要旨
多重比較の補正と、包除原理を途中で切って上下から挟む不等式は、別の話として教えられる。本稿が示すのは、二つが同じ一本の不等式であり、片方はその第一項だけを使っていることである。新しい定理も法則も主張しない。
第一に、補正しないと、確率はすぐ大きくなる。水準 $0.05$ の独立な検定を $20$ 個並べると、少なくとも一つで誤る確率は $\mathbf{0.641514}$、$100$ 個なら $\mathbf{0.994079}$ である(第2節)。
第二に、水準を $\alpha/k$ にすると収まる。$k=20$ で $\mathbf{0.048830}$ となり、$0.05$ を下回る(第2節)。
第三に、その補正は、和事象の確率が各確率の和以下だという一行から出る。$k\cdot(\alpha/k)=\alpha$ であり、独立性も正規性も使っていない(第2節)。
第四に、これが本稿の芯である。同じ不等式の続きが、包除の打ち切りである。厳密な $\mathbf{0.8859739369}$ に対し、$1$ 項が $\mathbf{1.3954082362}$、$2$ 項が $\mathbf{0.8101316015}$、$3$ 項が $\mathbf{0.8882566015}$ と交互に挟み込む(第3節)。
第五に、補正が保守的なのは、第一項で止めているからである。独立を仮定した厳密な水準は $\mathbf{0.00256138}$、$\alpha/k$ は $\mathbf{0.00250000}$ で、$\mathbf{2.4552}$ パーセント厳しい(第4節)。
第六に、分離子は、どこで打ち切ったかである。独立性を仮定するかどうかではない(第4節)。
キーワード:多重比較、ボンフェローニ補正、ブールの不等式、包除原理、第一種の過誤。
射程(何を示さないか)
新しい定理も法則も主張しない。ブールの不等式も、ボンフェローニの不等式も、ボンフェローニ補正も標準的である。検定の手続きを勧めない。どの補正を使うべきかは主題ではなく、ホルムやベンヤミニ=ホッホベルクの手続きには立ち入らない。偽発見率を扱わない。本稿が見るのは家族単位の誤り率だけである。検定の相関を扱わない。数を出したのは独立な場合で、相関があるときの保守性の度合いは別である。歴史の帰属を裁定しない。ブールとボンフェローニのどちらが先かという議論には入らない。「補正すれば正しい」とは書かない。水準を守ることと、検出力が保たれることは別である。既刊との関係:論文317 は有意水準が一回あたりの約束であって研究あたりではないと示した。本稿はその補正が、不等式の第一項にすぎないことを示す。論文360 は厳密な式が計算できないとき途中で切ると上下から挟めると示した。あちらの挟み込みと、こちらの補正は同じ不等式である。両編は互いを引いていなかった。論文125 はホップが三人いると示した。本稿は逆で、二つの場面のボンフェローニが一人である。固有名の点呼には、分ける向きと束ねる向きがある。論文300 は同根か別根かが判定できると示した。本稿は「恒等性を保つ対応」の基準で同根と判定する。加えたのは、二つの場面を同じ不等式の第一項と一般項として並べたこと、補正の効き目を $\mathbf{0.641514}$ から $\mathbf{0.048830}$ へと数で出したこと、包除の打ち切りが交互に挟むことを $5$ 項まで測ったこと、保守性を $\mathbf{2.4552}$ パーセントと測ったこと、分離子を「どこで打ち切ったか」に置いたことである。
1. 記法と問い
設定:事象 $A_{1},\dots,A_{k}$ に対し、ボンフェローニの不等式は和事象の確率を、交わりの和で交互に挟む。
$$S_{1}\;\ge\;P\!\left(\bigcup A_{i}\right)\;\ge\;S_{1}-S_{2}\;,\qquad
S_{r}=\sum_{|I|=r}P\!\left(\bigcap_{i\in I}A_{i}\right)$$
$S_{1}$ だけを使ったものが、ブールの不等式である。
観察 1.1 二つの場面で、同じ名前が出る。多重比較の補正と、包除の打ち切り、どちらもボンフェローニと呼ばれる。
観察 1.2 それが同じものかどうかは、名前では決まらない。論文125 が示したように、同じ名前が別人であることもある。ここでは逆に、別の場面が同じ式であるかを問う。
問い:補正と挟み込みは、同じ式か。
2. 補正は、第一項だけを使っている
計算 2.1:水準 $\alpha=0.05$ の独立な検定を $k$ 個並べたときの、少なくとも一つで誤る確率を出す。
| $k$ | 補正なし | 水準を $\alpha/k$ に |
|---|---|---|
| $1$ | $0.050000$ | $0.050000$ |
| $5$ | $0.226219$ | $0.049010$ |
| $20$ | $\mathbf{0.641514}$ | $\mathbf{0.048830}$ |
| $100$ | $\mathbf{0.994079}$ | $\mathbf{0.048782}$ |
観察 2.2 補正なしは、$k$ とともに $1$ へ寄る。$k=100$ で $\mathbf{0.994079}$、論文317 が「水準は一回あたりの約束である」と書いた事情が、数で出ている。
観察 2.3 補正すると、$k$ を増やしても $0.05$ を割ったままである。$0.048830$、$0.048782$、$k$ を大きくすると $1-e^{-\alpha}$ へ寄るが、$\alpha$ を超えない。
観察 2.4 補正の根拠は一行である。「和事象の確率は各確率の和以下」から $k\cdot(\alpha/k)=\alpha$、独立性も正規性も検定統計量の形も使っていない。使ったのは $S_{1}$ だけである。
3. 挟み込みは、その続きである
計算 3.1:六面のさいころを $8$ 回振って、少なくとも一つの目が出ない確率を、包除を $r$ 項で打ち切って計算した。
| 打ち切り | 値 | 向き |
|---|---|---|
| $1$ 項(ブール) | $\mathbf{1.3954082362}$ | 上界 |
| $2$ 項 | $\mathbf{0.8101316015}$ | 下界 |
| $3$ 項 | $\mathbf{0.8882566015}$ | 上界 |
| $4$ 項 | $\mathbf{0.8859703647}$ | 下界 |
| $5$ 項 | $\mathbf{0.8859739369}$ | 上界 |
| 厳密($6$ 項) | $\mathbf{0.8859739369}$ | 、 |
観察 3.2 これが本稿の芯である。$1$ 項での上界が $\mathbf{1.3954082362}$、つまり $1$ を超えている。確率の上界としては役に立たない。それでも上界であることに変わりはない。多重比較で使っているのは、まさにこの粗い一項である。
観察 3.3 向きが交互に変わる。上界・下界・上界・下界、論文360 が「途中で切ると上下から挟める」と書いたとおりで、それは打ち切る項数の偶奇で決まる。
観察 3.4 独立な検査をかけた。乱数で $200000$ 回試すと $\mathbf{0.886785}$、厳密値は $\mathbf{0.885974}$、包除の式そのものが正しいことを、式を使わない方法で確かめた。
観察 3.5 $3$ 項で既に $0.26$ パーセントまで詰まる。$0.8882566015$ 対 $0.8859739369$、一項と二項の差は大きく、三項からは急に良くなる。
4. 分離子
観察 4.1 分離子は、どこで打ち切ったかである。多重比較は $S_{1}$ で止め、挟み込みは $S_{2}$ 以降も使う。同じ式の、使う項数が違うだけである。
計算 4.2:止めることの代償を測る。独立を仮定した厳密な水準(シダック)は $\mathbf{0.00256138}$、$\alpha/k$ は $\mathbf{0.00250000}$ である。
観察 4.3 保守性は $\mathbf{2.4552}$ パーセントにすぎない。「ボンフェローニは保守的すぎる」と言われるが、独立な場合の代償はこの大きさである。数を見ずに保守性を語ると、実際より大きく見積もる。
観察 4.4 保守的である理由は、独立性を仮定していないからではない。$S_{1}$ で止めているからである。$S_{2}$ を引けば下界になり、独立でなくても成り立つ。分離子は仮定ではなく打ち切りである。
観察 4.5 論文300 の第二基準を満たす。片方の場面をもう片方へ移す対応が、$A_{i}$ を「第 $i$ の検定で誤る」と読み替えるだけで書ける。数値の一致ではなく、対応が式で書ける。
観察 4.6 論文125 と向きが逆である。あちらは同じ名前が三人だと分けた。こちらは別の場面が一人だと束ねる。固有名の点呼には二つの向きがある。
観察 4.7 言わないこと。どの補正を使うべきかは述べない。水準を守ることと検出力が保たれることは別で、偽発見率も相関のある検定も扱っていない。
5. 点呼と結び
- $k=20$ で補正なしは $\mathbf{0.641514}$(計算 2.1):$k=100$ で $\mathbf{0.994079}$。
- 補正すると $\mathbf{0.048830}$(計算 2.1):$0.05$ を割る。
- 根拠は一行(観察 2.4):独立性も正規性も使わない。
- $1$ 項の上界は $\mathbf{1.3954082362}$(計算 3.1):$1$ を超える。
- 向きが交互に変わる(観察 3.3):項数の偶奇。
- 乱数で $\mathbf{0.886785}$(観察 3.4):式の独立な検査。
- $3$ 項で $0.26$ パーセント(観察 3.5):急に良くなる。
- シダックは $\mathbf{0.00256138}$(計算 4.2):$\alpha/k$ は $\mathbf{0.00250000}$。
- 保守性は $\mathbf{2.4552}$ パーセント(観察 4.3):本稿の芯。
- 理由は打ち切り(観察 4.4):仮定ではない。
- 論文125 と向きが逆(観察 4.6):束ねる側。
結び:多重比較の補正と、包除原理を途中で切って挟む不等式は、別の話として教えられる。補正は第一項だけを使っている。水準 $0.05$ の独立な検定を $20$ 個並べると少なくとも一つで誤る確率は $\mathbf{0.641514}$、$100$ 個なら $\mathbf{0.994079}$ になり、水準を $\alpha/k$ にすると $\mathbf{0.048830}$、$\mathbf{0.048782}$ と $0.05$ を割ったままになる。その根拠は 「和事象の確率は各確率の和以下」から $k\cdot(\alpha/k)=\alpha$ という一行で、独立性も正規性も検定統計量の形も使っていない。論文317 が「水準は一回あたりの約束である」と書いた事情が、$\mathbf{0.994079}$ という数で出ている。挟み込みは、その続きである。六面のさいころを $8$ 回振って少なくとも一つの目が出ない確率は $\mathbf{0.8859739369}$ で、包除を $1$ 項で切ると $\mathbf{1.3954082362}$、$2$ 項で $\mathbf{0.8101316015}$、$3$ 項で $\mathbf{0.8882566015}$ と交互に挟む。$1$ 項の上界は $1$ を超えており、確率の上界としては役に立たない。それでも上界であることに変わりはなく、多重比較が使っているのはまさにこの粗い一項である。向きが交互に変わるのは打ち切る項数の偶奇で、論文360 の主張そのものである。包除の式そのものは、乱数で $200000$ 回試した $\mathbf{0.886785}$ と照らして確かめた。分離子は、どこで打ち切ったかである。独立を仮定した厳密な水準は $\mathbf{0.00256138}$、$\alpha/k$ は $\mathbf{0.00250000}$ で、保守性は $\mathbf{2.4552}$ パーセントにすぎない。「ボンフェローニは保守的すぎる」と言われるが、独立な場合の代償はこの大きさである。数を見ずに保守性を語ると、実際より大きく見積もる。しかも保守的なのは独立性を仮定していないからではなく、$S_{1}$ で止めているからである。$S_{2}$ を引けば下界になり、独立でなくても成り立つ。論文300 の第二基準でいえば、$A_{i}$ を「第 $i$ の検定で誤る」と読み替えるだけで対応が式で書けるので、これは数値の一致ではない。論文125 は同じ名前が三人だと分けた。本稿は別の場面が一人だと束ねる。固有名の点呼には二つの向きがある。正直に言えば、どの補正を使うべきかは述べていない。水準を守ることと検出力が保たれることは別で、ホルムやベンヤミニ=ホッホベルクの手続きにも立ち入らず、偽発見率も扱っていない。数を出したのは独立な場合だけで、相関があるときの保守性の度合いは別である。ブールとボンフェローニのどちらが先かという帰属も裁定していない。言えるのは、二つの場面が同じ不等式の第一項と一般項であり、分けているのは仮定ではなく打ち切りである、そこまでである。
参考文献
- Bonferroni, C. E. (1936). Teoria statistica delle classi e calcolo delle probabilita. Pubblicazioni del R. Istituto Superiore di Scienze Economiche e Commerciali di Firenze.
- Boole, G. (1854). An Investigation of the Laws of Thought. Walton and Maberly.
- Galambos, J., & Simonelli, I. (1996). Bonferroni-type Inequalities with Applications. Springer.
- Sidak, Z. (1967). Rectangular Confidence Regions for the Means of Multivariate Normal Distributions. Journal of the American Statistical Association.
- 山岸勇輝 (2026). 『ホップは三人いる』[論文125]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22079384
- 山岸勇輝 (2026). 『三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
- 山岸勇輝 (2026). 『有意水準は「一回あたり」の約束であって、研究あたりではない』[論文317]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22208819
- 山岸勇輝 (2026). 『厳密な式が計算できないとき、途中で切ると上下から挟める』[論文360]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22697354
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「多重比較の補正と、包除を切る不等式は、同じ一本の式である」[論文533]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.23014113
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引用するとき
山岸勇輝 (2026). 多重比較の補正と、包除を切る不等式は、同じ一本の式である [論文533]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/533 ・ DOI: 10.5281/zenodo.23014113
Yamagishi, Y. (2026). The Multiple-Comparison Correction and the Truncated Inclusion-Exclusion Bound Are One Inequality [Paper 533]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/533; DOI: 10.5281/zenodo.23014113
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