【論文271】平均場は次元を見ないが、外れ方は次元だけで決まる

要旨

平均場近似は、どの次元でも相転移を予言する。本稿が問うのは、その外れ方が何で決まるかである。答は、次元だけである。近似の中に次元は入っていないのに、外れる量は次元だけの関数になっている。新しい数学定理も新しい法則も主張しない。

第一に、一次元で無限に外す。厳密には $T_c=0$(相転移しない)なのに、平均場は $kT_c/J=\mathbf{2}$ と言う。比は定義できない(第2節)。

第二に、これが本稿の芯である。二次元の厳密解(オンサーガー)は $kT_c/J=\mathbf{2.269185}$、平均場は $\mathbf{4}$、$\mathbf{76.27\%}$ 過大である(第3節)。

第三に、次元を上げると外れ方が縮む。三次元で $\mathbf{32.99\%}$、四次元で $\mathbf{19.76\%}$、単調に減る(第3節)。

第四に、しかし決してゼロにならない。比は $1.76275\to1.32993\to1.19755$ と $1$ に近づくが、$d$ が有限である限り $1$ にはならない(第4節)。

第五に、指数のほうは $d\ge4$ で厳密になる。上部臨界次元を超えると臨界指数は平均場の値と一致する。同じ近似が、一方では正確になり、他方では最後まで外れる(第5節)。

第六に、連続対称性ではもっと悪い。マーミン=ワグナーにより $d\le2$ では自発的破れが起きないのに、平均場はすべての次元で起きると言う(第6節)。

射程(何を示さないか)

新しい数学定理も新しい法則も主張しない。平均場近似、オンサーガーの厳密解、上部臨界次元が $4$ であること、マーミン=ワグナーの定理は、いずれも標準的である。統計力学を作らない。使うのは一つの比と、四つの値の突き合わせだけである。厳密解を導かない。オンサーガーの $2/\ln(1+\sqrt2)$ は引用であり、三次元と四次元の値は数値計算による推定である。くりこみ群に立ち入らない。論文117 と120 が扱う。本稿は外れ方の大きさを並べるだけである。臨界指数を計算しない。論文117 が平均場を「素朴な次元勘定で $\eta=0$ を与えるもの」として扱い、上部臨界次元 $4$ を結合定数の冪勘定から書いている。本稿はその指数の話に入らず、$T_c$ の値だけを見る。極限の順序を扱わない。論文245 はキュリー=ワイス模型で極限の順序を扱い、臨界指数もくりこみ群も扱わないと明記している。本稿は順序ではなく、外れ方の大きさである。マーミン=ワグナーを証明しない。結論を引くだけである。既刊のマーミン $8$ 件(論文$11$・$41$・$185$)は量子測定と欠陥の分類であり、同じ人の別の仕事である。パーコレーションの上部臨界次元と混同しない。論文264 の $6$ はパーコレーションのもので、本稿の $4$ はイジングのものである。既刊との関係:論文117 はスケール不変性が四通りに指数を選ぶことを分けた。本稿は指数ではなく転移温度を見る。論文120 は次元解析が二通りに破れることを示した。本稿は破れの大きさを次元ごとに数える。論文245 は二つの極限が順序を書くまで答を持たないことを示した。本稿は同じ平均場模型を、順序ではなく精度の側から見る。論文264 は閾値が格子の持ち物で指数が次元の持ち物だと書いた。本稿は$T_c$ と指数で、次元への従い方が違うことを書く。同じ形の分け方である。論文190 は「稀」を対数の目盛りで測った。本稿は百分率と比で書く。加えたのは外れ方を $76.27\%$・$32.99\%$・$19.76\%$ と次元ごとに数えたこと、一次元では比が定義できないと書いたこと、$1$ に近づくが到達しないことを $1.76275\to1.19755$ と並べたこと、指数は $d\ge4$ で厳密になるのに $T_c$ は決してならないという非対称を書いたことである。

1. 記法と位置づけ

設定:イジング模型を考える。各格子点にスピン $\pm1$ を置き、隣り合うスピンの積に $-J$ を掛けて足す。$d$ 次元の単純立方格子では、隣の数(配位数)は $z=2d$ である。

平均場近似:一つのスピンが感じる場を、周りの平均で置き換える。そうすると転移温度は $kT_c/J=z=2d$ になる。隣の数しか見ていない。

問い:この近似は、どれだけ外れるのか。

答は、次元だけで決まる。近似の中に「次元」は入っていない。入っているのは配位数だけである。それでも外れ方は次元の関数になる。

注意:本稿の「マーミン」はマーミン=ワグナーの定理である。既刊の $8$ 件は量子測定と欠陥の分類であり、同じ人の別の仕事である。混同しない。

2. 一次元では、無限に外す

検算 2.1:一次元イジング鎖を厳密に解くと、有限の温度では磁化が立たない。

$kT_c/J$
厳密(一次元) $\mathbf{0}$(相転移しない)
平均場($z=2$) $\mathbf{2}$
比 定義できない

観察 2.2 これは「精度が悪い」ではない。無いものを有ると言っている。百分率で書けない種類の誤りである。

観察 2.3 理由は一行で言える。一次元では、一箇所を反転させる代価が有限なので、どんなに低い温度でも秩序が壊れる。平均場はこの「一箇所」を見ていない。

3. 芯:外れ方を次元ごとに数える

検算 3.1:二次元の厳密解はオンサーガー($1944$)が与えた。$kT_c/J=2/\ln(1+\sqrt2)$ である。

次元 $d$ 配位数 $z=2d$ 平均場 厳密(または数値) 過大の割合
$1$ $2$ $2.0000$ $0.000000$ 定義できない
$2$ $4$ $4.0000$ $\mathbf{2.269185}$ $\mathbf{76.27\%}$
$3$ $6$ $6.0000$ $4.511500$ $\mathbf{32.99\%}$
$4$ $8$ $8.0000$ $6.680300$ $\mathbf{19.76\%}$

観察 3.2 外れ方が単調に縮む。$76.27\to32.99\to19.76$ パーセント、次元を上げるほど平均場が当たるようになる。

観察 3.3 分離子、何を動かすと外れ方が変わるか。次元だけである。結合の強さも、格子の形も、スピンの大きさも動かしていない。そして平均場の式には次元が入っていないのに、外れ方は次元の関数になっている。

観察 3.4 理由は、平均場がゆらぎを一切見ないことである。次元が高いほど隣が多く、ゆらぎが平均されて小さくなる。近似が良くなるのは、近似が正しくなるからではなく、無視したものが小さくなるからである。

4. しかし、決してゼロにならない

検算 4.1:比(平均場を厳密で割ったもの)を並べる。

次元 $d$ 平均場/厳密
$2$ $\mathbf{1.76275}$
$3$ $\mathbf{1.32993}$
$4$ $\mathbf{1.19755}$
$d\to\infty$ $1$(極限でのみ)

観察 4.2 $1$ に近づくが、有限の $d$ では届かない。平均場が $T_c$ について厳密になるのは無限次元だけである。現実の次元では、どこまで行っても外れている。

観察 4.3 これは第3節の $76.27\%$ という数と、同じことを別の書き方で言っている。どちらも「近づくが到達しない」を表している。

5. 指数は $d\ge4$ で厳密になるのに、$T_c$ は決してならない

観察 5.1 上部臨界次元は $4$ である。$d\ge4$ では、臨界指数が平均場の値と一致する(対数補正を除く)。

検算 5.2:二つの量を、次元への従い方で並べる。

量 $d\ge4$ で $d\to\infty$ で
臨界指数 厳密になる 厳密
転移温度 $T_c$ まだ $19.76\%$ 外れる そこで初めて厳密

観察 5.3 同じ一つの近似が、一方では有限の次元で正確になり、他方では最後まで外れる。「平均場が正しくなる次元」という一語が、二つの別のことを指している。指数について言うなら $4$、$T_c$ について言うなら無限である。

観察 5.4 論文117 は指数の側を扱った。$\eta=0$ を与える素朴な次元勘定として平均場を置き、上部臨界次元 $4$ を結合定数の冪勘定から書いている。本稿は$T_c$ の側であり、その二つの側で答が違うことが本節の内容である。

観察 5.5 論文264 は、パーコレーションで閾値が格子の持ち物、指数が次元の持ち物だと書いた。本稿はイジングで$T_c$ と指数の次元への従い方が違うと書く。同じ形の分け方が、別の現象にも現れている。

6. 連続対称性では、もっと悪い

観察 6.1 イジングのスピンは $\pm1$ の二値、すなわち離散である。連続に回せるスピン(ハイゼンベルクやXY模型)にすると、話が変わる。

検算 6.2:マーミン=ワグナーの定理が言うことを、平均場の予言と並べる。

次元 連続対称性の自発的破れ 平均場は
$d=1$ 起きない 起きると言う
$d=2$ 起きない 起きると言う
$d=3$ 起きる 起きると言う

観察 6.3 離散対称性(イジング)では二次元で秩序が立つのに、連続対称性では立たない。平均場はこの区別を一つも見ていない。どちらでも同じ答を返す。

観察 6.4 したがって「平均場がどれだけ外れるか」は、次元だけでなく対称性の型にも依る。第3節の表は離散対称性の場合であり、連続対称性ではもっと悪い。正直に書くべき点である。

7. 点呼と結び

  1. 一次元で無限に外す(検算2.1):厳密は $0$、平均場は $2$。
  2. 百分率で書けない誤り(観察2.2):無いものを有ると言っている。
  3. 二次元で $76.27\%$ 過大(検算3.1):$4$ 対 $2.269185$。
  4. 三次元で $32.99\%$、四次元で $19.76\%$(検算3.1):単調に縮む。
  5. 分離子は次元だけ(観察3.3):式には次元が入っていない。
  6. $1$ に近づくが到達しない(検算4.1):$1.76275\to1.19755$。
  7. 指数は $d\ge4$ で厳密(検算5.2):$T_c$ は無限次元でのみ。
  8. 二つの側で答が違う(観察5.3):$4$ と、無限。
  9. 連続対称性ではもっと悪い(検算6.2):$d\le2$ で起きないのに起きると言う。

結び:平均場近似の式には、次元が一度も現れない。現れるのは配位数 $z$ だけである。それでも外れ方は次元だけの関数になっていた。一次元では無いものを有ると言い、二次元では $\mathbf{76.27\%}$ 過大、三次元で $32.99\%$、四次元で $19.76\%$、単調に縮むが、有限の次元では決してゼロにならない。そして臨界指数のほうは $d\ge4$ で厳密になる。同じ一つの近似が、一方では有限の次元で正確になり、他方では無限次元でしか正確にならない。さらに連続対称性では、$d\le2$ で秩序が立たないのに立つと言う。分けるものは一つ、何について「平均場が正しくなる」と言っているのかを書き出すこと。書き出せば、$4$ という数が指数の話で、$T_c$ の話ではないことが分かる。書き出さなければ、四次元で平均場が完全に正しくなったと読んでしまう。

参考文献

  1. Onsager, L. (1944). Crystal Statistics I: A Two-Dimensional Model with an Order-Disorder Transition. Physical Review, 65(3).
  2. Mermin, N. D. and Wagner, H. (1966). Absence of Ferromagnetism or Antiferromagnetism in One- or Two-Dimensional Isotropic Heisenberg Models. Physical Review Letters, 17(22).
  3. Ising, E. (1925). Beitrag zur Theorie des Ferromagnetismus. Zeitschrift fuer Physik, 31(1).
  4. Goldenfeld, N. (1992). Lectures on Phase Transitions and the Renormalization Group. Reading: Addison-Wesley.
  5. Baxter, R. J. (1982). Exactly Solved Models in Statistical Mechanics. London: Academic Press.
  6. Ferrenberg, A. M., Xu, J. and Landau, D. P. (2018). Pushing the Limits of Monte Carlo Simulations for the Three-Dimensional Ising Model. Physical Review E, 97(4).
  7. 山岸勇輝 (2026). スケール不変性は、四通りに指数を選ぶ [論文117]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22005515
  8. 山岸勇輝 (2026). 次元解析は、二通りに破れる [論文120]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22036433
  9. 山岸勇輝 (2026). 「稀」は、対数の目盛りで測る [論文190]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22106182
  10. 山岸勇輝 (2026). 二つの極限は、順序を書くまで答を持たない [論文245]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22159739
  11. 山岸勇輝 (2026). 同じ現象の中に、格子で変わる数と変わらない数が同居している [論文264]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22169720

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「平均場は次元を見ないが、外れ方は次元だけで決まる」[論文271]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22169925

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引用するとき

山岸勇輝 (2026). 平均場は次元を見ないが、外れ方は次元だけで決まる [論文271]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/271 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22169925

Yamagishi, Y. (2026). Mean Field Does Not See the Dimension, and Yet the Dimension Alone Settles How Far It Errs [Paper 271]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/271; DOI: 10.5281/zenodo.22169925

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