要旨
吸収線量も、等価線量も、実効線量も、単位はすべて $\mathrm{J/kg}$ である。本稿が問うのは、では同じ量なのかである。答は、全部別の量である。論文232 は同じ等号が四つの別の主張を書いていることを数えた。本稿は同じ単位が四つの別の量を書いていることを数える。新しい数学定理も新しい法則も主張しない。
第一に、単位を並べる。$\mathrm{Gy}=\mathrm{J/kg}$、$\mathrm{Sv}=\mathrm{J/kg}$、次元がまったく同じである(第2節)。
第二に、これが本稿の芯である。同じ $1$ Gy が、光子なら $\mathbf{1}$ Sv、陽子なら $\mathbf{2}$ Sv、アルファ線なら $\mathbf{20}$ Sv になる。$\mathbf{20}$ 倍の開きが、単位の上には現れない(第3節)。
第三に、その $20$ は測定値ではない。放射線加重係数 $w_R$ は国際委員会が決めた合意であり、実際に改訂されてきた(第4節)。
第四に、もう一段ある。組織加重係数 $w_T$ をかけて実効線量になる。赤色骨髄 $0.12$、生殖腺 $0.08$、皮膚 $0.01$ など、合計はちょうど $\mathbf{1.00}$ である(第5節)。
第五に、合計が $1$ なのも合意である。$15$ 個の係数が $1.00$ に足し合わさるのは、そう規約したからである(第5節)。
第六に、単位が同じでも、量が同じとは限らない。四つは何を掛けたかで区別される。単位はその履歴を一つも保存していない(第6節)。
射程(何を示さないか)
新しい数学定理も新しい法則も主張しない。吸収線量・等価線量・実効線量の定義、放射線加重係数と組織加重係数の値、それらが国際委員会の勧告であることは、いずれも標準的である。放射線防護を論じない。使うのは掛け算と、係数の足し算だけである。健康影響を評価しない。どの線量が危険かを一切述べない。本稿が扱うのは量の身分と単位の関係だけである。$w_R$ と $w_T$ の値の当否を論じない。委員会が決めた値を引くだけであり、生物学的な根拠を検討しない。線量の測定法を扱わない。線量計も校正も扱わない。疫学に立ち入らない。リスク係数も、しきい値の有無も扱わない。中性子の $w_R$ を一つの数で書かない。エネルギーに依存するので、範囲としてだけ示す。グレイボディと混同しない。既刊の「グレイ」$5$ 件(論文$43$・$52$)はグレイボディ因子であり、単位のグレイとは別物である。既刊との関係:論文232 は同じ等号が四つの別の主張を書いていることを数えた。本稿はその単位版であり、同じ $\mathrm{J/kg}$ が四つの別の量を書いていることを数える。論文240 は「質量」が七つあることを数えた。同じ形の点呼である。論文255 は「精度」が二つあることを扱った。本稿も一語(一単位)が複数を指す型に立つ。論文201 は「完備」が四つの別の主張であることを数えた。同じ形である。論文190 は「稀」を対数の目盛りで測った。本稿は倍率で書く。加えたのは同じ $1$ Gy が $1$・$2$・$20$ Sv になることを並べたこと、$20$ 倍の開きが単位に現れないと書いたこと、組織加重係数を数え上げて合計が $1.00$ になることを確かめたこと、四つの量を「何を掛けたか」で区別する表を作ったことである。
1. 記法と位置づけ
設定:放射線の量を三段で書く。
第一段(吸収線量 $D$):単位質量あたりに与えられたエネルギー。単位は $\mathrm{Gy}=\mathrm{J/kg}$。
第二段(等価線量 $H$):$H=\sum_R w_R D_R$。単位は $\mathrm{Sv}=\mathrm{J/kg}$。
第三段(実効線量 $E$):$E=\sum_T w_T H_T$。単位は $\mathrm{Sv}=\mathrm{J/kg}$。
問い:単位が全部同じなら、同じ量なのか。
答は、全部別の量である。単位は、掛けた係数の履歴を一つも保存していない。
注意:本稿の「グレイ」は単位である。既刊の $5$ 件はグレイボディ因子であり、別物である。混同しない。
2. 単位を並べる
検算 2.1:三つの量の次元を書き出す。
| 量 | 記号 | 単位 | 次元 |
|---|---|---|---|
| 吸収線量 | $D$ | $\mathrm{Gy}$ | $\mathbf{\mathrm{J/kg}}$ |
| 等価線量 | $H$ | $\mathrm{Sv}$ | $\mathbf{\mathrm{J/kg}}$ |
| 実効線量 | $E$ | $\mathrm{Sv}$ | $\mathbf{\mathrm{J/kg}}$ |
観察 2.2 三つとも $\mathrm{J/kg}$ である。次元解析では一つも区別できない。$w_R$ も $w_T$ も無次元だからである。
観察 2.3 単位が二つ用意されている(Gy と Sv)のは、次元では分けられないものを名前で分けるためである。そして Sv の中はさらに二つに分かれている。名前が足りていない。
3. 芯:同じ $1$ Gy が $1$ Sv にも $20$ Sv にもなる
設定:放射線加重係数 $w_R$ は、放射線の種類ごとに決まっている。
検算 3.1:$1$ Gy を吸収したとき、等価線量が何 Sv になるかを並べる。
| 放射線 | $w_R$ | $1$ Gy が何 Sv か |
|---|---|---|
| 光子(X線・ガンマ線) | $1$ | $\mathbf{1}$ Sv |
| 電子・ミュー粒子 | $1$ | $1$ Sv |
| 陽子 | $2$ | $2$ Sv |
| 中性子 | エネルギー依存(およそ $2.5$〜$20$) | $2.5$〜$20$ Sv |
| アルファ線・重イオン | $20$ | $\mathbf{20}$ Sv |
観察 3.2 同じ $1$ $\mathrm{J/kg}$ が、$1$ Sv にも $\mathbf{20}$ Sv にもなる。$\mathbf{20}$ 倍の開きがあるのに、単位の上には何も現れない。
観察 3.3 分離子、何を動かすと値が変わるか。放射線の種類である。吸収したエネルギーも、質量も、一つも動かしていない。動かしたのは掛ける係数だけである。
観察 3.4 中性子だけ一つの数で書けない。エネルギーに依存するので関数である。同じ表の中に、定数と関数が混在している。
4. その係数は、測定値ではない
観察 4.1 $w_R$ は測って出た数ではない。国際放射線防護委員会(ICRP)が勧告として決めた値である。生物学的効果の知見を踏まえた合意である。
検算 4.2:合意である証拠は、改訂されてきたという事実そのものである。
| 性質 | 測定値なら | 合意なら |
|---|---|---|
| 値が変わる理由 | 測り直したから | 勧告が改訂されたから |
| 不確かさの書き方 | 誤差として | 書かれない |
| $w_R$ の実際 | 、 | 改訂されてきた |
観察 4.3 $w_R$ には誤差が付いていない。測定値なら必ず付くものが、付いていない。これが合意であることの、書式上の証拠である。
観察 4.4 したがって $20$ という数は、物理定数ではない。陽子の $2$ も同じである。同じ表の中に、物理量($D$)と規約($w_R$)が並んでいる。
5. もう一段:組織加重係数
検算 5.1:組織加重係数 $w_T$ を数え上げる。
| 組織 | $w_T$ |
|---|---|
| 赤色骨髄・結腸・肺・胃・乳房 | 各 $0.12$($5$ 組織で $0.60$) |
| 生殖腺 | $0.08$ |
| 膀胱・肝臓・食道・甲状腺 | 各 $0.04$($4$ 組織で $0.16$) |
| 骨表面・脳・唾液腺・皮膚 | 各 $0.01$($4$ 組織で $0.04$) |
| 残りの組織 | $0.12$ |
| 合計 | $\mathbf{1.00}$ |
観察 5.2 $15$ 個の係数が、ちょうど $\mathbf{1.00}$ に足し合わさる。これは偶然ではない。全身が均一に照射されたとき $E=H$ になるように、そう規約したからである。
観察 5.3 つまり合計が $1$ であることも規約であって、測定の結果ではない。論文232 が数えた「等号の身分」と同じ構図で、$=1$ は定義の等号である。
観察 5.4 正直に書くべき点、$w_T$ の値は勧告ごとに変わっている。本稿が挙げたのは一つの版の値であり、恒久的な定数ではない。
6. 単位が同じでも、量が同じとは限らない
検算 6.1:四つの量を、何を掛けたかで区別する。
| 量 | 掛けたもの | 単位 | 身分 |
|---|---|---|---|
| エネルギー/質量 | 、 | $\mathrm{J/kg}$ | 物理量 |
| 吸収線量 $D$ | なし | $\mathrm{Gy}$ | 物理量 |
| 等価線量 $H$ | $w_R$(規約) | $\mathrm{Sv}$ | 物理量 $\times$ 規約 |
| 実効線量 $E$ | $w_R$ と $w_T$(規約) | $\mathrm{Sv}$ | 物理量 $\times$ 規約 $\times$ 規約 |
観察 6.2 下へ行くほど規約が積み重なる。それでも単位は $\mathrm{J/kg}$ のまま変わらない。単位は、掛けた規約の履歴を一つも保存していない。
観察 6.3 分離子、何を動かすと別の量になるか。無次元の係数を掛けたかどうかである。無次元だから単位は動かず、量は動く。
観察 6.4 論文232 は同じ等号が四つの別の主張を書いていることを数えた。本稿は同じ単位が四つの別の量を書いていることを数える。記号が身分を保存しないという、同じ形である。
7. 点呼と結び
- 三つとも $\mathrm{J/kg}$(検算2.1):次元では区別できない。
- 名前が足りていない(観察2.3):Sv の中がさらに二つ。
- $1$ Gy が $1$ Sv にも $20$ Sv にも(検算3.1):$20$ 倍の開き。
- 中性子だけ関数(観察3.4):定数と関数が混在。
- $w_R$ に誤差が付いていない(観察4.3):合意である書式上の証拠。
- 改訂されてきた(検算4.2):物理定数ではない。
- $w_T$ の合計は $1.00$(検算5.1):$15$ 個ちょうど。
- $=1$ は定義の等号(観察5.3):測定の結果ではない。
- 規約が積み重なる(検算6.1):単位は変わらない。
結び:吸収線量も、等価線量も、実効線量も、単位はすべて $\mathrm{J/kg}$ であった。それでも全部別の量である。同じ $1$ Gy が、光子なら $\mathbf{1}$ Sv、アルファ線なら $\mathbf{20}$ Sv になり、$20$ 倍の開きが単位の上には現れない。そしてその $20$ は測定値ではなく合意である。誤差が付いておらず、実際に改訂されてきた。組織加重係数 $15$ 個の合計が $\mathbf{1.00}$ になるのも、そう規約したからであって、測って出た数ではない。論文232 は同じ等号が四つの別の主張を書いていることを数えた。本稿はその単位版で、記号が身分を保存しないという同じ形である。分けるものは一つ、何を掛けたのかを書き出すこと。書き出せば、物理量と規約が分かれる。書き出さなければ、$1$ と $20$ を同じ $\mathrm{J/kg}$ として足してしまう。
参考文献
- ICRP (2007). The 2007 Recommendations of the International Commission on Radiological Protection, ICRP Publication 103. Annals of the ICRP, 37(2–4).
- ICRU (2011). Fundamental Quantities and Units for Ionizing Radiation, ICRU Report 85. Journal of the ICRU, 11(1).
- Attix, F. H. (1986). Introduction to Radiological Physics and Radiation Dosimetry. New York: Wiley.
- Podgorsak, E. B. (2010). Radiation Physics for Medical Physicists, 2nd edition. Berlin: Springer.
- BIPM (2019). The International System of Units (SI), 9th edition. Sevres: Bureau International des Poids et Mesures.
- 山岸勇輝 (2026). 「稀」は、対数の目盛りで測る [論文190]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22106182
- 山岸勇輝 (2026). 「完備」は四つの別の主張である [論文201]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22109052
- 山岸勇輝 (2026). 証明を落とした本から学ぶと、等号の身分も一緒に落ちる [論文232]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22127528
- 山岸勇輝 (2026). 「質量」は七つあり、そのうち一つは負になり、一つは押す向きで変わる [論文240]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22129765
- 山岸勇輝 (2026). 「精度」は二つあり、較正で消えるのは一方だけ [論文255]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22168883
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書誌
山岸勇輝(2026)「同じ J/kg で書かれた、四つの別の量」[論文273]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22169983
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引用するとき
山岸勇輝 (2026). 同じ J/kg で書かれた、四つの別の量 [論文273]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/273 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22169983
Yamagishi, Y. (2026). Four Different Quantities, All Written in J/kg [Paper 273]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/273; DOI: 10.5281/zenodo.22169983
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