【論文272】同じ「2 倍に感じる」が、刺激の側では 6.70 倍ひらく

要旨

「感覚が $2$ 倍になった」という一文は、刺激をどれだけ増やしたかを決めていない。本稿が問うのは、どれだけ幅があるのかである。答は、$6.70$ 倍である。そしてそもそも、二つの有名な法則は同じものを測っていない。新しい数学定理も新しい法則も主張しない。

第一に、必要な刺激比を数える。べき則 $S=kI^a$ のもとで、感覚を $2$ 倍にする刺激比は $2^{1/a}$ である(第2節)。

第二に、これが本稿の芯である。明るさ($a=0.33$)では $\mathbf{8.1698}$ 倍、電気ショック($a=3.50$)では $\mathbf{1.2190}$ 倍、同じ「$2$ 倍」が、刺激の側で $\mathbf{6.7020}$ 倍ひらく(第2節)。

第三に、長さだけがちょうど $2$ である。$a=1.00$ のとき $2^{1/1}=2$、素朴な期待が当たるのは一行だけである(第2節)。

第四に、もう一つの法則は別の形をしている。フェヒナーは $S=k\ln(I/I_0)$、対数である。べきと対数は、同じ現象から出た二つの別の形である(第3節)。

第五に、分けているのは操作である。フェヒナーは弁別閾を積み上げ(間接)、スティーヴンスは被験者に数を言わせる(直接)(第4節)。

第六に、どちらも「感覚の大きさ」を測ってはいない。ウェーバー比 $0.10$ で $2$ 倍にするには $\mathbf{7.2725}$ 段の弁別が要る。段を数えることと、数を言わせることは別の操作である(第4節)。

射程(何を示さないか)

新しい数学定理も新しい法則も主張しない。ウェーバーの法則、フェヒナーの対数則、スティーヴンスのべき則、それらの指数の代表値は、いずれも標準的である。心理学を作らない。使うのは一つの累乗と、一つの対数だけである。どちらの法則が正しいとも言わない。測っている操作が違うと書くだけであり、優劣を判定しない。指数の値を測定しない。$a$ の値はすべて引用の代表値である。研究によって幅があり、個人差もある。本稿が主張するのは並びの構造であって、個々の数値ではない。感覚の実在を論じない。「感覚の大きさ」が独立に観測できる量かどうかには立ち入らない。神経の機構を扱わない。受容器も符号化も扱わない。ウェーバーは別人と混同しない。既刊の英語版 `Weber` $3$ 件(論文$11$・$55$)はギラルディ=リミニ=ウェーバーの波束収縮模型であり、本稿の E. H. ウェーバーとは別人である。応用を論じない。音量の目盛りも、画面の輝度も扱わない。既刊との関係:論文190 は「稀」を対数の目盛りで測った。本稿は対数とべきが、同じ現象に二つ立つ場合を扱う。論文232 は同じ等号が四つの別の主張を書いていることを数えた。本稿は同じ「$2$ 倍」が刺激の側で $6.70$ 倍の幅を持つことを書く。論文201 は「完備」が四つの別の主張であることを数えた。同じ形の分け方である。論文255 は精度が二つあることを扱った。本稿も測る操作が答を決めるという同じ形に立つ。加えたのは$2^{1/a}$ を五つの感覚で計算して $6.7020$ 倍の幅を出したこと、長さだけが素朴な $2$ を返すと見たこと、ウェーバー比から $2$ 倍に要る弁別の段数を $7.2725$ と出したこと、二つの法則を「積み上げるか、言わせるか」という操作の差として書いたことである。

1. 記法と位置づけ

設定:刺激の強さを $I$、感じられる大きさを $S$ と書く。二つの有名な法則がある。

法則 形 測り方
フェヒナー($1860$) $S=k\ln(I/I_0)$ 弁別閾を積み上げる(間接)
スティーヴンス($1957$) $S=kI^{a}$ 被験者に数を言わせる(直接)

問い:「感覚が $2$ 倍になった」と言うとき、刺激はどれだけ増えたのか。

答は、一つに決まらない。感覚の種類によって $6.70$ 倍の幅があり、どちらの法則で測るかでも変わる。

注意:本稿の「ウェーバー」はE. H. ウェーバーである。既刊の $3$ 件はギラルディ=リミニ=ウェーバー模型であり、別人である。混同しない。

2. 芯:同じ「$2$ 倍」が $6.70$ 倍ひらく

設定:べき則 $S=kI^a$ のもとで、$S$ を $2$ 倍にするには $I$ を $2^{1/a}$ 倍にすればよい。

検算 2.1:代表的な指数で計算する。

感覚 指数 $a$ $2$ 倍に要る刺激比
明るさ $0.33$ $\mathbf{8.1698}$
音の大きさ $0.67$ $2.8138$
長さ $1.00$ $\mathbf{2.0000}$
重さ $1.45$ $1.6129$
電気ショック $3.50$ $\mathbf{1.2190}$

観察 2.2 最大と最小で $\mathbf{6.7020}$ 倍ひらく。同じ「$2$ 倍に感じる」という一語が、明るさでは $8$ 倍の光を、電気ショックでは $1.2$ 倍の電流を意味する。

観察 2.3 長さだけが $2.0000$ を返す。$a=1$ だからである。素朴な期待が当たるのは、この一行だけである。

観察 2.4 $a<1$ と $a>1$ で向きが逆になる。明るさや音は鈍る(大きな刺激比が要る)が、電気ショックは尖る(わずかな増加で $2$ 倍に感じる)。$a=1$ がその境目である。

観察 2.5 分離子、何を動かすと刺激比が変わるか。指数 $a$ だけである。$2$ 倍という目標も、法則の形も動かしていない。

3. もう一つの法則は、別の形をしている

観察 3.1 フェヒナーの形は対数である。$S=k\ln(I/I_0)$ では、$S$ を $2$ 倍にするには $I/I_0$ を二乗すればよい。基準 $I_0$ からどれだけ離れているかで、要る比が変わる。

検算 3.2:フェヒナー則で、$S$ を $2$ 倍にするのに要る刺激比を、出発点ごとに出す。

出発点 $I/I_0$ $2$ 倍後の $I/I_0$ 刺激比
$2$ $4$ $\mathbf{2.0000}$
$10$ $100$ $\mathbf{10.0000}$
$100$ $10000$ $\mathbf{100.0000}$

観察 3.3 フェヒナー則では、要る刺激比が出発点に依存する。べき則ではどこから出発しても同じ $2^{1/a}$である。二つの法則は、この一点で決定的に違う。

観察 3.4 したがって、両者はどちらかが近似で片方が正確という関係ではない。構造が違う。べき則には基準点が要らず、対数則には要る。

4. 分けているのは、操作である

観察 4.1 フェヒナーは、ウェーバーの法則(弁別閾が刺激に比例する)を積分して対数を得た。測っているのは「違いが分かる最小の変化」であって、感覚の大きさそのものではない。

検算 4.2:ウェーバー比 $0.10$ のとき、弁別を $n$ 段積み上げると刺激は $1.1^n$ 倍になる。

弁別の段数 $n$ 刺激の倍率 $1.1^n$
$1$ $1.1000$
$7$ $1.9487$
$10$ $2.5937$
$24$ $9.8497$

観察 4.3 刺激を $2$ 倍にするのに要る段数は $\ln2/\ln1.1=\mathbf{7.2725}$ 段である。フェヒナーはこの段数を感覚の大きさと同一視した。そこが仮定である。

観察 4.4 スティーヴンスは違う操作をした。被験者に「この音は前の音の何倍か」と数を言わせた。測っているのは数値の割り当てであって、これも感覚の大きさそのものではない。

観察 4.5 分離子、何を動かすと別の法則になるか。どの操作で測るかである。段を数えれば対数が出て、数を言わせればべきが出る。同じ人の同じ感覚を測っても、操作が違えば形が違う。

観察 4.6 正直に書くべき点、どちらも「感覚の大きさ」を直接には測っていない。感覚が独立に観測できる量かどうかには本稿は立ち入らない。分かるのは操作が違えば答が違うという一点だけである。

5. 点呼と結び

  1. 刺激比は $2^{1/a}$(第2節):べき則のもとで。
  2. 明るさで $8.1698$ 倍(検算2.1):$a=0.33$。
  3. 電気ショックで $1.2190$ 倍(検算2.1):$a=3.50$。
  4. 幅は $6.7020$ 倍(観察2.2):同じ「$2$ 倍」で。
  5. 長さだけが $2.0000$(観察2.3):$a=1$ の一行。
  6. $a=1$ が境目(観察2.4):鈍るか、尖るか。
  7. フェヒナーは出発点に依る(検算3.2):$2$、$10$、$100$ 倍。
  8. べき則には基準点が要らない(観察3.4):構造が違う。
  9. $2$ 倍に $7.2725$ 段(観察4.3):ウェーバー比 $0.10$ で。
  10. 分離子は操作(観察4.5):段を数えるか、数を言わせるか。

結び:「感覚が $2$ 倍になった」という一文は、刺激をどれだけ増やしたかを決めていなかった。明るさなら $\mathbf{8.1698}$ 倍、電気ショックなら $\mathbf{1.2190}$ 倍で、幅は $\mathbf{6.7020}$ 倍ある。素朴な $2$ が当たるのは、長さの一行だけである。さらに、法則が二つある。フェヒナーの対数則では要る刺激比が出発点に依存し、スティーヴンスのべき則では依存しない。構造が違うので、どちらかが他方の近似という関係ではない。そして二つを分けているのは測る操作であった。弁別を積み上げれば対数が出て、数を言わせればべきが出る。どちらも「感覚の大きさ」を直接には測っていない。分けるものは一つ、どの操作で測ったのかを書き出すこと。書き出せば、二つの法則が競合ではなく別の測り方であることが見える。書き出さなければ、$8.1698$ と $1.2190$ を同じ「$2$ 倍」として並べてしまう。

参考文献

  1. Fechner, G. T. (1860). Elemente der Psychophysik. Leipzig: Breitkopf und Haertel.
  2. Stevens, S. S. (1957). On the Psychophysical Law. Psychological Review, 64(3).
  3. Stevens, S. S. (1975). Psychophysics: Introduction to Its Perceptual, Neural, and Social Prospects. New York: Wiley.
  4. Weber, E. H. (1834). De Pulsu, Resorptione, Auditu et Tactu. Leipzig: Koehler.
  5. Gescheider, G. A. (1997). Psychophysics: The Fundamentals, 3rd edition. Mahwah: Lawrence Erlbaum.
  6. Luce, R. D. (2002). A Psychophysical Theory of Intensity Proportions, Joint Presentations, and Matches. Psychological Review, 109(3).
  7. 山岸勇輝 (2026). 「稀」は、対数の目盛りで測る [論文190]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22106182
  8. 山岸勇輝 (2026). 「完備」は四つの別の主張である [論文201]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22109052
  9. 山岸勇輝 (2026). 証明を落とした本から学ぶと、等号の身分も一緒に落ちる [論文232]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22127528
  10. 山岸勇輝 (2026). 「精度」は二つあり、較正で消えるのは一方だけ [論文255]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22168883

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「同じ「2 倍に感じる」が、刺激の側では 6.70 倍ひらく」[論文272]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22169965

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引用するとき

山岸勇輝 (2026). 同じ「2 倍に感じる」が、刺激の側では 6.70 倍ひらく [論文272]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/272 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22169965

Yamagishi, Y. (2026). One and the Same “Twice as Strong” Opens by a Factor of 6.70 on the Stimulus Side [Paper 272]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/272; DOI: 10.5281/zenodo.22169965

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