【論文303】公式は 4 を返すが、その一点だけ証明が効かない

要旨

ヒーウッドの公式 $\chi(g)=\lfloor(7+\sqrt{1+48g})/2\rfloor$ は、種数 $g$ の曲面の彩色数を与える。$g=0$ を入れると $\mathbf{4}$ が出る。四色定理の値そのものである。本稿が問うのは、ではそれは四色定理の証明かである。答は、違うである。新しい数学定理も新しい法則も主張しない。

第一に、公式は $g=0$ で正しい値を返す。$(7+\sqrt1)/2=4.000000$、床関数で $\mathbf{4}$ である(第2節)。

第二に、これが本稿の芯である。$g\ge1$ では定理だが、$g=0$ では証明が効かない。ヒーウッドの論法はその一点だけを落とす(第3節)。

第三に、$78$ 年の差がついた。$g=1$ は $1890$ 年、$g\ge1$ 全体は $1968$ 年に決着し、$g=0$ は $1976$ 年である(第4節)。

第四に、最も単純な曲面が最後に残った。しかも$1936$ 個の可約配置を計算機で検査してようやく片づいた(第4節)。

第五に、向き付け不可能な側にも例外が一つある。クラインの壺で公式は $7$ を返すが、実際は $\mathbf{6}$ である(第5節)。

第六に、分離子は「値が正しいこと」と「証明が届くこと」である(第6節)。

射程(何を示さないか)

新しい数学定理も新しい法則も主張しない。ヒーウッドの公式、リンゲル=ヤングスの定理、四色定理、フランクリンの例外は、いずれも標準的である。位相幾何学を作らない。使うのは一つの平方根と、一つの床関数だけである。四色定理を証明しない。アッペル=ハーケンの証明にも、その後の簡略化にも立ち入らない。ヒーウッドの論法を再現しない。オイラーの公式からの上界の導出は引くだけである。可約配置の個数を主張しない。$1936$ は$1976$ 年版の数であり、$1997$ 年のロバートソンらの証明では $633$に減っている。本稿の主張は「人が読み通せない量である」ことであって、個数そのものではない。計算機による証明の当否を論じない。受け入れるべきかどうかは扱わない。$2005$ 年に Coq で形式化されたことだけを記録する。向き付け不可能曲面を主要な対象にしない。第5節のクラインの壺は例外が存在することを示すために置いた。向き付け不可能曲面の彩色を体系的には扱わない。既刊との関係:論文302 は「必ず現れる」が「いつ現れる」を教えないことを扱った。本稿は値は分かっているのに証明が届かない場合であり、隔たりの向きが逆である。論文163 は「良い符号が在る」と「これが良い符号だ」を分けた。本稿は「値はこれだ」と「なぜそうか」を分ける。論文179 は「構成できない」に別根があると示した。本稿の $g=0$ は一つの論法が届かないだけであり、別の論法が届いた。論文112 は「同じ韻を踏む六つの別根」を数えた。本稿の $g=0$ と $g\ge1$ は同じ公式の値を共有しながら、根拠が別である。加えたのは公式が $g=0$ で $4.000000$ を返すと確かめたこと、$g\ge1$ と $g=0$ の決着年に $78$ 年の差があると測ったこと、最も単純な曲面が最後に残ったという順序の逆転を記録したこと、分離子を「値の正しさ」と「証明の到達」に置いたことである。

1. 記法と問い

設定:種数 $g$ の向き付け可能閉曲面の上に描いたどんな地図も、$\chi(g)$ 色で塗り分けられる。ヒーウッド($1890$)はこれを与えた。

$$\chi(g)=\left\lfloor\frac{7+\sqrt{1+48g}}{2}\right\rfloor$$

問い:$g=0$(球面、すなわち平面)を入れると何が出るか。そして、それは四色定理の証明になっているか。

観察 1.1 答の前半は「$4$ が出る」である。後半は「なっていない」である。本稿はこの隔たりを扱う。

2. 公式は $g=0$ で $4$ を返す

検算 2.1:

種数 $g$ $(7+\sqrt{1+48g})/2$ $\chi(g)$ 曲面
$\mathbf{0}$ $\mathbf{4.000000}$ $\mathbf{4}$ 球面
$1$ $7.000000$ $7$ トーラス
$2$ $8.424429$ $8$ 二重トーラス
$3$ $9.520797$ $9$ 三重トーラス
$4$ $10.446222$ $10$
$5$ $11.262087$ $11$
$6$ $12.000000$ $12$
$7$ $12.678780$ $12$
$10$ $14.465856$ $14$

観察 2.2 $g=0$ で $1+48\cdot0=1$、$\sqrt1=1$、$(7+1)/2=4.000000$ である。床関数を取るまでもなくちょうど $4$、四色定理の値そのものである。

観察 2.3 $g=6$ と $g=7$ がどちらも $12$ になることに注意する。床関数が同じ値へ潰す。種数が増えても彩色数が増えない段がある。

観察 2.4 値を見るかぎり、$g=0$ は数列の自然な最初の項に見える。$4,7,8,9,10,11,12,\dots$ と並び、切れ目が無い。切れ目は値の側ではなく、証明の側にある。

3. 芯:$g\ge1$ では定理、$g=0$ では証明が効かない

観察 3.1 ヒーウッドが $1890$ 年に示したのは上界である。「$\chi(g)$ 色あれば足りる」。オイラーの公式から平均次数を評価する論法で、$g\ge1$ について通る。

観察 3.2 下限(その色数が実際に必要な地図がある)は、リンゲルとヤングスが $1968$ 年に完成させた。これで$g\ge1$ については公式が定理になった。

観察 3.3 これが本稿の芯である。$g=0$ だけ、ヒーウッドの論法が上界 $4$ を与えない。同じ論法は $g=0$ で$5$ 色までしか下げられない(五色定理)。

検算 3.4:どこまで届いたかを並べる。

ヒーウッドの論法が与える上界 真の値
$g\ge1$ $\chi(g)$(公式どおり) $\chi(g)$(一致)
$g=0$ $\mathbf{5}$(五色定理) $\mathbf{4}$(一致しない)

観察 3.5 差はたった $1$である。$5$ 色までは同じ論法で行けるのに、最後の $1$ が落ちない。そしてその $1$ に $86$ 年かかった($1890$ から $1976$)。

観察 3.6 したがって公式の身分は二つに割れている。

公式 $\chi(g)$ の身分
$g\ge1$ 定理(上界も下限も証明済み)
$g=0$ 正しい値を返す式(別の証明で確かめられた)

観察 3.7 同じ一本の式が、一点だけ身分を変える。論文16 が「等号にも別根がある」と書いたのと同じ構図が、一つの関数の定義域の中で起きている。

4. $78$ 年の差、最も単純な曲面が最後に残った

検算 4.1:

曲面 彩色数 決着 方法
トーラス $g=1$ $7$ $\mathbf{1890}$(ヒーウッド) 手で
$g=2$ $8$ $1968$(リンゲル=ヤングス) 手で
$g\ge1$ すべて 公式 $\mathbf{1968}$ 手で
球面 $g=0$ $\mathbf{4}$ $\mathbf{1976}$(アッペル=ハーケン) 計算機

観察 4.2 最も単純な曲面が、最後に片づいた。トーラスの決着($1890$)から球面の決着($1976$)まで$\mathbf{86}$ 年、$g\ge1$ 全体の決着($1968$)からでも$8$ 年、難しさの順序が、単純さの順序と逆になっている。

観察 4.3 理由は余裕の量である。種数が大きいほどオイラー標数の余裕が大きく、平均次数の評価が効く。球面は最も余裕が無いので、最も効かない。

検算 4.4:そして片づけ方も違った。

量 値
アッペル=ハーケンが検査した可約配置($1976$) $\mathbf{1936}$ 個
ロバートソンらの簡略化($1997$) $633$ 個
Coq による形式化(ゴンティエ) $2005$ 年

観察 4.5 $1936$ 個の配置を人が全部読み通すのは事実上不可能である。$1997$ 年に $633$ 個まで減っても、まだ読み通せない。$2005$ 年に機械が検証して、ようやく「誰かが全部見た」状態になった。

観察 4.6 正直に書くべき点、本稿は計算機による証明の当否を論じない。記録するのは$g\ge1$ は手で片づき、$g=0$ は手では片づかなかったという事実だけである。

5. 向き付け不可能な側にも、例外が一つある

設定:向き付け不可能な曲面についても、対応する公式がある。

検算 5.1:

曲面 公式が返す値 実際
射影平面 $6$ $6$(一致)
クラインの壺 $\mathbf{7}$ $\mathbf{6}$(一致しない)
それ以外 公式どおり 一致

観察 5.2 クラインの壺が唯一の例外である(フランクリン、$1934$)。公式は $7$ を返すが、$6$ 色で足りる。ここでは値そのものが間違っている。

観察 5.3 したがって隔たりは二種類ある。

値 証明
$g=0$(球面) 正しい 届かない
クラインの壺 間違っている 。

観察 5.4 二つは別の壊れ方である。球面では公式が当たっているのに理由が言えず、クラインの壺ではそもそも外れている。「公式が成り立たない」という一語が、二つを覆っている。

6. 分離子:値が正しいことと、証明が届くこと

観察 6.1 分離子、何を動かすと、$g=0$ が $g\ge1$ と同じ身分になるか。論法である。曲面を動かす必要も、公式を直す必要もない。別の論法(可約配置の検査)を持ってくれば、値はそのままで身分が変わる。

観察 6.2 論文302 は「必ず現れる」が「いつ現れる」を教えないことを扱った。本稿は隔たりの向きが逆である。あちらは値が分からず、こちらは値が分かっていて理由が言えなかった。

存在 値
論文302(ラムゼー) 分かる 分からない
本稿($g=0$、$1890$–$1976$) 分かる 分かる(が理由が言えない)

観察 6.3 したがって三つ目の欄が要る。根拠。論文163 は「存在」と「構成」を分け、論文302 は「存在」と「定量」を分けた。本稿は「値」と「根拠」を分ける。

観察 6.4 そして値が正しくても、根拠が別の場所から来ることがある。$g=0$ の $4$ は、ヒーウッドの公式が正しく予言したのではなく、別の証明が同じ数に到達したのである。公式は $g=0$ で「当たっている」だけである。

観察 6.5 正直に書くべき点、$g=0$ で公式が「たまたま」当たっているとは言わない。$4$ が出るのはオイラー標数の同じ評価からであり、無関係ではない。言えるのは、その評価が $g=0$ では最後の一歩に届かないということだけである。

7. 点呼と結び

  1. $g=0$ で $4.000000$(検算2.1):床関数を取るまでもない。
  2. $g=6$ と $g=7$ が同じ $12$(観察2.3):床関数が潰す。
  3. $g=0$ の上界は $5$ 止まり(検算3.4):差はたった $1$。
  4. その $1$ に $86$ 年(観察3.5):$1890$ から $1976$。
  5. $g\ge1$ の決着は $1968$(検算4.1):手で。
  6. $g=0$ の決着は $1976$(検算4.1):計算機で。
  7. 可約配置 $1936$ 個(検算4.4):$1997$ 年に $633$ 個。
  8. 形式化は $2005$ 年(検算4.4):機械が全部を見た。
  9. クラインの壺は $7$ 対 $6$(検算5.1):唯一の例外。
  10. 壊れ方が二種類(観察5.4):値か、根拠か。

結び:ヒーウッドの公式に $g=0$ を入れると $\mathbf{4.000000}$ が出る。四色定理の値そのものである。だがそれは四色定理の証明ではない。同じ論法は $g\ge1$ では上界も下限も与えて定理になるのに、$g=0$ では $5$ 色までしか下げられない。差はたった $\mathbf{1}$ であり、その $1$ に $\mathbf{86}$ 年かかった。そして順序が逆転した。トーラスは $1890$ 年に手で、$g\ge1$ 全体は $1968$ 年に手で片づき、最も単純な球面だけが $1976$ 年に計算機で片づいた。$\mathbf{1936}$ 個の可約配置は人が読み通せず、$1997$ 年に $633$ 個へ減っても読み通せず、$2005$ 年に機械が検証してようやく「誰かが全部見た」状態になった。分けるものは一つ、値が正しいことと、その値に証明が届くこと。二つは独立である。$g=0$ で公式が返す $4$ は正しく、そしてその正しさは別の場所から来た。同じ一本の式が、定義域のたった一点で身分を変えている。

参考文献

  1. Heawood, P. J. (1890). Map-Colour Theorem. Quarterly Journal of Pure and Applied Mathematics, 24.
  2. Franklin, P. (1934). A Six Color Problem. Journal of Mathematics and Physics, 13(1-4).
  3. Ringel, G. and Youngs, J. W. T. (1968). Solution of the Heawood Map-Coloring Problem. Proceedings of the National Academy of Sciences, 60(2).
  4. Appel, K. and Haken, W. (1977). Every Planar Map Is Four Colorable. Illinois Journal of Mathematics, 21(3).
  5. Robertson, N., Sanders, D., Seymour, P. and Thomas, R. (1997). The Four-Colour Theorem. Journal of Combinatorial Theory, Series B, 70(1).
  6. Gonthier, G. (2008). Formal Proof、The Four-Color Theorem. Notices of the American Mathematical Society, 55(11).
  7. 山岸勇輝 (2026). 等号にも別根がある。第3版:山岸全同期方程式が結んでいたもの [論文16]. Zenodo. 10.5281/zenodo.21600471
  8. 山岸勇輝 (2026). 割り当てられた領域と、その中の自由、同じ韻を踏む六つの別根のセンサス [論文112]. Zenodo. 10.5281/zenodo.21962834
  9. 山岸勇輝 (2026). 「良い符号が在る」と「これが良い符号だ」は、別の文である [論文163]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22092677
  10. 山岸勇輝 (2026). 「構成できない」にも別根がある [論文179]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22098419

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「公式は 4 を返すが、その一点だけ証明が効かない」[論文303]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22172026

YOI 303第1版・2026年8月ビットコインに記録済み

日付の証拠(OpenTimestamps):日本語版の .ots・英語版の .ots・SHA256SUMS

予備の置き場所(ミラー。中身は上と同じです):PDF 日本語・PDF English・SHA256SUMS

住所:https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/303・DOI 10.5281/zenodo.22172026・CC BY 4.0・プレプリント(査読を経ていません)・ORCID 0009-0006-8587-3450

引用するとき

山岸勇輝 (2026). 公式は 4 を返すが、その一点だけ証明が効かない [論文303]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/303 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22172026

Yamagishi, Y. (2026). The Formula Returns 4, and at That One Point the Proof Does Not Reach [Paper 303]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/303; DOI: 10.5281/zenodo.22172026

@misc{yamagishi2026yoi303,
  author = {Yamagishi, Yuuki},
  title = {The Formula Returns 4, and at That One Point the Proof Does Not Reach},
  year = {2026},
  howpublished = {YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/303},
  doi = {10.5281/zenodo.22172026},
  note = {Preprint, edition 1}
}
指紋(SHA-256)と確かめ方
5dd4d7858b7f9774517717f426d293a024b71d4c3d27d68d20526f06fe3ecb2b yamagishi_yoi303_v1_jp.pdf
c7662e94c35422afd9f524270b6c4e802980e6b22ece60948aea7dd3e6632f1e yamagishi_yoi303_v1_en.pdf

PDF と .ots を同じ場所に保存し、opentimestamps.org に .ots、続けて PDF を落とすと、記録された日時が表示されます。PDF が 1 バイトでも変わっていれば通りません。