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【論文544】十三通りが同じ数を返していたのに、いまその数は定義になっている

要旨

ペランは十三通りの方法でアボガドロ数を求め、どれも同じ数を返した。本稿が示すのは、その一致がいまや三つの別の身分に分かれており、同じ計算式が証拠から検査に変わっていることである。新しい定理も法則も主張しない。

第一に、三つの道が同じ数を返す。ファラデー定数を素電荷で割ると $\mathbf{6.022141\times10^{23}}$、気体定数をボルツマン定数で割っても $\mathbf{6.022141\times10^{23}}$、シリコン結晶からは $\mathbf{6.022137\times10^{23}}$ である(第2節)。

第二に、精度が揃っていない。前二つは定義値と $10^{-9}$ 以内、シリコンは比 $\mathbf{0.999999299}$ で、$10^{-9}$ では合わない(第2節)。

第三に、これが本稿の芯である。揃っていない理由は、実測を含むかどうかである。前二つはいまや定義値どうしの割り算で、シリコンだけが密度と質量という実測を含む(第3節)。

第四に、二〇一九年に論理の向きが変わった。アボガドロ数は $\mathbf{6.02214076\times10^{23}}$ と定義され、測定はモルの実現を確かめる側に回った(第3節)。

第五に、三つの道の開きは相対 $\mathbf{0.000001}$ である。零ではない。実測を含む道が一つ残っているからである(第4節)。

第六に、分離子は、その式が実測を含むかどうかである。含まない一致は、もはや測定の一致ではない(第4節)。

キーワード:アボガドロ定数、ペランの実験、国際単位系、2019 年の定義改定、ブラウン運動。

射程(何を示さないか)

新しい定理も法則も主張しない。ペランの測定も、二〇一九年の国際単位系の改定も標準的である。十三通りを再現しない。ペランの用いた方法を一つずつ辿ってはおらず、いま計算できる三つの道だけを組んだ。測定の不確かさを扱わない。シリコンの密度と質量に付く不確かさの評価には立ち入らない。改定の当否を論じない。定義に切り替えたことが良いかどうかは主題ではない。歴史の細部を主張しない。ペランが数え上げた方法がちょうど十三だったかどうかは、本稿の主張に含めない。同位体の扱いを述べない。シリコンの道で使ったモル質量は天然の平均値であり、濃縮結晶の議論には入らない。既刊との関係:論文295 は炭素 $12$ のモル質量がもう $12$ ちょうどではないと示した。同じ改定の裏側であり、あちらは定義でなくなった量、本稿は定義になった量を見る。論文314 は「定数は変わったか」と問える相手が一つしかないと示した。定義値になったアボガドロ数は、もうその相手ではない。論文405 は数値の一致が同根の証拠になるのは全単射があるときだけだと示した。十三通りの一致が証拠だったのは、量の同一性が別に保証されていたからである。論文95 は規約と事実を分けた。アボガドロ数は事実の側から規約の側へ移った量である。論文300 は同根か別根かが判定できると示した。三つの道は「量の持ち物」の基準で、二対一に分かれる。加えたのは、三つの道を独立に組み立てたこと、精度が二対一に分かれることを $10^{-9}$ という境目で示したこと、分かれる理由が実測を含むかどうかだと示したこと、三つの開きを相対 $\mathbf{0.000001}$ と測ったこと、分離子を「式が実測を含むか」に置いたことである。

1. 記法と問い

設定:ペランは $1909$ 年、ブラウン運動をはじめとする十三通りの方法でアボガドロ数を求め、どれも同じ数に収束することを示した。独立な測定が一致することは、原子が実在することの証拠と受け取られた。

観察 1.1 一致が証拠になるには、条件が要る。論文405 が示したとおり、数値の一致だけでは足りない。十三通りが証拠になったのは、どれも「一モルに含まれる粒子の数」という同じ量を測っていたからである。

観察 1.2 ところが二〇一九年に、その数は定義になった。$6.02214076\times10^{23}$ と決められた。測る対象が、決める対象に変わった。

問い:いま同じ計算をすると、何が起きているのか。

2. 三つの道で組み立てる

計算 2.1:いま計算できる三つの道でアボガドロ数を組んだ。

道 値 定義値との比
ファラデー定数 / 素電荷 $\mathbf{6.022141\times10^{23}}$ $\mathbf{1.000000000}$
気体定数 / ボルツマン定数 $\mathbf{6.022141\times10^{23}}$ $\mathbf{1.000000000}$
シリコン結晶の格子と密度 $\mathbf{6.022137\times10^{23}}$ $\mathbf{0.999999299}$

観察 2.2 三つとも同じ数を返す。相対で $\mathbf{0.000001}$ の開き、ペランの時代なら、これは強い証拠である。

観察 2.3 ところが精度が揃っていない。前二つは $10^{-9}$ 以内、シリコンは $\mathbf{0.999999299}$、三桁以上の差がある。一致の質が同じではない。

観察 2.4 境目の両側を見た。シリコンの道だけが $10^{-9}$ では合わない。全部が合うのでも、全部が外れるのでもない。この分かれ方に理由がある。

3. なぜ揃わないか

観察 3.1 これが本稿の芯である。前二つに入る量は、いまはすべて定義値である。ファラデー定数は素電荷とアボガドロ数の積として決まり、気体定数はボルツマン定数とアボガドロ数の積として決まる。だから割り算はアボガドロ数を返すに決まっている。

観察 3.2 シリコンだけが実測を含む。格子定数、密度、モル質量、どれも測る量である。だから $10^{-9}$ では合わず、$0.999999299$ にとどまる。

観察 3.3 同じ計算式の身分が変わった。以前は $F/e$ が独立な測定だった。いまは定義の帰結である。式は同じで、返す数も同じで、意味だけが違う。

観察 3.4 論文95 の分け方でいえば、量が側を移った。事実の側から規約の側へ、移ったあとも数は同じなので、数を見ただけでは移ったことが分からない。

観察 3.5 論文314 の言う相手ではなくなった。あちらは「定数は変わったか」と問える相手が一つしかないと示した。定義値になった量については、その問いが立たない。

観察 3.6 論文295 の裏側である。あちらは炭素 $12$ のモル質量が定義でなくなったことを扱った。同じ改定で、片方が定義を失い、片方が定義を得た。入れ替わりである。

4. 分離子

観察 4.1 分離子は、その式が実測を含むかどうかである。含まない式どうしの一致は、定義の帰結であって測定の一致ではない。含む式が一つでも混じると、開きが $\mathbf{0.000001}$ として現れる。

観察 4.2 だから開きが零でないことが、むしろ情報である。全部が定義から出ていれば開きは厳密に零になる。$\mathbf{0.000001}$ という開きは、実測がまだ一つ残っている印である。

観察 4.3 論文300 の「量の持ち物」で二対一に分かれる。前二つは定義値だけを持ち物にする。シリコンの道は測定の不確かさという持ち物を要る。

観察 4.4 ペランの一致は、いまも意味を失っていない。当時はどの道も実測を含んでいた。だから一致は本物の証拠だった。証拠が定義に吸収されたのであって、間違いだったのではない。

観察 4.5 測定が消えたのではない。シリコンの道は、いまはモルの実現を確かめる検査になっている。向きが変わっただけで、同じ実験が続いている。

観察 4.6 言わないこと。十三通りを再現していない。ペランの方法を一つずつ辿ってはおらず、改定の当否も論じていない。

5. 点呼と結び

  1. $F/e$ で $\mathbf{6.022141\times10^{23}}$(計算 2.1):比 $\mathbf{1.000000000}$。
  2. $R/k_{B}$ でも同じ(計算 2.1):比 $\mathbf{1.000000000}$。
  3. シリコンで $\mathbf{6.022137\times10^{23}}$(計算 2.1):比 $\mathbf{0.999999299}$。
  4. 精度が三桁以上違う(観察 2.3):一致の質が同じでない。
  5. 前二つは定義値どうし(観察 3.1):本稿の芯。
  6. シリコンだけが実測を含む(観察 3.2):格子・密度・モル質量。
  7. 式は同じで意味が違う(観察 3.3):証拠から検査へ。
  8. 事実の側から規約の側へ(観察 3.4):数では分からない。
  9. 三つの開きは相対 $\mathbf{0.000001}$(観察 4.2):実測が残っている印。
  10. 分離子は実測を含むか(観察 4.1):含まなければ定義の帰結。
  11. ペランの一致は本物だった(観察 4.4):吸収されただけ。

結び:ペランは十三通りの方法でアボガドロ数を求め、どれも同じ数を返した。いま同じことをすると、三つの道が同じ数を返す。ファラデー定数を素電荷で割ると $\mathbf{6.022141\times10^{23}}$、気体定数をボルツマン定数で割っても $\mathbf{6.022141\times10^{23}}$、シリコン結晶の格子と密度からは $\mathbf{6.022137\times10^{23}}$ になる。三つの開きは相対で $\mathbf{0.000001}$ にすぎず、ペランの時代ならこれは強い証拠である。ところが精度が揃っていない。前二つは定義値と $10^{-9}$ 以内で合うのに、シリコンは比 $\mathbf{0.999999299}$ にとどまり、三桁以上の差がある。揃わない理由は、実測を含むかどうかである。前二つに入る量はいまやすべて定義値で、ファラデー定数は素電荷とアボガドロ数の積、気体定数はボルツマン定数とアボガドロ数の積として決まる。割り算がアボガドロ数を返すのは当然である。シリコンの道だけが格子定数と密度とモル質量という実測を含むので、$10^{-9}$ では合わない。同じ計算式の身分が変わった。以前は $F/e$ が独立な測定で、いまは定義の帰結である。式も返る数も同じで、意味だけが違う。二〇一九年に、論理の向きが変わった。アボガドロ数は $\mathbf{6.02214076\times10^{23}}$ と定義され、測定はモルの実現を確かめる側に回った。論文95 の分け方でいえば、量が事実の側から規約の側へ移ったのだが、移ったあとも数は同じなので、数を見ただけでは移ったことが分からない。論文314 の言う「定数は変わったか」と問える相手ではもうなく、論文295 が扱った炭素 $12$ のモル質量とは、同じ改定で定義を失った側と得た側という入れ替わりの関係にある。分離子は、その式が実測を含むかどうかである。含まない式どうしの一致は定義の帰結であって、測定の一致ではない。だから開きが零でないことが情報になる。全部が定義から出ていれば開きは厳密に零で、$\mathbf{0.000001}$ という開きは実測がまだ一つ残っている印である。論文300 の「量の持ち物」でいえば、前二つは定義値だけを持ち物にし、シリコンの道は測定の不確かさを持ち物にする。ペランの一致は、いまも意味を失っていない。当時はどの道も実測を含んでいたので、一致は本物の証拠だった。証拠が定義に吸収されたのであって、間違いだったのではない。測定が消えたわけでもない。シリコンの道はモルの実現を確かめる検査になり、向きが変わっただけで同じ実験が続いている。正直に言えば、十三通りを再現していない。ペランの用いた方法を一つずつ辿ってはおらず、いま計算できる三つの道だけを組んだ。測定の不確かさの評価にも立ち入らず、シリコンの密度と質量に付く誤差は扱っていない。改定の当否も論じておらず、方法がちょうど十三だったかどうかも主張に含めない。同位体の扱いも述べておらず、モル質量は天然の平均値を使った。言えるのは、同じ一致が三つの別の身分に分かれており、同じ計算式が証拠から検査に変わった、そこまでである。

参考文献

  1. Andreas, B., et al. (2011). Determination of the Avogadro Constant by Counting the Atoms in a $^{28}$Si Crystal. Physical Review Letters, 030801.
  2. Bureau International des Poids et Mesures (2019). The International System of Units (SI) (9th ed.). BIPM.
  3. Newburgh, R., Peidle, J., & Rueckner, W. (2006). Einstein, Perrin, and the Reality of Atoms. American Journal of Physics.
  4. Perrin, J. (1909). Mouvement brownien et realite moleculaire. Annales de Chimie et de Physique.
  5. 山岸勇輝 (2026). 『規約と事実を分ける』[論文95]. Zenodo. 10.5281/zenodo.21758621
  6. 山岸勇輝 (2026). 『炭素 $12$ のモル質量は、もう $12$ ちょうどではない』[論文295]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171659
  7. 山岸勇輝 (2026). 『三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
  8. 山岸勇輝 (2026). 『「定数は変わったか」と問える相手は、一つしかない』[論文314]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22175192
  9. 山岸勇輝 (2026). 『数値の一致が同根の証拠になるのは、全単射があるときだけである』[論文405]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22699433

作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。

書誌

山岸勇輝(2026)「十三通りが同じ数を返していたのに、いまその数は定義になっている」[論文544]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.23014160

YOI 544第1版・2026年9月ビットコインに記録済み

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引用するとき

山岸勇輝 (2026). 十三通りが同じ数を返していたのに、いまその数は定義になっている [論文544]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/544 ・ DOI: 10.5281/zenodo.23014160

Yamagishi, Y. (2026). Thirteen Routes Returned One Number, and Now That Number Is a Definition [Paper 544]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/544; DOI: 10.5281/zenodo.23014160

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