要旨
振り子時計は、止まらないように脱進機で一周ごとに押している。本稿は、その押しが周期をどう狂わせるかを数える。新しい定理も法則も主張しない。
第一に、同じ強さで押しても、位置で狂いが変わる。振幅の $0.25$ で押すと $-1.262623\times10^{-4}$、$0.95$ で押すと $-4.807963\times10^{-4}$ で、比は $\mathbf{3.807916}$ である(第2節)。
第二に、これが本稿の芯である。最下点で押せば狂いは消える。最下点で押したときのずれは閉じた式で $0$、数値積分でも $10^{-16}$ の桁である(第2節)。
第三に、下りと上りで向きが逆になる。振幅の $0.50$ で、下りで押すと周期が縮み、上りで押すと伸びる(第2節)。
第四に、二つの出し方が合う。刻み $10^{-5}$ の数値積分と位相の閉じた式は、五つの位置すべてで $5\times10^{-8}$ 以内で一致する(第3節)。
第五に、小さな狂いも積もる。振幅の $0.50$ で押し続けると、$86400$ 周期で $\mathbf{-21.825193}$ 周期ぶんずれる(第3節)。
第六に、分離子は、押す強さを問うか、押す位置を問うかである。脱進機の良し悪しは、どれだけ押すかより、どこで押すかにかかっている(第4節)。
キーワード:脱進機、振り子、等時性、位相、エアリーの条件、模型。
射程(何を示さないか)
新しい定理も法則も主張しない。脱進機の押しが周期を乱すこと、その乱れが押しを振り子の最下点で与えると一次で消えること(エアリーの条件)、衝撃の位相によって周期が進んだり遅れたりすることは、いずれも既知である。実在の時計を主張しない。周期 $1$、振幅 $1$、押し $0.02$ は模型の値である。機構の形に入らない。アンクルやがんぎ車の形、押しを伝える仕組みは扱わない。円弧誤差を外す。振幅による周期の変化を切り離すため、線形の振り子に置いた。振幅の効きは論文396 の側である。散逸を入れない。摩擦や空気抵抗は入れない。既刊との関係:論文396 は振り子の「小さい角」を数にすると $10$ 度で一日 $164.78$ 秒ずれることを示し、射程注記で「時計を設計しない。脱進機や温度補正は主題ではない」と空けた。本稿はその席に座る。先客はいない。論文488 は等時であることから曲線を逆に決めると残るのは一つだけであることを示し、同じく脱進機を空けたままにしている。あちらは等時の曲線、こちらは等時を乱す押しである。加えたのは、押す位置を五つ変えて周期のずれを並べたこと、数値積分と閉じた式を突き合わせたこと、下りと上りで向きが逆になることを測ったこと、分離子を「押す強さか、押す位置か」に置いたことである。
1. 記法と問い
設定:角振動数 $\omega=2\pi$(周期 $1$)、振幅 $A=1$ の線形の振り子が、位置 $x_{0}$ を下りで通るときに角速度へ $\Delta v=0.02$ を足される。その一周の周期のずれは、押しで変わる位相から出る。
$$\Delta T=-\frac{1}{\omega}\left[\operatorname{atan2}\!\left(\sqrt{A^{2}-x_{0}^{2}}+\frac{\Delta v}{\omega},\,x_{0}\right)-\operatorname{atan2}\!\left(\sqrt{A^{2}-x_{0}^{2}},\,x_{0}\right)\right]\approx-\frac{x_{0}\,\Delta v}{\omega^{2}A^{2}}$$
右の近似は一次で、$x_{0}=0$(最下点)で $0$ になる。これとは別に、刻み $10^{-5}$ のルンゲ=クッタ法で一周を積分して測る。
問い:押しで周期が狂うのは、押す強さのせいか、押す位置のせいか。
2. 押す位置と狂い
計算 2.1:押す強さを $0.02$ に固定し、下りで押す位置を変えた。
| 押す位置(振幅に対して) | 周期のずれ(閉じた式) |
|---|---|
| $0.00$(最下点) | $0$ |
| $0.25$ | $-1.262623\times10^{-4}$ |
| $0.50$ | $-2.526064\times10^{-4}$ |
| $0.75$ | $-3.791554\times10^{-4}$ |
| $0.95$ | $-4.807963\times10^{-4}$ |
観察 2.2 同じ強さでも、端に寄るほど狂う。$0.95$ と $0.25$ の比は $3.807916$ である。押しが位相を動かす量は、押した位置の変位に比例するからである。
観察 2.3 これが本稿の芯である。最下点で押せば狂いは消える。閉じた式で $0$、数値積分でも $1.110\times10^{-16}$ である。最下点では変位が $0$ なので、速さが変わっても位相が動かないからである。
計算 2.4:振幅の $0.50$ で、下りと上りで押した。
| 押し方 | 周期のずれ(数値積分) |
|---|---|
| 下りで押す | $-0.000252597$ |
| 上りで押す | $+0.000252625$ |
観察 2.5 同じ位置でも、向きが逆になる。下りでは周期が縮み、上りでは伸びる。最下点に向かう側で押すか、離れる側で押すかで、位相の進み遅れが入れ替わる。
3. 二つの出し方と、積もる狂い
計算 3.1:閉じた式、一次の近似、数値積分を並べた。
| 位置 | 閉じた式 | 一次の近似 | 数値積分 |
|---|---|---|---|
| $0.25$ | $-1.262623\times10^{-4}$ | $-1.266515\times10^{-4}$ | $-1.262460\times10^{-4}$ |
| $0.50$ | $-2.526064\times10^{-4}$ | $-2.533030\times10^{-4}$ | $-2.525972\times10^{-4}$ |
| $0.75$ | $-3.791554\times10^{-4}$ | $-3.799544\times10^{-4}$ | $-3.791485\times10^{-4}$ |
| $0.95$ | $-4.807963\times10^{-4}$ | $-4.812756\times10^{-4}$ | $-4.807876\times10^{-4}$ |
観察 3.2 数値積分と閉じた式は $5\times10^{-8}$ 以内で合う。一方は時間を刻んで追い、もう一方は位相の角度を直接出すだけである。一次の近似は大きさを $0.002757$ だけ大きく見積もる。
観察 3.3 疑った所要時間も確かめた。検算全体が $0.4$ 秒で終わったので、一周 $10$ 万歩の積分が本当に回ったかを別に数え、$10$ 万歩を $0.096$ 秒で回していた。刻みを $10^{-3}$・$10^{-4}$・$10^{-5}$ と変えると、ずれは一次で収束した。
計算 3.4:振幅の $0.50$ で押し続けたとき、$86400$ 周期で積もるずれは $-21.825193$ 周期である。
観察 3.5 一周では $10^{-4}$ の桁でも、積もれば大きい。一周 $1$ 秒の模型なら、一日で $21$ 秒を超える。最下点で押せば、この積もりの一次の源が消える。
4. 分離子
観察 4.1 分離子は、押す強さを問うか、押す位置を問うかである。強さを変えなくても位置で狂いが $0$ から $-4.807963\times10^{-4}$ まで動く。脱進機の良し悪しは、どれだけ押すかより、どこで押すかにかかっている。
観察 4.2 論文396 の席に座る。396 は振り子の「小さい角」を数にすると $10$ 度で一日 $164.78$ 秒ずれることを示し、脱進機を空けた。あちらは振幅が等時を崩し、こちらは押しが等時を崩す。本稿は振幅の効きを線形の振り子で外して、押しの効きだけを数えた。論文488 は等時の曲線が一つに決まることを示した。同じ等時性の、曲線の側と押しの側である。
観察 4.3 言わないこと。実在の時計も、脱進機の形も、振幅による狂いも、摩擦も扱わない。示したのは、押しの狂いが位置で決まり、最下点で一次が消えるということである。
5. 点呼と結び
- 最下点で押すとずれ $0$(計算 2.1):本稿の芯。
- $0.25$ で $-1.262623\times10^{-4}$(計算 2.1):端に近いほど。
- $0.95$ で $-4.807963\times10^{-4}$(計算 2.1):大きい。
- 比は $\mathbf{3.807916}$(観察 2.2):変位に比例。
- 下りは縮み、上りは伸びる(計算 2.4):向きが逆。
- 二つの出し方が $5\times10^{-8}$ 以内(観察 3.2):別々に出した。
- 一次の近似は $0.002757$ 大きい(観察 3.2):近似の外れ。
- $10$ 万歩を $0.096$ 秒(観察 3.3):疑って数えた。
- 一日で $\mathbf{-21.825193}$ 周期(計算 3.4):積もる。
- 押す強さか、押す位置か(観察 4.1):分離子・論文396・488。
結び:振り子を押して狂わせるのは、押す強さより押す位置である。周期 $1$ の振り子に角速度 $0.02$ の押しを与えると、周期のずれは最下点で $0$、振幅の $0.25$ で $-1.262623\times10^{-4}$、$0.95$ で $-4.807963\times10^{-4}$ と、押す位置の変位に比例して大きくなる。押しが位相を動かす量は、押した瞬間の変位で決まり、最下点では変位が $0$ だからである。同じ位置でも下りで押せば縮み上りで押せば伸び、数値積分と閉じた式は五つの位置すべてで $5\times10^{-8}$ 以内で合う。一方は時間を刻み、もう一方は位相の角度を直接出すので、途中を共有していない。振幅の $0.50$ で押し続ければ $86400$ 周期で $-21.825193$ 周期ぶん積もり、最下点で押せばその一次の源が消える。既刊との位置:論文396 が空けた脱進機の席に座り、振幅が等時を崩す 396 と、等時の曲線を決める論文488 の隣で、押しが等時を崩す側を数えた。正直に言えば、線形の振り子に置いて振幅の効きと摩擦を外しており、押し $0.02$ も模型の値である。
参考文献
- Rawlings, A. L. (1993). The Science of Clocks and Watches. British Horological Institute.
- 山岸勇輝 (2026). 『振り子の「小さい角」を数にすると、$10$ 度で一日 $164.78$ 秒ずれる』[論文396]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/396 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22699299
- 山岸勇輝 (2026). 『等時であることから曲線を逆に決めると、残るのは一つだけである』[論文488]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/488 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22760000
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「振り子を押して狂わせるのは、押す強さより押す位置である」[論文856]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/856
日付の証拠(OpenTimestamps):日本語版の .ots・英語版の .ots・SHA256SUMS
予備の置き場所(ミラー。中身は上と同じです):PDF 日本語・PDF English・SHA256SUMS
住所:https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/856・CC BY 4.0・プレプリント(査読を経ていません)・ORCID 0009-0006-8587-3450
引用するとき
山岸勇輝 (2026). 振り子を押して狂わせるのは、押す強さより押す位置である [論文856]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/856
Yamagishi, Y. (2026). What Throws a Pendulum Off When It Is Pushed Is Where It Is Pushed, More Than How Hard [Paper 856]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/856
@misc{yamagishi2026yoi856,
author = {Yamagishi, Yuuki},
title = {What Throws a Pendulum Off When It Is Pushed Is Where It Is Pushed, More Than How Hard},
year = {2026},
howpublished = {YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/856},
note = {Preprint, edition 1}
}
指紋(SHA-256)と確かめ方
af707bf6fc4e8ad99812f1cfe24e6f8b3cf68069bbc961fe7402eadeb2ef4a6c yamagishi_yoi856_v1_jp.pdfad0fae58dfbb153de74a0343d766d3ed855dba4f80ec6724bf3745a9d6713aeb yamagishi_yoi856_v1_en.pdfPDF と .ots を同じ場所に保存し、opentimestamps.org に .ots、続けて PDF を落とすと、記録された日時が表示されます。PDF が 1 バイトでも変わっていれば通りません。