要旨
餌場をいつ出るべきかは、その餌場を見れば決まりそうに思える。本稿が示すのは餌場を一切変えずに、最適滞在時間を $\mathbf{3.2372}$ 倍動かせることである。動かしたのは、次の餌場までの移動時間だけである。新しい定理も法則も主張しない。
第一に、同じ獲得曲線 $g(t)=10(1-e^{-0.30t})$ に対し、移動時間 $T$ だけを $1$ から $20$ に変える(第2節)。
第二に、最適滞在時間は $2.2875$ から $\mathbf{7.4051}$ へ、$\mathbf{3.2372}$ 倍になる(第2節)。
第三に、これが本稿の芯である。餌場の中身は五行とも完全に同一である。滞在時間を決めているのは、餌場の外にある量である(第3節)。
第四に、出るときの限界獲得率が、全体の平均獲得率と六桁まで一致する(第2節)。
第五に、$T=1$ では、餌場の最大の $\mathbf{50.35}$ パーセントを残して出るのが最適である(第3節)。
第六に、分離子は「餌場が変わったか、餌場のあいだが変わったか」である(第5節)。
射程(何を示さないか)
新しい定理も法則も主張しない。限界価値定理(チャーノフ 1976)と、その接線による解法はすべて既知である。生態学を作らない。採餌行動の実証や種差には立ち入らない。一つの模型で、何が滞在時間を決めているかだけを見る。動物が最適化していると主張しない。本稿は最適解を計算するだけで、実際の動物がそう振る舞うかは主題ではない。確率を扱わない。餌場の当たり外れ、情報の不完全さ、危険は主題ではない。決定論的な獲得曲線だけを使う。餌場の分布を扱わない。餌場が均質であることを仮定する。異質な環境での学習は主題ではない。応用を主張しない。探索と活用、注意の配分、投資の引き際などへの転用は、形が同じであることを言うにとどめる。既刊との関係:論文367 は感度を下げると別のところで上がることを示した。ここでは外の量が中の判断を決める。論文386 は溶解度を動かさずに速さを $1000$ 倍動かせることを示した。ここでは餌場を動かさずに滞在を $3.2372$ 倍動かす。論文357 は最大出力と最大効率が別の点であることを示した。ここでは最大獲得量と最適滞在が別の点である。論文362 は石を持ち上げるのが律速でないことを示した。ここでは餌場の豊かさが律速ではない。加えたのは、五つの移動時間で滞在時間と獲得量を数に出したこと、滞在時間の変化幅 $3.2372$ 倍を求めたこと、接線条件が六桁まで成り立つことを確かめたこと、残して出る割合 $50.35$ パーセントを出したこと、分離子を「餌場か、餌場のあいだか」に置いたことである。
1. 記法と問い
設定:一つの餌場に $t$ だけ留まると、累積獲得量が $g(t)$ になる。移動に $T$ かかる。
$$g(t)=G\left(1-e^{-\lambda t}\right),\qquad G=10,\ \lambda=0.30$$
長期の平均獲得率を最大にする滞在時間 $t^{*}$ を求める。
$$R(t)=\frac{g(t)}{T+t}\ \longrightarrow\ \max$$
観察 1.1 $g$ は上に凸で単調増加である。留まるほど増えるが、増え方は鈍る。「もう十分」という点が、$g$ の中には無い。
観察 1.2 $T$ は $g$ に一切入っていない。餌場の性質とは無関係、それでも $t^{*}$ を決める。
観察 1.3 最適条件は接線条件になる。$g'(t^{*})=R(t^{*})$、出る瞬間の限界獲得率が、全体の平均獲得率に等しい。
問い:いつ出るべきかは、どこを見れば分かるのか。
2. 餌場を変えずに、滞在が $3.2372$ 倍動く
計算 2.1:移動時間に対する最適滞在(本稿で計算)。
| 移動 $T$ | 最適滞在 $t^{*}$ | 獲得量 $g(t^{*})$ | 平均率 $R$ | 限界率 $g'(t^{*})$ |
|---|---|---|---|---|
| $\mathbf{1.0}$ | $\mathbf{2.2875}$ | $4.965379$ | $1.510386$ | $1.510386$ |
| $2.0$ | $3.0902$ | $6.042823$ | $1.187153$ | $1.187153$ |
| $5.0$ | $4.4913$ | $7.400840$ | $0.779748$ | $0.779748$ |
| $10.0$ | $5.8301$ | $8.260577$ | $0.521827$ | $0.521827$ |
| $\mathbf{20.0}$ | $\mathbf{7.4051}$ | $8.915583$ | $0.325325$ | $0.325325$ |
観察 2.2 右の二列が五行とも六桁まで一致している。$1.510386$ と $1.510386$、$0.325325$ と $0.325325$、接線条件 $g'(t^{*})=R(t^{*})$ が、独立に計算した二つの量として確かめられた。
観察 2.3 最適滞在は $2.2875$ から $7.4051$ へ $3.2372$ 倍になる。移動時間が $20$ 倍、滞在の伸びは対数的に鈍い。
観察 2.4 $g$ の定義には $T$ が一度も現れていない。$G=10$、$\lambda=0.30$ は五行とも同じ、餌場そのものは、まったく変わっていない。
観察 2.5 平均率は $1.510386$ から $0.325325$ へ $4.6427$ 分の $1$ になる。滞在の伸びより落ち方が大きい。長く留まっても、移動の損は取り返せない。
3. 半分残して出るのが最適である
計算 3.1:出るときに残っている割合(本稿で計算)。
| 移動 $T$ | 取った割合 $g(t^{*})/G$ | 残した割合 |
|---|---|---|
| $\mathbf{1.0}$ | $49.65$ % | $\mathbf{50.35}$ % |
| $5.0$ | $74.01$ % | $25.99$ % |
| $\mathbf{20.0}$ | $89.16$ % | $\mathbf{10.84}$ % |
観察 3.2 これが本稿の芯である。$T=1$ では、餌場の半分以上を残して出るのが最適である。餌場は空になっていないどころか、まだ半分ある。それでも出るのが正しい。
観察 3.3 「まだ餌がある」は、留まる理由にならない。$g$ は単調増加なので、いつ出ても餌は残っている。どれだけ残っているかを見ても、出る時刻は決まらない。
観察 3.4 同じ餌場が、環境によって「粘る場所」にも「さっと出る場所」にもなる。$2.2875$ と $7.4051$、餌場の側には、二つを区別する情報が一つも無い。
観察 3.5 論文386 と同じ形である。論文386 では溶解度を動かさずに速さが $1000$ 倍動いた。ここでは餌場を動かさずに滞在が $3.2372$ 倍動く。どちらも、動いていないほうに名前がついている。
観察 3.6 最大獲得量と最適滞在は別の点である。$g$ を最大にするなら $t\to\infty$、論文357 で最大出力と最大効率が別の点だったのと同じ構造である。
4. 接線条件が意味していること
観察 4.1 $g'(t^{*})=R(t^{*})$ は、二つの世界の橋である。左辺は餌場の中の量、右辺は環境全体の量、等号が、外の情報を中に持ち込んでいる。
観察 4.2 だから局所的な判断だけで最適化できる。環境の平均率さえ知っていれば、あとは自分の限界率と比べるだけ、全体を見渡す必要が無い。
観察 4.3 逆に、環境の平均率を知らなければ決められない。同じ餌場で同じ限界率でも、比べる相手が無い。
観察 4.4 形は他所にも現れる。探索と活用、注意の配分、投資の引き際、いずれも「いま得ている率」と「切り替えたときの率」の比較である。ただし本稿は形が同じであることを言うにとどめる。
観察 4.5 接線条件は、餌場が上に凸であることに依存している。$g$ が下に凸なら、最適は端点に飛ぶ、内点の解は、収穫逓減があってはじめて存在する。
5. 分離子:餌場が変わったか、餌場のあいだが変わったか
観察 5.1 分離子、獲得曲線 $g$ が動いたか、移動時間 $T$ が動いたか。
| 何が変わったか | $g$ | $T$ | 滞在時間 |
|---|---|---|---|
| 餌場が痩せた | 動く | 不変 | 動く |
| 餌場が遠くなった | 不変 | 動く | 動く |
観察 5.2 滞在時間だけを見ても、二つは区別できない。どちらでも長くなる。結果からは原因が読めない。
観察 5.3 区別は獲得量に出る。餌場が痩せれば $g(t^{*})$ は下がる。遠くなっただけなら、$g(t^{*})$ は $4.965379$ から $8.915583$ へ上がる。
観察 5.4 つまり「長く留まって、たくさん取っている」は環境の悪化の徴候である。一見すると好調に見える。平均率は $4.6427$ 分の $1$ に落ちている。
観察 5.5 正直に言えば、$G=10$、$\lambda=0.30$ は模型の定数であって、測ったものではない。$3.2372$ 倍という数はこの $\lambda$ に依存する。動かないのは、接線条件が六桁まで成り立つことと、$T$ が $g$ に入っていないことである。
観察 5.6 最後に一つ、「まだ取れる」と「取り続けるべきだ」は別のことである。前者は餌場を見れば分かり、後者は餌場を見ても分からない。見る場所を間違えると、いつまでも出られない。
6. 点呼と結び
- $g$ に $T$ は入っていない(観察 2.4):$G=10$、$\lambda=0.30$ は五行とも同じ。
- 最適滞在は $2.2875$ から $7.4051$(計算 2.1):$3.2372$ 倍。
- 接線条件が六桁まで一致(観察 2.2):独立に計算した二量。
- 平均率は $4.6427$ 分の $1$(観察 2.5):滞在の伸びより落ち方が大きい。
- $T=1$ で $50.35$ % を残して出る(計算 3.1):半分以上残っている。
- 「まだ餌がある」は理由にならない(観察 3.3):いつ出ても残っている。
- 餌場の側に区別する情報が無い(観察 3.4):$2.2875$ と $7.4051$。
- 接線条件は二つの世界の橋(観察 4.1):外の情報を中に持ち込む。
- 上に凸でなければ端点に飛ぶ(観察 4.5):収穫逓減が要る。
- 長く留まって多く取るのは悪化の徴候(観察 5.4):平均率で見る。
結び:餌場をいつ出るべきかは、その餌場を見れば決まりそうに思える。だが決めているのは、餌場の外にある量である。獲得曲線 $g(t)=10(1-e^{-0.30t})$ を固定したまま、移動時間 $T$ だけを $1$ から $20$ に変える。最適滞在は $2.2875$ から $\mathbf{7.4051}$ へ $\mathbf{3.2372}$ 倍になる。$g$ の定義には $T$ が一度も現れず、$G=10$ と $\lambda=0.30$ は五行とも同じで、餌場そのものはまったく変わっていない。最適条件は接線条件 $g'(t^{*})=R(t^{*})$ である。五行とも、独立に計算した限界獲得率と平均獲得率が六桁まで一致した($1.510386$ と $1.510386$、$0.325325$ と $0.325325$)。左辺は餌場の中の量、右辺は環境全体の量であり、等号が外の情報を中に持ち込んでいる。だから局所的な判断だけで最適化でき、逆に環境の平均率を知らなければ決められない。そして、半分残して出るのが最適である。$T=1$ では 餌場の最大の $\mathbf{50.35}$ パーセントを残して出るのが正しい。$g$ は単調増加なので、いつ出ても餌は残っており、どれだけ残っているかを見ても出る時刻は決まらない。「まだ餌がある」は、留まる理由にならない。同じ餌場が、環境によって「粘る場所」にも「さっと出る場所」にもなり、餌場の側には二つを区別する情報が一つも無い。分けているものは一つ、獲得曲線が動いたか、移動時間が動いたか。滞在時間だけを見ればどちらでも長くなり、結果からは原因が読めない。区別は獲得量に出る。餌場が痩せれば $g(t^{*})$ は下がるが、遠くなっただけなら $4.965379$ から $8.915583$ へ上がる。つまり「長く留まって、たくさん取っている」は一見好調に見えて、環境の悪化の徴候である。平均率は $4.6427$ 分の $1$ に落ちている。正直に言えば、$G=10$ と $\lambda=0.30$ は模型の定数であって測ったものではなく、$3.2372$ 倍という数はこの $\lambda$ に依存する。動かないのは、接線条件が六桁まで成り立つことと、$T$ が $g$ に入っていないことである。また接線条件は $g$ が上に凸であることに依存しており、下に凸なら最適は端点に飛ぶ、内点の解は収穫逓減があってはじめて存在する。最後に一つ、「まだ取れる」と「取り続けるべきだ」は別のことである。前者は餌場を見れば分かり、後者は餌場を見ても分からない。見る場所を間違えると、いつまでも出られない。
参考文献
- Charnov, E. L. (1976). Optimal foraging, the marginal value theorem. Theoretical Population Biology.
- Stephens, D. W., Krebs, J. R. (1986). Foraging Theory. Princeton: Princeton University Press.
- Nonacs, P. (2001). State dependent behavior and the marginal value theorem. Behavioral Ecology.
- Hayden, B. Y., Pearson, J. M., Platt, M. L. (2011). Neuronal basis of sequential foraging decisions in a patchy environment. Nature Neuroscience.
- 山岸勇輝 (2026). 『最大出力と最大効率は、同じ点ではない』[論文357]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22697180
- 山岸勇輝 (2026). 『石を持ち上げるのは、律速ではない』[論文362]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22697498
- 山岸勇輝 (2026). 『感度を下げると、別のところで上がる』[論文367]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22697709
- 山岸勇輝 (2026). 『溶解度は一つも動いていないのに、溶ける速さが 1000 倍になる』[論文386]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22699119
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「いつ出るかは、その場所の中では決まらない」[論文387]. Zenodo.
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引用するとき
山岸勇輝 (2026). いつ出るかは、その場所の中では決まらない [論文387]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/387 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22699131
Yamagishi, Y. (2026). When to Leave Is Not Decided Inside the Patch [Paper 387]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/387; DOI: 10.5281/zenodo.22699131
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author = {Yamagishi, Yuuki},
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