位置を $L=\pi$ と突き止めたことである。

1. 記法と位置づけ

問い:$F(x)=0$ と書いたとき、解の集まり $\{x : F(x)=0\}$ はどういう種類の対象か。

個数を訊いているのではない。空集合と、二点と、球面と、ベクトル空間と、関数一つは、個数以前に種類が違う。未知数をどこに住まわせるかを決めないと、この問いには答えられない。そして記号「=0」はそれを書いていない。

位置づけ:論文16 は等号そのものに六つの別根を数えた。本稿はそのうち「条件式」という一つの用法の内側を割る。

2. 数を変えると、集まりの種類が変わる

検算 2.1:$x^2=-1$ を三つの場所で解く。

未知数の住所 解の集まり 種類
実数 $\mathbb{R}$ 無し 空集合
複素数 $\mathbb{C}$ $\pm i$ 二点
四元数 $\mathbb{H}$ 単位純虚四元数の全体 二次元球面

検算 2.2:単位純虚四元数 $q$ を乱数で $20000$ 個取り、$q^2$ を計算する。

量 値
$q^2-(-1)$ の最大成分 $1.11\times10^{-16}$
虚部の長さの平均 $1.000000000000$
点群の階数($\mathbb{R}^3$ 内) $\mathbf{3}$

二万個すべてが解である。虚部は長さ $1$ の球面上にあり、その球面は $\mathbb{R}^3$ を張る。(証明終)

観察 2.3 同じ二次方程式が、空集合・二点・二次元球面を返した。「二次方程式の解は高々二つ」という言い方には柵が省かれている。正しくは可換体の上でである。論文231 は可換性を失う段を数えた。その代償がここに現れている。

3. 有限体でも変わる

検算 3.1:$x^2+1=0$ を法 $p$ で解く。

$p$ 解 個数
$3$ 無し $0$
$5$ $2,\ 3$ $2$
$7$ 無し $0$
$11$ 無し $0$
$13$ $5,\ 8$ $2$
$17$ $4,\ 13$ $2$
$19$ 無し $0$
$29$ $12,\ 17$ $2$

観察 3.2 $4$ で割った余りが $1$ の素数では二解、$3$ の素数では解なしである。本稿は数えるだけで、なぜそうなるかには立ち入らない。ここで言いたいのは、同じ多項式の「=0」が住所ごとに別の集まりを持つということだけである。

4. 行列にすると、面になる

検算 4.1:実 $2\times2$ 行列で $X^2=I$ を解く。成分を行ごとに $\big(a,\ b\big)$、$\big((1-a^2)/b,\ -a\big)$ と置いた $X$ は、$b\ne0$ である限りどの $a,b$ でも解である。

$a$ $b$ $\|X^2-I\|$
$0$ $1$ $0$
$0.5$ $2$ $0$
$2$ $3$ $0$
$-1.5$ $0.4$ $1.24\times10^{-16}$
$7$ $0.25$ $0$

これに $\pm I$ を加えたものが解の全体である。(証明終)

観察 4.2 解は並べられる一覧ではなく、二径数の面である。「$X^2=I$ ならば $X=\pm I$」は数の話であって、行列の話ではない。柵は零因子が無いことである。

5. 微分方程式では、集まりがベクトル空間になる

検算 5.1:四次のルンゲ=クッタで $t=1$ まで積分する。

方程式 解の集まり 次元
$y’-y=0$ $c\,e^{t}$($2.718281828$ と $5.436563657$ は比例) $\mathbf{1}$
$y”+y=0$ $c_1\cos t+c_2\sin t$(ロンスキアン $1.000000000000$) $\mathbf{2}$

計算値は $\cos1=0.540302306$、$\sin1=0.841470985$ と一致した。(証明終)

観察 5.2 ここでは「=0」が返すのは点でも面でもなく、ベクトル空間である。そして次元は方程式の階数に等しい。柵は線形であることであり、非線形ではこの言い方は成り立たない(本稿では扱わない)。

6. 芯:停留は最小を意味しない

検算 6.1:$J[y]=\int_0^L\big(y’^2-y^2\big)dx$、$y(0)=y(L)=0$ とする。$y\equiv0$ はどの $L$ でも第一変分が消える。そこで $y=\sin(\pi x/L)$ を入れて $J$ を測る。

$L$ $J[\sin(\pi x/L)]$ $y\equiv0$ の身分
$1$ $4.434802201$ 最小
$2$ $1.467401100$ 最小
$3$ $0.144934067$ 最小
$\pi$ $0$ 退化
$3.5$ $\mathbf{-0.340056514}$ 鞍点
$4$ $-0.766299450$ 鞍点
$10$ $-4.506519780$ 鞍点

数値積分と閉じた形 $\tfrac{L}{2}\big((\pi/L)^2-1\big)$ は全段で一致した。(証明終)

観察 6.2 $y\equiv0$ はどの $L$ でも「=0」を満たす。それでも $L>\pi$ では最小点ではなく鞍点である。「変分が零だから最小」は偽である。

観察 6.3 変わり目は $L=\pi$ ちょうどである。そこはディリクレ条件の最小固有値 $\pi^2/L^2$ が $1$ を横切る場所である。論文235 は同じ $\pi^2$ に境界条件の側から到着した。本稿は変分の側から到着している。

観察 6.4 そして変分の「=0」が返すのは数でも点でもなく、関数一つである。しかもその関数が最小を与えるかどうかは、「=0」の外で決まる。論文227 が「等号は到達されるかを決めていない」と書いたのと同じ形である。

7. 分離子と柵

観察 7.1 (点呼) 

未知数の住所 解の集まり 種類
可換体 高々 $\deg$ 個の点 有限集合
非可換な多元体 単位純虚四元数の全体 球面(多様体)
有限体 $0$ 個か $2$ 個 法に依る有限集合
行列環 二径数の族 面(零因子がある)
線形微分作用素 階数と同じ次元 ベクトル空間
汎関数 停留する関数 関数一つ(最小とは限らない)

観察 7.2 (分離子) 六つを分けているのは未知数をどこに住まわせるかである。記号「=0」はそのどれとも書いていない。論文233 の $f’$、論文234 の $d(x,y)$、論文235 の $-u”$ と同じ形である。

観察 7.3 (柵) よく言われる三つの文には、それぞれ柵が省かれている。「$n$ 次方程式の解は高々 $n$ 個」、可換体の上で(第2節)。「$X^2=I$ なら $X=\pm I$」、零因子が無いところで(第4節)。「変分が零だから最小」、第二変分が正のときだけ(第6節)。三つとも、柵の外では偽ですらなく、空である。

8. 点呼と結び

本稿が測ったことを並べる。

  1. $x^2=-1$ が空・二点・球面(検算2.1・2.2):二万点、誤差 $1.11\times10^{-16}$。
  2. 同じ多項式が法によって $0$ 個か $2$ 個(検算3.1)。
  3. 行列解は二径数の面(検算4.1)。
  4. 解空間の次元が階数に等しい(検算5.1):ロンスキアン $1.000000000000$。
  5. 停留点が $L=\pi$ で鞍点に変わる(検算6.1):$+0.1449$ から $-0.3401$ へ。

結び:「解く」という言葉は、答が何個あるかを問うているように聞こえる。ところが同じ $x^2=-1$ が、空集合・二点・二次元球面という種類の違うものを返した。行列にすれば面になり、微分方程式にすればベクトル空間になり、汎関数にすれば関数が一つ返る。分けているのは未知数をどこに住まわせるかであり、記号「=0」はそれを書いていない。そして最後の一つがいちばん効く。変分の「=0」は停留を意味するだけで、最小を意味しない。$y\equiv0$ はどの $L$ でも停留点であり、$L>\pi$ では鞍点である。変わり目の $L=\pi$ は、論文235 が境界条件の側から測った $\pi^2$ と同じ数である。二つの道が、反対側から同じ柵に着いた。

参考文献

  1. Hamilton, W. R. (1844). On quaternions. Philosophical Magazine, 25.
  2. Gauss, C. F. (1801). Disquisitiones Arithmeticae. Leipzig: Fleischer.
  3. Gelfand, I. M., Fomin, S. V. (1963). Calculus of Variations. Englewood Cliffs: Prentice-Hall.
  4. Coddington, E. A., Levinson, N. (1955). Theory of Ordinary Differential Equations. New York: McGraw-Hill.
  5. Lang, S. (2002). Algebra, revised 3rd edition. New York: Springer.
  6. 山岸勇輝 (2026). 等号にも別根がある [論文16]. Zenodo. 10.5281/zenodo.21600471
  7. 山岸勇輝 (2026). 「構成できない」にも別根がある [論文179]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22098419
  8. 山岸勇輝 (2026). 同じ「$\le$」が、触れる壁と触れない壁を指している [論文227]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22123129
  9. 山岸勇輝 (2026). 「$\times$」は、倍にするたびに一つ法則を失う [論文231]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22126935
  10. 山岸勇輝 (2026). 「微分できる」は六つあり、そのうち二つは極限を取らない [論文233]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22127806
  11. 山岸勇輝 (2026). 「境界条件」は四つあり、方程式を一文字も変えずに固有値が全部動く [論文235]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22128989
  12. 山岸勇輝 (2026). 「距離」は六つあり、そのうち一つは三角不等式を逆に満たす [論文234]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22128226

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「同じ「=0」でも、解の集まりは五つの別の種類のものである」[論文236]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22129043

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引用するとき

山岸勇輝 (2026). 同じ「=0」でも、解の集まりは五つの別の種類のものである [論文236]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/236 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22129043

Yamagishi, Y. (2026). One and the Same “= 0” Returns Five Different Kinds of Collection [Paper 236]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/236; DOI: 10.5281/zenodo.22129043

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