要旨
抜取検査では「ロットの何割を見るか」がまず問われる。本稿が示すのは、守りの強さを決めているのが抜く個数であって割合ではないこと、そして割合で決めるとロットの大きさが守りの強さに化けることである。新しい定理も法則も主張しない。
第一に、これが本稿の芯である。ロットを $10$ 倍にしても合格率がほとんど動かない。四つの不良率で見て、差は最大 $\mathbf{0.006982}$ である(第2節)。
第二に、そのあいだ検査の割合はちょうど $10$ 倍違う。$5.0$ パーセント対 $0.5$ パーセントで、$12$ 桁で $10$ 倍である(第2節)。
第三に、大きいロットのほうが極限に近い。$N=10000$ の値はロットが無限大の極限と $0.002$ 以内で合う(第2節)。
第四に、「割合で抜く」と決めると別物になる。$5$ パーセント抜きは同じロットに対し $\mathbf{607.4509}$ 倍厳しい(第3節)。
第五に、論文383 と同じ形である。保険料の上乗せを決めるのが加入者の数であるのと同じで、守りを決めるのは母集団の大きさではなく標本の個数である(第4節)。
第六に、分離子は、標本がロットに対して小さいかどうかである。半分も抜けばロットの大きさが効きはじめる(第4節)。
キーワード:抜取検査、OC 曲線、超幾何分布、ロットの大きさ、品質保証。
射程(何を示さないか)
新しい定理も法則も主張しない。超幾何分布も二項近似も、$\mathrm{OC}$ 曲線も標準的である。検査方式を勧めない。どの $n$ と $c$ を選ぶべきかは述べない。選び方を変えたときに何が変わるかだけを見る。検査の費用を論じない。一個あたりの検査費も、不良を見逃した費用も入れていない。破壊検査と非破壊検査を区別しない。抜いた品が使えなくなる場合の損失は入っていない。連続生産の抜取や調整型検査を扱わない。一つのロットを一度見る場合だけを扱う。「割合で抜くのは誤りだ」とは書かない。割合で抜けば守りは強くなる。問題は、強さがロットの大きさで勝手に変わることである。既刊との関係:論文383 は保険料の上乗せを決めているのが確率の精度ではなく加入者の数だと示した。本稿の「守りを決めるのは母集団ではなく標本の個数」は同じ形で、根も同じ側にある。ただしあちらは上乗せの大きさ、こちらは合格率の形である。論文317 は有意水準が「一回あたり」の約束だと示した。合格率も一つのロットについての約束であって、一年ぶんのロット全部についてではない。論文300 は同根か別根かが判定できると示した。「合格率がロットの大きさに依らない」と「割合で抜くと厳しくなる」は別根である。加えたのは、ロットの大きさ $10$ 倍による合格率の差を $\mathbf{0.006982}$ と測ったこと、同じ条件で検査比率が $12$ 桁ちょうど $10$ 倍違うことを並べたこと、$N=10000$ が無限大の極限と $0.002$ 以内で合うことを独立に確かめたこと、割合で抜いた場合との比を $\mathbf{607.4509}$ 倍と出したこと、分離子を「標本がロットに対して小さいか」に置いたことである。
1. 記法と問い
設定:大きさ $N$ のロットに不良品が割合 $p$ で混じっている。そこから $n$ 個を抜き、不良が $c$ 個以下ならロットを合格とする。合格する確率を $\mathrm{OC}(p)$ と書く。抜いた個数は戻さないので、厳密には超幾何分布である。
観察 1.1 現場の問いは「何割見るか」の形をしている。「全数検査は無理だから $5$ パーセント見る」という言い方をする。割合が守りの強さを表しているという前提が入っている。
観察 1.2 式に $N$ は出てくる。超幾何分布はロットの大きさを含む、だから「依らない」は自明ではなく、測るべきことである。
問い:ロットの大きさは、守りの強さをどれだけ変えるか。
2. ロットを $10$ 倍にしても、合格率はほとんど動かない
計算 2.1:$n=50$・$c=1$ に固定し、ロットの大きさだけを変えた。
| 不良率 $p$ | $N=1000$ | $N=10000$ | 無限大の極限 |
|---|---|---|---|
| $0.01$ | $0.914692$ | $0.910953$ | $0.910565$ |
| $0.02$ | $0.736043$ | $0.735791$ | $0.735771$ |
| $0.05$ | $0.271691$ | $0.278673$ | $0.279432$ |
| $0.10$ | $0.030773$ | $0.033482$ | $0.033786$ |
観察 2.2 これが本稿の芯である。ロットが $10$ 倍になっても、合格率の差は最大 $\mathbf{0.006982}$ である。$0.005$ より大きく $0.01$ より小さい。先に「$1$ パーセント未満」と置いていたら、たまたま当たっていただけになる。
観察 2.3 大きいほうが極限に近い。$N=10000$ の値はロットが無限大の極限(二項分布)と $0.002$ 以内で合う。極限は本稿の計算とは別に組み立てた式なので、これは検査である。$N$ を大きくして極限に近づかなければ、超幾何の実装を疑う。
観察 2.4 境目の両側も見た。不良率 $0$ なら必ず合格し、不良率 $1$ なら必ず不合格になる(どちらも $12$ 桁)、どちらかが外れれば式が違う。
計算 2.5:そのあいだ、検査する割合はどうなっているか。
| ロット | 抜く個数 | 検査する割合 |
|---|---|---|
| $1000$ | $50$ | $\mathbf{0.0500}$($5.0$ パーセント) |
| $10000$ | $50$ | $\mathbf{0.0050}$($0.5$ パーセント) |
| 比 | $1$ | $\mathbf{10.0000}$ |
観察 2.6 割合は $12$ 桁ちょうど $10$ 倍違う。守りはほとんど同じで、割合だけが $10$ 倍動く。割合は守りの強さを表していない。表しているのは検査の手間である。
観察 2.7 一個あたりの検査費は $10$ 分の $1$ になる。同じ守りを、大きいロットのほうが安く買える。ロットをまとめる利得はここにある。
3. 「割合で抜く」と決めると、別物になる
計算 3.1:$N=10000$ から $5$ パーセント($n=500$)抜き、比率を保って $c=10$ とした。
| 方式 | 不良率 $0.05$ のロットの合格率 |
|---|---|
| $n=50$・$c=1$ | $\mathbf{0.279432}$ |
| $n=500$・$c=10$($5$ パーセント抜き) | $\mathbf{0.000460}$ |
| 比 | $\mathbf{607.4509}$ 倍 |
観察 3.2 $600$ 倍以上厳しい。同じ「不良 $2$ パーセントまで許す」という見かけの基準なのに、通る確率が桁で違う。割合と許容数を比例させても、守りは比例しない。
観察 3.3 だから「割合で抜く」と、守りがロットの大きさで勝手に変わる。同じ $5$ パーセントでも、$N=1000$ なら $n=50$、$N=10000$ なら $n=500$ である。守りを決めているのは後者の $n$ のほうなので、大きいロットほど厳しく見ることになる。意図してそうしているのでなければ、これは事故である。
観察 3.4 論文317 の読み違いも重なる。合格率は一つのロットについての約束である。年に何百ロットも受け入れれば、そのうち一つも不良ロットを通さない確率はずっと低い。
4. 分離子
観察 4.1 分離子は、標本がロットに対して小さいかどうかである。$n$ が $N$ に比べて小さいうちは、超幾何は二項に近い。半分も抜けばロットの大きさが効きはじめ、全部抜けば合格率は $0$ か $1$ になる。「依らない」は無条件ではない。
観察 4.2 論文383 と同じ形である。あちらは保険料の上乗せを決めているのが加入者の数だと示した。どちらも「精度を決めるのは標本の個数であって、母集団の大きさではない」という一点から出ている。ただしあちらは上乗せの大きさ、こちらは合格率という関数の形である。
観察 4.3 論文300 の基準で別根である。「合格率がロットの大きさに依らない」は $n/N$ が小さいという持ち物を要る。「割合で抜くと厳しくなる」は $n$ が増えると $\mathrm{OC}$ 曲線が立つという別の持ち物を要る。前者だけなら、割合で抜いても何も起きないはずである。
観察 4.4 言わないこと。「割合で抜くのは誤りだ」とは書かない。割合で抜けば守りは強くなる。問題は、強さがロットの大きさで勝手に変わることである。
5. 点呼と結び
- ロット $10$ 倍で合格率の差 最大 $\mathbf{0.006982}$(計算 2.1):本稿の芯。
- $0.005$ より大きく $0.01$ より小さい(観察 2.2):実測してから挟んだ。
- $N=10000$ が極限と $0.002$ 以内(観察 2.3):独立に組み立てた式との突合せ。
- 不良率 $0$ で必ず合格・$1$ で必ず不合格(観察 2.4):境目の両側。
- 検査比率 $\mathbf{0.0500}$ 対 $\mathbf{0.0050}$(計算 2.5):$12$ 桁で $10$ 倍。
- $5$ パーセント抜きの合格率 $\mathbf{0.000460}$(計算 3.1):$n=500$・$c=10$。
- 比 $\mathbf{607.4509}$ 倍(計算 3.1):方式が別物になる。
- 分離子は $n/N$ が小さいこと(観察 4.1):半分抜けば効きはじめる。
- 論文383 と同じ側(観察 4.2):精度は標本の個数から。
結び:抜取検査では「ロットの何割を見るか」がまず問われる。ところが守りの強さを決めているのは、抜く個数であって割合ではない。$50$ 個を抜いて不良 $1$ 個までを許すとき、ロットが $1000$ でも $10000$ でも合格率の差は四つの不良率を通して最大 $\mathbf{0.006982}$ にとどまる。$0.005$ より大きく $0.01$ より小さく、先に「$1$ パーセント未満」と置いていたらたまたま当たっていただけになる。$N=10000$ の値はロットが無限大の極限と $0.002$ 以内で合っており、この極限は別に組み立てた式なので突合せになっている。不良率 $0$ で必ず合格し $1$ で必ず不合格になることも、境目の両側で確かめた。そのあいだ、検査する割合はちょうど $10$ 倍違う。$5.0$ パーセント対 $0.5$ パーセントで、$12$ 桁で $10$ 倍である。守りはほとんど同じで割合だけが $10$ 倍動くのだから、割合が表しているのは守りの強さではなく検査の手間のほうである。裏返せば、同じ守りを大きいロットのほうが $10$ 分の $1$ の費用で買える。だから「割合で抜く」と決めると、方式が別物になる。$N=10000$ から $5$ パーセント($n=500$・$c=10$)抜くと、不良率 $0.05$ のロットの合格率は $\mathbf{0.279432}$ から $\mathbf{0.000460}$ へ落ち、$\mathbf{607.4509}$ 倍厳しくなる。割合と許容数を比例させても守りは比例しない。その結果、同じ「$5$ パーセント」でも大きいロットほど厳しく見ることになる。意図してそうしているのでなければ、これは事故である。論文317 の読み違いも重なる。合格率は一つのロットについての約束であって、年に何百ロットも受け入れれば、一つも通さない確率はずっと低い。分離子は、標本がロットに対して小さいかどうかである。$n$ が $N$ に比べて小さいうちは超幾何が二項に近く、半分も抜けばロットの大きさが効きはじめ、全部抜けば合格率は $0$ か $1$ になる。「依らない」は無条件ではない。論文383 は保険料の上乗せを決めているのが加入者の数だと示した。どちらも「精度を決めるのは標本の個数であって母集団の大きさではない」という一点から出ているが、あちらは上乗せの大きさ、こちらは合格率という関数の形である。論文300 の基準では、「合格率がロットの大きさに依らない」は $n/N$ が小さいことを、「割合で抜くと厳しくなる」は $n$ が増えると曲線が立つことを、それぞれ別に要る。正直に言えば、検査方式は勧めていない。どの $n$ と $c$ を選ぶべきかは述べず、選び方を変えたときに何が変わるかだけを見た。検査の費用も見逃しの費用も入れておらず、破壊検査と非破壊検査を区別していない。連続生産の抜取も調整型検査も扱わず、一つのロットを一度見る場合だけを扱っている。そして「割合で抜くのは誤りだ」とも書かない。割合で抜けば守りは強くなる。問題は、強さがロットの大きさで勝手に変わることである。
参考文献
- Dodge, H. F., & Romig, H. G. (1959). Sampling Inspection Tables: Single and Double Sampling (2nd ed.). Wiley.
- Johnson, N. L., Kotz, S., & Kemp, A. W. (1992). Univariate Discrete Distributions (2nd ed.). Wiley.
- Montgomery, D. C. (2019). Introduction to Statistical Quality Control (8th ed.). Wiley.
- Schilling, E. G., & Neubauer, D. V. (2017). Acceptance Sampling in Quality Control (3rd ed.). CRC Press.
- 山岸勇輝 (2026). 『三百本目の点呼、同根か別根かは、判定できる』[論文300]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22171914
- 山岸勇輝 (2026). 『有意水準は「一回あたり」の約束であって、研究あたりではない』[論文317]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22208819
- 山岸勇輝 (2026). 『保険料は期待損失ではない。そして上乗せを決めているのは、確率の精度ではなく加入者の数である』[論文383]. Zenodo. 10.5281/zenodo.22699062
作成にあたって:本稿の着想と内容は、著者自身の考察に基づくものです。文章の構成整理や英訳、数式の確認には AI(大規模言語モデル)の助力を得ました。最終的な内容の解釈や誤りがあれば、それらはすべて著者の責に帰します。お気づきの点があれば、ご教示いただければ幸いです。
書誌
山岸勇輝(2026)「守りを決めているのは抜く個数であって、ロットの何割かではない」[論文552]. Zenodo.
DOI: 10.5281/zenodo.23014193
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引用するとき
山岸勇輝 (2026). 守りを決めているのは抜く個数であって、ロットの何割かではない [論文552]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/552 ・ DOI: 10.5281/zenodo.23014193
Yamagishi, Y. (2026). What Sets the Protection Is How Many Are Drawn, Not What Fraction of the Lot [Paper 552]. YOI: https://www.yamagishiyuuki.com/yoi/552; DOI: 10.5281/zenodo.23014193
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author = {Yamagishi, Yuuki},
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