要旨
絶対温度の目盛は一つだと思われている。本稿が示すのは、最初に置かれた目盛が対数であり、そこでは絶対零度が有限の点ではなく、到達不能が定理ではなく定義だったことである。新しい定理も法則も主張しない。
第一に、要求が目盛の形を決める。「熱の単位が一度下がるときの仕事が温度に依らない」を課すと、氷点 $0$・蒸気点 $100$ で $A=\mathbf{320.554545}$ の対数目盛が出る(第2節)。
第二に、この目盛では絶対温度が等比で並ぶ、$1$ 度下がるごとに $\mathbf{0.9968852670}$ 倍、$T$ が $10$ 倍になるごとに目盛は $\mathbf{738.1041}$ 度上がる(第2節)。
第三に、これが本稿の芯である。要求は実際に満たされている。$T=1000$ でも $T=3$ でも仕事は $\mathbf{0.0031147330}$ で、最大と最小の差は $\mathbf{0.000\times10^{0}}$ である(第3節)。
第四に、現行の目盛では同じことが成り立たない。$1$ K 下がるときの仕事は $T=3$ K で $\mathbf{0.3333333333}$、$T=1000$ K で $\mathbf{0.0010000000}$ で、$T=30$ と $T=300$ の比はちょうど $\mathbf{10.000000}$ 倍である(第3節)。
第五に、絶対零度の身分が違う。対数目盛では $T=100$ K が $\mathbf{-322.1095}$ 度、$1$ K が $\mathbf{-1798.3178}$ 度で、零度は目盛の負の無限大にある(第4節)。
第六に、分離子は、何を一定にすると決めたかである。仕事を一定にすれば対数、比を一定にすれば現行の目盛になる(第5節)。
キーワード:絶対温度、ケルビンの温度目盛、対数目盛、絶対零度、熱力学第三法則。
射程(何を示さないか)
新しい定理も法則も主張しない。カルノーの理論も、トムソンの二つの目盛も、熱力学第三法則も標準的である。歴史の細部を主張しない。一次文献(トムソン $1848$ 年の論文)が「熱の単位が $T$ から $T-1$ へ落ちるとき、$T$ の値によらず同じ仕事を与える」と要求したことは確認したが、それ以上の意図や経緯は述べない。カロリック説の当否を論じない。$1848$ 年の枠組みは熱を保存量とするもので、本稿はその要求を現行の熱力学の言葉に翻訳して数を出しただけである。第三法則を証明しない。到達不能の身分の違いを述べるだけで、現行の目盛での到達不能性の証明には立ち入らない。実測の目盛を提案しない。対数目盛を使うべきだとは言わない。定点の選び方を論じない。氷点と蒸気点を $0$ と $100$ に取ったのは説明のためである。既刊との関係:論文403 は温度の大小の順が熱さの順ではないと示した。本稿の二つの目盛は同じ順序を与えるが、間隔が違う。順序が同じでも目盛は一つに決まらない。論文379 は「二倍の温度」に三つの答があり、比が $2$ になるのは一つだけだと示した。対数目盛では「二倍」がさらに別の意味になる。第四の答が前史として在る。論文509 は「到達不能」が四つあると示した。本稿はそのうち熱力学の側に、定義による到達不能という前史を足す。論文95 は規約と事実を分けた。どちらの目盛を採るかは規約で、カルノー効率が $1-T'/T$ であることは事実である。論文300 は同根か別根かが判定できると示した。二つの目盛は「変数を動かす」基準で別根である。加えたのは、要求から目盛を組み立てて $A=\mathbf{320.554545}$ を出したこと、要求が実際に満たされることを $T$ 四通りで確かめたこと、現行の目盛では同じ量が $T$ に反比例することを $\mathbf{10.000000}$ 倍として測ったこと、絶対零度が目盛の負の無限大に来ることを $\mathbf{738.1041}$ 度という等間隔で示したこと、分離子を「何を一定にすると決めたか」に置いたことである。
1. 記法と問い
設定:カルノー機関が高温 $T$ から低温 $T'$ へ熱 $Q$ を落として得る仕事は $W=Q (1-T'/T)$ である。
$1848$ 年の要求:トムソンは、目盛 $\theta$ を「熱の単位が $\theta$ から $\theta-1$ へ落ちるとき、$\theta$ の値によらず同じ仕事を与える」ように選んだ。
観察 1.1 これは目盛への要求であって、自然についての主張ではない。どんな要求を課すかは選べる。論文95 の言い方でいえば、目盛は規約の側にある。
観察 1.2 要求が違えば、目盛は違う形になる。現行の目盛は「熱の比が温度の比に等しい」を要求する。同じ順序を与えても、間隔は別物になりうる。
問い:$1848$ 年の要求からは、どんな目盛が出るか。
2. 要求から目盛を組み立てる
計算 2.1:要求を満たす $\theta$ は絶対温度の対数になる。氷点を $0$、蒸気点を $100$ に取ると
$$\theta(T)=A\,\ln\frac{T}{273.15},\qquad A=\frac{100}{\ln(373.15/273.15)}$$
で、$A=\mathbf{320.554545}$ である。
| 絶対温度(K) | $1848$ 年の目盛(度) |
|---|---|
| $373.15$ | $\mathbf{100.0000}$ |
| $273.15$ | $\mathbf{0.0000}$ |
| $100.00$ | $\mathbf{-322.1095}$ |
| $10.00$ | $\mathbf{-1060.2136}$ |
| $1.00$ | $\mathbf{-1798.3178}$ |
観察 2.2 定点は戻る。氷点が $\mathbf{0.0000}$、蒸気点が $\mathbf{100.0000}$、目盛の組み立てが正しいことの検査であって、主張ではない。
観察 2.3 等比が等間隔になる。$T$ が $10$ 倍になるごとに目盛は $\mathbf{738.1041}$ 度上がる。$100$ K から $10$ K も、$10$ K から $1$ K も、同じ $738.1041$ 度である。
観察 2.4 だから絶対零度は目盛の上に無い。$T$ を $10$ 分の $1$ にするたびに同じだけ下がり続ける。零度は負の無限大にあり、有限の目盛では書けない。
3. 要求は実際に満たされているか
計算 3.1:この目盛で $1$ 度下がると、絶対温度は $\exp(-1/A)=\mathbf{0.9968852670}$ 倍になる。熱の単位がそこへ落ちるときの仕事 $1-T'/T$ を、いくつかの $T$ で測った。
| $T$(K) | $T'$(K) | 仕事 |
|---|---|---|
| $1000.00$ | $996.8853$ | $\mathbf{0.0031147330}$ |
| $300.00$ | $299.0656$ | $\mathbf{0.0031147330}$ |
| $30.00$ | $29.9066$ | $\mathbf{0.0031147330}$ |
| $3.00$ | $2.9907$ | $\mathbf{0.0031147330}$ |
| 最大と最小の差 | 、 | $\mathbf{0.000\times10^{0}}$ |
観察 3.2 これが本稿の芯である。$T$ を $1000$ K から $3$ K まで、$300$ 倍以上動かしても仕事が変わらない。要求は満たされている。目盛は要求から正しく出ている。
計算 3.3:現行の目盛で同じことを測る。$1$ K 下がるときの仕事は $1/T$ である。
| $T$(K) | $1$ K 下がるときの仕事 |
|---|---|
| $1000.00$ | $\mathbf{0.0010000000}$ |
| $300.00$ | $\mathbf{0.0033333333}$ |
| $30.00$ | $\mathbf{0.0333333333}$ |
| $3.00$ | $\mathbf{0.3333333333}$ |
観察 3.4 境目の反対側である。$T=30$ と $T=300$ の比はちょうど $\mathbf{10.000000}$ 倍、現行の目盛は $1848$ 年の要求を満たしていない。二つは別物である。
観察 3.5 低温側で差が開く。$T=3$ K では $1$ K 下げるだけで熱の $3$ 分の $1$ が仕事になる。低温ほど一度が「重い」。対数目盛はその重さを均そうとした目盛である。
4. 到達不能の身分
観察 4.1 対数目盛では、絶対零度は定義から到達不能である。目盛の値が負の無限大だから、有限回の操作で無限大の目盛を移動できない、という言い方すら要らない。そこに点が無い。
観察 4.2 現行の目盛では、到達不能は定理である。$0$ K は有限の点であり、そこへ行けないことは第三法則が言う。同じ「到達不能」でも、片方は目盛の性質、片方は物理の主張である。
観察 4.3 論文509 の点呼に、前史が一つ足りていなかった。あちらは「到達不能」が体系に四つあると示した。定義による到達不能は、そのどれとも別根である。目盛を取り替えるだけで消えるからである。
観察 4.4 順序は変わらない。対数は単調なので、どちらの目盛でも「どちらが熱いか」は同じ答になる。論文403 が示したとおり、順序が同じでも目盛は一つに決まらない。
5. 分離子
観察 5.1 分離子は、何を一定にすると決めたかである。仕事を一定にすれば対数目盛、熱の比を温度の比に等しくすれば現行の目盛、同じ物理から、二つの目盛が出る。
観察 5.2 論文300 の「変数を動かす」基準で別根である。$T$ を動かすと、片方では仕事が動かず、もう片方では $1/T$ で動く。同じ量が二つの目盛で違う振る舞いをするので、同根ではない。
観察 5.3 論文379 に第四の答が足りる。あちらは「二倍の温度」に三つの答があると示した。対数目盛では「二倍」は絶対温度の比が $\exp(\theta/A)$ 倍になることを意味し、どの答とも違う。
観察 5.4 どちらが正しいかは問えない。目盛は規約だからである。ただし規約を選べば帰結は決まる。到達不能が定義になるか定理になるかは、選んだあとに定まる。
観察 5.5 言わないこと。歴史の細部も、カロリック説の当否も論じない。一次文献が要求を述べていることは確かめたが、それ以上の意図や経緯には立ち入らない。
6. 点呼と結び
- $A=\mathbf{320.554545}$(計算 2.1):氷点 $0$・蒸気点 $100$ から。
- 定点が戻る(観察 2.2):組み立ての検査。
- $10$ 倍ごとに $\mathbf{738.1041}$ 度(観察 2.3):等比が等間隔。
- $T=1$ K で $\mathbf{-1798.3178}$ 度(計算 2.1):零度は無限大の彼方。
- $1$ 度で $\mathbf{0.9968852670}$ 倍(計算 3.1):必ず同じ比。
- 仕事は $\mathbf{0.0031147330}$ で一定(計算 3.1):本稿の芯・差は $\mathbf{0}$。
- 現行では $T=3$ K で $\mathbf{0.3333333333}$(計算 3.3):$T$ に反比例。
- $T=30$ と $300$ の比は $\mathbf{10.000000}$(観察 3.4):境目の反対側。
- 到達不能の身分が違う(観察 4.1):定義か定理か。
- 順序は変わらない(観察 4.4):目盛は一つに決まらない。
- 分離子は何を一定にしたか(観察 5.1):仕事か、比か。
結び:絶対温度の目盛は一つだと思われている。最初に置かれた目盛は対数だった。「熱の単位が一度下がるときの仕事が温度に依らない」という要求からは、氷点 $0$・蒸気点 $100$ で $A=\mathbf{320.554545}$ の対数目盛が出る。定点は $\mathbf{0.0000}$ と $\mathbf{100.0000}$ に戻り、組み立てが正しいことが確かめられる。この目盛では等比が等間隔になり、$T$ が $10$ 倍になるごとに $\mathbf{738.1041}$ 度上がる。$100$ K から $10$ K も、$10$ K から $1$ K も同じ幅である。だから絶対零度は目盛の上に無く、$T=100$ K が $\mathbf{-322.1095}$ 度、$1$ K が $\mathbf{-1798.3178}$ 度と、下がり続ける。要求は実際に満たされている。この目盛で $1$ 度下がると絶対温度は $\mathbf{0.9968852670}$ 倍になり、そのときの仕事は $T=1000$ K でも $T=3$ K でも $\mathbf{0.0031147330}$ で、最大と最小の差は $\mathbf{0.000\times10^{0}}$ である。$T$ を $300$ 倍以上動かしても変わらないので、目盛は要求から正しく出ている。現行の目盛では同じことが成り立たない。$1$ K 下がるときの仕事は $T=3$ K で $\mathbf{0.3333333333}$、$T=1000$ K で $\mathbf{0.0010000000}$ で、$T=30$ と $T=300$ の比はちょうど $\mathbf{10.000000}$ 倍である。低温ほど一度が重い。対数目盛は、その重さを均そうとした目盛である。そこでは到達不能の身分が違う。対数目盛では絶対零度が目盛の負の無限大にあり、到達不能は定義である。有限回で無限大へ行けないという言い方すら要らず、そこに点が無い。現行の目盛では $0$ K は有限の点で、そこへ行けないことは第三法則という物理の主張である。論文509 は「到達不能」が体系に四つあると示したが、定義による到達不能はそのどれとも別根である。目盛を取り替えるだけで消えるからである。対数は単調なので順序は変わらず、どちらの目盛でも「どちらが熱いか」の答は同じである。論文403 が示したとおり、順序が同じでも目盛は一つに決まらない。分離子は、何を一定にすると決めたかである。仕事を一定にすれば対数目盛、熱の比を温度の比に等しくすれば現行の目盛が出る。同じ物理から二つの目盛が出る。論文300 の「変数を動かす」基準でいえば、$T$ を動かすと片方では仕事が動かず、もう片方では $1/T$ で動くので別根である。論文379 は「二倍の温度」に三つの答があると示したが、対数目盛での「二倍」はどれとも違う第四の答になる。どちらが正しいかは問えない。目盛は規約だからである。ただし規約を選べば帰結は決まり、到達不能が定義になるか定理になるかは、選んだあとに定まる。正直に言えば、歴史の細部は主張していない。一次文献が「熱の単位が $T$ から $T-1$ へ落ちるとき $T$ によらず同じ仕事を与える」と要求したことは確かめたが、それ以上の意図や経緯には立ち入っていない。カロリック説の当否も論じておらず、$1848$ 年の枠組みを現行の熱力学の言葉に翻訳して数を出しただけである。第三法則を証明してもおらず、対数目盛を使うべきだとも言っていない。定点を氷点と蒸気点に取ったのも説明のためである。言えるのは、要求が目盛の形を決め、その目盛では絶対零度が定義から到達不能になる、そこまでである。
改訂記録
第2版(2026年10月):参考文献の論文509 の題を、論文509 の直した題に合わせた。主張・数は変えていない。
参考文献
- Carnot, S. (1824). Reflexions sur la puissance motrice du feu. Bachelier.
- Chang, H. (2004). Inventing Temperature: Measurement and Scientific Progress. Oxford University Press.
- Thomson, W. (1848). On an Absolute Thermometric Scale Founded on Carnot’s Theory of the Motive Power of Heat, and Calculated from Regnault’s Observations. Philosophical Magazine.
- Thomson, W. (1854). Thermo-electric Currents. Transactions of the Royal Society of Edinburgh.
- 山岸勇輝 (2026). 『規約と事実を分ける』[論文95]. Zenodo. 10.5281/zenodo.21758621
- 山岸勇輝 (2026). 『三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
- 山岸勇輝 (2026). 『「二倍の温度」には三つの答があり、比が $\mathbf{2}$ になるのは一つだけである』[論文379]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22698802
- 山岸勇輝 (2026). 『温度の大小の順は、熱さの順ではない』[論文403]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22699405
- 山岸勇輝 (2026). 『「到達不能」は体系に四つあり、そのうち二つは同じ分野にある』[論文509]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22861975
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「最初の絶対温度は対数目盛であり、そこでは絶対零度が定義から到達不能だった」[論文534]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.23014117
日付の証拠(OpenTimestamps):日本語版の .ots・英語版の .ots・SHA256SUMS
住所:https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/534・DOI 10.5281/zenodo.23014117・CC BY 4.0・プレプリント(査読を経ていません)・ORCID 0009-0006-8587-3450
引用するとき
山岸勇輝 (2026). 最初の絶対温度は対数目盛であり、そこでは絶対零度が定義から到達不能だった [論文534]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/534 ・ DOI: 10.5281/zenodo.23014117
Yamagishi, Y. (2026). The First Absolute Scale Was Logarithmic, and There Absolute Zero Was Unattainable by Definition [Paper 534]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/534; DOI: 10.5281/zenodo.23014117
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author = {Yamagishi, Yuuki},
title = {The First Absolute Scale Was Logarithmic, and There Absolute Zero Was Unattainable by Definition},
year = {2026},
howpublished = {YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/534},
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note = {Preprint, edition 2}
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指紋(SHA-256)と確かめ方
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