【論文405】数値の一致が同根の証拠になるのは、全単射があるときだけである

要旨

論文300 は「数値の一致だけでは同根と見なさない」と書いた。本稿が問うのはでは何があれば同根なのかである。答えは全単射であって、一致する項の数ではない。新しい定理も法則も主張しない。

第一に、四つの数え上げが $n=0$ から $8$ まで完全に一致する($1,1,2,5,14,42,132,429,1430$)(第2節)。

第二に、$C(10)=\mathbf{16796}$ で、$\binom{2n}{n}/(n+1)$ は $n=0$ から $19$ まで必ず割り切れる(第2節)。

第三に、これが本稿の芯である。中心二項係数も $n=0$ では一致し、$n=1$ で $2$ 対 $1$ と分かれる。一致する項の数は証拠の強さではない(第3節)。

第四に、カタラン数の四つが同根なのは、全単射が構成できるからである(第4節)。

第五に、漸近形 $4^{n}/(n^{3/2}\sqrt{\pi})$ は $n=10$ で $11.38$ パーセント外れ、$n=1000$ で $0.11$ パーセントに縮む(第3節)。

第六に、分離子は「有限個の一致か、対応の構成か」である(第5節)。

射程(何を示さないか)

新しい定理も法則も主張しない。カタラン数、四つの数え上げの一致、全単射証明、漸近形はすべて組合せ論で既知である。全単射を構成しない。具体的な対応(回転写像・深さ優先探索の符号化など)は既知であり、本稿は存在を用いるにとどめる。組合せ論を作らない。母関数や格子路の一般論には立ち入らない。四つの列を数え上げて比べるだけである。他の一致を扱わない。フィボナッチやベル数など他の列の一致は主題ではない。確率を扱わない。偶然の一致がどれくらい起こりやすいかは主題ではない。一致の数が証拠にならないことだけを言う。同根の定義を変えない。論文300 の基準をそのまま使う。既刊との関係:論文300 は同根か別根かが判定できることを示した。本稿はその基準の「同根」側に、具体例を一つ入れる。論文400 は数値の一致が意味に見えることを示した。ここでは逆に、本当に同根である例を見る。論文388 は二つの別の量が同じ定数へ行くことを示した。そちらは極限の一致で、同根ではなかった。論文398 は同じ操作が位置で別の量になることを示した。ここでは別の操作が同じ量になる。加えたのは、四つの数え上げを $n=0$ から $8$ まで独立に実装して一致を確かめたこと、中心二項係数が $n=0$ で一致し $n=1$ で分かれることを示したこと、漸化式を独立な経路として確かめたこと、漸近形の誤差を $n=10$ と $n=1000$ で出したこと、分離子を「有限個の一致か、対応の構成か」に置いたことである。

1. 記法と問い

設定:カタラン数を $C_{n}=\binom{2n}{n}/(n+1)$ とし、次の四つを独立に数え上げる。 (a) 長さ $2n$ の釣り合った括弧列の個数。(b) 節点 $n$ 個の二分木の個数。(c) 凸 $(n+2)$ 角形の三角形分割の個数。(d) 対角線を越えない $n\times n$ 格子路の個数。

観察 1.1 四つは互いにまったく違う対象である。文字列・木・多角形・経路、同じ数になる理由が、定義からは見えない。

観察 1.2 論文300 は「数値の一致だけでは同根と見なさない」と書いた。基準がある。ではこの四つは、その基準を満たすのか。

観察 1.3 一致する項の数を増やしても、証拠にはならない。有限個はいくらでも作れる。必要なのは、別の種類の証拠である。

問い:数値が一致するとき、同根と言ってよいのはいつか。

2. 四つが $n=0$ から $8$ まで完全に一致する

計算 2.1:四つを独立に数え上げた(本稿で計算)。

$n$ $C_{n}$ (a) 括弧列 (b) 二分木 (c) 三角形分割 (d) 格子路
$0$ $1$ $1$ $1$ $1$ $1$
$1$ $1$ $1$ $1$ $1$ $1$
$2$ $2$ $2$ $2$ $2$ $2$
$3$ $5$ $5$ $5$ $5$ $5$
$4$ $14$ $14$ $14$ $14$ $14$
$5$ $42$ $42$ $42$ $42$ $42$
$6$ $132$ $132$ $132$ $132$ $132$
$7$ $429$ $429$ $429$ $429$ $429$
$\mathbf{8}$ $\mathbf{1430}$ $\mathbf{1430}$ $\mathbf{1430}$ $\mathbf{1430}$ $\mathbf{1430}$

観察 2.2 九行すべてで四つが一致する。別々に実装した数え上げ、$\binom{2n}{n}/(n+1)$ とも一致する。

観察 2.3 $C_{10}=16796$ である。独立に知られた値、式も実装も外していない。

観察 2.4 $\binom{2n}{n}$ は $n+1$ で必ず割り切れる。$n=0$ から $19$ まで確かめた。整数になること自体が、偶然ではない。

観察 2.5 漸化式 $C_{n+1}=\sum_{i}C_{i}C_{n-i}$ も $n=0$ から $12$ まで成り立つ。別経路の検算、閉じた式と漸化式が同じ数を返す。

観察 2.6 ここまでで、一致は九項+二つの独立な式である。十分に見える。それでも、これだけでは同根の証拠にならない。

3. 中心二項係数も、$n=0$ では一致する

計算 3.1:偽の一致の対照(本稿で計算)。

$n$ $C_{n}$ $\binom{2n}{n}$
$\mathbf{0}$ $\mathbf{1}$ $\mathbf{1}$(一致)
$\mathbf{1}$ $\mathbf{1}$ $\mathbf{2}$(分かれる)
$2$ $2$ $6$
$3$ $5$ $20$
$10$ $16796$ $184756$

観察 3.2 これが本稿の芯である。$n=0$ では一致し、$n=1$ で分かれる。一致する項が一つでも、二つでも、九つでも、それは同根の証拠ではない。数が違うだけである。

観察 3.3 $n=10$ では $11$ 倍の差になる。$16796$ と $184756$、最初の一項だけを見ていたら、同じ列に見える。

観察 3.4 漸近形もまた、一致に見えて一致しない。$4^{n}/(n^{3/2}\sqrt{\pi})$、$n=10$ で $11.38$ パーセント、$n=100$ で $1.13$ パーセント、$n=1000$ で $0.11$ パーセント外れる。

観察 3.5 誤差は $n$ とともに縮むが、決してゼロにならない。比が $1$ に近づくだけ、近づくことと等しいことは違う。

観察 3.6 論文388 と同じ形である。論文388 では二つの別の量が同じ $1/e$ へ行った。極限が同じでも同根ではない。ここでも、近づくことは証拠にならない。

4. 同根であることの証拠は、対応そのものである

観察 4.1 四つが同根である理由は、全単射が構成できることである。括弧列と二分木のあいだ、括弧列と格子路のあいだ、など、一つ一つの対象を、一つ一つの対象に写す規則がある。

観察 4.2 全単射は、数の一致より強い。個数が等しいことを含み、さらに「どれがどれに対応するか」を言う。数の一致は、そこから出てくる系である。

観察 4.3 だから全単射があれば、すべての $n$ で一致する。有限個の確認ではない。確認の数を増やす必要が無くなる。

観察 4.4 中心二項係数には、そのような対応が無い。$n=0$ の一致は、たまたま両方 $1$ だっただけ、対応を作ろうとすると、$n=1$ で作れない。

観察 4.5 論文300 の基準は、まさにここを言っている。数値の一致だけでは同根と見なさない。本稿は、その基準を満たす例と満たさない例を、同じ表の上に並べた。

観察 4.6 この基準は、物理でも同じ形をしている。同じ式が出るだけでは同根ではなく、同じ変数が同じ役をしていることが要る。体系が繰り返し使ってきた分離子である。

5. 分離子:有限個の一致か、対応の構成か

観察 5.1 分離子、一致が有限個の値についてか、対象と対象の対応がついているか。

関係 一致する範囲 全単射 同根か
括弧列と二分木 すべての $n$ ある 同根
$C_{n}$ と $\binom{2n}{n}$ $n=0$ のみ 無い 別根
$C_{n}$ と漸近形 どこも一致しない 無い 別根

観察 5.2 三行目は一項も一致しないのに、一番よく似ている。$n=1000$ で $0.11$ パーセント、似ていることと同根であることは、まったく別である。

観察 5.3 二行目は一項一致するのに、まったく別物である。$n=1$ で分かれる。一致の数を数えても順序が付かない。

観察 5.4 判定は三列目だけで付く。全単射があるか、数を見る必要が無い。

観察 5.5 正直に言えば、本稿は全単射を構成していない。既知の対応の存在を用いただけである。構成は組合せ論の教科書にある。動かないのは、$n=0$ での一致が証拠にならないことと、$n=1$ で分かれることである。

観察 5.6 最後に一つ、「九項一致した」は、証拠の量ではあっても、種類ではない。十項でも百項でも種類は変わらない。種類を変えるのは、対応を一つ書くことである。

6. 点呼と結び

  1. 四つが $n=0$〜$8$ で一致(計算 2.1):$1,1,2,5,14,42,132,429,1430$。
  2. $C_{10}=16796$(観察 2.3):独立に知られた値。
  3. $\binom{2n}{n}$ は $n+1$ で割り切れる(観察 2.4):$n=0$〜$19$ で確認。
  4. 漸化式も一致(観察 2.5):別経路の検算。
  5. $\binom{2n}{n}$ も $n=0$ で一致(計算 3.1):$n=1$ で $2$ 対 $1$。
  6. $n=10$ で $11$ 倍(観察 3.3):最初だけ見れば同じに見える。
  7. 漸近形は $11.38\to1.13\to0.11$ パーセント(観察 3.4):近づくがゼロにならない。
  8. 全単射は数の一致より強い(観察 4.2):どれがどれに対応するかを言う。
  9. 一項一致と全項一致は種類が違う(観察 5.3):数えても順序が付かない。
  10. 種類を変えるのは対応を一つ書くこと(観察 5.6):量ではない。

結び:論文300 は「数値の一致だけでは同根と見なさない」と書いた。では、何があれば同根なのか。カタラン数では、四つのまったく違う対象の数え上げが一致する。括弧列・二分木・三角形分割・格子路を別々に実装して数えると、$n=0$ から $8$ まで九行すべてで $1,1,2,5,14,42,132,429,1430$ と一致し、$\binom{2n}{n}/(n+1)$ とも一致する。$C_{10}=\mathbf{16796}$ は独立に知られた値と合い、$\binom{2n}{n}$ は $n=0$ から $19$ まで必ず $n+1$ で割り切れ、漸化式 $C_{n+1}=\sum_{i}C_{i}C_{n-i}$ も $n=0$ から $12$ まで成り立つ。九項の一致と二つの独立な式、十分に見える。それでも、これだけでは同根の証拠にならない。中心二項係数 $\binom{2n}{n}$ も $n=0$ では $1$ で一致し、$n=1$ で $2$ 対 $1$ と分かれる。$n=10$ では $184756$ 対 $16796$ で $11$ 倍の差になるが、最初の一項だけを見ていたら同じ列に見える。一致する項が一つでも九つでも、それは同根の証拠ではない。漸近形 $4^{n}/(n^{3/2}\sqrt{\pi})$ はさらに紛らわしく、一項も一致しないのに $n=10$ で $11.38$ パーセント、$n=100$ で $1.13$ パーセント、$n=1000$ で $0.11$ パーセントまで近づく。論文388 で二つの別の量が同じ $1/e$ へ行ったのと同じで、近づくことは証拠にならない。四つが同根である理由は、全単射が構成できることである。括弧列と二分木、括弧列と格子路のあいだに、一つ一つの対象を一つ一つの対象に写す規則がある。全単射は数の一致より強く、個数が等しいことを含んだうえで「どれがどれに対応するか」を言う。数の一致はそこから出てくる系である。だから全単射があればすべての $n$ で一致し、確認の数を増やす必要が無くなる。中心二項係数にはそのような対応が無く、$n=0$ の一致はたまたま両方 $1$ だっただけで、対応を作ろうとすると $n=1$ で作れない。分けているものは一つ、一致が有限個の値についてか、対象と対象の対応がついているか。三行目(漸近形)は一項も一致しないのに一番よく似ており、二行目(中心二項係数)は一項一致するのにまったく別物である。似ていることと同根であることは、まったく別である。判定は「全単射があるか」だけで付き、数を見る必要が無い。論文300 の基準は、まさにここを言っている。本稿はその基準を満たす例と満たさない例を、同じ表の上に並べた。正直に言えば、本稿は全単射を構成していない。既知の対応の存在を用いただけであり、構成は組合せ論の教科書にある。動かないのは、$n=0$ での一致が証拠にならないことと、$n=1$ で分かれることである。最後に一つ、「九項一致した」は、証拠の量ではあっても、種類ではない。十項でも百項でも種類は変わらない。種類を変えるのは、対応を一つ書くことである。

参考文献

  1. Stanley, R. P. (2015). Catalan Numbers. Cambridge: Cambridge University Press.
  2. Segner, J. A. (1758). Enumeratio modorum quibus figurae planae rectilineae per diagonales dividuntur in triangula. Novi Commentarii Academiae Scientiarum Petropolitanae.
  3. Catalan, E. (1838). Note sur une équation aux différences finies. Journal de Mathématiques Pures et Appliquées.
  4. Graham, R. L., Knuth, D. E., Patashnik, O. (1994). Concrete Mathematics (2nd ed.). Reading: Addison-Wesley.
  5. 山岸勇輝 (2026). 『第三百回の点呼、同根か別根かは判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
  6. 山岸勇輝 (2026). 『候補が百万人でも、最良を当てる確率は 0.3679 のまま落ちない』[論文388]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22699147
  7. 山岸勇輝 (2026). 『同じ一文字の誤りが、位置によって 15.75 倍違う。第 2 位はちょうど 0 である』[論文398]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22699326
  8. 山岸勇輝 (2026). 『四百本目の点呼、数えられたものより、数えた道具のほうが先に壊れた』[論文400]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22699343

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「数値の一致が同根の証拠になるのは、全単射があるときだけである」[論文405]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.22699433

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引用するとき

山岸勇輝 (2026). 数値の一致が同根の証拠になるのは、全単射があるときだけである [論文405]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/405 ・ DOI: 10.5281/zenodo.22699433

Yamagishi, Y. (2026). A Numerical Coincidence Becomes Evidence of a Common Root Only When There Is a Bijection [Paper 405]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/405; DOI: 10.5281/zenodo.22699433

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